お父様の騎獣
お爺様からいただいた情報は、アデルにいろんな事を考えさせます。
努力の方向がちょっとズレているような気がしないでもありませんが、
そこはアデルだから仕方ないですね。
誕生日の歴史の授業で、お爺様から情報を貰ってからずっと、自分で自分の身を守るという事はどういう事なのだろう、何を習得すれば良いのだろう、という事を真剣に考えている。
基本的には、転生者だとバレないようにする。その上で、私に出来る事があるのかを考えているのだ。
前世で読んだライトノベルでは、転生者の主人公が、前世の知識で無双したり、チートな魔法で大活躍したりといったお話が沢山あったけど、現実はそんなに甘く無い。
現に今の私は、六つ柱の大神から『前世の知識の過度な流布』を禁じられているから、前世の知識で無双なんてもっての外だし、魔力操作さえ許されていないのだから、チートって何? となってしまう。
今のところ、ノビリタスコラに入学してから魔法の修得に頑張るしかない訳だ。
まぁ、目立たない方が良いからいいんだけどね。
じゃあ、身体を鍛えるとか?
お兄様方は、9歳から剣術と馬術を習い始めた。騎士を目指す子ども達は、洗礼後すぐにお稽古を始めているらしい。
私も来年からお稽古できるのかなぁ。
いやいや、私は騎士になりたい訳じゃないのよ。
争い事は嫌いなの!
基礎体力の話よ。
剣のお稽古で基礎体力アップを狙う、的な?
んでも、なーんか私らしく無いかなぁ。
今のところ身体動かすのってダンスだけだもんね。
普段使わない筋肉使うから、あれはあれでキツイんだけどねぇ。
確か孫子の兵法に『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』という言葉がある。それに習うなら今は、来るかどうか分からない誘拐の魔の手を恐れるよりも、その時に備えて敵と己を知るべきだ。
まずは、敵を知る事からだけど、これはお爺様を頼ろう。理論武装できる位までは、しっかりと学びたい。
それに、騎獣の事も知っておきたい。敵が海を越えて来るのなら、騎獣は欠かせないはずだ。以前、ロベールおじ様から、騎士団で実物を見ながら騎獣の事を教えよう、と言ってもらった事がある。
あれ、実現できないかなぁ。
その週末の休日、私は自室の扉の前で護衛をしているセブランに話しかける。
「セブラン、お仕事中にごめんなさい。今、少しお話しても良いかしら?」
セブランが、私の前に来て膝をつく。
「姫殿下、何事かございましたか?」
「セブラン、以前ロベールおじ様に、騎士団に来れば実物を見ながら騎獣について教えよう、とお誘いいただいたのを覚えている?」
「はい、覚えております。団長からも話がありました。そろそろ動かれますか?」
「騎士団側は、受け入れできるかしら?」
「騎士団は全く問題ありません。むしろ皆、姫殿下に間近でお会いできると楽しみにしております。ただ、私は団長の予定の全てを把握している訳ではございませんので…。確認いたしましょうか?」
「ありがとう。でもそれは、メアリにお願いするから大丈夫よ。それより予備知識として、私の護衛騎士の騎獣の名前くらいは知っておきたいの。セブランの騎獣のこと、聞いても良いかしら?」
「私の騎獣ですか?」
「ええ、何度か見かけてからずっと聞きたかったのだけど、なかなかタイミングが合わなかったの。何という種類なのか、とか、どんな特徴があるのか、とか」
私がワクワクの表情で聞くので、セブランが笑みをこぼしながら教えてくれる。
「私の、と申しますか、我が家の騎獣は、角馬でございます。角がある馬、コルヌエイコスの中型の種類でヴォラティスでございます」
「家ごとに騎獣が決まっているの?」
「いえ、そうではございません。私の家は、代々騎士を輩出しておりましたので、ヴォラティスの繁殖をしております。ヴォラティスという魔獣は、基本的に家族単位で行動します。ですから、群れにも家族単位で所属する習性がございます。現在は、我が家という群れに2家族のヴォラティスを飼育しております」
「飼育や繁殖ができるのね」
「種類にもよりますが、騎士の家系のいくつかは、魔獣の繁殖をしておりますし、それを副業にしている家もあります。ああ、姫殿下の側近候補に加えていただきましたナタリーも、自分のヴォラティスを持っておりますよ」
「え? ナタリーは側仕えで、騎士ではありませんよ?」
「そうなのですが…。ゴホン、魔獣は自分で主人を選んで騎獣となります。力尽くで従わせる場合もありますが、いずれにせよ、一度主人を選ぶと決して裏切る事がありません。そういう習性を持っている事をご理解いただきたいのです。
そして、ナタリーですが、我が家で産まれた一頭が、ナタリーを主人だと定めてしまいまして、その個体はとても臆病な性格で、戦場に出る武人が騎乗するのには向きませんので、ナタリーが主人となる事を許しました」
「まぁ、そうだったのですね。セブランの騎獣も優しい目をしていました。私の事を守る対象だと理解しているように見ていましたよ」
「はい、ヴォラティスは、賢くて優しい気性のコルヌエイコスでございます」
「えと、コルヌエイコス? には大型もいるのかしら?」
「はい、大型がフォルティス、小型をユスティスと申します。それから、翼が無い無翼種もいますが、有翼種に比べて臆病なので、武人の騎獣には向きません」
「でも空は飛べるのよね?」
「はい、主に文官や商人の騎獣に使われます」
「あれっ? では騎獣を得なければ騎士とは言えない、というのは嘘なの?」
「ん?ああ、いえ、姫殿下。誤解があるようです。騎獣を得るとは、魔獣から主人として選ばれて主従関係を結ぶ、という事でございます。単に、言う事を聞かせて騎乗すれば良い、というものではございませんのです」
「なるほどぉ、納得したわ。じゃあ、複数の主従関係を結ぶ事はあるの?」
「さぁ、騎獣は意外とヤキモチを焼いたりしますので、あまり聞いた事はございません」
「ちゃんと感情を持っているという事なのね?」
「左様でございます」
「マティアスとマルクの騎獣はなんと言うの?」
「マティアスの騎獣は、鹿獅子チェルビレオ、マルクの騎獣は、雷犬トニムキニスでございます」
「今、教えてくれたのは種類の名前かしら?」
「左様でございます」
「セブランは、自分の騎獣に名前を付けているの?」
「はい、ペルルと申します」
「まぁ、可愛らしい名前ね。あの子にピッタリだと思うわ。セブランは、名付けが上手なのね」
「恐れ入ります」
「マティアスとマルクも、自分の騎獣に名前を付けているのかしら?」
「左様でございます。名を与えその名を騎獣が受け入れる、それで主従関係が成立いたしますので、名付けは必ず行います」
ん? なんか名を賜るのに似てない?
もしかして…。
「もしかして、主従関係が成立すると騎獣の考えている事が解る様になるとか?」
「左様でございます」
やっぱりぃ。
人間は、産まれた時に親から名を付けてもらうけど普通だよね。
なーんか条件があるんだろうけど、わっかんないなぁ。
「ふむ、そうなのね」
私がちょっと考え込んで真剣にそう言うと、セブランがニコニコ顔になった。
あれ? なんか面白い事、言ったっけ?
まあ、いいや。
「マティアスとマルクにも直接尋ねて、騎獣との出会いなんかも聞きたいわ。二人からもいろんなお話が聞けそうよね。あ、でも、騎士団を訪れるまでの楽しみに、取っておいた方が良いかしら。セブラン、騎士団を訪れた時には、貴方のペルルにご挨拶できるかしら?」
「もちろんですとも、姫殿下」
私がはしゃいでいるので、セブランが笑顔になっている。メアリや他の側仕え達も嬉しそうに微笑んで私を見ている。
「ああ、本当に楽しみだわ。セブラン、お仕事中にありがとう存じました」
「いえ、どういたしまして。では、護衛業務に戻らせていただきます」
セブランが一礼して護衛業務に戻ると、メアリが
「姫様、騎士団と日程調整をして参りましょうか?」
と聞いてくれたので、喜んでおねがいした。
戻ったメアリの報告では、ロベールおじ様はデュポン副団長と相談して、3の月第二週始まりの日を提示したそうだ。ちょうど1ヶ月先になる。
今日の夕食の時に、お父様とお母様に話して了解してもらえたら、話を進める事にしようと思う、とメアリに言ったら、
「それがよろしゅうございます」
と、賛成してもらえたのだった。
最近は、夕食に家族が揃う事が当たり前になっていて、休日の夕食は必ず食後に居間に移動して、家族団欒のひと時を過ごしている。そこで話をしようと思う。
夕食の為に着替えて、食堂に向かう。
なんでだろう?
妙に緊張する。
別に悪い事をする訳でもないのになぁ。
両親も、話せば解ってくれると思っているのになぁ。
何か忘れてる気がしてドキドキする。
夕食が終わって居間に移動すると、食後のお茶が出される。そのタイミングで、私は話を切り出す。
「お父様、お母様。私は、3の月第二週始まりの日に騎士団を訪問したいと思っています」
「ほう、それはどうしてかな?」
「騎獣について知りたいのです。以前、ロベールおじ様に騎獣についてお尋ねした時に、実際に見ながら説明した方が分かり易いから騎士団に見に来られませんか、とお誘いくださったのです。騎士団ならば城の敷地内だから、大袈裟な準備も必要なくてちょうど良いかな、と思ったのです」
お父様は、私の話を聞きながら、どんどん不機嫌になっている。それを見ているお母様は、何故か笑いを堪えている。
「ふむ、なるほど。騎獣を知ってどうするんだ? 騎士にでもなりたいのか?」
お父様は、すごく怖い顔になってしまった。
私は、やっぱりそう来たか、と思いながら、誤解されないように気を付けながら否定した。
「いいえ、お父様。私は騎士になりたいと思った事はありません。私の護衛騎士が騎獣に乗っているのを見て、興味を持ったのです。近くで見てみたいし、触れてもみたい。他にどんな騎獣がいるのか知りたいのです」
そこに、ディー兄様が、私を擁護する意見を言ってくれた。
「父上、よろしいのではありませんか? 私とシルは、剣の稽古で騎士団に出入りしますが、アデルにはその機会がありません。騎獣を知る為だけであれば、騎士団との交流の良い機会になると思います」
「ディーはそう思うか」
「はい、騎士の方々にもアデルの事を知ってもらう良い機会になりますし、王女として城内の事は知っておかなければならないのですから」
「ふむ…。よし、分かった。アデル、騎士団の訪問についてはロベールとよく相談して、業務の妨げにならない様に実施する事。良いかな?」
「はい。ありがとう存じます、お父様」
「アデルは生き物と間近に接するのは初めてでしょう? ロベール兄様の言う事をよく聞いて、注意深く行動するのですよ」
「はい。ありがとう存じます、お母様」
「しかし何だな。どうしてアデルは真っ先に私に聞いてくれないのかな? 王家にだって騎獣はいるぞ。そんなに私は頼りないか?」
しまった!
忘れてた事は、これだったんだ!
あー、どうしよ!
お父様が拗ねてるぅ!
あわわ、お母様、たすけてぇー!
お母様の方をチラリと見ると、顔は下を向いていて、肩が微妙に揺れている。
笑ってるなぁ、これ。
我慢できなかったんだね。
助け舟は期待できないね。
うしっ!
「あ、あの、お父様? 王家にも騎獣がいるのですか?」
「なんだ、アデルは知らなかったのか? もちろん王家も騎獣を所有しているぞ。私の騎獣はフォルティスだ。真っ白な馬体に金の鬣で、それは美しいのだぞ」
お父様が『えっへん』と子どもが言うように胸を張っている。
「えっ! お父様は騎獣を得ているのですか? 見たいです。私は見る事が出来るのですか?」
あまりにも私の食い付きが良かったせいで、急降下していたお父様のご機嫌が、アッという間に直ってしまった。
「アデル、そんなに見たいのなら、明日、お父様と一緒に騎獣を見に行こうか?」
「良いのですか? わぁ、嬉しいです。ありがとう存じます、お父様」
「よしっ! アデルの騎獣デビューは、私がエスコートするっ!」
楽しそうに話をしている私とお父様を、クスクス笑いながら見ていたお母様が、お兄様方に話しかけている。
「ディーもシルも、アデルを独り占めするお父様を、怒らないでちょうだいね」
「母上、放っておきましょう。それにご心配には及びませんよ。私もシルも、妹に嫉妬をするほど子どもでは無いつもりです。それに父上は、私とシルが幼い頃にも同じような事をしていましたからね」
「そうですよ、母上。僕たちでさえあんな感じでしたから、女の子のアデルなら、父上はどんな事でも、どんな相手でも、張り合う気満々だと思いますよ」
「そうでしょうね。まあ、父親と娘が仲良しでいられる期間は、そんなに長く無いでしょうから黙って見守りましょうね」
翌日、厩舎に騎獣を見に出かける私の為に、メアリが用意したのは、シンプルなブラウスとキュロットスカートだった。騎獣に会う時、派手なドレスを着ていて、フリルやレースをむしり取られたご令嬢が、過去に何人もいるのだそうだ。
「陛下の騎獣は白でございますから、姫様が映えるようにピンクでコーディネートいたしました」
メアリが言うとおり、ブラウスは白に近いピンクで、キュロットスカートがブラウスより少し濃い目のピンクである。アクセントにと、ベルトの代わりにウエストには幅広の黄色のリボンを巻き、後ろを蝶結びにしてくれた。
髪は、邪魔にならないように左右に分けて2本の三つ編みにした。仕上げに細い黄色のリボンを結ぶと、立派なおさげ髪の出来上がりだ。アデルになって初めての髪型だけど、アデルの可愛らしさが引き立っている気がする。
私は可愛いと思うんだけど、側仕え達には地味だって不評なんだよね。
支度が終わって自分の部屋で待っていると、お父様が迎えに来てくれた。
「やあ、アデル。迎えに来たよ。支度は出来ているかい?」
「はい、お父様。これでどうでしょうか」
私は両手を広げて、くるりと一回転してみせる。
「うん、いいね。アデルは何を着ても可愛いね。それに、その髪型は初めて見る。清楚な感じで良く似合っているよ」
私の姿を上から下までチェックしていたお父様は、ウンウンと頷きながら率直な感想を言ってくれた。
「さあ、行こう。厩舎までは距離があるから、馬車を用意させた」
そう言いながら私を抱き上げたお父様は、さっさと私の部屋を出て階段を降りて行く。後ろから私の側近と近衛騎士が付いて来るが、お父様はお構いなしに玄関を出て、用意されていた馬車に乗り込んだ。
しばらく側近達の準備が整うのを待ってから、馬車が走り出した。そういえば、お父様と二人で馬車に乗るのは初めての気がする。
「お父様と二人だけで馬車に乗るのは、初めてですね」
「ん? そう言えばそうだな。たまにはこういうのも良いだろう」
「うふふっ、そうですね。騎獣を見せてくれとおねだりして良かったです」
厩舎に馬車が着くと、近衛騎士が体勢を整えるのを待って、馬車から降りる。
訂正、お父様に馬車から降ろしてもらった。厩舎にいる騎獣のうち2頭は主人持ちではない、とお父様が言うので、お父様と手を繋いで歩く。
厩舎の中は、外気より暖かくて干し草の匂いがした。
「アデル、ここには王家の騎獣が5頭いる。全てフォルティスだ。まず、この水色のフォルティスは、君の亡きお祖父様、私の父の騎獣だ。正確な年齢は不明だが、もう結構なお爺ちゃんだ。やぁ、ウーツ。しばらく会わなかったけど元気にしてたかい?」
お父様はそう言うと、私の手を離して馬房に近付き、頭を下げたウーツの耳元を掻いてやる。ウーツは、心なしか嬉しそうに、でも淋しそうに見える。
ふと、私の方を見たウーツは、そのまま私をジッと見つめてゆっくり動くと、首を伸ばして鼻面で私のおでこをツンと突いた。
「ウーツは判るんだね。そうだよ。この子は僕の娘だ。君の主人の孫娘だよ」
ウーツは、サラブレッドのような馬体をしていて翼が無かった。額の中央に人参のような角が一本あって、水色の鬣はやや長い。
ウーツは、人間の言葉を完全に理解しているように見えた。
「ウーツ、またね」
私はウーツにバイバイと手を振ると、お父様に手を引かれて次の馬房に向かう。馬房はゆったりとしていて、10畳くらいの広さがあった。
「この薄茶のフォルティスはグラーチェの騎獣だ。名はヴァン。グラーチェが出仕する時に乗って来るんだが、ヴァンの為に慣れた昔の馬房をそのまま使っている。ヴァン、この子は僕の娘だよ。よろしくね」
ヴァンは、耳をピコピコさせながらお父様の言葉を聞いていたが、近くに寄って来る事は無かった。
「アデル、次の馬房にはアデリーヌの騎獣がいる。きちんと挨拶するんだよ」
そう言って手を引いたお父様と一緒に行った馬房に居たのは、薄いピンクの馬体が美しいフォルティスだった。角までピンクだが、翼は無かった。
「こんにちは、フルール嬢。ご機嫌はいかがかな?」
「何て可愛らしいフォルティスなんでしょう。あ、こんにちは、初めまして。騎獣の貴女に可愛いなんて言ったら失礼だったかしら。私はアデリエル。アデリーヌの娘よ。よろしくね」
フルールは、お父様にフンと鼻息を浴びせた後、ゆっくりと私に近付いて来て、フンフンと匂いを嗅ぎ出した。私がフルールに一歩近付いてジッと立っていると、満足したらしいフルールは、私の腕をハムッと甘噛みした後、甘噛みした私の腕に頬をスリスリと擦り付けた。
「大丈夫だよ。アデルの腕はもう治ったから」
えっ! 判るの?
不思議ねぇ。
ますます神秘的だわ。
お父様の言葉に、ちゃんと聞こえてますよ、と言うように片耳をピクッとさせたフルールは、顔を上げて鼻面で私の胸をツンと押した後、馬房の奥に引っ込んだ。
「良かった。フルールはアデルを気に入ってくれたようだね。さあ、次は私の騎獣を紹介しよう。アデル、おいで」
次に向かった馬房に居たフォルティスは、真っ白な馬体に真っ白な翼があって、額の角はクリーム色をしている。そして、輝く金の鬣に金色の瞳を持っている。
すげー、ペガサスのイメージそのままだよ。
やっぱ、この世界、ファンタジーだわ。
「メテオ、おいで」
お父様の優しい呼びかけに、ペガサスのような騎獣は嬉しそうに、スキップするように近付いて来る。
「メテオ、紹介するよ。私の娘のアデリエルだ。アデル、私の騎獣のメテオだ。
仲良くしてくれると嬉しいな」
「メテオ、初めまして。ルーチェステラの娘のアデリエルです。家族からはアデルと呼ばれているわ。よろしくね」
私が一歩前に出て挨拶すると、メテオは私が前に出た分、後ろに下がって値踏みするように観察していたが、お父様の方をチラッと見て諦めたように私に近寄り、私のおでこに鼻面でツンとしてくれた。
その後、メテオは期待を込めた目で鞍とお父様を交互に見ていた。
「メテオ、今日はアデルと一緒だから君と一緒に飛べないんだよ。それともアデルも一緒に乗せてくれるのかい?」
お父様がそう言うと、メテオはブルルと鼻を鳴らして足踏みした。
やだ、メテオったら、
何言ってんの? 冗談でしょ!
って言ってるみたい。
神秘的なイメージ、ぶち壊しだわ。
「ははは、大丈夫。君が嫌がる事はしないよ。さ、私に君を撫でさせて」
メテオはお父様の首に自分の首を擦り付けて甘え始めた。お父様は優しくメテオの身体を撫でている。
「これで私の家族は全て君に紹介した。メテオ、君が家族を持った時は、ちゃんと私に紹介してくれよ」
まるで友達に語りかけるように話すお父様は、いつもよりもずっと若く見えた。
アデルは、お父様がメテオと接している所を見て、騎獣とは何なのか、
少しだけ分かった気がしています。
次回は、また神殿に行きます。




