ノビリタスコラ
新年の最初のイベント「建国の日」の祝祭が終わると、一気に平常に戻りました。
お兄様方から聞いていたノビリタスコラに、初めて足を踏み入れます。
アデルもすごく楽しみにしていました。
「建国の日」の翌日、前日の忙しさが嘘のようにまったりとした朝を迎えた。
いつもなら側仕えが寝室に入って来る気配や、天蓋を開けながらかけてくれる声で目を覚ますのだが、今日に限って、側仕えが来る前に目が覚めてしまった。
朝当番の側仕えが声をかけてくれるまでは、ベッドの中で待つしか無い。勝手に起きると、それが側仕えの失態になってしまうからだ。
私は、暖かいベッドの中でじっくりと今までの事を思い返している。
早いもので、前世の記憶を取り戻してから4ヶ月半が過ぎてしまった。
まだ4ヶ月半と言うべきなのか、
もう4ヶ月半と言うべきなのか、
それすら分からないくらい今の暮らしに馴染んでいる。
冷静になって振り返るとこの4ヶ月半の出来事は、状況に振り回されないように臨機応変に対応するだけで精一杯だったと言える。自分ではブレていないつもりだけれど、そう思い込んでいるだけかもしれない。この機にちゃんと考えて整理しておこう。
まず転生した事に関してかな。
今はもう、完全に受け入れる事ができている。
その上で、新しい人生を楽しもうと思っている。
よし! この件はもうクリアだ。
次! 新しい家族に関してだな!
前世の記憶ごと受け入れてもらえたと確信できたよね。
愛されている実感もある!
今では、本当に大切な存在になっているよね。
よし! この件ももうクリアだね。
次! 私の背景に関してだな!
前世では、想像もしなかった事だよね。
まさか身分制度がある世界の王女様に生まれるなんてさ。
これに関しては、王女という職業に就いたと考える事で消化できたよね。
いいぞ! この件もクリアでいいね。
次! ファンタジー案件だ!
この世界では、神様が実在する!
神様と王家が契約していて、直接会話できる!
しかも、私が神の愛し子である!
ウーム、何と言って良いものか…。
感情的に慣れようが無いとでも申しましょうか…。
特に愛し子ってヤツ!
愛されキャラになったって事だよね?
前世と真逆なんだけどぉー!
ここで、疑問点を羅列してみよう!
私は、生まれた時から愛し子だったのだろうか?
私が転生者だから、愛し子になったのだろうか?
前世の記憶を取り戻したから、愛し子になったのだろうか?
前世の記憶を取り戻さなければ、愛し子だと知る事は無かったのではないのか?
あ、いや、名を賜ると分かっちゃうか!
初めてのVIP待遇に不慣れ感が満載で、気になる事だらけだなぁ。
気になると言えば、
愛し子だったと伝わる初代王も、転生者だったのではないのか?
そして、その事は一族に語り継がれている。
だから、一族の皆様が、私が転生者だ、と聞いた時あっさり受け入れた。
それなら、すごく納得できる。
と言うか、自分が納得したいだけなんだけどね。
この件に関しては、お父様と話さないと本当の事は判らない。
それまで待つしかないのかなぁ。
そういえば、一昨日、神殿に行った時、光の女神ルーチェンナは、
私の愛し子としての役目は、多くの人に愛されて天寿を全うする事だと言った。
それに、私が人生を楽しむ事が、六つ柱の大神を喜ばせるとも言ってたなぁ。
それらの事を思い出して、考え込んだ私の頭の中には、お爺様の声で
「神の愛に驕ってはならない」
と言うセリフがリフレインされていた。
扉をノックする音がして、誰かが寝室に入って来た。今日の朝当番は、オデットのようだ。今月いっぱいで結婚退職するので、心残りが無いようにと前にも増して一生懸命に仕えてくれる。
前世で見てきた寿退職前のお嬢さん達は、浮かれ切っていて仕事が全く手につかない、といった風情の人ばかりだったように思う。
けれどオデットは違う。全くそんな事はない。
王族に仕えるという事は、貴族として最高の名誉であるらしい。最後まで、己の誇りにかけて手を抜くような事は決してしない、という気概がある。
本当に有難い事だよね。
オデットとイザベルには、私が疑問に思ったり、知りたいと思った事をテーマにして、よくお喋りをしてもらっている。情報の伝達という名のお喋りだ。
この前は、仕事に関する愚痴についてお喋りしてもらった。
二人は子爵令嬢なので、友人には同じ子爵令嬢や男爵令嬢が多いと言っていた。その中には高位貴族に仕えている令嬢もいて、休日が合えばお茶会などで情報交換をしているのだそうだ。
そんな時、仕える主人が私で良かったと思う事が多々あるのだと言う。それは、私が王族だからという意味ではなく、私が仕え易い主人だからなのだそうだ。
私のような幼い主人に仕えている友人は、主人の我儘や側仕えに対する尊大な態度など、主人の性格に起因する苦労の愚痴を話す事が多いのだそうだ。
うん、うん、ありがちだよねぇ。
子ども相手だもん、大変に決まってる。
私は、理由のない我儘は言わないし、むしろ思いやりがあって尊大な態度を取る事が無いらしい。
お世辞でも嬉しいよね。にひっ。
まぁ、王族の情報は、迂闊に漏らすと犯罪に繋がるからね。
滅多な事は言えないだろうとお察ししますよ。
今朝は、朝の支度をしながら、建国の日の過ごし方を聞いてみた。
まず、建国の日は家族全員が揃って新年を祝う、という基本の考え方があって、貴族は王家の夜会に出たり、平民は城で王族のお手振りを見たり、祝祭のバザールを楽しんだりするのだそうだ。
そして翌日、つまり今日は、一族の長の家に集まって新年を祝うのが決まり事になっているという事だ。
建国の日の祝祭は今日までで、明日からは平常に戻る。
王家の場合は、一般参賀、一族との昼餐、貴族を招待して夜会、と当日は非常に忙しい。しかし、翌日は家族でゆっくり過ごす。そうする事で、できるだけ多くの使用人に休みを与えて、一族の集まりに顔出しできるようにしているのだ。
今年は、お父様の治政10周年記念式典があったので、特別に忙しかったらしい。私以外の家族は皆、昨夜遅くまで夜更かしをしているはずなので、今朝はゆっくりになるだろうと思う。
昼食までの時間を、私が寝た後の昨夜の夜会の様子を聞いたりして、側仕え達とゆったりと過ごした。
昼食は、久しぶりに家族全員が食堂に集まった。お父様もお母様もお兄様方も、たった今起きたばかりです、と言わんばかりの疲れた顔をしている。食事を済ませて、食堂の隣の居間に落ち着いて、食後のお茶を飲む頃になってやっと、皆の顔に生気が戻った。
「私とアデリーヌが夜会から戻った時には、アデルは休んでいたようだね」
「はい、お父様。お腹がいっぱいになったら眠くなってしまって、起きていられなかったから自室に戻りました」
「ふふっ、アデルは自分で歩いて戻る事ができない位に眠そうで、マルクに抱っこされて戻ったのですよ。すごく可愛い寝顔だったなぁ」
ディー兄様が私を揶揄うように言うのを、わざと気付かないふりでスルーして、逆に質問をする。
「ディー兄様は、お父様とお母様が帰って来た時、まだ起きていたのですか?」
「毎年、アンドレとルネの三人で、おじ上やおば上が夜会を終えて迎えに来るのを待っているんだよ」
「夜会って何刻に終わるのですか?」
「大体、11刻(午後10時)頃かな」
「11刻? わー、無理! 今の私には起きているのが難しい時刻です」
「ほほほ、アデルったら。今は無理でも成長すれば起きていられるようになるわ」
「でも、お母様。夜更かしはお肌の大敵なんですよ?」
「あら、そうなの?」
「はい、睡眠不足は肌荒れの原因になるんです」
「まぁ、大変! 気を付けないといけないわね。女性には大きな問題ですものね」
お母様が良い事を聞いたという風にニコニコしながら言うと、それを聞いていたお父様が感心している。
「たとえ幼くてもアデルも女性という事か。もう肌荒れを気にするとはね」
「笑い事では無いのですよ。睡眠不足って、様々な病気の原因になるのです…。
お父様は今まで随分と忙しかったでしょう? お仕事柄、仕方ないのかもしれないけど、お願いですから体調だけは気を付けてくださいね」
「そうか。うむ、良いものだな。新年の初めに娘に体調を気遣ってもらう。うむ、これこそが幸せだな」
「ええ、本当にそうね、ルーチェ。家族揃って笑顔で、新年を迎える事ができた。こんな幸せな事はありませんね」
「そうだな。昨年は家族について考えさせられる一年だったからね」
お父様とお母様が、とても柔らかな笑顔でお互いの顔を見つめている。
確かに、昨年の後半はいろんな事があった。そう思うと、このゆったりとした時間がとても貴重なものに感じられる。
「父上、今年のノビリタスコラの入学式は、1の月第二週始まりの日に行われる様です。父上と母上は、入学式にご出席くださるのでしょうか?」
「ああ、もちろん出席するよ。シルの入学式だからね。シルにとって一生に一度の事だから、見逃すつもりは無いよ」
お父様の言葉を聞いたシル兄様が、破顔一笑する。
「お二人とも入学式にお出ましくださるのですね。嬉しいです!」
「シル、楽しみですね」
「はい、母上」
「父上、私の入学式の時はシルを連れて来てくださいましたが、シルの入学式にはアデルをお連れになるのでしょうか?」
「ああ、そうだ。シルの入学式にはアデルを伴って、君達と同じ様に、事前に見る機会を与えようと思っている」
うふふん、実はそうなのよ。
シル兄様のノビリタスコラ入学式に、兄妹枠で参加できるのだよん。
私が入学するまであと丸2年。
雰囲気だけでも事前に知っておきたいって思ってたのよねぇ。
だって貴族の学校なんて、想像できないじゃない?
ありがたいわぁ!
少しだけワクワクするわぁ!
…少しだけよ!
ノビリタスコラは、毎年1の月第一週金の日が始業集会(前世の始業式)の日になっていて、1の月第二週始まりの日に入学式を行っている。
授業は、前期と後期に分かれ、前期は6の月第一週金の日まで。14日間の休暇を挟んで、6の月第三週闇の日から後期が始まる。
一年の終業は、9の月第二週金の日。社交期間でもある冬の間、10の月から13の月は、ノビリタスコラを休業する。先生の殆どが貴族だからという理由らしい。それだけ社交期間が重要視されているという事だ。学校が4ヶ月も休みだなんて、おおらかというか呑気というか…。けれど、これがこの世界の当たり前なのだ。
しかし、おおらかだからと言って甘い訳では決して無い。
ノビリタスコラは、貴族であれば誰でも入学できる。また、平民であっても入学前に試験を受けて基準をクリアすれば入学できる。
ノビリタスコラは国立なので、授業料は無料だ。ノビリタスコラの設立目的は、国の運営を担う優秀な人材育成、である。だから、その分とてもシビアなのだ。
ノビリタスコラに入学すれば、必ず留年なしで卒業できる。
そう聞くと、バカでも卒業できる、と勘違いする者がいるらしいが、実態は実にシビアだ。いや、訂正しよう。バカでも卒業はできる。ただし、お前はバカだという認定書付きの卒業になるのだ。世間体が命の貴族には致命傷になる。
卒業時は、卒業証書の授与ではなく、成績証明書が交付される。その成績証明書には、総合的に5段階に評価された成績が記載される。プルミエ(最優秀)、エクセロ(優秀)、スタンダ(標準)、ポッシ(可)、アンフェ(不可)の5段階だ。
ノビリタスコラでは、必要に応じて、科目ごとに詳細が記載された成績証明書の交付も行なっている。
この証明書が、就職、結婚、爵位の継承などのいろんな場面で物を言う。となれば、貴族に生まれた以上、皆、スタンダ以上を目指して頑張ることになるのだ。
素晴らしい事に、ノビリタスコラをアンフェの成績で卒業した人は、過去一人もいないのだそうだ。もちろんこれには裏話があって、アンフェになりそうな人は、全員、最終学年(6年生)になるのを待たずに、プレープスコラ(平民の学校)に転校するらしい。
各領地にあるプレープスコラは、領または領主が経営する学校だ。格安の授業料で、平民向けの授業内容になっている。
王都にあるプレープスコラは、王家が経営している。各領地のプレープスコラと同じく、格安の授業料で平民向けの授業内容になっている。ただ、マジークスコラと呼ばれる学校だけは、身分を問わず、魔力が高い人を優先的に受け入れていて、魔法師の養成に力を入れている学校だ。大学の医学部だと思えば分かり易いかな。そのため、魔法師を目指す貴族が少なからず通っている。
これ以上の事は、言わずもがなである。
そして、たとえ転校の為であってもノビリタスコラを退学すれば、高額の授業料を全額支払わなくてはならない。
これもまたシビアなのだ。
更に、ノビリタスコラ卒業後、国または領地に所属して最低3年間、働く事が義務付けられる。職種については、希望を出すこともできるが、成績優秀者には国の各部局から勧誘が来る。
それが目的の学校ですからね。当然と言えば当然の事ですね。
よくある物語のヒロインの様に、
「卒業したらステキな婚約者の彼とすぐ結婚するの。だから私、働かないわ」
などと寝言を言う令嬢もごく少数いるらしいが、その人は、授業料を全額支払う事ができるお金持ちという事になる。就職を拒否しても、高額の授業料を全額支払わなければならないからだ。
結婚しても働く事はできる。
現に、私の周りにもたくさんいる。
自慢じゃ無いけど…、いや自慢だな。
私の側仕えのオデットとイザベルは、在学中から働いていた。
オデットは結婚退職するけど、ちゃんと卒業後3年間は働いたからね。
だけど、そんなお花畑の住人は、たとえ勉強ができてもなぁ。
優秀な働き手にはなれないだろうからねぇ。
きっと、周りの人もそう思ってるんだろうなぁ。
ところで、貴族の中にも家業を持つ家がたくさんある。例えば、ゴディエル公爵家では、おじ様方が個人的に魔道具を作成・売却して稼いでいるし、王家でも牧場や農場を直営している。公務に対する給与以外にもたくさんの収入があるのだ。
この世界では、農業、商業、金融などあらゆる職業をリードするのが貴族の役目で、それを支えるのが平民の役目なのだ。
そういう家業の後継者であっても、ノビリタスコラを卒業したら必ず3年間は国や領地で働く。そうする事で、ノブレス・オブリージュを理解していくのだ。
さて、閑話休題。
ディー兄様は、1年生と2年生を総合評価プルミエで終了した、と言っていた。シル兄様の情報によると、さすがは王太子殿下だ、と先生方に高評価を受けているらしい。シル兄様にとっても、自慢のお兄様なのだ。ディー兄様に負けないように頑張るのだと張り切っている。
私には、ディー兄様に恥をかかせる訳にはいかない、なんて言ってたけどね。
私も、入学式がすごく楽しみだ!
入学式当日の朝、ディー兄様とシル兄様は、馬車で半限(15分)程かけて通学する為、3刻半(午前7時)を過ぎた頃、一緒に王宮を出て行った。
ノビリタスコラは、4刻(午前8時)に始業なので、少し早めに出た事になる。朝は入口が馬車で混雑するから、それを避ける為に早めに出るのだと言っていた。
お父様は、お母様と私を連れて、開始時間の4刻半(午前9時)の半限前に転移陣で直接行くと、事前に学校長に通達していた。
王城のお父様の応接室に集合した私達は、3人揃って王城の南側にある転移陣の部屋に向かう。
何気なく動いているけど、実は転移するの初めてなんだよね。
ちょっと緊張している。
転移ってどんな感じなんだろう?
お父様の側近は、護衛として騎士団長のロベールおじ様とデュポン副団長の2人だけが同行する。イザークおじ様は今年入学するジョルジュ様の保護者として出席するので別行動だ。側仕えは同行しない。私とお母様の側近は、側仕え1名だけが同行を許された。他の私の側近は、皆、お留守番だ。
同行者全員が転移陣に入った事を確認したお父様が、転移陣に魔力を流し込む。すると、六色の光が転移陣の縁に沿って渦巻くように輝き出した。眩暈がする様な感覚に目をギュッと瞑ると、思わず体が揺れてしまう。すると、お母様が後ろから肩を押さえて支えてくれた。そのおかげで、すぐにその感覚は治って、目を開けると見知らぬ部屋の中に立っていた。
「国王陛下、王妃殿下、そして初めまして王女殿下、ようこそノビリタスコラへ。
学校長のフランシス・ル・テス・ルフェーブルでございます。お待ち申し上げておりました。早速ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」
「ルフェーブル先生、私も王妃も卒業生なのですから、案内していただかなくても場所は分かりますよ」
「そうでございましたな。陛下の学生の頃を彷彿とさせる様な活躍を、王太子殿下がなさっておりますよ。頼もしい限りですな。それはそうと、本日の私の役目は、陛下の接待のみでしてな。他の事は先生方が受け持ってくださっておりますので、どうかご案内をさせてくださりませんか」
ニコニコと穏やかな笑みを浮かべて、白髪に丸メガネをかけた、好々爺のような校長先生が、お父様に話しかけながら誘導する。お父様は苦笑を浮かべ、お母様をエスコートして歩き出す。私は二人の後ろに付いて歩きながら周りを確認する。
どうやら講堂の一室に転移したようだ。周囲は、先行していたらしい近衛騎士が守りを固めている。すぐにボックス席に案内された。
講堂は、一階席を取り囲むように二階席があり、一階席の奥にステージがある。
ボックス席は王家専用で、2階の中央、ステージの正面に位置している。
ボックス席には国王と王妃のための常設の豪華な玉座があるが、私には王妃の席の隣に小さめだけど豪華な椅子が用意されている。私達が席に着いたのを見届けた学校長のルフェーブル伯爵が、役目を終えて退出して行く。
目線を下に向けると、前の方の席は既に埋まっていて、先頭の中央にシル兄様の後姿が見える。見ているうちに後方の席も生徒で埋まっていった。ボックス席以外の二階席は、ここからは見えないけれど、保護者が座っているらしい。
講堂内がザワザワとしている中で、ステージ上に校長先生が登壇した。校長先生が演台に向かって佇むだけで、講堂内が静かになった。
講堂のステージには音響反射板が仕込んである様で、ステージ上で話す人の声が響いて、後ろの方まで良く聞こえるように作られている。
ステージ上手から司会をする若い男性が出て来て、高らかに開会を宣言する。
「それでは、ルーチェステラ王治政10年ノビリタスコラ入学式を開催いたします。まず初めに、国王陛下からお言葉を賜ります。生徒諸君は起立して、陛下の方に体を向けてください」
生徒が全員立ち上がって、お父様の方に体を向けて直立する。お父様もその場に立ち上がって、一階に向かって語りかけた。
「ノビリタスコラの生徒諸君。君達は今、国の最高峰の学舎であるこの場に、希望を持って新たな気持ちで立っている事であろう。本日、新たな仲間として新入生を迎え入れる。上級生の諸君は先輩らしく、我が国の貴族に相応しい姿を、良き手本として下級生に示して欲しい。そして、一年生の諸君は、一日でも早く学校生活に慣れて、勉学に励む体制を整えて欲しい。我が国は常に優秀な人材を欲している。君達の活躍を期待している」
お父様が玉座に座ると、生徒達が拙いながらも臣下の礼をする。演台の前の校長先生も生徒達と一緒に臣下の礼をして、生徒が着席するタイミングでステージから降りた。
「次は、在校生代表による歓迎の挨拶です。在校生代表は6年生のミシェル・ル・オーピドポルテ侯爵令息です」
指名された代表者が登壇し演台の前に立つ。6年生と言えば15歳なので、体格も声もかなり大人びている。新入生に対する激励と歓迎の挨拶を爽やかに述べ終わると、拍手喝采の中、颯爽とステージから降りる。
「次は、新入生代表による挨拶です。新入生代表はシルヴァプレ・ル・ハフ・コントラビデウス王子殿下です」
指名されたシル兄様は、まだ10歳なのにすごく落ち着いていて、演台を前に優雅に佇む。私のワクワクは最高調だし、お父様とお母様もすごく嬉しそうだ。
キャー! シル兄様、カッコいい!
シル兄様、頑張って!
「皆様、こんにちは。今回、新入生代表にご指名いただきましたシルヴァプレ・ル・ハフ・コントラビデウスでございます。
本日は私達新入生のために、このように盛大な歓迎をしていただきまして、先生方、先輩の皆様方に心から感謝を申し上げます。
私達新入生は、今日のこの日の為に、各自、精一杯の準備をして参りました。
一日も早く、ノビリタスコラの生徒に相応しくなれるように精進いたしますので、先生方、先輩の皆様方にお導きいただきますようよろしくお願い申し上げます。
また、本日、私達新入生のためにご来場いただきましたご来賓の皆様にも心から御礼を申し上げます。これからも私達新入生が、充実した学生生活を過ごせるようにお見守りいただければありがたく存じます。
以上で新入生代表の挨拶を終わります」
会場中からの拍手喝采を浴びながら、ホッとした様子のシル兄様が降壇して席に着く。私も手が痛くなるくらい、シル兄様が席に着くまでずっと拍手をしていた。
あー、シル兄様、ステキ!
すごく王子様してた!
良きかな!
この後は、校長先生の訓示や先生方から注意事項の説明など入学式が続いていたのだけど、シル兄様やディー兄様の観察に忙しかった私は、心の中でイケメンランキングに夢中になっていて、気が付いたら入学式が終了していたのだった。
あ、もちろん優勝はお父様です!
ノビリタスコラの入学式も終わって、お兄様方は学校生活に専念します。
アデルは学校に行ける10歳になるまであと2年ですね。
次は、初めて側近が入れ替わります。側仕えの結婚退職です。




