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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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8歳の誕生日

アデルの満7歳の誕生日の一日を追ってみました。

アデルは、誕生日だというだけで楽しい気持ちになれる喜びを噛み締めています。

 本日は、2の月第一週水の日、私の誕生日である。

 今日で満7歳、数えで8歳になった。公的には『建国の日』から8歳なのだが、前世の知識のせいで自分の歳を数えるのがややこしい。いつかは、この世界の常識ですんなり数えられるようになるだろう。


 この国では、誕生日は両親に感謝する日。特にイベントがある訳ではないけど、朝から気持ちがウキウキしている。こんな気持ちになれるという事に改めて幸せを感じる。



 今日の午前の授業は、刺繍だ。お父様の誕生日まで約1ヶ月になった。そろそろ誕プレ用の刺繍に取り掛からねばならない。


 お母様とお揃いが良いかなぁ。

 うふふん、先生のイヴォンヌおば様に相談しよーっと。



 午後の歴史の授業で、早めの時間に今日の授業の終わりを告げたお爺様が、それは楽しそうに今後について語り出した。

「さて、これでアデル姫は、我が国の歴史については一通り勉強を終えられた、という事になりますな。次は、各領地の歴史、続いて他国の歴史という事になりますが、その前に」

 話を途中で止めたお爺様が、ニッコリ笑う。私は、瞬きを繰り返しながらオウム返しに尋ねる。

「その前に?」

「最初の授業の日に、この世界には三つの大陸がある、とお話しさせていただきましたが、覚えておられますかな?」

「はい。確か、この世界には三つの大陸があるけれど、魔物が跋扈して国を形作る事が出来なかった、とお話しくださったと存じます」

「左様。それなのに、他国があり、歴史がある、というのは不思議な事でございましょう?」

「あっ、本当ですね。お爺様がそう仰るまで、気が付きませんでした」

 私が目を丸くして驚く様が面白かったのか、珍しくお爺様が声を立てて笑う。

「ははは、アデル姫は本当に素直でいらっしゃる。そこでじゃ、他国の話をする前に、地理の勉強をなさった方がより理解しやすくなると思うのじゃが、アデル姫はどう思われますかな?」


 あ! それはそうかも!


 私は、王都から出た事がない。国内の領地についても知りたいと思っていたし、この世界の事をもっと知りたい。


「お爺様が仰るとおり、地理の勉強もしたいと思っておりました」

「ではこの爺が、このままアデル姫の地理の学びのお供をいたしましょうかな」

「え? お爺様が、地理も教えてくださるのですか? うわぁ、嬉しいです!」

「ほう、アデル姫にそのように喜んでいただけますと、この爺も嬉しくなります。では、次回からは我が国の領地について、地理と歴史をセットにして、学んで参りましょうかな。その次に、この世界全体に範囲を広げましょう。学ぶ順序はそれでよろしいですかな?」

「はい、お爺様。よろしくお願い申します」

 私が丁寧な仕草でお願いをすると、お爺様はウンウンと楽しげに頷いてくれた。

「では、本日の残りの時間は、三つの大陸の大まかな特色について語りましょう。参りますぞ」


 私は、居住まいを正して、話を聞く体制になる。お爺様のお話は、ちっとも退屈しないから大好きなのだ。


「まず、この世界に三つある大陸のうち、一番広いのがプリミスティマグムテラと呼ばれる大陸で、昔の言葉で『最初の大陸』という意味を持っております。我が国は、このプリミスティマグムテラにございます。プリミスティマグムテラの北部は大森林になっておりまして、大陸の4分の1を占めると言われております」

「お爺様、我が国の北側は、その大森林に接しているのですよね?」

「左様。よく覚えておられましたな。では、西側には何がございましたかな?」

「ええと、サバンナです」

「左様。そのサバンナを挟んで、更に西側には、大森林に接して大砂漠が広がっております。この大砂漠も、大陸の4分の1の広さだと言われております。つまり、人間が暮らせる土地は、この大陸の南半分という事になっておりますな」

「なっている? 誰も確かめていないという事ですか?」

「左様。我らの手元には、初代王が作成したと伝わる古地図しかございません。

結界の外の世界は、常に魔物の脅威に晒されております。世界を知る旅に出た者もおりますが、その者は地図を作るために旅に出た訳ではござりません。故に、人伝てに話を聞いて、古地図を書き改める事しか出来ておりませんのじゃ」

「そうなのですね」


 初代王が作成した古地図って、神様から貰った物なんじゃないかな?

 だって、魔法はあるけど科学の概念がない。

 しかも、結界の外は魔物がうじゃうじゃいて、危険な訳でしょう?

 そんな世界じゃ実測だって出来ないだろうしねぇ。

 騎獣で空からっていっても、空飛ぶ魔物もいるみたいだし。

 いや、初代王が転生者ならワンチャンあるかなぁ。


「さて、プリミスティマグムテラには『へそ』と呼ばれる場所がございましてな。ペンタリプスムと名付けられたその場所を、この世界の中心と見なしております。故に、この世界の地理については、ペンタリプスムを基点として考える事となされております」


 へそ?

 世界の中心が点?

 ああ、地図上の二次元的な中心か。

 それ、国内にあるのかしらん?


「ペンタリプスムの東北の方向、海の向こうにございますのが、一番狭い大陸であるニゲレオスマグムテラという大陸でございます。これは昔の言葉で『黒い大陸』という意味でございます。しかし、我が国では正式名称で呼ばず『黒い森』と呼ぶ事が普通になっておりますな」

「黒い森…、森が濃いのかしら?」

「いやいや、そうではござりません。この大陸では、とうの昔に人間が魔物に駆逐されてしまった、と伝えられております。大陸そのものが魔物の巣窟になっているのですな」

「魔物しかいない大陸があるのですか?」

「左様。我が国では、東の海から竜種の魔物が飛来すると、黒い森から飛来した、と考えるのが常識となっておりますな」

「そうなのですね」


 魔物が人間を駆逐ってスゲーな!

 だから、六つ柱の大神が結界を与えた、とか?


「さて、三つ目の大陸はペンタリプスムの東南の方向の海の向こうにございましてミラビリスマグムテラという名でございます。昔の言葉で『不思議な大陸』という意味でございます。昔の人間が何を考えてこのような名を付けたのか、これこそが不思議でございますな。

 この大陸には、西側に三つの国があると確認されておりますが、大陸の東側の事はよく判っておりません。この三つの国にも結界があり、どうやらそれらの結界は六つ柱の大神に賜った物では無いのでござります」


「神力の結界ではなくて、魔力の結界という事ですか?」

「おっと、これは失言。アデル姫、訂正いたしますぞ。我が国の結界は、六つ柱の大神から賜った魔力と魔法で、初代王がお造りになった物でございます。言葉が足りず申し訳ござりませなんだ」

「あっ、ごめんなさい。私も失言です。お爺様がお相手だと、安心して気を抜いてしまうみたいです。以後、気を付けますね」

「ほほっ、嬉しい事をするりと仰せになる。さて、これから申し上げる事は、ほんの老婆心でござりますが、決してお聞き流しにはなさりませぬよう、国王陛下から正式にお話があるまで、知識として心の片隅に留め置いてくださりませ。よろしいですな?」

「はい、分かりました」


 一体、何の話だろ?

 地理の話では無いの?


「話を戻しまして、ミラビリスマグムテラの三つの国ですが、北からガイスト聖国

セブスト神国、ヴェーツ王国と名乗っておりまして、それぞれの特徴を一言で言うなら、ガイスト聖国は聖女信仰の国、セブスト神国は六つ柱の大神ではない神を信仰する国、ヴェーツ王国は大魔法使いの国でございます。いずれも『落とし子』の所有権を主張しております」

「落とし子? 愛し子ではなくて?」

「確かに、似た言葉でござりますね。『落とし子』とは、異世界から落ちて来た者の事を指します。総じて魔力量が多く、魔法に秀でていると言われておりますな。『落とし子』には、異世界から身体ごと落ちて来た者もいれば、転生者と呼ばれる魂のみ落ちて来て生まれ変わった者もおります。()の国々は、そういった者の噂を聞きつけては、その者の意思など構わずに連れ去ってしまう。そして、結界の維持の為に、その者の魔力を搾り取る。そういう悪い噂の絶えない国々でございます」


 私もその落とし子に該当するねぇ。

 だから、お爺様が情報をくれる訳ね。うん。

 私が転生者だとバレたらマズい理由は、きっとこれだ。

 バレたら誘拐される危険があるんだ!


 私が考え込んでいると、8刻(午後4時)の鐘が鳴った。

 考え込んでいた私を見守っていたお爺様が、にこりと笑って私に呼び掛ける。

「アデル姫、御身の大切さをご理解いただきたく、先程のお話をさせていただきました。我々、コントラビデウスの一族にとって、貴女様は無くてはならぬ御方。

それは六つ柱の大神に於かれましても、同じ事と存ずる」

 お爺様の慈愛に満ちた言葉に、素直に頷く。

「お爺様。私の居場所は此処です。先程のお話を聞いて、また一つ、勉強の目的が増えました。ありがとう存じます」

「ほほっ、ご理解いただけまして何よりでございます。では、本日はこれで、御前失礼いたします」


 午後の授業を終えた私は、復習のために学んだ事を整理して一休みする。お爺様から重要な情報を得て、自分で自分を守れるようになる為に、様々な勉強の必要性を痛感したところだ。

 とは言え、いつもの様に夕食のために着替えて食堂に向かう頃には、朝からのウキウキ気分が復活してきて、油断するとスキップしてしまいそうになる。


 今日の夕食は何かなぁ?

 デザートはもうお願いしてるから、これも楽しみなのよね。

 うふふん、ふんふん。


 誕生日だからといって、夕食のメニューが豪華になる訳ではもちろん無い。無いが、しかし、食材が普通でも、シェフの腕にかかれば豪華ディナーになってしまうから嬉しい。満足度もお高めの星3つである。


 ああ、これ、前世のTV番組でも古い方だから分からないかもなぁ。

 いや、六つ柱の大神に言い訳してどうする!


 闇の神ティーネブラスと話して以来、私の心の声は常に、六つ柱の大神にモニタリングされていると思っている。違うかもしれないけれど、自惚れかもしれないけれど、そう思っていた方が良い気がするのだ。


 夕食の締めでは、リクエストしていたデザートのギャトゥ・フェーズを美味しくいただいて、お母様と手を繋いで居間に移る。

 普段は、お父様とお母様が二人掛けのソファーに座り、子ども3人は一人掛けのソファーに座るのだけど、今日は、お父様とお母様に挟まれて一緒に座った。


 誕生日の今日は、特別扱いなのかな?


「今日でアデルが生まれてから丸7年経つな。8歳の誕生日だ。君が生まれた日のことは、昨日の事のように思い出す事ができる」

「そうですわね。あの日は本当に驚きましたもの」

「私が生まれた事に驚いたのですか?」

「そうではなくて、貴女が生まれた途端に雷が落ちたのよ」

「落雷ですか? 城に?」

「城の森にある一番高い木に落ちたのだけど、その日はお天気が良かったのよ。

それなのに、いきなり落雷があって本当に驚いたわ」


 文字どおり、晴天の霹靂、ですか。

 何か意味があるのかなぁ?


「ああ、そうだったね。火災を危惧してすぐに騎士達を向かわせたのだが、落雷にあった木は無傷だったそうだよ。ただ、雷が地面を這った跡が残っていて、雷は小川に流れたらしい。川には大量の魚が浮いていたそうだよ」

「そんな事があったのですか。それで、そのお魚さん達はどうなったのですか?」

「現地を確認した騎士の話では、騎士が大きな魚を5匹ほど拾ったところで、魚達が息を吹き返して元気に泳ぎ出した、という事だった。証拠として提出された魚は私達が夕食で美味しく頂いたよ。まるで、神様からの贈り物のようだ、と二人で話をしたんだったね」

「ええ、そうだったわね。王家に姫をもたらした私へのご褒美かしらと思ったわ」

 お母様はお父様を見つめて感慨深げに話している。

「女の子が生まれたと知った時、ルーチェがあんなに喜んでくれるなんて、自分の事が誇らしくなったわ。今のアデルが見たら、きっと驚くわよ」

「あの時は、本当に嬉しかったからね。既に、跡取りとなる男の子を2人も産んでくれていたし、3人目は女の子が良いなと密かに願っていたんだよ。そうなれば、私の人生はもっと素晴らしくなるという確信があったからね。アデリーヌ、私の子を3人も産んでくれて本当にありがとう」

「どういたしまして、ルーチェ」


 うーん、相変わらず両親がラブラブだよ。

 私の頭上でイチャラブされると、身の置き所に困る。

 そうだ!

 二人の馴れ初めを聞いてみたいなぁ…。うしっ!


「お父様、お母様、お二人の馴れ初めを聞いても良いですか?」

 私の一言にお兄様方が食い付いた。

「それは、私達も聞いた事が無いよな?」

「はい、兄上。是非ともお聞きしたいです」


 三人の我が子から、期待に満ちた目で見つめられたお父様は、了解を得るようにお母様を見て、苦笑と共に話し出した。

「私がアデリーヌと初めて会ったのは、私が主催するようになって2年目の『建国の日』の晩餐会だったな。私が8歳、アデリーヌが7歳の時だ」

「お父様とお母様は、すぐに仲良くなったのですか?」

 私が身を乗り出し、ワクワクしている様子を全面に出して聞くと、お父様とお母様は、顔を見合わせて笑い出してしまった。

「その時は、初めて晩餐会に参加する私に、アリエル様とシルヴィー様が、面倒を見てくださる形で優しく接していただいて、それ以来、お二人は私と仲良くしてくださったわ。残念ながら、お父様は男の子と仲良くしていたわね」

「その年の晩餐会の参加者は、王家はアリエル姉上、私、グラーチェの3人、ランベール公爵家がシルヴィー様とイザーク、ルグラン公爵家がロベールとアデリーヌだったな」


 シルヴィー様はイザークおじ様の実姉で、今は結婚してセプタントナーリス侯爵夫人になっておられる。私は挨拶程度しか話した事が無いけれど、イザークおじ様によく似ている印象がある。

 セプタントナーリス領は、王都の真北にあって、大森林に接している辺境領だ。

その領地の4分の1が結界の外にある。


「では、いつから仲良くなったのですか?」


「私がアデリーヌを女性として意識するようになったのは、ノビリタスコラの三年生の時だったかな。だからと言って、王太子の立場では迂闊な言動は出来なかったからね。一生を共にし、王家の秘密を一緒に背負ってくれるかどうか、慎重に見極めなければならなかった。有り難い事にアデリーヌは、ルグラン公爵家の一員として王家と接する中で、王家の秘密に気が付いた事もあった様だ。間に入ってくれたロベールを通じて確認してもらって、この人ならば、と心を決めたのは5年生の時だった。それからアプローチしまくって、プロポーズしたのは5年生を終えた後の社交期間だ」


「お父様は何と言ってプロポーズしたのですか?」

「アデル、それは娘の君であっても秘密だよ。二人の大切な思い出だからね」


「じゃあ、お母様はいつ頃お父様を好きになったのですか?」


「私は、初めて会った時からルーチェに憧れていたわ。何と言っても、完全無欠の王太子殿下でしたから、憧れているご令嬢は沢山いらっしゃって…。私はその中の一人に過ぎないと思っていたの。それが恋に変わっていったのは、ロベール兄様に王家に関する質問をされる様になってからかしら。まず憧れから尊敬に変わって、気が付いたら好きになっていたの。だから、初めてルーチェから告白された時は、舞い上がってしまって…。すごく嬉しかったわ」


 お母様がほんのりと頬を染めて、その時の思い出を語ってくれる。そのお母様の様子を見ただけで、最高に素敵な経験だったのだと想像できる。


「うわぁ、ステキ! 私もそんな風に想える相手と出会えると良いなぁ」

「まぁ、アデル。憧れてくれるのは嬉しいけれど、その為にはまず自分を磨く事からですよ。そうでなければ、お父様のような素敵な男性は振り向いてくれません」

「はぁい、頑張ります。…あれっ? ディー兄様は3年生ですよね?」


 お母様に右手を上げて返事をした後、ふと気付いて右手を上げたままディー兄様の方に首を傾げて聞いてみた。


「ふっ、ははは、アデルったら、何て可愛い格好をするんだい。何が聞きたいのかは分かっているけど、ご期待に沿える返事はまだ出来ないよ」

「ディー兄様の周りには、ステキな女性がいないという事でしょうか?」

「ははは、アデル。私は当時のお父様と同じ、王太子だよ。お母様のように国母に相応しい女性は、そんなに簡単には見つからないよ。じっくり見極めようと考えているから、静かに見守ってくれよ」


 おおお、ディー兄様が不可侵の圧をかけてきている。

 触らぬ神に祟りなし!

 こちらからこの話題には触れないでおこう!


 ディー兄様の黒い笑みに、私は黙ってコクコクと頷いた後、(おもむろ)にお母様に抱き付いて感謝の気持ちを伝える。


「お母様、私を産んでくださってありがとう存じます」

 お母様は、私をギュッと抱き締めてくれる。

「アデル、私の可愛い宝物。生まれて来てくれてありがとう」

 お母様と顔を見合わせて、ふふふと笑い合うと、今度はお父様に抱き付いて感謝の気持ちを伝える。

「お父様もありがとう存じます。私、お父様とお母様の娘に生まれる事ができて、本当に良かったです」

 お父様は、私を膝の上に抱き上げて、おでこをコツンと合わせる。

「アデル、私の愛娘。私達の元に生まれて来てくれてありがとう。これからも我が家の太陽でいてくれよ」

 お父様とも顔を見合わせて、ふふふと笑い合う。


 こうして、誕生日の夜は更けていった。

楽しい誕生日になりましたね。

ただ一つ、懸念事項があるとすれば、お爺様からの情報です。

さて、どう対処するのでしょうか。

次回は、騎獣について学びます。

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