騎士団訪問 III
騎獣の視察も最後になりました。ディー兄様がお迎えに来てくれたのですが、
アデルはただの過保護だと思ってしまいます。
家族一同、まだまだ小さいアデルが可愛くて仕方ない様ですね。
騎獣について知りたい、と思って訪れた騎士団の厩舎で、約束どおり案内をしてくれるロベールおじ様と雑談しながら最後の区画に向かう。
騎士団長のロベールおじ様にこんな風に案内させるなんて、王女の特権とは言え考えてみたらすごい事だなと思う。実の伯父だから安心して甘えていられるけれど真面目に感謝しないとね。
そうして着いた最後の区画には、何故かディー兄様が待っていた。
なんかデジャヴ感が満載。
お父様に続いてディー兄様まで来ちゃったよ。
うちの男達の過保護さときたら…。
何がそんなに心配なんだろ?
「やあ、アデル。今日の君のゴールはここだよ」
「ディー兄様、どうしてここに?」
「アデルに紹介する最後の騎獣は、ドニが主人なんだよ」
「え? モロー伯爵の騎獣なのですか?」
ディー兄様の後ろに立っているディー兄様の筆頭護衛騎士であるモロー伯爵の方を見て尋ねると、モロー伯爵はニコニコして頷いている。私は、モロー伯爵の主人であるディー兄様にお願いする。
「では、モロー伯爵の騎獣をご紹介いただけますか?」
「ドニ、頼むよ」
ディー兄様が振り返って、モロー伯爵に頼む。こういう時、主人の許可が無いと護衛騎士は動けないから、直接お願いしてはダメなのだ。
「かしこまりました。それでは僭越ながらアデリエル王女殿下に私の騎獣をご紹介させていただきます」
そう言って私からよく見える様に場所を空けてくれた方を見ると、房の中に銀色の塊が見える。
「魔獣の種類は、銀猪アジトムアプロムと申します。エネプル、こっちに来てくれないかな」
モロー伯爵の声に振り向いて前に出て来た騎獣は、銀色の翼を持つ大きな猪に見える。よく見ると、顔の輪郭は猪そのものだけど、私の記憶にある猪より目が大きくて鼻が小さい。口元には大きな牙が見えていて、額には小ぶりの角がある。
クアジュに会った時に、ジブリ作品に出てくる動物を思い出してしまったからか私の第一印象はまさしくアレだ。
「『乙事主』…」
「申し訳ありません。今、何と仰せになられましたか?」
モロー伯爵に尋ねられて、思わず私はギクリとなる。
しまった!
日本語が出ちゃった!
何とか誤魔化さなきゃ!
「あの、すみません。王の子みたいと言おうとして噛みました」
うわー、苦しい!
言い訳がヘタクソ過ぎる!
こんなんじゃ誰も誤魔化されてくれないよー。
うえ〜
ディー兄様の笑みが深くなったから、絶対疑ってるよね。
違う意味で真っ赤になっている私を、モロー伯爵は噛んで恥ずかしがっていると思ったのか、微笑みながらフォローしてくれる。
「さすが王女殿下でございます。このエネプルは、アジトムアプロムの長老の血を引いているのです。よくお判りになりましたね」
え? 本当?
適当なお追従じゃなくて?
ビックリ顔の私に、モロー伯爵はニッコリ笑って説明を続ける。
「エネプルは、騎士団のアジトムアプロムのリーダーなのでございます。アジトムアプロムには不思議な習性がございまして、戦闘の場に複数のアジトムアプロムがいる場合、その場で一番強い個体が指揮をして集団で戦うのでございます。
もちろん、魔獣同士が事前に集まって打ち合わせするなどという事は有り得ませんから、習性なのだと言って差し支えない様に存じます。エネプルは、野生のアジトムアプロムも同じ様にすると申しておりましたから」
「エネプルが、その様に言ったのですか?」
「左様でございます。自分には長老の血族としての責任があるから、私と主従関係になっていても、同族を率いて闘うのは当然の事だとも話してくれました」
「すごく責任感が強い魔獣なのですね。他に特徴はあるのでしょうか?」
「アジトムアプロムは脚力が強いので、ジャンプ力に優れております。性格は思慮深く思いやりがあると言われております」
モロー伯爵は、ニヤリと笑ってエネプルを見てから話を続ける。
「このエネプルは、自分にも私にも厳しい面がございます。未来の王を守護するのだからこれくらいは当然だ、とよく言われます」
「もしかして、モロー伯爵はエネプルに叱られる事があるのですか?」
「左様でございますね。エネプルは、私や王太子殿下の事を思って叱ってくれる事がございます。有り難い事に私の相棒は、私の仕事を正確に理解してくれておりますので、そういった事は稀にございます」
静かにモロー伯爵の横に座るエネプルの瞳は、確かな知性に彩られている。そして、モロー伯爵と共に次代の王を守護しているという自信と誇りが垣間見えた。
「アデル、王宮へは私と一緒に帰ろう。見学はもう終わりなんだろう?」
「ディー兄様、一緒に帰るのは良いのですけれど、モロー伯爵とエネプルにお礼を言わせてくださいませ。モロー伯爵、エネプル、本日はアジトムアプロムについて詳しく教えてくださいましてありがとう存じます。今後ともディー兄様をよろしくお願い申します」
「恐縮でございます、王女殿下。お役に立てましたでしょうか?」
「ええ、とても。騎獣を近くで見る事ができましたし、知らない事をたくさん知る事ができました」
今の私は、自分の知識欲が満たされてとても機嫌がいい。この世界の事をもっと知りたい、と思って取り組んできた勉強は、前世の知識と比べてしまうと、実態のない妄想と錯覚してしまいそうで不安になりかけていた。
だけど、実物をこの目で確かめる事ができた今日の視察は、この世界で得た知識が現実なのだと実感する事ができてすごく嬉しい。私にとって異世界をあるがままに受け入れようと努力する事は、実感がないと不安になる事だったのだ。
これはたぶん、私だけにある感情なんだろうなぁ。
何しろ、当たり前を塗り替えているところだからなぁ。
ホント、私ってめんどくさい性格してるよね!
「ロベールおじ様、今日はわたくしの為にいろいろとご準備いただきましてありがとう存じます」
「姫殿下に喜んでいただけて何よりでございます。お帰りの際は、皆で護衛させていただきます」
ディー兄様にエスコートされながら厩舎を出ると、既に馬車の準備ができていた。たぶん、ディー兄様が乗って来た馬車をそのまま待機させていたのだろう。
いつもなら先に乗り込むディー兄様が、馬車に乗り込まず何かを待つ様に昇降口に背を向けて立ち止まった。
「アデル、騎士達が騎獣を呼ぶ様子を見てごらん」
「はい?」
ディー兄様が指差す方を振り返って見てみると、遠くの厩舎からノアールが出て来てこちらに飛んで来るのが見えた。
続いてペルル、クアジュ、バハンを含む護衛騎士の騎獣達がゾロゾロと厩舎から出て来てこちらに向かってやって来る。
まるで自分の主人に呼ばれた様に騎獣が飛んで来るけれど、護衛をしている騎士達は誰一人として声を出したり騎獣を見たりしている者はいない。
不思議だなぁ。
神の名付けのように一方通行じゃないのかなぁ。
双方向のテレパシーみたいにできるって事?
それってすごく便利じゃね?
「アデル、馬車に乗ろうか」
「はい、ディー兄様」
馬車に乗り込んで護衛騎士の体勢が整うのを待つ間、ディー兄様が私の疑問に答えてくれた。
「騎士と騎獣は、無言で意思疎通できるんだよ。ドニに教えてもらったんだけど、結界の中ならどんなに離れても意思疎通できるらしいよ」
「結界から出たら意思疎通できなくなるのでしょうか?」
「ある程度の近距離でないとダメらしい。隣国に潜入した騎士が、そう言っていたから間違いないと思うよ」
ほーお、結界がそんな風に作用するのかぁ。
あれ?
待てよ?
ディー兄様は、なんでそんな事知ってるんだ?
「ディー兄様は、その隣国に潜入した騎士と知り合いなのですか?」
「ああ、剣の稽古で騎士団に出入りするからね。父上が騎獣を得ている、と知ってから、私も騎獣を得たい、と思うようになってね。それ以来、騎獣に関する情報を集めるようになったんだ」
「まぁ、ディー兄様は、騎獣を得たい、と思っているのですか?」
「そうだね。ノビリタスコラに入学して色々と学ぶうちに騎獣の必要性を痛感するようになったんだ」
「騎獣の必要性?」
「うん、ノビリタスコラに通う騎士を目指している生徒の半数以上が、既に騎獣を得ている。彼らを見ていると機動力が段違いなんだ。私は王家の者として、いざという時のために自分の機動力を確保しておくべきだ、と思うようになったんだよ。それでね」
ディー兄様が声を潜めて、内緒話を打ち明けるかの様に話し始めた。
「来週の終わりの日に、王家直営の牧場にフォルティス繁殖の専門家がいて、その方を訪ねる予定なんだ」
「それは、王家の牧場に行く、という事ですか?」
「そうだよ。シルも一緒に行くんだ。アデルも一緒に行くかい?」
行きたいっ!
わー、行きたいよう!
でも、メアリに聞かなきゃスケジュールが分かんない。
「行きたいです。でもメアリに聞いてみないと、行けるかどうか判りません」
「じゃあ、ジュスタンにメアリと打ち合わせをする様に話しておくから、アデルもメアリに話を通しておいてね」
そこまで話したところで、ロベールおじ様から出発の号令がかかる。
馬車の中から窓の外を見ると、いつの間にか騎獣達に鞍が着けられている。
「ディー兄様、騎獣達はいつの間に鞍を着けたのでしょうか? 厩舎から出て来た時は着けていなかったと思うのですけど…」
「ああ、騎士が空間魔法を使って、鞍を出して着けたんだと思うよ」
「空間魔法?」
空間魔法って何?
◯◯えもんのどこでもドアとか?
ファンタジーにありがちな亜空間の倉庫とか?
ああ、それとも◯リー・◯ッターの呼び寄せ呪文とかなの?
「ディー兄様、空間魔法ってどんな魔法なのですか?」
ワクワクしながら質問する私の顔を見て、破顔したディー兄様が教えてくれる。
「あははは、アデルは魔法に興味津々だね。空間魔法の基本は、空間を認識できるかどうかだよ。それができないといくら理論を学んでも習得できない、割と難しい魔法なんだ。魔法はイメージだからね」
「魔法はイメージ?」
そういえば、前世で読んだライトノベルや漫画に出てくる魔法も、同じ様な設定が多かったよね。
「そうだよ。初代王が魔法体系を構築した時に定義付けされたのが、魔法とは人間がイメージできる事を具現化するものである、というものなんだ。ノビリタスコラの魔法史で習うんだよ」
へー、初代王が魔法体系を構築したのかぁ。
ますます初代王の転生者説を疑っちゃうよね。
私が考え事をしている間に、馬車は王宮に到着していて玄関前に停車していた。窓から外を見ていると、護衛騎士が騎獣から降りて鞍を外している。
どうするのだろう?と見ていると、地面に置いた鞍に手を翳して呪文を唱えるとパッと鞍が消えたり、騎獣に着けた鞍の留め具を外してサッと手を振ると鞍がパッと消えたりしている。
うーん、色々な方法があるみたいだねぇ。
魔法自体も違うものなのかなぁ?
明確な答えが得られないうちに、ロベールおじ様を含む護衛騎士以外の騎士は、騎士団に引き返していき、護衛騎士を降ろした騎獣達は厩舎に帰って行った。
そうして護衛の体制が整った後、ディー兄様と私が馬車から降りる事ができる。
王宮の執事モリスが玄関の扉を開けて待っていてくれたので、ディー兄様のエスコートで王宮内に入る。
「王太子殿下、王女殿下、お帰りなさいませ。王妃殿下が、一階の居間でお待ちになっておられます」
モリスにそう言われて顔を見合わせた私とディー兄様は、お母様から呼ばれた事が予定外であった事が、お互いに理解できた。
「分かったよ、モリス。伝言ありがとう。母上には、一度部屋に戻って身なりを整えてから伺う、と伝えてくれ。アデルもそうすると良いよ」
ディー兄様の言葉に頷いた私は
「そういたします」
と言って、ディー兄様と自室がある2階に向かう。階段を登りながら、私はディー兄様に確認した。
「ディー兄様は、お母様とお約束があった訳ではなかったのですね?」
「ああ、無かったよ。何かあったのだろうか?」
「分かりません。とにかくあまりお待たせしてはいけないので急ぎましょう」
「そうだね。それでは、また後で」
私の部屋の前でディー兄様と別れて自室に入ると、メアリの指示で側仕え達が、急いで着替えの準備をしてくれた。
厩舎では干し草のホコリを被ってしまったので、まずは手と顔を洗う。
部屋では側仕え達が待ち構えていて、手際よく私の服を脱がせてくれる。首や手足をお湯で絞ったタオルでサッと拭いてくれたので、すごくサッパリした。メアリが用意してくれたドレスを着せてもらうと、鏡台の前に座って髪を直してもらう。
支度が終わって廊下に出ると、ディー兄様も着替え終わって、部屋から出て来たところだった。
「おや、アデル。タイミングが同じだったね。一緒に行こうか」
そう言って、さりげなくエスコートしてくれるディー兄様は、シャワーを浴びたらしく髪が濡れている。
一階の居間は、お母様の執務室に隣接している。何か起こったのだろうか。
心当たりは全く無いんだけどなぁ。
一体なんだろ?
居間に入ると、お母様だけではなくお父様とシル兄様も一緒に談笑していた。
「父上、母上、ただ今戻りました」
ディー兄様が帰城の挨拶をすると、室内の和やかな雰囲気にホッとした私も元々お父様にする予定だった帰城の挨拶をする。
「お父様、お母様、シル兄様、ご歓談中に失礼いたします。騎士団視察を終えて、ただ今戻りました」
「うむ、お帰り」
「ディー、アデル、お帰りなさい。疲れたでしょう? さあ、座ってちょうだい。一緒にお茶にしましょう」
ディー兄様と私がソファーに座ると、すぐにお母様の側仕えが、お茶とお菓子を出してくれた。お茶を飲んでひと息つくと、お父様から視察の感想を尋ねられた。
「アデル、騎獣について知りたいと言っていたが、今日の騎士団訪問はどうだったのか感想を聞かせてくれ」
「はい、お父様。最初から最後まで、ロベールおじ様の気配りをいただきまして、嫌な思いを全くせずに視察する事が出来ました。ロベールおじ様には、本当に感謝しています。騎獣をご紹介くださる騎士の皆様は、半数以上が見知った方だったので、緊張せずに質問できて本当に勉強になりました。次は、魔物について学びたいと思っています」
私の感想を頷きながら聞いているお父様は落ち着いているけれど、ニコニコして聞いていたお母様は、私の最後の一言を聞いてとても慌てている。
「アデル、貴女を魔物に会わせるなんて事、わたくしは許しませんよ」
お母様の剣幕に驚いた私は、慌ててお母様を宥める。
「お母様、まずは知識からです。実際に対峙するのは、私に魔物を討伐できるだけの力が付いてからですよ?」
「魔物を討伐ですって? アデル、一体、貴女は何を考えているの!」
ヤバッ、言い方間違えちゃったよ!
あわわ、お母様の目が吊り上がって来た!
ひぃーん、どうしよー!
お母様がやや大きめの声で私を詰問するのを見聞きしていたお父様が、おもむろに笑い出す。周りを見ると、ディー兄様とシル兄様が苦笑いしている。
「アデリーヌ、落ち着きなさい。アデルが言う魔物を討伐できるだけの力がアデルにつくのは、おそらく10年以上先の話だ。それどころかどんなに努力しても、その領域には辿り着かないかもしれない。今からそんなに慌てる必要はないよ」
「ルーチェ、そうかしら? アデルは、何か仕出かしそうで心配だわ」
「まぁ、ここは私に任せなさい。いいね」
「分かりましたわ、ルーチェ」
お父様はお母様の手を取ってあやす様に手をポンポンと叩くと、私に向き直って口を開く。
「アデル、魔物について学ぶには、その前に学ぶべき事がある。仮にそれを飛ばして学んでも、本質を理解できずに終わるだろう。先に学ぶべき事は、君の講師陣と協議して、然るべき時に学べる様にするつもりだ。だから、それまで待ちなさい。誇張されていたり間違った知識に飛び付いては命取りになる。アデル、ちゃんと時が来るまで待てるか?」
「はい、お父様。ちゃんと理由を説明していただいたので、ちゃんと待ちます。
というか、元々、焦って勉強しなきゃ、と思っていた訳では無いんです。
お母様、誤解を招く様な言い方をしてしまってごめんなさい」
私が謝ると、お母様がホッとした顔になった。そこに、何故かディー兄様からも追い討ちをかけられる。
「アデル、君には、君が戦わずに済む様に護衛騎士が付けられている。その上で、君が戦う場面があるとしたら、護衛騎士が倒されるだけの強敵が相手だという事になる。君はまず、戦う術より逃げる術を身に付けるべきだよ。これはシルにも忠告した。アデルにも同じ忠告を贈るよ」
あれれ?
私は戦闘狂では無いんですけど…。
なんでこんな話になったかなぁ?
てか、争い事は嫌いなんですってば!
うわぁ、ディー兄様が有無を言わせないぞって感じで笑ってるよ。
ここは大人しく頷いておこう!
「分かりました、ディー兄様。ご忠告ありがとう存じます」
私がニッコリしながら答えると、ディー兄様は満足そうに頷いた後、お父様の方に向き直った。
「父上、来週の終わりの日のシルと王家の牧場に行く予定ですが、アデルも連れて行こうと思います。いかがでしょうか?」
「ん? なんだ、アデルも騎獣を得たいのか?」
ディー兄様、なんで?
突然の話題の転換は、何か意味があるの?
ずぇーったい何か企んでるでしょ!
「えーっと、騎獣を得る事については、まだ真剣に考えた事がありません。ただ、ディー兄様からお話を伺って、繁殖の専門家のお話を聞きたいと思いました。それと王家の牧場にも行って見たいと思いました」
「そうか…。アデリーヌ、君は来週の終わりの日は何か予定があるかい?」
「たぶん何も無かったと思いますけど…」
そう言いながらお母様はパトリスの方を見た。パトリスは手元のスケジュールを確認して、お母様に頷き返した。
「大丈夫です。アデルはどうかしら?」
そう言われた私は、振り返ってメアリを見る。メアリはスケジュールを確認しなくても頭に入っている様で、少し考える素振りをした後、私を見て頷いた。
「私も大丈夫です」
私が前を向いて答えると、お父様が宣言した。
「では決定だ。来週の終わりの日は、家族みんなで牧場に行く」
「やったっ! 家族でお出かけ!!」
私は嬉しくてバンザイしながら立ち上がって叫ぶ。初めての家族でお出かけだ。踊り出したいくらいに嬉しい。こんな事、一生無いだろうと思っていた。
私の喜び様を見たお父様は、嬉しそうに微笑みながら私を抱き上げて周囲の側近達に言い渡す。
「時間短縮のため、馬車は使わず騎獣で行く。子ども達は、それぞれの護衛騎士が同乗させるようにしてくれ。護衛については近衛を増員して対応する。以上、手配を頼む」
お父様の言葉に、家族全員の顔が喜びに輝く。
「母上、アデルと一緒に行けるなら、母上も安心ですね」
と、ディー兄様が言えば、お母様が
「それはそうですけど、ディーとシルの事を案じていない訳ではありませんよ」
と返し、それにシル兄様が
「母上、母上は今日のアデルの騎士団視察でも、人見知りのアデルの為にロベールおじ上に頼んだり、アデルの顔見知りで固めようと奮闘なさっていたでしょう? アデルに対する過保護は母上だけではなく、僕も、兄上も、それに父上だって同じなんですから、今更隠しても無意味ですよ」
と、笑いながらお母様の行動を暴露した。
え? そうなの?
道理で…。知ってる人ばかりだと思ったんだよ。
お父様とディー兄様が厩舎に来たから、過保護だなぁと思ってたけど…。
まさかお母様も、とは…。
私の中身は大人だって知ってるはずなんだけどなぁ。
まぁ、確かに人見知りですけど…。
バレてるとは思わなかったよ。
とほほ…。
王家に生まれた男の子なら騎士団に出入りする事で自然に覚える事を、まだ小さい女の子のアデルが興味を持つと、大騒ぎになってしまいます。それでも、アデルの為に家族が奔走してくれました。
次回は、家族で牧場に行きます。




