側近候補選び 〜側仕え〜
初めての側近選びですが、お祖母様やお兄様方が心配して、手とり足とりしてくれます。
お祖母様のお茶会当日が来た。
ただのお茶会ではなく、側仕えの面接がある。大丈夫かなぁ!
お祖母様の離宮は城内にあるが、王宮からは少し離れているため、馬車での移動となる。お兄様方と一緒に行くので、側仕え達は2台目の馬車に乗る。
そういえば近衛騎士が付いて来ていない。
警戒体制が緩んだという事は、危険が去ったという事なのかな?
その後どうなったのか、全く聞いていないなぁ。
でも、多忙なお父様には聞けないしなぁ。
離宮の玄関では、お祖母様の家令と筆頭文官が出迎えてくれ、そのまま応接室に案内される。
部屋に入ると、お祖母様が立って出迎えてくれる。挨拶をして席に着くと、お茶とお菓子が出された。しばらく和やかに話をしていたが、お祖母様が
「今日は、アデルに紹介したいご令嬢に来ていただいているの。お呼びしても良いかしら?」
と切り出されたので
「はい、お祖母様。よろしくお願い申します」
とお願いする。
お祖母様が手を振って合図をすると、家令が開いた扉から5名のご令嬢が入って来て、私達のテーブルの前に一列に並んだ。
すると、お祖母様が紹介を始める。
「では、一人ずつアデルにご紹介しますね。まず一人目の方は、ベルトラン伯爵の三女、クラリスです。今は13歳ですね。母親はアデルの側仕えのオリビアです。3年前から側仕えの修行のため、私の所に通っているのですよ」
紹介されるご令嬢は、一歩前に出て綺麗なカーテシーをする。
「二人目の方は、フルニエ伯爵の長女、エリアーヌです。今は12歳です。母親はアデルの側仕えをしているマルティナですね。この子は、修行の為に私の元に通う様になって、ちょうど一年くらいかしら」
オリビアとマルティナは、何も言っていなかった。内心、驚いているが、顔には出さずに冷静を装う。
「三人目の方は、ジラー子爵の次女、ヴァレリー、12歳です。アデルの側仕えのイザベルは、この子の姉ですよ。この子も、私のところに通う様になって一年くらいかしら。
四人目の方は、ボネ子爵の長女、ナタリーです。今11歳で、父親はアデルの護衛騎士のセブランですよ。私の所に通う様になって一年半ほどになります。
五人目の方は、リシャール侯爵の三女、セシルです。今10歳ですね。父親は、財務局長として城に勤めています。半年ほど前から、私のもとに通っています」
イザベルとセブランも、私に何も言わなかった。
やっぱり気を遣ったんだろうなぁ。
ひと通り紹介が終わると、令嬢たちには空いているテーブル席に着いてもらう。
「お祖母様、私、皆様とお話したいです。一人ずつお話してもよろしいですか?」
「ええ、もちろん」
私は、令嬢達が座るテーブルの空いている席に座る。通常、私の後ろに護衛騎士が立つのだが、今はお兄様方が立っている。
なんか私の方が緊張するなぁ!
「皆様は、私の側仕えになる事を希望されていると聞いています。それはどうしてなのか、希望した理由を聞かせてくださる? ご紹介いただいた順に、一人ずつお聞かせくださいませ」
まずは、オリビアの娘さんのクラリスから
「私は、幼い頃から母が颯爽と仕事に行く姿に憧れておりました。私は三女ですから、良いご縁に恵まれるか分かりません。ですから、尚のこと母と同じ職業に就きたいと思いました」
ふむふむ、お母さんへの憧れか。
素敵な母娘だね。
ところで、三女だから云々ってどういう事なのかな?
後で誰かにきいてみよう!
次は、マルティナの娘さんのエリアーヌ
「私も母の姿を見て決めました。王女殿下を陰ながらお支えする、やり甲斐のあるお仕事だと思って希望しました」
これはしっかりしたご令嬢だねぇ。
裏方の仕事だと理解している所が好印象!
次は、イザベルの妹さんのヴァレリー
「私は、姉の勧めです。姉は、王女殿下の下で側仕えとして働かせていただいておりますが、もうすぐ結婚退職する事になっております。姉は、後任には知らない誰かより、信頼できる妹の方が良いと言って勧めてくれました。私は、それをとても光栄な事だと思っています。だから希望いたしました」
イザベルの勧めなのね。
確かに知らない人より、知り合いの方が安心できるよね。
次は、セブランの娘さんのナタリー
「私は、父から王女殿下の事を聞いた事がありまして。王女殿下は、花の様に可愛らしくて、賢くて、大変な目に遭っても頑張っておられると。私は、そんな王女殿下に、是非ともお仕えしたいと思って希望しました」
あら? ナタリーは、私の事、美化し過ぎてない?
ぬ? お兄様方がうんうん頷いている。
どゆ事?
最後は、リシャール侯爵の娘さんのセシル
「私は、父に将来の目標を聞かれた時に、お城で働く人になりたいと答えました。そうしましたら、父が王太后殿下をご紹介くださって側仕えの勉強を始めました。もしも、王女殿下の側仕えになれるなら、なんて素敵な事だろうと思って希望いたしました」
可愛い!
他の子に比べて小さい分、ふんわりした感じなのかな?
皆、それぞれの理由で、真剣な目をしている。
この世界では、かなり早い段階で、将来を見据えて動き出すんだね。
うーん、どの子も良いと思うけど、お兄様方に相談してみようかな?
「皆様、どうもありがとう。少しお待ちになってくださいませ」
私は、お祖母様のテーブルに戻る。当然、お兄様方も一緒だ。
「お祖母様、お待たせして申し訳ありません」
「ほほほ、構いませんよ。それで、どうでしたか?」
「皆様、真剣な目をしておいででした。嫌な印象を持った方はいませんでしたから、私は、どなたでも大丈夫だと思いましたけど、お兄様方はいかがでしたか?」
「そうだね。私もこの5人ならば、どなたでも良いと思うよ。さすが、お祖母様の推薦があるだけあるね」
「僕も同意見だ。何より、兄上や僕に妙な視線を向ける子が、一人もいなかった事が好印象だったね」
お兄様方の外見は、完璧王子様だからねぇ。
さもありなん、だよ。
「メアリはどう思う?」
「そうでございますね。私は、王太后殿下の元で最低3年は学んで欲しいと思っております。ただ、側近候補として遇することは、今すぐでも差し支えないかと存じます」
なるほど、プロの目から見るとそんな感じなのか。
特に反対意見も無かったし…。
よし、決めた。
「お祖母様、5人とも側近候補に合格という事にして、しばらく様子を見てもよろしいでしょうか」
「ええ、私もそれが良いと思うわ。女の子は嫁入り先の関係で辞めざるを得ない子が出て来ますから、少し多めがちょうど良いのですよ。先の事は、誰にも分かりませんからね」
「では、その様にお願い申します」
と、私がお願いすると、頷いたお祖母様が
「皆様、今日はご足労いただいてありがとう存じます。アデルは、皆様の事を気に入った様です。側近候補として、益々、励んでくださいませ」
とご令嬢達に告げたあと、手を振って家令に合図する。すると、家令がご令嬢達を促して、退室させている。
「これから、私が合格を出した子から順に、アデルの所に行かせましょう。その時が来たら連絡しますから、それまでは私が預かりますね」
「はい、お祖母様。どうぞよろしくお願い申し上げます」
それから、しばらく和やかに4人でお茶会を続けた後、お兄様達と一緒に王宮に戻った。
側近選びの内、側仕えについては、候補の方と顔合わせできたし、改めて教育をお祖母様にお任せする事になったので、一安心だ。まだこれから、護衛騎士と文官を選ぶ必要がある、とお兄様方は言っていた。
護衛騎士の必要性は立場上分かるけど、文官は何をしてもらうんだろう?
秘書的な?
そういえば、同年代との顔合わせを兼ねた
お披露目のお茶会をするって言ってなかったっけ?
「ねぇ、メアリ。側近選びのお茶会は、いつするのか決まったのかしら?」
「はい。1ヶ月後に開催されるとの事で、各貴族家への招待状の発送が終わった、と報告を受けております」
「そういった準備は、どなたがしてくださるの?」
「今回は、王妃殿下の指示のもと、王妃殿下の側近の文官が行っているはずでございます」
「文官?」
「はい。姫様には、まだ文官の側近がおりませんので、王妃殿下がご自分の側近にさせていると存じます」
「私も自分の側近の文官ができれば、こういった事を自分でできる様にならなければならないのね?」
「将来的にはそうでございます。ですが姫様、文官の側近が出来たからといって、すぐにあれこれできる様になる訳ではございません。その側近にも、成長する為の機会と時間が必要ですから、今しばらくは、まだ王妃殿下をお頼りになってくださいませ」
そうよね。
中身はともかく、私はまだ子どもなんだもの。
成長する為の勉強を始めたばかりだしね。
「わかったわ、メアリ。これからも色々教えてちょうだいね」
「かしこまりました」
あ、そうだった!
「メアリ、今日の面接で解らない事があったのだけど、聞いても良いかしら?」
「はい、何なりと」
私は、思わず小さな声で尋ねる。何となくオリビアに聞かれてはマズイかな、と思ったのだ。
「一人の方がね、自分は三女だから良いご縁に恵まれないかもしれない、と仰ったの。それってどういう意味なのかしら? 長女だとご縁があって、三女だと無いのなら、それは何故?」
「まぁ、姫様。長女だから、三女だからではございませんのです。おそらく、そのご家庭の経済事情のお話でございますね。三人目ともなれば持参金を準備する事が難しい、といった事ではございませんでしょうか」
おーっと、思ったよりデリケートな話だった。
「理解したわ。この話は内緒ね」
「はい。内緒にいたします」
メアリの声が最初から小さかった事を考えると誰の事だか分かったのだと思う。
持参金ね、考え付かなかったなぁ。
経済事情かぁ。
これは、子どもの話だけを聞いて、私が首を突っ込んで良い話ではないし、
それで頑張る気持ちになっているのだから、心に留めるだけにしよう。
「姫様、そうやって自分の側近の事情を理解しようとする姿勢は、大変良い事だと存じます。側近の不始末は主人の責任でございます。その事はどうぞ覚えておいてくださいませ」
「分かりました。いつもありがとう、メアリ」
なんとか、側仕えを選びました。事前にお膳立てされていた感は、否めませんが、それでも一つクリアです。
次は、護衛騎士と文官を選ばなくてはなりません。どうなる事でしょうか ww




