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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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夏休暇のお茶会

お兄様方が主催のお茶会が始まります。

アンドレ様が危惧している呪いのアイテムが登場するのでしょうか。

 お兄様方のお茶会の日になった。

 同時に私の側近見習い達が初めて出仕する日でもある。

 実を言うと、前世の知識のせいで少しだけ葛藤がある。

 何故なら、この世界では全く意味のない罪悪感を持ってしまっているからだ。

 子どもが子どもを働かせるという図式は、前世の私はお目にかかった事が無い。

 この世界では身分制度があって、よくある当たり前の事なのだけど…。

 前世の知識が邪魔になるという悪い例だ。


 今日のお茶会は、7刻(午後2時)に始まる。側近見習い達には、昼食を早めに済ませて、王城に6刻(正午)に集合するように通達してあった。


 私はというと、午前中の今、時間をかけて身なりを整えているところだ。

 メアリと相談しながら、夏に相応しく涼しげに見えるドレスを選んでいる。

 今回は、着用するティアラが引き立つように、瞳の色に合わせてライトグリーンのドレスを選んだ。


 本来、お茶会でティアラを着用する必要は無いのだが、今回は特別だ。

 場違いなチビっ子である私が、その場にいるというだけで、身分が判らないまま苦情を言い出す者が現れる可能性がある。だから、混乱を避けるために私が王族だと一目で判るようにティアラを着用するべきだ。

 お兄様方が息を合わせて、そんな事を主張してきたのだ。


 そんなもんかなぁと疑問に思いながらも、両親に相談すると、お父様はお兄様方を揶揄うような目で見ながら、お母様は可笑しくて堪らないという顔をしながら、私がティアラを着用する事を許してくれたのだ。


 本当、過保護だよね。ふぅ〜。


 ふと気になったので聞いてみたら、王族が身に着ける宝飾品は全て国王が所有していて、王宮の宝物庫に厳重に保管されているのだそうだ。

 その中でティアラは、王妃専用の物が三つ、第一王女専用の物が一つ、それ以外の物が五つあるらしい。


 今回、私が着けるティアラは第一王女専用の物ではなく、お母様が選んでくれたとても可愛らしい物だ。それは、宝石がコスモスに似た花の形に配置されていて、小さめのフォルムが、代々の王女が幼い頃に身に着けていただろう、と想像させる黄金のティアラだった。


 金髪の人が着けると宝石の花が目立つが、銀髪の私が着けると全体が映える。

 そんな風に言って、メアリ達が褒めてくれるので、くすぐったくて嬉しい。

 こんな所でも、前世で諦めていたオシャレを楽しめている自分に、言い様のない幸せを感じていた。


 私の支度が終わるとすぐに、お茶会を見越して軽く食事を取る。お茶会に同行するメアリとクラリス、セブランにも先に昼食を取ってもらった。

 今、給仕をしてくれているオリビア、マルティナ、イザベルと、護衛をしているマティアスとマルクは、この後私が打ち合わせをしている間に食事をしてもらう事になっている。


 食事を済ませた私は、王城にある自分の執務室に向かった。


 執務室では、見習い達が側近用の執務室に揃ったら私を呼ぶ様に、と指示をして招待客リストの最終チェックを始めた。一応、全て頭の中に入っているが、再確認しておきたかったのだ。

 リストの中で、ディー兄様と年齢的に釣り合いが取れそうな女子生徒を重点的にチェックしておきたい。だから、メアリが基本情報を、ノビリタスコラの現役5年生であるクラリスから学園での評判を、それぞれに聞いて確認していく。


 一通り確認が終わると、メアリが不安そうに尋ねてきた。

「姫様、本当に呪いの魔道具が使われるのでしょうか」

「んー、それは誰にも判らないとしか言えないわね。でも、だからこそアンドレ様が注意喚起してくださったのよ」

「左様でございますが、私共は呪いの魔道具を見分ける事が出来ません。そのせいで姫様をお守りする事が叶わないのではないかと不安になってしまいます」


 メアリの中では、昨年の襲撃の記憶が色濃く残っている。クラリスも不安そうに私を見ていた。

 私は、二人を安心させたくてニッコリ笑って頷いて見せる。


「二人ともわたくしを案じてくれてありがとう。でもね、その事に関してそこまで心配しなくても大丈夫よ。今日は、呪いの魔道具を見つけるのではなくて、言動がおかしいご令嬢に注視して欲しいの。今、確認したご令嬢の中に、自分達が知っている情報と明らかに違う言動を見つけた時に初めて、魔道具の存在を疑ってみるという選択肢があるのではないかしら。わたくしは、自分の側近が人を見る目を信用しています。頼りにしていますから、どうぞいつも通りにお願いしますね」


 二人の不安は理解できる。

 未知の物は誰でも怖い。

 正体を掴む事ができるまでは、不安で当たり前なのだ。

 だけど、私には「鑑定」の魔法がある。

 違和感があったら片っ端から鑑定することも辞さないのだ!!


 そこに、護衛の為に扉に張り付いていたマルクから、側近見習いが全員揃った、と報告があった。

 私はメアリとクラリスを連れて隣の側近達の執務部屋に向かう。


 隣の執務室には、側仕え見習いが4人、護衛騎士見習いが4人、文官見習いが3人、合計11人が待っていた。私がノビリタスコラに入学する時に付き従ってくれる側近見習いは、この11人で決まりそうだ。


 その内、在学中のクラリスと側仕え見習い4人、護衛騎士見習い1人はお茶会に招待されていて、お茶会に参加できる装いで登城している。

 残りの未就学の者もそれなりの装いで登城していた。


「皆、ご苦労様です。わたくしの側近見習いが全員揃うのは今回が初めてですので、それぞれ自己紹介をしていただきましょうか」


 私が促すと、事前にお願いしていた一番年上のクラリスから自己紹介を始めた。一通り自己紹介が済んで顔合わせが終わると、それぞれの筆頭の所に集まって業務ごとに打ち合わせをしてもらう。

 ちょうどそのタイミングでディー兄様の側近の打ち合わせを終えたアンドレ様が来たので、文官見習い達を預ける。

 

 打ち合わせが始まるとすぐに、マティアスとマルクは昼食を取るために退室し、オリビア、マルティナ、イザベルは通常業務のために王宮に戻って行った。昼食は王宮で取るのだろう。


 私は打ち合わせが始まると、邪魔にならない様に少し離れ、椅子に座って様子を見守る事にした。


 どうやらメアリは、ノビリタスコラでの私の側仕えの中で、誰にまとめ役を任せられるのか、この機に見極めるつもりの様だ。


 一方セブランは、見習い達に公の場での護衛の動き方をレクチャーしている。

おそらく、私のノビリタスコラ入学に間に合う様に、護衛騎士見習い達に学校内での護衛業務をしっかり仕込むつもりの様だ。


 アンドレ様はと言うと、公の場での文官の振る舞いを自分がお手本として見せると説明していて、見習いを使う気が全く無いのが見て取れる。


 アンドレ様は、ディー兄様に虫除けの役目を振られたはず。

 ディー兄様の命令を実行する為に、邪魔なチビっ子を蔑ろにする気だな!

 これじゃ、最初のディー兄様の言い分と違うよ!

 見習いの練習にならないじゃない!

 もー!

 そんなに心配ならお茶会になんて誘うなよ!


 私が人知れずプンスカしている間に打ち合わせが終わって、マティアスとマルクも戻って来ていた。私は気を取り直すために深呼吸を一つしてから皆を引き連れて大広間に移動する。


 ディー兄様からは、ディー兄様と同じテーブルに着いて、そのまま動かず、挨拶に来た人の相手だけをしてくれれば良い、と言われている。


 まぁ、主役を差し置いて会場内を彷徨(うろつ)く気なんか全くありませんけどね!

 いかん、まだ不満が顔を出す。

 心頭滅却すれば火もまた涼し!

 あれ? なんか違うねぇ。


 お茶会の開始時刻より少し早めに大広間に着いた私は、受付に軽く会釈するだけで素通りして中に入る。

 大広間には丸テーブルが20台近く準備されていて、一台のテーブルに6脚の椅子がセットされていた。


 大広間には既に半数以上の招待客が到着していて、美しく着飾った令嬢達や貴族らしい装いの令息達が思い思いに会話を楽しんでいた。


 私がディー兄様を探して上座の方を見ると、一際大きな人だかりが出来ている。ディー兄様に群がる人の集まりなのだろう。

 私が声をかけるか気後れしていると、ディー兄様が私に気付いて、周囲の人達に断りを入れてから私の方に歩み寄って来てくれた。


「ディー兄様、お待たせしてしまいましたか?」

「やあ、アデル。心配せずとも大丈夫。開始までにはまだ少し時間があるよ。

さぁ、おいで」

 ディー兄様は優しく微笑みながら私をサッとエスコートすると、私を指定の席に連れて行ってくれた。

 すると、大広間の反対側の離れた所から、女子生徒達の声を抑えた悲鳴や大きなため息が聞こえる。


 だよね。

 今日のディー兄様は、物語の王子様の様に光り輝いて見えるもん。

 あ、いや、本物の王子様だった。

 例えんのむずかし〜。


「さぁ、アデル。君の席は私の隣だよ」

「ありがとう存じます、ディー兄様」

 私がニコッと笑うと、ディー兄様も満足そうに微笑む。

「ディー兄様、シル兄様はどこ?」

「ほら、あそこだよ」

 ディー兄様が顔を向けた先の上座のテーブルに、私に向かって手を振るシル兄様がいた。私がそれに気付いて小さく手を振り返すと、シル兄様はそれは嬉しそうにニッコリ笑った。

 それを見ていた令嬢達からは、遠慮のない黄色い悲鳴が上がる。


 ああ、うん。こっちもだね。

 ディー兄様もシル兄様もいつもの事なんだね。

 まるっと無視してるよ。

 モテる兄が二人もいると、妹としてはなんか複雑。


 私はどんな顔をすれば良いのかしら? と思いながら自分の席に座ると、それを見届けたディー兄様も優雅に自分の席に着いた。ディー兄様を取り囲んでいた人達はとっくに移動していて、同席する招待客も私達に続いて席に着いた。


 私の後ろには、マティアス、メアリ、アンドレ様が立っているし、ディー兄様の後ろには、ドニ、ジュスタン、アランが立っている。

 ディー兄様の筆頭文官のアランは、お父様の筆頭側仕えクリストフとメアリ夫婦の長男だ。

 初めは父親と同じ側仕えとしてディー兄様に仕えていたのだが、ノビリタスコラを非常に優秀な成績で卒業した実績で文官としての才能を認められ、ディー兄様の希望によりお父様から直に文官への職種替えを命じられた。

 そして、昨年、筆頭文官に抜擢されたという異色の経歴を持っている。

 ちなみに、私の側近見習い達は、大広間内の所定の位置に控えている。


 同じテーブルに着いている4人は皆、男子生徒だ。

 財務局長リシャール侯爵 次男 フランソワ様(6年生)

 総務局次長ルーセル侯爵 三男 パトリック様(5年生)

 領主セプタントナーリス侯爵 長男 ファブリス様(4年生)

 領主テルミノスオーチェア次期侯爵 長男 ギヨーム様(3年生)

 このテーブルには、侯爵令息の中でも特にディー兄様と親交があり、将来は国王を支える逸材になると囁かれている人が集まっている。


 7刻(午後2時)の鐘が鳴り始めると、お兄様方は優雅な仕草で立ち上がって、玉座のあるステージとは別に設けられたお立ち台に向かって歩き出した。

 お立ち台に上がったお兄様方は、鐘が鳴っている間、大広間を隅々まで確認するように見回しながら堂々と立っている。その間に全員が席に着いた大広間は静まり返り、全員の注目がお兄様方に集まっていった。

 やがて鐘が鳴り終わり、ディー兄様が和かにお茶会の開始を告げた。


 お茶会はまず、お兄様方それぞれが参加者に向けた挨拶を終えたら、それぞれが招待したお客様のテーブルを回る事になっている。

 挨拶を終えたお兄様方がお立ち台を降りて、ディー兄様が私の隣の席に座ると、一斉にお茶とお菓子が給仕された。

 私にはメアリが、ディー兄様にはジュスタンが、お客様には王城の侍女達が給仕してくれている。


 今日のお菓子は、王城の料理人と王宮の料理人がタッグを組んで用意した力作が揃っている。


 もはや私の専属と言っても過言ではないおやつ担当のチボー(注・優秀なパティシエです)の力作は、私の最近のお気に入り、ギャトゥ・ポムだ。

 これはキャラメリゼしたリンゴをカトルカールの生地の上に並べて焼いたケーキで、私のリクエストで創作された物だ。本当は、タルト・タタンをお願いしたのだけど、どこでどう行き違ったのか、試作で出された物がこれだったのだ。

 結果オーライ、これはこれですごく美味しい。


 この世界にはタタン姉妹は存在しないんだもん。

 説明のしようが無いよね。

 ほんと、お菓子の説明は難しい!

 当然のように、私の前にはギャトゥ・ポムが置かれた。

 さすがメアリ、私の食欲をよく見抜いているよね。


 作法に則り、まずお兄様方が口を付けて見せてからお客様にどうぞと勧める。

その合図を受けて皆が一斉にお茶を飲む。これで自由に飲食できる。

 私もお茶をゆっくりと味わいながら飲んで、カップを受け皿に戻した。

 ディー兄様は既にお菓子に手を付けているけれど、私が手を付けていないせいで4人共お菓子に手を付けていない。


 おやぁ?

 身分が上の者が先、の暗黙のルールかぁ?

 早く一口食べなくちゃ!


 私が一口食べるのを待っていた4人は、一斉にお菓子に手を伸ばした。

 それを見て安心した私がゆっくりモグモグタイムを終えて目線を上げると、男子生徒4人が私の後ろのアンドレ様の方を見ている。

 口を開いたのは、ファブリス様だった。

「アンドレ、どうして君が王太子殿下ではなくて王女殿下に付いているんだい?」


 ファブリス様はアンドレ様の父方の従兄弟で同じ歳である。だから、身分に関係なく普段から気安く接しているといった感じで話しかけた。

「王太子殿下のご指示だ」


 アンドレ様の素っ気ない返事に慣れている様子の4人は、一斉にディー兄様の方に顔を向けた。

 今度は、一番年上のフランソワ様が口を開く。

「王太子殿下、この差配には何か特別な事情がございますのでしょうか」


「いいや、アデルにはまだ文官がいないんだ。それで信頼できるアンドレに今日だけ付いてもらったんだよ。ああ、特別な事情と言うなら、アンドレなら私の意思を汲んで悪い虫を追い払ってくれるってとこかな」


 あー、そうですか。

 8歳児に悪い虫って…。

 見てみぃ、みんな〝過保護〟って顔してはるでぇ。


 ディー兄様は、私がよく知るしれっとした顔で返事をすると、意識的にニッコリ笑ってガラリと話題を変えた。

「ところで皆さん、最近、学校内で妙な噂があるのをご存知ですか?」

「妙な噂とは何の事でしょう?」

 フランソワ様の問いに対して、ディー兄様にしては珍しく素っ気なく答えた。

「私の婚約者に関する噂です」


 あー、これは相当怒ってるんじゃないかぁ。


 私はディー兄様の婚約者と聞いて、何となく嫌な予感がした。

 ディー兄様は、自分の王太子という立場をしっかりと理解していて、自分の言葉の重みを十分に理解している。

 そのディー兄様が自らプライベートな話題を口に出したのだ。


 慎重なディー兄様が?

 兄妹だけの場ならともかく、公の場で?

 いやー、絶対何か企んでるでしょー!


 男子生徒達の反応は素早かった。

「ああ、何人かの女子が(まこと)しやかに吹聴している話ですか」

「王太子殿下には婚約者はおろか、殿下が想いを寄せる女性すらいないという事を我々は知っていますからね」

「そうそう、皆、バカな嘘をつくものだと笑って聞き流していますよ」


 なになあに?

 そんな噂があるの?

 ホントに自称婚約者が現れたの?

 うそーん。


「そうですか。詳しく知りたければ、女子生徒に尋ねた方が良いのでしょうか」

 ディー兄様が顎に手を当てて考え込む素振りを見せると、ディー兄様の同級生であるギヨーム様が否定するように手を振りながら意見を述べる。

「いやいや、クラスメイトは王太子殿下に直接噂話をする事はないと思います。私も内容を詳しく知っている訳ではないのですが、噂話には噂の主の悪口がセットになっている様ですから」


 ディー兄様が片眉を上げて反応すると、パトリック様が同意する様にギヨーム様の言葉に補足する。

「そうですね。まともな貴族令嬢であれば、人の悪口を王太子殿下に申し上げるなどというはしたない真似は出来ないでしょう」


 なるほどとでも言うように頷いて納得した様子のディー兄様は、不意に私の方に顔を向けて意味ありげにニッコリと笑った。それはもうとびきりの笑顔で。


 あー、はいはい。

 私が聞き込み調査をする訳ね。

 お茶会に誘った本当の理由はコレですか。

 じゃあ、最初からそう言えよ!


 ディー兄様の笑顔の意味がバッチリ理解できた私は、負けじととびきりの笑顔を返して、ディー兄様と笑顔で睨み合うという器用な事をしていた。


 ふと私とディー兄様の笑顔バトルを、周囲の人はどんな風に見ているのだろう、と思った私が周囲を見回すと、4人の男子生徒は、兄妹仲が良くて尊し、と言わんばかりの微笑みで私達を見ていた。


 おうふ、思いがけず微笑みが生温かい。

 バトルに気付かれなかったのはいいけど、なんか居た堪れない。


 思わず私が首をすくめてディー兄様に視線を向けると、そんな私を見て苦笑したディー兄様は、話題を変えて男子生徒達の注意を逸らしてくれた。


 むー、アンドレ様を付けてくれるはずだよ。

 でもさ、女子への聞き込みにアンドレ様は邪魔だなぁ。

 イケメンに意識を持っていかれると話にならん。

 どうにかして排除だ、排除!


 ディー兄様はノビリタスコラの後期で行われるイベントについて話し込んだ後、断りを入れて席を立ち、他のテーブルを回り出した。

 残った私に、フランソワ様が気を使ってくれて話しかけてくれる。

「王女殿下には私達の話は退屈ではございませんでしたか?」

「お気遣いをありがとう存じます。ノビリタスコラのお話ならばいずれわたくしも通うのですから興味深く聞いておりました。全く退屈ではありませんでしたよ」


 私がニコニコとそう言うと、4人の男子生徒は皆一様に柔らかい笑顔で感心していた。

「さすが、王太子殿下が自慢されるだけありますね。噂は本当で、王女殿下は実に聡明でいらっしゃる」

「私もそう思いました。更にこんなに可愛らしくていらっしゃる。将来は美しくて麗しい我がトールトスディス王国の宝になられる事でしょう」

「私もそう思います。王太子殿下が溺愛されるのも納得できますね」

「まぁ、皆様。その様に褒めていただきますと何だか恥ずかしいですわ」


 恥ずかしいというよりむず痒い。

 私は他人から褒められる事に慣れていない。だけど私が王女である以上、これから先もこういう場面は増えてくる。慣れていないからこそ相手の言葉が本心であれお世辞であれ、上手く受け流せる様にならなければ危険だ。いちいち真に受けたりして慢心する自分なんか見たくない。


 うーん、新しい課題を発見してしまった。

 いやいや、そうでなくて!

 今は情報収集でしょうが!

 さて、どうしたら効率良く噂話を拾い集める事ができるかなぁ。

 王女らしく側近を使ってできる事は?

 取っ掛かりとして高位貴族のご令嬢の考えを知りたいけど…。

 むー!


 私はメアリに、側仕え見習いのセシルを呼んで来て欲しいとお願いした。

 セシルはフランソワ様の妹で、側近見習いの中で唯一の侯爵令嬢だ。まだ2年生だけど、ダメ元で試してみる価値はある。

 すると、私の後ろに立っているアンドレ様から小声で質問された。

「王女殿下、何をなさるおつもりでしょうか」

「難しい事ではないわ。招待されている側近見習いをお茶会に参加させます」

「左様でございましたか」


 そこにセシルがやって来た。

「王女殿下、お呼びにより参上いたしました」

「ああ、セシル。お願いがあるの。近くに来てちょうだい」

「かしこまりました」


 セシルは優雅な所作で私の手が届く距離に近付いてふわりと姿勢を低くすると、座っている私に目線を合わせて跪いた。


「セシル、控えている側近見習いのうち、招待を受けている方にお茶会に参加するように伝えてちょうだい。そして、お茶会で見聞きした事を後でわたくしに教えて欲しいの」


 私が胸の前で手を合わせてお願いのポーズで言うと、セシルはにこりと微笑んで

「情報収集でございますね。かしこまりました。皆様に王女殿下のお言葉をお伝えします。それで、王女殿下がクラリスではなく、わたくしをお呼びになられたのは何故でございますか?」

と言った。


 おおっ、賢い!

 おっとりとした言動に騙されるところだった。

 さすが生粋の侯爵令嬢!

 頼もしいねぇ!


「ふふっ。あのね、ディー兄様の婚約者の噂の詳しい事が知りたいの。それでね、セシルには高位貴族のご令嬢方がその噂をどう考えているか、それとなくで良いから聞いてみて欲しいの」


 セシルは頬に手を当てて少し考えてから慎重に答えた。

「かしこまりました。上手く出来るか分かりませんけど、わたくしに出来る限りの事をやってみます。それから、クラリスにこの事を伝えてもよろしいでしょうか」

「そうね。許します」


 私が振り返ってメアリの顔を見てみると、メアリが合格と言う様に頷いてくれたので、ここまでは間違っていないと自信を持ってセシルにお願いする。

「ではセシル。お願いね」

「かしこまりました。では御前失礼いたします」

 セシルは優雅な動作で立ち上がると、側近見習い達の所に戻って行った。

アデルなりに真相を探るため、お兄様方の邪魔にならないように情報収集の準備を始めました。

お目付け役のアンドレ様に不信感を抱かれずに済むのでしょうか。

次回は、鑑定魔法の威力です。

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