アンバーとルヴェ
お父様はアデルの希望を叶えるために、アデルはディーの希望を叶えるために。
今回の牧場訪問は、お互いの理解と協力が際立っています。
マイペースなアデルは、基本、呑気なのですけどね。
魔獣の幼獣を横流ししていた犯人が、私がいる方向に逃走しようとした上、近衛騎士に取り押さえられたのを間近で見てしまった私は、驚きでドキドキする胸を押さえながらひとつ大きく深呼吸した。
私の周囲は、護衛騎士が守りを固めているので、危険は全く無い。それは判っているけれど、いきなり自分に向かって突進されれば誰だって驚くと思う。
気持ちを落ち着ける為にした深呼吸のあと、経緯についてお母様に尋ねてみた。
「お母様、今日のこの捕物騒ぎは予定されていたのでしょうか?」
「ええ、そうね。…お父様の計画とジョセフの気持ちの部分で食い違いがありましたけれど…。ええ、準備はされていましたよ」
お母様は、奥歯に物が挟まった様な言い方をして、何とも歯切れが悪い。
「どの様に違ったのですか?」
私の顔を見たお母様は、ため息をつく様に答えてくれた。
「お父様とわたくしは、問題の解消と貴女達の訪問が、重ならないようにしようと考えていたのですけれどねぇ」
その言い方では、考えていた計画と現実が違っていて、その原因がジョセフの気持ちという事になる。
あー、それは言いづらいよねぇ。
複雑な背景とかあるんだろうなぁ!
ジョセフは一般人だし、お父様への忠義の心が厚そうだもん。
まあ、仕方ないっちゃあ仕方ないよね。
それはそうとして!
闇ルートって聞いただけで小説のネタになりそうじゃね?
王家の財産を食い物にする悪党を国王が成敗する話!
勧善懲悪のミトコウモン的な?
いや、身内の話をネタにはできないか!
てか、そもそもその小説を誰が書くのって話だよね。
自分で自分に呆れるよ、ふぅー。
『家族でお出かけ』というイベントを余りにも楽しみにしていた私は、まだ脳内がウキウキモードのままのようだ。いい加減に、お父様がこれ見よがしにお母様を誘って家族全員で牧場に来た、という意味を考えないといけない気がする。
「お母様、お父様はどうして家族全員でここに来るとお決めになったのですか?」
お母様は、私の様子を窺う様な雰囲気を滲ませて答えた。
「それはね、貴女がディーと一緒に行きたいと言ったからですよ」
へ?
そんだけ?
そうなの?
「えーっと、では私は、ディー兄様と一緒に行きたい、と言ってはいけなかったのでしょうか?」
「まぁ、アデルったら…。いけない事など何ひとつありませんよ。まったく貴女ときたら思ったとおりだわ」
お母様は残念な子を見る目になって、私の髪を撫でながら整えてくれる。
「せっかくお父様が貴女の希望を叶える為に頑張っているのに、そんな風に言ってはいけませんよ。私達は貴女に、王女として必要な我慢を要求する事はあっても、不要な我慢をさせるつもりは全く無いのよ」
私の希望を叶えるため?
あー、決まった時、私ってばあからさまに喜んだねぇ。
バンザイまでした気がする!
ふにゃーん、お父様ごめんなさい!
私とお母様の会話を聞いていたディー兄様が、お母様に質問する。
「母上は、魔獣の横流しについてご存知だったのですか?」
「ええ、最初にジョセフから相談を受けたのは私ですから」
「そういう事であれば、母上が犯人の情報を予めご存知で、私達に同行しなければならないと思うような懸念があったのではないですか?」
あれ?
お母様が苦虫を噛み潰した様な顔になって言い淀んでいる。
ディー兄様の推理がドンピシャだって事?
「何か問題があったのですね?」
ディー兄様の質問に、お母様はため息をついて私の顔を見た。
「あの犯人は、建国の日にバルコニーに立つアデルを見てから、アデルの話ばかりしていたらしいの」
お母様の遠回しな言い方の答えを聞いて、少しの間考えた後、お兄様方が頷く。
「なるほど…。有り得ますね」
「アデルですからね」
お兄様方が、お母様の言葉に妙に納得してため息をつく。
「だからこの護衛体制ですか。納得しました、母上」
は?
何だそれ!
ロリコンめ!
過度な好意の流布は禁止ですっ!
「お父様は、最初から事情を知っていた私に、子ども達の側に付いていて欲しい、と仰ったわ。見たくない事や聞きたくない事は見聞きさせなくて良いと仰ってね。お父様は…いえ、私もですけど、我が子を守れなかった事に…もう…すっかり懲りてしまったのよ。親として万全の態勢を取るのは当然の事だわ」
昨年の襲撃が、未だに尾を引いているのだ。もしかしたら両親は、一生忘れられないのかもしれない。
私は、物凄く申し訳ない気持ちになってしまった。
「えと、そういう事ならそう仰ってくだされば、私は遠慮しましたよ?」
「そうでしょうね。アデルの性格ならば、私達が言えば我慢するだろうと、お父様も私も判っていました。でも、それでは貴女達に何も経験させてあげられなくなるでしょう。それではダメなのです。わたくしも、お父様も、貴女達の健やかな成長を願っているのですもの」
我慢かぁ。
もう前世の頃から癖というか習慣になってるもんなぁ。
完全に無意識だもん。
それでも両親はちゃんと判ってくれてたんだなぁ!
お母様が微笑みながら、私達兄妹に語りかけ続ける。
「公的な見解としても、わたくしも陛下も、状況が許す限り、我が子には子どものうちにしか出来ない事をたくさん経験させたいと考えています。王家に生まれた者ならば尚の事、広く知見を求める機会を持つべきですからね」
お母様が、このお話はもうおしまい、という感じで話を締め括ると、明るい声で私達に声をかけた。
「さあ、ディーとシルの騎獣を探しましょう。アデルもお手伝いしてね」
そこに、指示を終えたお父様が近寄って来て、私達に声をかけた。
「ディー、シル、中断させてすまなかったね。あとはイザークに任せたから上手くやるだろう。さあ、君達の騎獣を探そう。フォルティスの幼獣を見てみようか。
リュック、頼めるか?」
「かしこまりました。幼獣達の様子を見て参りますのでしばらくお待ちください」
リュックはお父様に一礼すると、隅に固まっているフォルティスの幼獣の方に歩いて行った。
その間、私が何の気なしに周囲を見渡していると、少し離れた所にある馬房から一頭の若駒が柵から頭を出して、こちらの様子を覗っているのが見えた。
お兄様方はこれから紹介してもらう幼獣の方に気持ちが向いていて、自分の騎獣となる魔獣と出会った時の心得を確認し合っている。
何故だか分からないけど、私はこちらを見ている若駒が気になって仕方がない。
そこに戻って来たリュックが、お父様に幼獣について報告を始めた。
「お待たせいたしております、陛下。実は、フォルティスの幼獣達が怯えてしまいまして、今はまだ近付くだけで警戒心を強めてしまう様でございます。一度、親元に返しまして、暫くの間、時間を空けた方が良いと存じます」
「そうか。それは可哀想な事をしたな。あの幼獣達は奪われた幼獣を見知っていたのであろう? 無理をするのは良くないが、さて、どうしたものかな。リュック、何か案はないか?」
「左様でございますね。王子殿下方には、共に成長できるように今年産まれた幼獣をお勧めしたいと存じますが、そちらは少しお時間をいただく事としまして、お待ちいただきます間、昨年の春に産まれたフォルティスをご覧いただくのはいかがでしょうか」
「そうだな。ディーとシルはどうする?」
「私は、万全の状態でご紹介いただきたいので、待つのは構いません」
「僕も待ちます。兄上、折角ですから兄上も一緒に、昨年産まれたフォルティスを見学させていただきましょうよ」
ディー兄様が笑顔で頷くのを見たお父様は、リュックに案内をするように頼んでくれた。
それを受けたリュックは、ジャンに幼獣達を親元に戻す事を指示し、マチュには先に行って準備をするように指示をした。
リュックが案内する先には、さっき気になっていた若駒の房がある。さっきの若駒は、もう頭を引っ込めてしまった様だ。
「こちらの房には、昨年の春に産まれたフォルティスのうち、独り立ちが早かった仔を集めております」
リュックがお兄様方に向かって説明しながら案内している。
「フォルティスは、基本的に春に出産をいたしまして、産まれた仔が独り立ちするまでは母親と共に過ごすのでございます」
私達は、リュックの案内に従って一つ一つ房の前に移動する。最前列にはディー兄様とシル兄様、その後ろにお父様が付き添い、私はお母様と一緒に一番後ろから付いて行く。
若いフォルティスは6頭いた。手前から、黒に近い灰色、黄色系のオレンジ色、薄い空色、光沢のあるクリーム色、赤系の明るい茶色、青系の灰色、と全く違う色をしている。
フォルティス達は、既に個性がある様子で、好奇心がある仔、大人しそうな仔とそれぞれの様子を見せている。
その中でさっきこちらを見ていた仔は、バターのような光沢のあるクリーム色の馬体に、馬体の色より白に近いクリーム色の翼で、額の角も翼と同じ色だ。鬣は銀に近い白で、とても美しい個体だ。
何故か気になるので、つい観察してしまう。
あの仔、ずっとディー兄様を見てる。
恋する乙女の様な熱を感じるけど…。
あれ?
ディー兄様、全然気付いてないね!
あー、この手の視線、浴び慣れてるからマヒしてるのかなぁ?
6頭全て見終わると、様子を覗っていたジャンがリュックに近付いて来て、幼獣の様子を報告してきた。
「長、幼獣を親元に戻しましたので、だいぶ落ち着いた様子です。このまま皆様にご覧いただくのなら怯えたりしないと思います」
「そうか。それは良かった。ご苦労だったな」
リュックは振り返って、お父様に意見を求めた。
「陛下、お聞きのとおりでございますが、いかがいたしましょうか?」
「そうだね。ディー、シル、折角だから見せてもらうかい?」
「はい、父上。リュックのお薦めなら是非、お願いしたいです」
「僕もお願いしたいです」
こうして、リュックは再び案内のために歩き出した。
あの仔、まだ見てる。
お兄様方はリュックお薦めの幼獣が本命の様子だねぇ。
こればっかりはディー兄様が決める事だしなぁ。
私は、後ろ髪を引かれる思いで、一番後ろを歩きながらお母様に尋ねる。
「お母様、今日、お兄様方の騎獣が見つからなかったらどうなるのですか?」
「そうね。お父様はこの牧場以外で騎獣を探す事をお許しにならないでしょうね。たぶん、また来年の春に先延ばしされると思うわ」
「そうですか。もし見つからなかったらディー兄様、ガッカリするでしょうね…。あ、フォルティス以外の騎獣が欲しい時はどうしたら良いのでしょう?」
「あら、アデルは他に欲しい騎獣がいるの?」
「あ、いえ、そういう訳ではありません。ふと、疑問に思っただけです」
「そうなのね。うーん、確かに私も、王家の者がフォルティス以外の騎獣を得た事があるのか、尋ねた事も、疑問に思った事も無かったわね。うふふ、後でお父様にお尋ねしてみましょうか」
「はい、お母様。是非」
話しながら歩いているうちに、目的の場所に着いた。広くゆったりとした房に、親子で入っているフォルティスがたくさんいる。
今度も一つ一つ房の前に移動して行くけれど、私とお母様は騎獣を探すというよりも、幼獣を愛でるといった雰囲気になっている。お母様と一緒に、可愛い仔馬を楽しく鑑賞して行く。
母親と一緒にいる安心感からか、幼獣達に緊張感や怯えは全く無くなっている。母親に戯れていたり、好奇心で前に出て来たりする仔もいる。そんな仔の中には、手を差し出すと逃げずに触らせてくれる仔もいた。そんな時は遠慮なく撫でさせて貰って大満足である。
気が付くと、シル兄様が一頭のフォルティスの仔の前から動かなくなっていた。
その仔は黄色系の明るい茶色の馬体に同色の翼があり、額の角はベージュ色だ。鬣は白っぽい金髪で、とても華やかな感じがする。
シル兄様がそっと手を差し出すと、その仔は鼻を近付けて、手の匂いを嗅ぐ仕草をした。すぐに母親の方を振り返って、母親の方に戻ろうとしている。モジモジしている感じが微笑ましい。それを母親のフォルティスが鼻面でシル兄様の方に押し出している。
お?
親公認ならお互いに安心じゃね?
シル兄様は、この仔が気に入ったのかな?
「僕が君に名前を付けても良いのかな?」
幼獣に向かってシル兄様が話しかけると、母親フォルティスの方が良いと返事をする様にぶるると鼻を鳴らした。
「アンバーという名がピッタリだと思うけどどうかな?」
微笑みながら告げるシル兄様の言葉に反応した幼獣が、母親から離れてシル兄様の正面に立つ。幼獣の身体がほんのりと緑色の光を帯びて輝くと、シル兄様の身体も淡く緑色に発光して、その光はお互いの身体に吸い込まれる様に消えた。
「名前を受け入れてくれてありがとう。僕はシル、よろしくね」
シル兄様とアンバーのやり取りを、固唾を呑んで見守っていた周囲の人達が安堵のため息に包まれた。お父様はとても嬉しそうにシル兄様に声をかけている。
「シルは良い出会いに恵まれたようだね。この仔に決めたのは何故なのか聞いても良いかな?」
「父上、理由は判りません。ただ、目が合った時に直感で、この仔が僕の相棒だ、と思ったのです」
「うむ。六つ柱の大神のお導きに感謝する」
お父様が軽く頭を下げて瞑目した後、顔を上げてシル兄様に告げる。
「では、シルのアンバーが独り立ちできるまではリュックに養育を頼もう。シルはそれで良いか?」
「はい、父上。アンバーもその方が嬉しいと申しております」
シル兄様の返答に和かに頷いたお父様は、ディー兄様の方を振り返って尋ねる。
「ディーは気になるフォルティスの仔がいたかな?」
「いいえ…。私には六つ柱の大神のお導きが無かったようです」
「そうか…。ではまた来年、私と一緒にここを訪れるとしよう」
お父様の言葉を聞いて、ディー兄様が項垂れる。
「ちょっとお待ちくださいませ」
もー、お父様ったら!
シル兄様は直感で見つけたけど、ディー兄様にそれは無理よ!
ディー兄様は堅実で慎重なんだもの!
周りのお膳立てがあった方がいい場合もあるのよ。
今がまさしくそれなのに、解ってないなぁ。
ここは私の出番だと心得ましたよ!
「わたくし、ディー兄様にお薦めしたい仔がいますの」
「何だ? まるで恋人候補を紹介するような口ぶりだな」
お父様はニヤニヤして揶揄うように変な事言うし、お母様は面白そうに忍び笑いをしているので、ちょっとムッとした私は、お父様に言い返した後、ディー兄様に提案する。
「お父様。私はディー兄様が騎獣を得たい理由を本人から聞いたのです。だから、物凄く真面目に言っています。ディー兄様、いかがですか? 私がお薦めする仔ともう一度会ってみませんか?」
すると、ディー兄様は苦笑しながら私に質問を返してきた。
「アデルがお薦めする理由を聞いてもいいかな?」
私は、正直に報告する。
「昨年の春に産まれた仔の中に、ずっとディー兄様を見ている仔がいました。その仔、捕物騒ぎの間も心配そうにディー兄様を見ていたのです。その事にディー兄様が気付いていない様でしたので、もう一度会う事をお薦めしようと思ったのです。会えば、判断はディー兄様がすると思いましたから」
「私を見ていた仔がいた?」
「はい」
「どの仔?」
「クリーム色の馬体の仔です」
私の答えを聞いたディー兄様は、何か思う所があったのか、しばらく腕を組んで考え込んだ後、お父様に向かってお願いをした。
「父上、アデルが勧めてくれる仔に、もう一度会ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ」
リュックの先導に続いて主役のディー兄様と言い出しっぺの私、それにお父様が付き添う形で先に歩き出す。シル兄様とお母様は、後ろから付いて来る形で先ほどの厩舎に引き返して行く。
私は歩きながら、自分の言動が余計なお世話で、ディー兄様がガッカリするだけにならないよう願っていた。
ディー兄様はそのまま真っ直ぐお目当ての仔の前に歩み寄り、私はお父様と一緒に少し手前で立ち止まって見守った。
そのフォルティスの仔は、ディー兄様が会いに来ることが解っていたかの様に、房の柵の正面に佇んで待っていた。
ディー兄様はその仔と向き合うと、自分から声をかけた。
「やあ、こんにちは。さっき妹から聞いたんだけど、私の事を気にかけてくれていたんだってね。気付かなくて悪かったよ」
するとその仔は、とても嬉しそうに首を上下に振った。少しの間、見つめ合った後、ディー兄様がそっと手を差し出すと、その仔は嬉しそうにディー兄様の手に頬を押し付けてきた。
その姿は、明るい金髪のディー兄様と同系色のフォルティスが寄り添い、眩しく輝いている様に見えて、なんて美しい取り合わせなんだろう、とため息が出るほどだった。
「ルヴェ」
ディー兄様が、フォルティスの仔の首を撫でながら呟いた。
すると、ディー兄様とフォルティスの仔の身体が緑色の光を放って輝くと、その輝きが二人(正確には一人と一頭)の身体に吸い込まれるように消えた。
ルヴェと名付けられたフォルティスの仔はゆっくりと後ろに一歩下がると、誇らしげに一声嘶いた。そして、またジッとディー兄様と見つめ合う。
早速何か会話してるのかな?
ディー兄様がこの仔を気に入ってくれてホントに良かったよ。
私がホッとした気持ちで佇んでいると、ディー兄様が私の方に振り返ってお礼を言ってくれた。
「アデル、ありがとう。あの時、待ったをかけてくれて」
私がニッコリ笑って頷くと、ディー兄様がしみじみとした様子で語り出した。
「君が私の事を考えて薦めてくれたこの仔は、私の名付けを受け入れてくれたよ。そして、最初にルヴェは、僕を見つけてくれてありがとう、と言ったんだ。私は、騎獣は自力で見つけるものだと思い込んでいたから、アデルが助言してくれるとは全く思っていなかった。感謝している」
「騎獣を得る、というディー兄様の希望が叶って本当に良かったです。気になっていたルヴェの気持ちがディー兄様に通じた事も本当に良かったですし、ディー兄様のお役に立てたみたいで、私も凄く嬉しいです」
「ああ、ルヴェがアデルにお礼を伝えて欲しいと言ってるよ」
「ルヴェが私にですか?」
「アデルがルヴェに気付いてくれて、私に戻る様に言ってくれたから名を賜る機会を得た。感謝する。そう伝えて欲しいと言ってるよ」
「まぁ」
私はディー兄様に歩み寄り、ルヴェと向かい合う。
「ルヴェ。素敵な名前ね。貴方の想いが叶って良かったわ。どうしても貴方の事が気になったから、ちょっとお節介を焼いただけなの。丁寧なお礼をありがとう」
私はそう言って、お父様の所に戻る。お父様はニッコリ笑って、私の頭を撫でてくれた。
「アデルのお節介が功を奏したな。揶揄ったりして悪かったよ」
「いいんです。終わり良ければ全て良し、ですもの。ところでお父様、私は初代王が六つ柱の大神から魔獣を賜ったというお話が聞きたいです。ペアリングも六つ柱の大神が差配なさっているのでしょうか?」
「その話は城に帰ってからゆっくりしよう。今はディーの騎獣の処遇を決めてやらんとな。アデルは、城に帰るまで待ってくれるかい?」
「あ、そうですね。分かりました。楽しみにしてますね」
その後は再び事務所に戻って、お父様とお母様が牧場の人達と様々な打ち合わせをするのを、お茶をいただきながら見ていた。私は、牧場経営も面白そうだなぁ等と呑気に見ていたけれど、お兄様方は真剣に聞いている様子だった。
だよね、いずれはお父様から引き継ぐんだもの。
お兄様方は大変だね。
お兄様方は、無事に騎獣を得ました。アデルは、騎獣はいらないのでしょうか。
さて、アデルですが、前世では、誰にも必要とされなかった為に知り得なかった、
大切な誰かの役に立てる喜びを感じる事ができました。
次回は、六つ柱最後の神、ソルテールとの面会です。




