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同じ頃別室では

別室に行った国王たちの話し合いの様子です。

アデルの話の後の密談が、アデルの知らない事件を語ります。

 国王の私的応接室には、トールトスディス国の国王ルーチェステラ・ル・ロワ・コントラビデウスを筆頭に王家全員が集まっている。

 王妃アデリーナ、第一王子ディーヴァプレ、第二王子シルヴァプレ。

 加えて、第一王女アデリエルの主治医である魔法師団副団長ホワイエ男爵夫人、そして、宰相のランベール公爵は、国王の斜め後ろに控えている。


「さて、ホワイエ男爵夫人、アデルの容態を聞かせてもらおうか」

「かしこまりました。アデリエル殿下のお身体については、姫殿下のお手を取り、魔力を流し込みながら隅々まで確認いたしましたが、異常はございませんでした。腕の傷も完全に治癒しております。姫殿下自らの魔力の高さが幸いいたしまして、治癒魔法の効果が高く現れたものと考えます」


 周囲から洩れる安堵の吐息を聞きながら、ホワイエ男爵夫人は続ける。

「しかしながら、先程の姫殿下のご様子からも分かるとおり、姫殿下のお心は傷付いたままでございます。恐怖から逃れるための自己防衛と推察いたしますが、記憶が所々失われている様子でございます。

 また、精神に異常があった場合、こちらの質問にお答えになるまでの間に魔力の乱れが生じます。それもありませんでした」


「やはりそうであったか。記憶のどの部分が失われているのか、早急に確かめねばなるまい。いずれにせよ、事件に関する事情聴取をせねばならぬのだ。

 何事も無ければ、ランベール宰相に任せるつもりであったが…。主治医としてのホワイエ男爵夫人の意見を聞きたい」


「はい、主治医としましては、最初の聞き取りは父親である陛下が行い、(そば)で母親である王妃殿下が励まされるのがよろしいかと存じます。

 姫殿下はおそらく、ご自身の身分が今回の事件を呼び寄せた事を含めて、今回の事件に関わるほとんどの事を忘れておられる、と思われます。その様な状態で強引な聞き取りを行う事は、幼い姫殿下の精神が崩壊する恐れがございます。

 時間をかけてゆるりとなさる事を進言いたします」


「うむ、相分かった。ホワイエ男爵夫人には、アデルの事で今後も世話をかけると思うがよろしく頼む」

「かしこまりました」


 王妃が、潤んだ瞳をホワイエ男爵夫人に向けて尋ねる。

「今後の生活をする上で、母親として気を付けなければならない事があれば教えてくださいませ」


「王妃殿下におかれましては、いつもどおりにお過ごしいただき、姫殿下が心安らかに日々を過ごせる様にお心配(こころくば)りくださいませ。

 また、王子殿下方は、常日頃から姫殿下に優しく接しておられる、と聞き及んでおります。いつもどおりの接し方で、姫殿下をお見守りくださいませ。

 いつ、どのようなタイミングで、姫殿下の記憶が戻るのか全くわかりません。

一生戻らないこともあり得るでしょう。大切な事は、姫殿下を追い詰めてしまうような言動をお控えいただくことでございます。

 何かありましたら、いつでも私にお申し付けくださいませ」


「ありがとう、ホワイエ男爵夫人。今後とも子ども達の力になってくださいませ」

「かしこまりました。現時点で、私から申し上げねばならない事は、以上でございます」

「うむ、大義であった。退室を許す」

「それでは御前失礼いたします」


 ホワイエ男爵夫人が、カーテシーをして応接室を出ると、国王が周囲を見渡して話し出す。

「今度の襲撃事件の実行犯は、全て現場で捕えることができたが、いまだに首謀者が捕えられておらぬ。宰相、その後の進捗はどうなっておる?」


「はい、捕えた実行犯は尋問の結果、末端の者ばかりでございましたので、首謀者に繋がる証言を得る事が期待できません。今は、実行犯の証言以外の情報を集めるべく動いております。今しばらく猶予をいただきます」


「聞いたとおり、首謀者が捕えられておらぬのは、騎士が斬り捨てた賊の中にリーダー格の者がおり、証言を得るため生かしておいた賊は、指示どおり動いただけで何も知らない、と証言している為だ。

 現状を考えると、城内といえど油断はできぬ。今度(こたび)はアデルが狙われたが、敵の目的が分からぬ以上、そなた達が次に狙われる可能性がある。事の詳細が明らかになるまで、外出を最小限に抑えよ。特に、ディー、シル」


「「はい、父上」」


「そなた達には、まだ子どもである身に不自由を押し付ける事になるであろうが、これも王家に生まれた者の責務である。心して自らの身を守る事に努めよ」


「はい、父上。心得ております」

「父上、私もきちんとわきまえております。ご安心ください」


「そなた達の側近には、ランベール宰相から通達させておく。何事も一人で勝手な事をせず、側近達と行動を共にするようにな」

「「はい、父上」」

「うむ、二人とも下がって良いぞ」

「父上」

「なんだ、ディー」

「アデルは大丈夫でしょうか」

「案ずるな、ディー。もう二度と、アデルに恐ろしい思いはさせぬ。皆でアデルを大切にすれば、アデルの心も休まるであろう。良いな」

「はい、解りました、父上」


 兄弟に続いて王妃も退出すると、応接室には国王と宰相の二人が残った。あとは扉で護衛をしている近衛騎士が二人だ。

 宰相が盗聴防止の魔法を展開すると、国王の口調が一気に崩れた。

「くそっ、どこの誰だか知らんが私の可愛い娘を狙うとは、八つ裂きにしても飽き足らぬ」

「陛下、お気持ちは良く分かります。私も子を持つ親ですから」


「アデルを護衛していた者達のおかげで、軽傷で済んだと喜ぶべきか、護衛として失格であると罰を与えるべきか」

「状況から考えて罰を与えるのは無理でしょう。姫殿下を守るために重傷を負った者もおります。」


 宰相がため息をつき続ける。

「賊は手練てだれではありますが、所詮は素人。訓練された護衛騎士に敵うはずがないのです。ただ賊を捕らえた後がですねえ…。

 彼らも油断していた訳では無いでしょうが、予想外の事が起きましたから…」


 国王が宰相をジロリと睨む。それに構わず宰相が続ける。


「もし、予想外の事が起きたのが賊を捕らえている最中であれば、どうなっていたか分かりません。こうなると、作為的なものを感じますね。おそらく姫殿下の行動スケジュールを流した者がいると考えられます」


「だな。さて、側仕えか文官か騎士か、はたまた魔法師か。どれも考えられるな」

「姫殿下がプルガーバプティー(洗礼のための禊)モスをなさる事は、別に隠しておりませんからね。それだけに日程や警備体制などの情報を事前に入手できれば襲撃は簡単でしょう」


 ちょっとの間、沈黙した宰相は再び口を開く。

「陛下、賊の狙いは姫殿下を害することではなく誘拐かもしれません」

「誘拐か。その場合、アデルの身柄を押さえて何を要求するつもりであろうか」

「王族を相手に金という事はないでしょう。割りに合いません」

「そうだな、一族郎党全て死罪になるからな」

「となると、王位を奪う事でしょうか」

「あー、貴族どもは我が国の王位がどんなものであるか知らないからな。可能性はあるな」

「馬鹿げた事です。王族が絶えれば神罰が下る。国ごと消し飛ぶというのに!」

「だから、それを知らない者の仕業だろ」

「陛下、何か心当たりはありませんか」

「心当たりか。反抗的な態度が見られる貴族は二、三あるな。だがそれはお前の方がより多く感じているのではないか?」

「はい、隠しているつもりでしょうが、隠れてませんからね。何を勘違いしてあの態度なのか、全く理解できません。今までは見逃してやっていましたが、態度に行動が伴うのならば、話は別です。容赦はしなくてよろしいですね?」


 宰相が黒い笑顔でニッコリする。それを見た国王も黒い笑顔でニヤリとする。

「ロベールは何と言っていた?」

「グラーチェに頼んで、森の中に魔法使用の痕跡がないか、調べてもらうと言っていました」

「ふむ、ではロベールからの報告を待とう。分かっていると思うが、子ども達には必要以上の事は知られないようにしてくれ」

「王妃殿下には、お伝えしますか?」

「いや、知らせる時期というものがある。タイミングを見て私から話そう」

「かしこまりました」


 国王は、ソファに沈み込み考え事を始める。しばらくそれを見ていた宰相は、盗聴防止の魔法を解除すると、扉前で護衛をしていた近衛騎士に声をかけ、応接室を出ていった。

次はアデル側の状況です。

現状を把握して何とか自分を納得させたいたくて、アレコレと考えてしまいます。

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