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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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騎士団訪問 I

オークレールとの面会の結果、アデルは自分の考えを家族に話す事ができました。

少し気楽になったアデルは、騎士団を訪問して、楽しみにしていた騎獣の見学をします。

 神殿から帰るエレベーターの部屋の中で、お父様が疑問に思った事を、私に確認してきた。

「アデル、君とオークレール様の会話から察するに、大叔父上と落とし子について話をしたのかい?」

「あ、はい。お爺様には歴史の授業の時に、少しだけ教えてもらいました」

「ふむ。君と話す時間を取れずにいた私も悪かったのだが…。そうか、大叔父上も心配してくださったのだな。折角、オークレール様から情報を賜ったのだ。これを機に打ち合わせしておこう。イザークとロベールも付き合ってくれ。応接室に行こうか」


 あー、授業内容を私から報告する事は無かったなぁ。

 こんな事で報告の必要があるとは思わなかったよぉ。くすん。


 お父様の居間に戻ると、お父様は自分の側近に指示をしながら、エレベーターの部屋の鍵を閉めた。

「打ち合わせをするから、応接室に茶を準備してくれ」


 私は自分の側近達に、応接室での打ち合わせに出席する事を告げ、小声で

「メアリ、セブラン。打ち合わせでは盗聴防止の魔法が使われると思うけど、心配しないでね」

と、断ってから応接室に向かった。


 応接室では、お兄様方に挟まれて、一緒にソファーに座った。すぐに、お茶が出されたので、まずお茶を飲んで一息つくと、お父様がイザークおじ様に盗聴防止の魔法をかけるように命じた。

「イザーク、盗聴防止の魔法を頼む。他の者は、魔法の範囲から出るように」

 私がメアリとセブランの方を向いて控えてくれるように合図すると、二人は慣れた様子で傍に控えてくれた。


「さて、アデル。まず、大叔父上から教わった落とし子に関する事を、詳しく教えてくれないか?」

「はい、お父様。お爺様はまず、今から話す内容は聞き流したりせずお父様から正式にお話があるまで知識として心に留めておくように、と前置きをなさいました」

「なるほど、大叔父上らしいな。それで?」


「この世界にある三つの大陸のうちの一つ、ミラビリスマグムテラには、その大陸の西側に結界を持つ三つの国があって、北から聖女信仰のガイスト聖国、六つ柱の大神ではない神を信仰するセブスト神国、大魔法使いの国ヴェーツ王国がある、と教わりました」


 お父様は私の話を聞きながら一つ一つ、そうだ、と言う代わりに頷くと、そういえばという風に確認してきた。

「結界については、アデルはディーから学んだと聞いているが、それは身に付いているかな?」


「はい、お父様。お爺様は、この三つの国の結界は六つ柱の大神に賜ったものではない、と仰いました。だから私は、その三つの国の結界は、神力の結界ではなく、魔力の結界だと考えました」


「うむ。アデルのその推測は正しい。大叔父上は、落とし子については何と説明したのかな?」


「えと、異世界から身体ごと落ちて来た者と、魂だけが落ちて来て生まれ変わった転生者がいて、魔力量が多くて魔法に秀でている、と仰いました。それから、その三つの国は落とし子の所有権を主張していて、落とし子の意思を無視して連れ去り結界の維持の為に魔力を搾り取る、という悪い噂があるとも仰いました」


「ほう、大叔父上は明言を避けながら、アデルに上手く注意を促したのだな。他に何か教わったか?」

「いいえ、ただ、私の身の大切さを理解して欲しい、と仰いました」

「それを聞いて、アデルはどう考えたのかな?」

「私が転生者だと知られたら、誘拐される危険性があるのだと思いました」


「よし!正解だ。アデルが、その事を理解しているのなら話が早い。現時点では、我が国と()の三国は国交が盛んな訳ではない。だが、たとえ接点が全く無かったとしても、警戒は怠らないようにしよう。皆、良いか?」


 この場にいる全員が同意している中、私は、先日の地理の授業でお爺様に見せてもらったこの世界の地図を思い出す。


 中央に縦と横の線を引いて四分割した時、左上の全体と左下の上半分くらいを、我が国がある大陸プリミスティマグムテラが占めている。

 地図の中央にある大海を挟んで右上の中央に、我が国が黒い森と呼ぶ大陸ニゲレオスマグムテラがあり、右下に話題になっている三国がある大陸ミラビリスマグムテラがある。

 気になるのは、元は一つの大陸だったのが、地殻変動で分裂したかの様に、プリミスティマグムテラの右下からミラビリスマグムテラに向かって、列島が続いている点である。二つの大陸間を、島を伝って船で行き来できる様に見える。

 これから先、本当に全く接点を持たずに済むのだろうか。


「陛下、まさかに落とし子を、六つ柱の大神が差配なさっているとは存じませんでした。現在、()の三国にそれぞれ落とし子が配されている事も、我々には知り様がない情報でございましたね」


「イザーク、お前の言うとおりだ。王家にも知らされていなかったからな。いや、今までは知らせる必要がなかったという事だろう。ロベールは、何か意見があるか?」


「落とし子は結界を持たない国々も、喉から手が出るほど欲しがっている筈です。オークレール様が仰せになったとおり、人間の欲には限度が無い。まずは、姫殿下が転生者だと知られない事が肝要になると思います」


「うむ、同意見だ。アデル、君は自分が転生者だと知られない為の対策を何か考えているのかい?」


「え?対策ですか?特に考えていません。どちらかと言うと、自分で自分を守れる様になるにはどうすれば良いか、という事ばかり考えていました」


「ははは、自立心が強くて負けず嫌いの君らしい考え方だな。それで? どういう風に考えたのかな?」


「今のところ、自分で出来る事は余りありません。『前世の知識の過度な流布』は六つ柱の大神から禁じられていますし、魔法もノビリタスコラに入学するまでお預けですし、精々知識を詰め込む事くらいしか出来ません」


「うむ、それで良い。君は君らしくあればそれで良い、と私は言ったが、忘れないで欲しいのは君の周囲には沢山の味方がいる、という事だ。どんな事でも、一人で解決しようとせず、私達を頼りなさい」


「はい。解りました、お父様」


「ディー、シル、君達も同じだよ。何事も周囲と相談するんだ。それはどんな立場であっても、大人になっても同じなんだよ。解ったかな?」


「「はい、父上」」


「さあ、ここからは大人の話し合いだ。オークレール様からの申し出も含めて親族会議で協議しようと思う。君達は、下がってゆっくりすると良い」


 オークレール様からの申し出って、時々会いたい、というヤツかな?

 親族会議で決めてくれるなら有り難いね。

 ラッキー!


 お父様から促された私とお兄様方は、それぞれの側近を連れて自室に戻った。



 オークレールと話をした日の翌々日

 今日は、お父様の誕生日だ。今日のお父様は、終日予定が詰まっていて、王宮に帰って来るのも夜遅くなる。

 私は、約束の刺繍を渡したい、と前もって伝えていたので、お父様が出掛ける前に誕プレを渡す為に、お父様の応接室に向かう。


 応接室には近衛騎士しかいなかったので、しばらく待っていると、居間に続く扉からグレーの式服に身を包んだお父様が入って来た。


「やあ、アデル。おはよう」

「おはようございます、お父様。お忙しいところお時間を取っていただきまして

ありがとう存じます」

「なあに、アデルの刺繍が貰えるとあればね」

 お父様が珍しくウキウキしている。

「これ、どうぞ、受け取ってくださいませ」

「ああ、ありがとう。嬉しいよ。今、ここで見てもいいのかい?」

「はい、どうぞ」

 お父様が嬉しそうに包みを開ける。

「これはアデリーヌと同じ図案だね」

「はい。お母様と色違いのお揃いにしました。もっと上手になったら、王家の紋章にもチャレンジしたいと思っています」

「そうか、それは楽しみだな」

「へ?」

「もちろん、それも私が貰えるんだろう?」

「あはははは…。はあ、お父様に差し上げられる様に精進します」

 その時、お父様の筆頭側仕えのクリストフから声がかかる。

「陛下、馬車の用意が整いました」

「お父様は、これからお祖母様と、お祖父様のお墓参りに行かれるのでしょう?」

「ああ、今日は時間が許す限り、母上とゆっくり語り合うつもりだ」

 お父様には、臣下の皆さんとの晩餐会も控えている。

「では、玄関までお見送りいたしますね」

「お、そうか?」


 お父様は、私を抱き上げて応接室を出る。そのまま、階段を降りて玄関ホールに出ると、大きく開いた扉の前で、自分の頬を突いて私にキスをねだった。

 私は久しぶりにきた父親のおねだりに、ちょっと恥ずかしいなぁ、と思いながらお父様の頬にチュッとして

「行ってらっしゃいませ、お父様」

と、見送ったのだった。



 お父様の誕生日から8日後

 今日は、待ちに待った騎士団訪問の日だ。まずは、城内にある騎士団の詰め所に向かい、ロベールおじ様と合流する。

 王宮と騎士団の詰め所は100mくらいしか離れていない。それでも王女である私は、馬車で移動しなければならない。騎士団の詰め所の玄関前に馬車が停まって扉が開くと、ロベールおじ様とデュポン副騎士団長が待っていた。


「姫殿下、騎士団へようこそ」

 私が馬車から降りようとすると、すかさずロベールおじ様が手を貸してくれた。

「ロベールおじ様、ありがとう存じます」

「折角、姫殿下のご来臨を賜ったのですから詰め所の中をご案内したいのですが、よろしいでしょうか」

「もちろんです。よろしくお願い申します」

 ロベールおじ様のエスコートを受けて詰め所の中に入った私は、あっという間に騎士の皆さんに取り囲まれてしまった。


「王女殿下、ようこそ騎士団へ」

「うわっ、可愛い」

「妖精姫、ようこそ騎士団へ」

「見ろよ、すっげえ可愛いぞ」

「王女殿下、いらっしゃいませ」

 わぁわぁと騒ぎながら取り囲む騎士達には、強面のおじ様やカッコいいお兄さんなど様々な人がいる。


 うおっとぉ、大歓迎だよ!

 アイドルの出待ちかよ!

 プライベートスペースを空けてはくれてるけど、圧がすげえなぁ。

 さすが騎士団、男臭い!


 その勢いに思わず後退りした私は、ロベールおじ様がエスコートしてくれる手にギュッと掴まってしまった。そんな私の様子に気付いたロベールおじ様が、副騎士団長に声をかけて顎をしゃくった。

「ジル」

「はっ、せいれーつ(整列)。四列横隊!」


 その掛け声にサッと並んだ騎士達に向かって、ロベールおじ様が叱りつける。

「貴様ら、姫殿下を怯えさせるとは何事か! 王族に対する不敬は、何人たりともこの私が許さん」


 本気で叱るロベールおじ様を見て、これは上手く捌けなかった私が悪かった、と思った私は、硬くなった雰囲気を和らげようとロベールおじ様の手を引っ張って声をかける。


「ロベールおじ様、わたくし驚いただけですから、そんな風に叱らないでくださいませ」

「しかし…」

 私はニッコリ笑ってロベールおじ様にお願いする。


「わたくし、おじ様の心配はもっともな事だと存じます。王族への悪意ある不敬は厳罰に処されるべきだとわたくしも思います。でも先ほど、わたくしは悪意があるとは感じませんでした。ですから、騎士の皆様にわたくしからお願いをしたいのですけど、騎士団長として許可をいただけませんか?」


 ロベールおじ様は心配そうな顔をしながらも、私の提案を受け入れてくれた。

「御意」

「受け入れてくださってありがとう存じます。では」

 私は一歩前に出て、綺麗に整列した騎士の皆さんに柔らかくお願いする。


「皆様、わたくしを歓迎してくださってありがとう存じます。この歓迎に甘えて、わたくしから皆様にお願いがございます。わたくしの護衛騎士達はいつもわたくしに柔らかい態度で優しく接してくれますの。ですから、皆様にもわたくしが大きくなって、大人の男の人が普通に話しても怖くないと思える様になるまで、わたくしの護衛騎士と同じ様に接していただけますと、わたくしもビックリしなくて済むと存じますの。この事、お願いしてもよろしいかしら?」


 最後の一言は、両手を合わせて小首を傾げて言ってみた。すると、整列した騎士達が一斉に片膝をついて胸に右手を当てた。一様にキラキラした瞳で見つめてくるのはどういう意味があるのだろう?


「おじ様、これは、わたくしのお願いを受け入れてもらえた、という事でよろしいのでしょうか?」

「ええ、その様です。姫殿下には寛大なお心配りを賜りまして、誠に有り難く存じます」

 私はにっこり笑って頷くと、ロベールおじ様におねだりする。

「ささ、ロベールおじ様。早く案内してくださいませ。今日は騎獣を見せてくださるのでしょう?」

「左様でございましたね。では参りましょうか。ジル、こいつらを解散させろ」

「はっ、全員仕事に戻れ。王女殿下に騎獣を披露する者は準備にかかれ」

「はっ」


 ようやく詰め所の玄関から移動できた私は、まず騎士達の執務室に案内された。ほとんどの騎士が業務のため外出していたので、残ってデスクワークをしている騎士達を労うと、食堂に案内される。

 人の良さそうな料理人夫婦から挨拶を受けたので、おじちゃま、おばちゃまと呼んでにこやかに対応すると、食堂のおばちゃまに気に入られた私は、沢山の手作りお菓子を持たされた。


 続いて仮眠室、会議室、取調室、集会室を案内されて、最後に、団長室に辿り着いた。そこで、一旦落ち着いて休憩する。

 食堂のおばちゃまが私用にオレンジジュースを用意してくれたので、先にいただいたお菓子と一緒にメアリに毒味をしてもらってからいただく。

 おやつを食べて元気を取り戻した私は、早速、厩舎に向かった。厩舎まで行くのにも馬車を使うのが正しい移動の仕方なのだけど、ここは敢えて腹ごなしに歩いて移動する。


 だって100mも離れてないんだよ?

 却って時間かかっちゃうよ。

 王女だからって言うなら、ちゃんとおじ様にエスコートされてるし、

 セブランもマルクもマティアスもメアリもオリビアも一緒だよ。

 他の騎士も何人か付いて来てるから、ゾロゾロと大所帯になったけどもさ。

 いつもの散歩と一緒じゃんか。

 城内だからいいじゃん、早く行こ!


 歩きながらロベールおじ様が、確認する様に私に尋ねる。

「姫殿下は、陛下のフォルティスをご覧になったのですよね?」

「はい、お父様には王家の厩舎にいるウーツと、ヴァンと、フルールと、メテオを紹介していただきました」

 私が指折り数えながらロベールおじ様に答えると、微笑んでその様子を見ていたロベールおじ様が、少し厳しい顔になって私に注意する。


「左様でございましたか。本日、姫殿下に見学していただく騎獣は、主人には忠実ですが他の人間を受け入れない騎獣もおります。決して姫殿下からは近付かないでください。厩舎は獣種ごとに仕切りがあります。そして獣種ごとに一人ずつ説明役の騎士を配置しております。ここにいるのは全て魔獣でございますから、急に動いたり、大声を出したりしてはいけません。姫殿下、覚悟はよろしいですか?」


 魔獣を侮る勿れって事ね!

 OK、ドンと来い!


「はい。覚悟いたしました。落ち着いて行動しますね」

「大変結構でございます。では参りましょう」


 厩舎に入ると、干し草のいい匂いがした。騎士団の厩舎は、主人が仕事をしている間、騎獣が待機する場所なので、仕切られた房はそんなに広くない。歩きながらロベールおじ様が説明を始める。


「まずは、フォルティスの区画です。角馬(かくば)と呼ばれる角がある馬コルヌエイコスのうち、大型のものをフォルティスと呼んでおります。フォルティスの特徴は、コルヌエイコスの中で一番力があり、翼が一番大きい為、滞空力に優れております」


 ロベールおじ様の説明を聞いて周囲を見回すと5頭のフォルティスがいる。黒、茶、灰色、薄いオレンジ色、紺色と色は様々だ。

「さ、姫殿下。こちらへどうぞ。私の騎獣を紹介します。ノアール()、おいで」


 ロベールおじ様に誘導された房にいたのは、艶のある黒の馬体に艶消しの黒の翼を持ったフォルティスだ。呼ばれて前に出て来たノアールは、何?何?何か用?といった感じで好奇心を滲ませている。

「まぁ、おじ様の騎獣は黒のフォルティスなのですね」

「はい。陛下のフォルティスと対の様でございましょう? 偶然とはいえ良い騎獣を得る事が出来ました」

「こんにちは、ノアール。私はアデルよ。お会いできて光栄です」

 私の挨拶を横目で見ながら、ねぇ、誰?と言う様にロベールおじ様を頭で押している。

「この方は、私の主人の娘でこの国の第一王女殿下だ。粗相の無いように頼むよ」

 ロベールおじ様がそう言うと、ノアールは軽く首を上下に2回振っておじ様に返答すると、房の奥に引っ込んでしまった。


 あらら、引っ込んじゃった。

 ノアールは私に、興味ありませーんって感じだね。


「おじ様、ノアールは何と言ったの?」

「分かったと申しました。では、次に参りましょう」


 ノアールの気まぐれに苦笑しながらロベールおじ様が向かった先には、ロベールおじ様の妹で近衛騎士のローズ様が待っていた。

「姫殿下、こちらはコルヌエイコスの小型種ユスティスの区画でございます。

ローズ、待たせたな。説明を頼む」

「承知しました、兄上。ごきげんよう、アデリエル王女殿下。殿下は、ユスティスをご覧になるのは初めてでいらっしゃいますか?」

「ローズ様、ごきげんよう。ご無沙汰いたしております。ローズ様の仰るとおり、ユスティスを見るのは初めてです。フォルティスより随分と小さいのですね」


 この区画は、個別の房に仕切られていなかった。人間の通路が柵で仕切られているだけで、広い区画にポニーの様な小型の馬体で、様々な色の体や翼を持つ個体が10頭ほど放されている。


「はい。このユスティスという種は、コルヌエイコスの中でも小柄な体を活かして小回りのきく俊敏な動きができる事が特徴でございます。性格は、落ち着きがあり思慮深いのが特徴です。ですから、魔獣でありながら、この様に放牧の形を取る事が出来るのです」


 魔獣の性格に合わせて厩舎を整えているのね。

 ポニーみたいで可愛い!


「まあ、そうなのですね。ローズ様の騎獣はどの子ですか?」

「こちらです。さあ、シエル()、王女殿下に紹介するよ。さっきも説明したとおり、王女殿下は騎獣を見に来られたんだ。私の自慢の美しい君の姿を、王女殿下に見せておくれ」


 ローズ様が手招きする方に居たのは、美しい空色の馬体と翼を持ったユスティスだった。青灰色の角と(たてがみ)で、赤味がかった金髪のローズ様と並び立つと、まるでファンタジックな絵画のようだ。


「わぁ、綺麗な空色。シエルちゃん、こんにちは。私はアデルよ。よろしくね」

「王女殿下、シエルは成体の雄です。ちゃん付けはちょっと…」

「まぁ、ごめんなさい。気を悪くしたかしら?」

「いえ、子どもの言う事なので気にしない、と申しております」

 シエルはとても賢そうな瞳で、動かずに私を見ている。

「許してくれるのね。ありがとう存じます」

 私が頭を下げると、シエルは頷くように首を上下に一回振った。

 すると、ローズ様は、シエルの鬣を撫でながら

「ありがとう、シエル。もういいよ。いつもの様に退勤時間までここで待っていておくれ」

と言って、私に向き直った。

「王女殿下、私はこれで勤務に戻らせていただきます」

「はい、お忙しい所お時間を作ってくださってありがとう存じます」

「では、御前失礼いたします。団長、失礼いたします」

「おう、ご苦労だった」


 兄妹なのに随分あっさりしてるなぁ。

 仕事が絡むとこんなもんなのかなぁ?


「姫殿下、次に参りましょう」

「はい、参りましょう」

 私はいそいそとおじ様が誘導する方へ向かう。


「姫殿下、こちらはコルヌエイコスの中型種ヴォラティスの区画でございます」

「あっ、本当だわ。ペルルと同じ種ね」

 ヴォラティスの区画は、ユスティスと同じ様に大きな一つの区画になっていて、10頭くらいが放されていた。

「セブラン、ペルルにご挨拶させてくださいませ」


 何度か見かけたセブランのヴォラティスは、茶色の馬体に銀に近いグレーの鬣と同じ色の翼があったと記憶している。

 セブランが柵に近付くと、ペルルもそれと気付いて前に出て来た。

「ペルル、君も知ってる私の主人を同道したよ」

「ペルル、こんにちは。改めてご挨拶させてくださいませ。私はアデルです。どうぞよろしくね」

 ペルルは、優しい目で私を見るとお辞儀をする様に頭を一振りした。


「セブラン、ペルルは私が撫でても怒らないかしら?」

 セブランがペルルの方を向いて、どうかな? と尋ねると、ペルルは、私の手が届く様に頭を下げてくれた。

「姫殿下、ペルルは首なら撫でても良いと申しております」


 私は嬉しくて、両手を握り込んでゆっくりペルルに近付く。ペルルから見える様に手を伸ばしてそっと首に触れると、温かくて滑らかな手触りがした。

 私は、ペルルをゆっくりと撫でて語りかける。

「ペルル、いつもセブランと一緒に私を守ってくれてありがとう。これからもよろしくね」

 すると、ペルルは気持ち良さそうに目を閉じた。しばらくそのまま撫でていたがペルルが目を開けたので、手を離して一歩下がる。

「ペルル、撫でさせてくれてありがとう。またね」

 騎士団での一コマは、可愛い少女なのに口調は大人というギャップが、騎士達に受けた様です。アデル本人は、幼女モードで話をしたつもりのようですけど…。

騎獣の見学は始まったばかりです。次回は、その続きになります。

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