13 結界と契約の話
表向きは、アデルの誘拐ですが、裏でいろんな事情が絡み合っています。
思いがけず大人達の情報共有の場に呼ばれました。
さて、どうなるのでしょうか。
参加者全員が席に着いた事を確認すると、ランベール宰相が口火を切る。
「急な召集にも拘らずお集まりいただきまして心から感謝いたします。この会議を開催する必要が生じた理由と経緯について、私から説明いたします。
事の起こりは、アデリエル第一王女殿下の洗礼のお披露目会に乗じて、姫殿下を拉致しようとする動きがある、という情報を入手した事であります」
初耳の方もいらっしゃるらしく、場が少しざわつく。
「以前、プルガーバプティーモスで姫殿下が襲撃を受けた事は、上層部の皆様には情報共有させていただいております。その事を踏まえて、騎士団、魔法師団の協力のもと、秘密裏に事実確認をすると同時に罠を張り、姫殿下の安全確保に努めておりました。
そこに、昨夜、賊の侵入を受け、騎士団が実行犯の三人を確保したところであります。その実行犯を取り調べた結果、国の存続に関わる陰謀が発覚した為、皆様にお集まりいただいた次第です」
「ランベール宰相、その陰謀とは何なのか、先に簡潔に言ってくれ。その後に詳細な説明をしてもらうと頭に入りやすいと思うが、どうだろうか?」
と、ラファエル様から提案される。
勿体ぶらずさっさと話せって事だろうな、きっと。
「承りました。端的に申し上げますと、ある領主が隣国と共謀して国の乗っ取りを企てている事が判明しました」
怖っ! 私を何に巻き込もうとしてるのよ!
「ふむ、では詳細の説明を頼む」
ふぁー、さすが国の重鎮!
騒ぎ立てる人は誰もいない。
てか、皆知ってた?
「はい、ではまず、昨夜捕らえた賊の取り調べ結果を、騎士団長に報告願います」
「では、失礼して。昨夜未明、姫殿下の拉致を企てた者3名を捕らえました。
早速、魔法師団長と共に取り調べを行ったところ、一人は隣国の王弟に仕える者、一人はその従者、そしてもう一人の案内役と思われる者は、デイテーラ男爵の従者であると判明しました。三人は、拉致した姫殿下をデクストラレクス侯爵のもとへ連れて行くように指示されていた様です。
尚、デイテーラ男爵とデクストラレクス侯爵の身柄は、今朝早くに捕らえ、牢に入れてあります。
隣国では、王弟が王位の簒奪を狙っており、その実績を作る為に、我が国を手中にしようと考えた様です。しかし、我が国には結界があります。そこで、姫殿下を人質にして、結界の解除を要求する計画であったという事です」
たった一晩で、こんなに判ったの?
まさか魔法を使って白状させた?
その上、二人も牢に?
スゴ過ぎて…。わーお!
「なんとまあ、お粗末な計画じゃのう。デイテーラ男爵とデクストラレクス侯爵はどの様に関わっているのか判っているのかね?」
と、お祖父様が尋ねる。
「その件に関しては、財務局長が情報をお持ちですので、説明をお願いしてよろしいでしょうか」
「では報告いたします。まずデクストラレクス領についてですが、国の南東の辺境であり領地の三分の一が結界の外にある事は、皆様ご承知のとおりです。
通常、結界外の土地の魔力は安定しないものでございますが、以前からそれを利用して依存性の高い魔草が栽培されておりました。どうやらデクストラレクス侯爵が主導して領地の産業と偽って行わせていたようです。
これに目を付けた隣国の王弟がデクストラレクス侯爵と結託して、魔草を薬草と偽って売りさばく違法貿易を行っておりました。
我々は、ようやくその証拠を掴んだところでした。隣国の王弟にとっては、活動の資金源ですので、これを叩く事で隣国の王弟を抑える事ができます。
また、デイテーラ領は、王家直轄地とデクストラレクス領に挟まれた小さな領地ですが、立地的に王都に攻め込む際の通り道として、隣国の王弟に目を付けられている様です」
「デイテーラ男爵の従者によると、男爵は、デクストラレクス侯爵に家族を人質に取られているのではないか、と推察されます」
「騎士団長、推察ではいかん。ハッキリとした証拠を掴みなさい。人質をこちらで保護できれば証人になってくれるじゃろう」
と、お祖父様が息子を叱る。
お祖父様、いくら何でも一晩でそこまでは無理だと思うよ。
「外務局長、現在の隣国の情勢はどんな様子であるか?」
「はい、陛下。隣国の現在の国王は、堅実な治政を行い民の信頼も厚い方でございます。我が国に対して友好的とは言えませんが、特に敵視している訳でもない、という認識でおります。臣下も忠義に厚く信頼に足る優秀な人材が揃っております。
一方、王弟は粗暴な振る舞いが多く、民の評判も良くありません。今回の件は、王弟と一部の支持者による暴走と言って差し支えないかと思います」
「他にこの件に関する情報をお持ちの方は、おられませんか?」
「少し気になる事があるのですが、よろしいでしょうか」
「ルーセル侯爵、どうぞ」
「はい。私ども総務局は、各領地からの報告や訴状などの窓口になっている事は、ご承知くださっている事と思います。ここ3年程でしょうか、デクストラレクス領の北隣のテルミノスモンス子爵領と、先ほど話に出たデイテーラ男爵領は隣接しておりまして、主に交通に関する揉め事、具体的には穀物の略奪が増えております。同様に、デクストラレクス領の西隣ジェイノアクレス侯爵領、メリディアムディテ伯爵領でも被害が増えております。それぞれの領主が解決に向けて動いている、と報告が上がっておりますが、一度、お話をお聞きになってはいかがかと存じます」
「ふむ、デクストラレクスの周りの領地ばかりですね。確かに気になります。貴重な情報をありがたく存じます。他にございませんか?」
場が静かになり、何人かは首を振って、これ以上意見がない事を示している。
「それでは、情報の共有はここまでにして、これから具体的な対応策について議論したいと思います」
「王妃よ。すまぬが王子・王女達を連れて退室してくれぬか?」
「かしこまりました、陛下」
「ディー、シル、アデル。そなた達は当事者であった為、この場に居ることを許したが、ここから先は大人の仕事である。王妃と共に退室しなさい」
「「「かしこまりました」」」
「陛下、私も共に退室させていただいてもよろしいでしょうか」
「母上、このまま離宮に戻られますか?」
「はい、そういたします。私でお役に立てる事があれば、いつでもお申し付けくださいませ」
「その時は、相談に乗ってください」
私達は、揃って会議室を出た。すると、お祖母様が、
「ディー、シル、アデル。今度、離宮でお茶会にお招きしたいのだけど、来てくれるかしら?」
「もちろんです、お祖母様」
「僕も楽しみにしています」
「はい、ご招待、お待ちしておりますね」
「アデリーヌ、よろしいかしら。孫達とお茶会をしても」
「もちろんですわ、お義母様。よろしくお願い申します」
「ほほほ、では、またね」
と、お祖母様が颯爽と離宮に帰って行く。
お祖母様は確か50歳くらいだ。
お若いなぁ。
あんな素敵な歳の取り方したいなぁ。
おっと、随分と先の話だね、こりゃ!
「さぁ、ディー、シル、アデル。少しお母様とお話しましょう。私の居間においでなさい」
と、お母様の居間に招かれたので、そのまま側近と移動する。
さっきの話が重かったせいか、誰も口を開かないまま居間に着いた。
「さぁ、皆、座って。まずはお茶にしましょう」
お母様の側仕えが、お茶とお菓子を出してくれたので、マナーどおり、お母様が毒見をしてから、私達もお茶とお菓子に手を付ける。
あー、頭が疲れた時の甘い物は、格別だにゃん。
「難しいお話が多かったけれど、内容は理解できましたか? 解らない事を教え合いっこしましょう」
と、お母様が提案してくれた。
「母上、私は聞いて解らない事はなかったのですが…」
と、ディー兄様が苦笑しながら言えば、シル兄様も
「僕も説明の内容は理解できました。強いて言えば、領地の位置関係が、地図を見ないとピンとこなかったくらいでしょうか」
と言う。
お兄様方二人とも優秀だなぁ!
でも私は違う!
「私は、解らない事がたくさんありました。まず、たった一晩で取り調べが終わったという事は、魔法を使って自白させたという事でしょうか」
と聞くと
「えっ! そこ?」
と、ディー兄様が驚く。シル兄様は、キョトンと目を丸くした後、爆笑している。
「アデル、貴方の好奇心は、色々な方向に向かうのですね。いいわ、ふふふ。取り調べの方法は色々あるけれど、今回は国家反逆罪の扱いになっているはずです。
魔法も自白剤も使って、本当の事を話させたと思いますよ」
「やっぱりそうなのですね」
デクストラレクス侯爵は、反逆罪になるのかぁ。
昨日のお披露目会での挨拶の時、
アホ丸出しで私の嫌味にも全く気付かなかったオッサンだよね。
あの時点で悪だくみしてたと思うと、下手くそか! とツッコミたくなる。
やってる事は誘拐でも、その目的を考えるとそうなるよねぇ。あれ?
「お母様、反逆罪だけでなく売国の罪もありますよね?」
「ふふふ、そうね」
「前回は、切り捨てやすい雇用人を使ってたのに、今度は身近な人を使ったのは
何故なんでしょう?」
「まぁ、そんな事まで気付いたの? おそらくお父様達がそうなる様に追い詰めたからだと思いますよ」
「お父様、相当怒っていたのですね」
「それは、もう。可愛い我が子をあんな目に合わされて怒らない親はいませんよ」
あらら、お母様も激おこでいらしたのですね。
いかん。
これ以上、藪を突いたら蛇どころかドラゴンが出て来そうだ。
「あ、お母様。結界の事はどこまで話して良いのでしょうか? そもそも私、結界が何なのかも知らないのですけど…」
「母上、良い機会です。父上は、今は忙しくてアデルに説明する時間を取れないでしょうから、私から教えようと思うのですが、いかがでしょうか?」
「そうね。それも良いわね。お父様には私から話しておくからやってみましょう。私とシルは、ディー先生の講義を見守ることにしましょう」
やったっ!
ディー先生の講義だ!
お母様が胸のペンダントを外して魔力を込めると、直径3mくらいの盗聴防止の魔法が立ち上がった。
「少し内緒話をするから、皆、魔法の範囲から出てちょうだい」
と、お母様が言うと、側近達が魔法の範囲から出た所で見守る態勢になる。
私がお母様の手の上にあるペンダントをジッと見つめていると
「私、魔法はあまり得意ではないの。このペンダントは、こんな時の為にお父様が作って下さったのよ」
と、お母様が言ってウフフと笑った。
いやーん、うちのママが可愛い!
「さ、ディー、始めてちょうだい」
「はい、母上。アデル、まずは、皆が知っている事から始めるね」
「はい、よろしくお願いします」
「我が国の国土は、九割が結界に覆われている。結界は、王都の城を中心点にして綺麗な円の形をしているんだ。結界の境界線は、人の目には見えないけど、我が国に魔力の登録がある国民だけが、自由に出入りできるんだ。魔力の登録がない者は勝手に出入りできない様になっているんだよ」
「あら? でも昨夜の賊2人は隣国の人ですけど、城まで来ていますよ?」
「ああ、それはたぶんデクストラレクスが入れたんだろう。旅行者用の簡易登録を使ってね」
「そもそも魔力の登録って何ですか?」
「洗礼の時、デアラピスに魔力を注ぐ事で自動的に登録される。我が国の民だと神に認識される事だよ」
「神に認識される…」
「そう、ここ重要だよ。簡易登録では神に国民だと認識されないんだ。だからもし神が、余所者を排除したい、と思ったら、余所者は結界の外に弾き飛ばされてしまうんだよ。もし、余所者が王都にいる時に結界の外に弾かれたら、生きてはいられないだろうね」
うわぁ〜、想像したくないぃ…ん?
「ディー兄様、結界ってもしかして、神様が作っているのですか?」
「そうだよ。よく判ったね。でも、何故、神の御力だと判ったんだい?」
「だって、神様が作った物だから、神様が思い通りに余所者を排除できるのかなと思ったんですもの」
「アデル、これは王家の秘密に当たる部分だよ。いいかい。王家の者の洗礼は一般の洗礼と違うことは、もう経験したから解るね」
「はい、解ります」
「実は、アデルが経験したのは女の子用で、男の子は別なんだ」
「はい?」
「王家の男は、産まれて3日後にレオアウリュム様に謁見するんだ。そして、祝福と名を賜る。この事で王家の男は、全員、もれなく、全属性の加護持ちになる。
もっとハッキリ言えば、王家の男の洗礼は、形だけの単なる儀礼でしかない。何故だか、わかるかい?」
「いいえ、全くわかりません」
「神との契約だよ。契約の、三つある重要事項の一つに、真のコントラビデウスは10歳になったら毎日、神に魔力を奉納する事というのがあるんだ。」
「毎日、魔力を奉納…」
「神は、私達の魔力を糧にしている。だから、奉納する魔力が神の御力につり合う様に、全属性のご加護を賜るんだよ。そして、三つの重要事項を守る代わりに、神の御力による結界が維持されるんだ」
信仰心ではなく、魔力が神の糧になるかぁ。
この世界の神様は、随分と現実的なんだね。
こうなると、契約って言葉のニュアンスが、かなり人間臭くなるねぇ。
リアリストの神かぁ。
ロマンのかけらも無いねぇ。ふむ。
「この事は、神に口外を禁じられているから、対外的には『結界は、王族の魔力で作られ、維持されている』と公表されている。結界が、神の御力だという事は秘密だよ」
ハイ、お口チャック案件、増えましたぁー!
ハイ、ヨロコンデー!
「ディー兄様、他にも結界の特徴があれば、教えてくださいませ」
「そうだな。外からの魔法攻撃を通さないというのがあるな。アデルの誘拐の理由だね」
「ああ、隣国の王弟ですね。私を誘拐したって神様が動く訳ないのに…」
「そういう事だね。だから、父上達は、神にアデルが見捨てられてしまう事にならない様に、先手先手で、相手を潰そうとしているんだよ」
「お父様…、ありがたい事です」
「うん、私はアデルが冷静に受け止めてくれてありがたいと思うよ」
「そんな…」
一国の王でも、神の御心に委ねなければならず、我が子を見殺しにしてしまう。
自分の意思とは関係ない所で…。
そんな可能性があるって事だよね。
ホント、神様ってどの世界でも理不尽だよね! フン!
「ディー兄様、結界について、他に何かありますか?」
「そうだな。結界内部の魔力が、神の御力によって調整されるから、魔力溜まりができない。すると、スタンピードも起きない。魔力が循環されて作物が育ちやすく生態系が崩れず維持される。とかかな」
「なるほど、結界がある事で良い事もたくさんあるのですね」
ディー兄様から、結界と神の話を聞く事ができました。
それにしても、ディー兄様は、優秀過ぎます。
次は、側近選びという難問にチャレンジしていきます。




