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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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王家の宴

お母様の誕生日のプレゼントを喜んでもらえてご満悦のアデル。

王家の宴では、正装で座っているだけです。

事件の落とし所が正式に発表されます。

 13の月に入って、王城内の雰囲気が騒々しい感じから賑やかな感じに変わってきた。王家の宴が近付いてきた事もあるけれど、年が明けて1の月第一週始まりの日(日本での元旦)に『建国の日』の祝祭が行われるからだ。

 来年の『建国の日』の祝祭は、お父様の治政10周年記念式典を行う事もあり、例年よりお祝いムードが大きいらしい。その準備が本格的になってきた事で、賑やかな雰囲気になっているのだ。


 そんな中、私はというと、間近に迫ってきたお母様の誕生日に向けて、プレゼントする刺繍に(いそ)しんでいる。先生(イヴォンヌおば様)のデザインで、華やかに見えるけれど簡単なステッチのみで作る百合(リー)の花の完成まであと少しなのだ。


 やる気だけは満タンの不器用(ぶきっちょ)アデル、頑張っております!


 風の日の刺繍の授業中に、ついに完成したハンカチを、無地のハンカチで包んでリボンを結ぶ。


 よっしゃー!

 明日のお母様の誕生日に間に合ったぁー!


 もう一つ、こっそりチボーにお願いして、クリームシャンテに合う旬の果物を使ったケーキを、誕生日の夕食のデザートに出せるよう準備してもらっている。


 イヴォンヌおば様に教えていただいて知ったのだが、この世界では誕生日のお祝いをしない。どちらかと言うと、親に対してこの世に生み出してくれた事を感謝する日なのだそうだ。だからお母様は、明日の誕生日には実家に帰って、お祖父様と一緒にお祖母様のお墓参りをすると聞いた。

 一方、国王であるお父様は、自分の誕生日に領主と中央貴族の中で重要なポストにいる貴族を招いて、国王の忠臣に対する感謝の晩餐会を主催する。国王にとって誕生日とは、臣下を労う日なのだ。


 お母様の誕生日当日の夕食の席に着く前に、私はお母様に用意したプレゼントを渡す。

「お母様、少しよろしいでしょうか」

「なあに、アデル。そんな小さな声で、内緒の話?」

「これ、私が初めて刺繍したハンカチです。お母様の誕生日に渡したくて頑張って刺しました。受け取ってもらえますか?」

「まぁ! アデルが? まぁ、こんな…今ここで見ても良いのかしら?」

 お母様が震える手でリボンを解いて包みを開く。中のハンカチを広げて、刺繍を撫でながら確かめている。ふっと顔を上げて、私を見るお母様の瞳から涙がこぼれ落ちる。

「お、お母様?」

 私は、急に泣き出したお母様を見てオロオロするばかりで、なんと言えば良いのか分からない。お母様の涙に気付いたお父様が驚いて声をかける。

「アデリーヌ、どうした! 何があったんだ?」

「ルーチェ、見て! アデルが私に初めての刺繍をくれたのよ。私、嬉しくて…」

 お父様がホッとした顔でお母様の肩を抱く。

「ああ、そうなのか。嬉しくて泣いているんだな? アデルの初めての刺繍か。

私にも見せてもらえるかい?」

「ええ、見てちょうだい。とてもステキに出来ているのよ」

「どれどれ? ほう、初めてにしてはキチンと形になっているじゃないか。そうか、アデルも成長しているのだな」

 お父様が自分のポケットからハンカチを出して渡すと、ハンカチを受け取ったお母様が涙を拭いた。そして、私に嬉しそうに微笑んでくれたので、私もホッとしてニコニコする。

「アデル、素敵な贈り物をありがとう。大切にするわね」

「はい、お母様。喜んでいただけて嬉しいです」

 お母様の喜び様に私も嬉しくなる。頑張って良かったと思いながらニコニコしていると、お父様がウインクしながら私におねだりする。

「アデル、私の誕生日は、3の月第一週光の日だ。私もアデルの刺繍が欲しいな」

「アデル、私は4の月第三週始まりの日だからね」

「僕は6の月第一週終わりの日だよ」


 え? みんな欲しいの? 

 私の下手な刺繍を?


「アデル、刺繍を贈るのは、家族か恋人と相場が決まってるんだよ。他の人にあげちゃダメだよ」

 

 大事な事をシル兄様が教えてくれた。

 家族か恋人ね、OK。

 でも、皆一度に言われたら不器用(ぶきっちょ)アデルは困ってしまう。

 とりあえず、今年の家族への誕プレは、刺繍で決定ですな。


 皆で摂る夕食の最後は、私のリクエストどおりにチボーが作った新作ケーキだ。今が旬のオレンジに似たオーフェンシュという果物をフェーズの代わりに使った ギャトゥ・オーフェンシュが供される。お母様を見ると気に入ってくれた様子で、美味しそうに食べている。

 

 やっぱり誕生日にはケーキがないとね。

 うふふ、私も満足である。



 いよいよ王家の宴、当日になった。結局、王家が健在である事をアピールする為に、宴開始から事件の説明が終わるまで、私とお兄様方も出席する事になった。

 宴は、9刻(午後6時)の鐘が開始の合図になるので、9刻半(午後7時)頃にはお役御免となるだろう。

 会場は、洗礼のお披露目会と同じ王城の大広間で、お披露目会と同じように出番が終わったら、お兄様方と一緒に会場を出る事になっている。


 今日は、王家の健在ぶりをアピールするという目的があるので、フル装備の正装だ。ドレスはクリーム色のシルク生地で作られたローブデコルテ風で、とても可愛いフレンチスリーブのプリンセスラインだ。髪はアップにして王女専用のティアラを付ける。それに、記章を付けたオレンジ色のサッシュが加わる。


 8刻半(午後5時)頃に支度が終わったので、側近達と一緒に大広間の控え室に行く為に自室を出る。フル装備の正装は、いつにも増して動きづらい。優雅に見えるように気を配りながらゆっくりと進む。

 控え室にはお兄様方が先に来ていて、軽食を取っていた。


 私も急いで少し食べておかないと。


 お兄様方も正装に身を固めているので、いつもの何倍もキラキラとしている。

 ディー兄様は、純白のテールコートにホワイトタイ、赤のサッシュに王子の証である記章を付けている。今はまだハンガーにかかっている王太子の証であるマントは、ネイビーブルーのベルベット生地で作られている。留め具が金の房飾りになっていて超カッコいい。

 シル兄様は、灰白色のテールコートにホワイトタイ、ディー兄様と同じく赤のサッシュに王子の証である記章を付けている。

 こちらの世界でもマントは権威の象徴になっていて、正装する時は国王、王妃、王太子の三人しか身に付けない。


 軽食を取っていたら、王妃の正装をしたお母様が控え室にやって来た。お母様は軽食は取らず、お茶だけにするようだ。一緒に来たお母様の側仕えが、白い毛皮の縁取りと王妃専用の装飾が付いた白のマントをハンガーにかける。

 お母様は、表面に光沢があるシルク生地で作られた純白のローブデコルテに、代々の王妃に受け継がれてきたティアラ、大きなダイヤモンドのネックレスと揃いのイヤリングを身に着けている。

 王妃の記章が付いた金のサッシュを着けてたたずむ姿は、花嫁のような初々しさと王妃の風格を併せ持ち、普段の姿と全く違って見える。

「お母様、ステキ! とっても綺麗!」

と思わず胸の前で両手を合わせて呟くと、それを聞いたお母様がにっこり笑う。

「アデルもステキ! とっても可愛らしいわ」

 私の言い方を真似てお母様が言うと、それを見ていたお兄様方が笑い出して

「ああ、アデルは本当に可愛らしい」

と言って、また笑う。


 そこにお父様がイザークおじ様と一緒にやって来た。お父様が何か感じ取ったのか不思議そうな顔をする。

「何か面白い事でもあったのか?」

「いいえ、ただアデルが可愛らしいと言っていただけですわ」


 お父様は、光沢のある黒のテールコートにホワイトタイ、金のサッシュを着け、金の房飾りがたくさん付いた黒いベルベット生地のマントを着けている。頭には、大きなダイヤモンドを中心に宝石が散りばめられたクラウンを着用している。


 めっちゃ、カッコいい!

 こうしていると、お父様は本当に国王なんだ! と思っちゃうよねぇ。


 お父様と一緒に来たイザークおじ様も黒のテールコートでバッチリ決まっていて、二人並ぶと金と茶で髪の色が対称的に映えて絵になる。


 イケおじってヤツですな。

 うん、眼福。


 お父様と少し話をしたイザークおじ様は、先に大広間に行くために控え室を出て行った。イザークおじ様の厳しい表情で、今日の宴の重要性が判る。そして、例年の宴であれば、国王夫妻はもう少し砕けた装いで出会している。これだけの正装をした事から考えても、この宴で国王としての権威を示す必要があるのが判る。


 時間が来たので、お母様とディー兄様はマントを着けて、一緒に大広間の王族専用入り口に待機する。後ろの方からお祖母様が来られたので、離宮から直接ここに来られたのだろうと思う。

 初めに、私とお兄様方が入場するので、扉の前に私を真ん中にして三人並ぶ。

9刻の鐘が鳴り終わると同時に扉が開くと、ディー兄様、シル兄様、私の順で肩書きとフルネームがコールされる。私は、お兄様方にエスコートされて会場に入り、ひな壇に上がる。

 すると、子どもが大人の宴に参加する事の異常さに会場内がザワザワし始めた。


 私達が壇上の席に着くと、再び扉が開きお祖母様がコールされる。お祖母様は、微笑みを浮かべて堂々とひな壇に向かって歩き出す。

 会場内は、お祖母様がしっかり正装している様子に再びザワザワする。

 今日のお祖母様は、薄い水色のローブデコルテに記章付きの金のサッシュ、代々受け継がれている王太后のティアラを着用している。


 お祖母様が壇上の席に着くと、三度(みたび)扉が開いてお父様とお母様がコールされる。会場に入って来た国王夫妻の威風堂々とした正装姿を見た貴族達は、逆に静まり返ってしまい、お父様達の足音だけが会場に響いている。


 お父様とお母様が壇上に上がりひな壇の中央に立つと、貴族達が一斉に臣下の礼をとり頭を下げた。

 一呼吸ののち

「皆、楽にするように」

 お父様の一言に、貴族達が一斉に頭を上げる。

 会場内は、高位貴族が前方に、爵位が下がるにつれて後方に、整然と並ぶ貴族で満ちている。その様子を確認したお父様が、予定どおり演説を始める。


「今年の社交期間が間もなく終わろうとしている。洗礼の披露目に始まり、この週が終われば『建国の日』を祝う事となる。祝祭が終われば、領地を預かっている者は領地に戻り、それぞれの責務を果たす事になる」


 ここでお父様は会場内を見渡して、更に言葉を続ける。


「その前に、皆に伝えねばならぬ事がある」


 会場内には、これからお父様が何を話すのか理解している人、全く理解していない人、噂を聞きかじっている人、様々な顔をした人がいるが、皆、一様にお父様に注目している。


「デクストラレクス侯爵が反逆の意志を持って我が愛娘アデリエルを襲撃し、隣国の王弟と共謀して王家に成り代わろうとした。加えて、この売国行為を成就する為に犯罪行為に手を染めていた。

 降りかかる火の粉は振り払わねばならぬ。

 よって、トールトスディス国王の権限において、この一連の反逆行為及び犯罪に加担した者を全て捕らえ、罪に応じた罰を与える事にした」


 会場内が一気に騒がしくなった。皆が口々にデクストラレクスを非難し、隣国の王弟を罵倒する声を上げている。

 お父様が右手をスッと上げると、会場内に静けさが戻り、お父様に注目が戻る。


「反逆、大逆、売国の罪を犯したデクストラレクスは、爵位を剥奪し、領主を罷免した上で、死罪に処す。隣国には犯罪者として王弟を引き渡すよう要求している。引き渡せば、デクストラレクスと共に死罪に処す。引き渡さねば、我が国に手を出した事を後悔させてくれよう」


 貴族達が一斉に賛同の声を上げ、お父様を讃える。それに応えるようにお父様が右手を上げ、静かにする様に促し、不敵な笑みを浮かべて話し出す。


 多分だけど、ここから先のお父様の演説は、

 六つ柱の大神との契約の実態や神罰の事を知られない為に、

 王家の正当性・優位性を示す為のプロパガンダになるんだろうなぁ。


「我はコントラビデウス、初代王から続く六つ柱の大神と契約する者。神に祈り、神を尊ぶ限り、神は我らに穏やかに暮らす場所をお与えくださる。

 私は先に、罪に応じた罰を与えると言った。しかし、デクストラレクスも隣国の王弟も、既にこの世にない。私が罰する前に、賊どもは未曾有の災害に巻き込まれて命を落とした。

 偶然と言うには、あまりに都合が良い。詳細を知れば其方らも、正に神の御業(みわざ)と思う事であろう。我らコントラビデウスには、確かに六つ柱の大神のご加護があるのだ」


 何とも言えないどよめきが会場を包む。


 うーん、コントラビデウス教の教祖が信者を誑かす図

 にしか見えないのは私だけだろうか?

 いかん、ニヤニヤするな、私!


 お父様が厳しめに顔を引き締めて、演説を締め括る。

「仮にこれらの災害が神の御業だとしても、何ら不思議な事はない。自然を紡ぎ出す森羅万象は、全て神の御業であるからだ。しかし、私は六つ柱の大神から賜るご加護に甘える事なく、国王として守るべきものを守り通すと決めている。其方らには、これまで以上に私の手足、目、耳となり存分に働いてもらいたい」


 ザッという音を響かせ、貴族達が一斉にお父様に対して臣下の礼をする。


「うむ、其方らの敬意をありがたく思う。詳細は、宰相に説明させる。まずは皆、飲み物を手に取れ。隣国の王弟を始めとした反逆者どもの企みを阻み、国の平穏を守り切った事を祝って乾杯しよう」


 お父様を始め、壇上にいる私達にも飲み物が手渡される。飲み物を持ってその場に立って待っていると、イザークおじ様が飲み物を持って、ひな壇の前、貴族達の最前列の前に出て来て発声する。


「トールトスディス国とルーチェステラ・ル・ロワ・コントラビデウス陛下の益々の弥栄(いやさか)を祈って、乾杯!」


 この国で乾杯と言ったら、文字どおり器に入った飲み物を飲み干さないといけないので、渡されたゴブレットには二口分の飲み物しか入っていない。大人達はお酒の様だが、私のゴブレットにはりんごジュースが入っていた。

 ゴブレットを少し上げて乾杯と唱和した後、飲み終わって器を戻すと、お父様が玉座に座るのを待って、自分の席に着く。


 この世界には拡声器などは無いので、会場にいる人全員に一斉に説明する事はしない。まず、イザークおじ様は高位貴族に説明し、説明を聞いた高位貴族が、自分が所属する組織の下位貴族に説明する、という手順を踏むのが普通の事なのだそうだ。


 伝言ゲームみたいに話がズレたりしないのかな?


 今、イザークおじ様の周りに集まって来ているのは、国内に20ある領地のうち、デクストラレクスとデイテーラを除く18人の領主と王城の4局(財務局、外務局、法務局、総務局)と2団(騎士団、魔法師団)の代表者と、王宮の使用人代表だ。

 補佐の立場にあるらしい人が何人か、高位貴族の後ろにメモを持って立っているが、それ以外のほとんどの人は説明の輪から少し距離を取って、思い思いに歓談を始めている。それでも、説明の邪魔にならない様に気を遣っているように見える。


 皆さん、イザークおじ様の説明に納得してくれると良いのだけど…

王家の宴でお父様の演説が終わりました。

貴族達はどの様に受け取ったのでしょうか。

次は、事件の詳細な説明からです。

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