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負けず嫌いの転生 〜今度こそ幸せになりたいと神様にお願いしたらいつの間にかお姫様に転生していた〜  作者: 山里 咲梨花


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お披露目会

不測の事態の後に、お披露目会です。

肝心な事を忘れていないと良いのですが…。

 部屋に戻った時には予定が大幅に遅れていたが、側仕え達が準備して待っていたので、すぐに入浴して軽食を取る。お披露目会の開始は、8刻の鐘(午後4時頃)なので大急ぎだ。

 改めて私の側仕えは優秀だと感心してしまった。

「姫様、急な会議でございましたが、私共が知っておくべき事がございますか?」

 メアリから尋ねられて、お父様に部屋まで抱き上げて連れて来てもらった時の会話を思い出す。


「お父様、側近達に聞かれたら何と答えたら良いでしょうか?」

「そうだな、全属性のご加護を賜った事は、話しておきなさい」

「でも、会議の長さの割に、そんな事だけで納得するでしょうか」

「アデル、これまで王家に生まれた女性が、全属性のご加護を賜った事例は少ないのだよ」

「えっ、そうなのですか?」

「ああ、そうだ。そして君は、全属性のご加護を賜った事で、王位継承権についてディー、シルに準じる扱いを受ける事になる」

「王位継承権は、王家に生まれた時点であるものではないのですか?」

「いや、違う。我が国では、全属性のご加護を賜った時点で王位継承の資格を得る事が出来る。この事は、貴族であれば皆知っている」

「そうなのですね」

「アデル、この前話した事は、覚えているね?」

「はい、もちろんです」


 お口チャックですよね。

 レオアウリュム様に威圧されたので、心に刻みましたよ。


 私は人差し指で唇を押さえて、お父様の顔を上目遣いで見る。すると、お父様は機嫌良さげに声をあげて笑った。


「メアリとセブランは、知っていると思うけど私、全属性のご加護を賜りました。これまで、女性が全属性のご加護を賜る事があまり無かったのですってね。それでどう対応するかのお話し合いをしました」

 同行していなかった側仕え達が、驚いたり喜んだりしている。


「それで、姫様はどうなるのですか?」

とオリビアが真剣な顔で聞いてくる。

「王太子は、ディー兄様に決まっていますから、私は、シル兄様に準じる扱いを受ける事になります。皆もそのつもりで、今まで通り仕えてくださいね」


 つまり私は、スペアのスペアという事だ。王家の跡取り体制が磐石になっただけですね。王位なんて面倒くさい事、全く興味ないのだけど、現時点でわざわざ口に出す必要ないですもんね。


「かしこまりました。さあ、姫様のお召替えに取り掛かりますよ。時間もあまりありませんからね」

 メアリが促すように、手を2回パンパンと叩いて言えば、皆が一斉に動き出す。


 今日のお披露目会では、最初に洗礼の衣装に似た雰囲気のドレスで入場し、貴族の皆さんのあいさつを受けたら、一度控室に下がる。着替えと食事をして、再度、大広間に戻ったら、ディー兄様、シル兄様とダンスをしてお役目終了となる。


 なんとか間に合うように支度を終えて、控えの間に移動すると、既にディー兄様とシル兄様が待っていた。

「やあ、アデル。とても可愛らしい衣装だね。よく似合っているよ」

「ディー兄様、ありがとう存じます。お待たせして申し訳ありません」

「アデル、今日のお披露目会の主役は君だ。あいさつへの受け答えは君がメインでしてもらうけど、いざという時は僕たちも手助けするから、君らしく振るまってもいいからね」

「はい、よろしくお願いします」


「殿下、そろそろお時間です。大広間の王族専用入場口へ参りましょう」

 ディー兄様の筆頭側仕えのジュスタン・ル・ブラン侯爵子息が促すと、シル兄様の筆頭側仕えのトリスタン・ル・ヴィ・マソン子爵が護衛騎士達に小声で何か話をしている。

「さ、姫様。お兄様方と一緒に入場口へどうぞ」

 私は、メアリに促されて控室を出た。


 入場口では、さほど待つ事なく名前を読み上げられ、入場口の扉が開いた。

 お兄様方に両側からエスコートされて、ゆっくり歩を進める。壇上の玉座からはお父様とお母様が見守っている。

 あまりの人の多さに怯んだ私に、ディー兄様が小声で

「大丈夫、僕たちがついている」

と励ましてくれ、シル兄様も小声で

「アデル、笑って」

と言って、シル兄様の腕に置いた私の手に、反対側の手を重ねてくれた。


 玉座の前まで進んで立ち止まると、お兄様方は臣下の礼をして、私はカーテシーをする。そして、年齢順に挨拶の口上を述べる。

「国王陛下、王妃殿下、王太后殿下、ディーヴァプレ・ル・ハフ・リテ・コントラビデウスがご挨拶を申し上げます」

「同じく、シルヴァプレ・ル・ハフ・コントラビデウスがご挨拶を申し上げます」

「国王陛下、王妃殿下、王太后殿下、アデリエル・ル・セス・コントラビデウスがご挨拶を申し上げます。本日は、私の為にかくも盛大な宴を催してくださり、心から御礼申し上げます」


「うむ、三人共、近くに参るが良い」

とお父様が言って、玉座から立ち上がる。

 三人で壇上に登り、お客様の方を向くと、お母様も立ち上がって私の横に来る。


 壇上に向かって左からお父様、私、お母様、ディー兄様、シル兄様の順で並んで立つと、お父様が

「本日、王家の唯一の姫、アデリエルが洗礼を受け、嬉しい事に全属性のご加護を賜る事ができた。この喜びを皆と分かち合いたい。存分に楽しもうぞ」

と宣言すると、会場内がどよめいた。


 お父様とお母様は、壇上中央の玉座に座る。壇上に向かって左側に、私たちの席も準備されており、私を真ん中にお兄様方と並んで座る。壇上の右側には、王太后スザンヌ様、つまり私達の父方のお祖母様が座っている。


 それぞれの後ろには、筆頭護衛騎士が立つのだが、私の背後にはなぜかセブランではなく、ロベールおじ様の妹で、近衛騎士のローズ様が立っている。

 お父様の背後に騎士団長のロベールおじ様が立っているのは、定位置だから良いとして、こちらを見ても知らん顔ををしている。


 私の頭の中には、「?」が飛び交っているのだが、顔に出す事も、口に出す事もできずにいる。


 すぐに、貴族の皆様が、挨拶をしようと玉座の前に列を作る。じきに私達兄妹の前にも列ができるだろう。


 最初に挨拶に来てくれたのは、グラーチェおじ様とステラルクス様だ。

「ディーヴァプレ王太子殿下、シルヴァプレ第二王子殿下、アデリエル第一王女殿下、グラーチェステラ・ル・ハフ・コントラビデウス・ドゥ・ゴディエルがご挨拶を申し上げます。姫殿下には、六つ柱の大神より全属性のご加護を賜りました事、心からお慶び申し上げます」

「同じく、ステラルクス・ル・ハフ・コントラビデウス・ゴディエルがご挨拶を申し上げます。殿下方の益々のご健勝を心よりお祈り申し上げます」

「お二人ともありがとう存じます。これからも、お導きくださいますようお願いしますね」


 形通りの挨拶で終わると、次にランベール公爵家の皆様が来てくださった。口上を述べられるのは、先々代公爵で、先々代国王の弟君に当たる方だ。


「ディーヴァプレ王太子殿下、ご無沙汰いたしております。シルヴァプレ殿下には4日前にお会いしましたな。アデリエル王女殿下には、お初にお目にかかります。アールブムビィア・ル・ハフ・コントラビデウス・ランベールがご挨拶を申し上げます。姫殿下には、この度は、全属性のご加護を賜ったとの事。王家にとって益々の弥栄(いやさか)となる事を心からお慶び申し上げます。こちらは、私の妻、クリスティーヌでございます。そして、ラファエル・ル・ランベールとその妻マリオン、イザークは仕事をしておるでしょうが、妻のアリエルを伴いましてございます」

 アリエルおば様は、お父様の実姉である。

「アールブムビィア様、ご丁寧なご挨拶をありがとう存じます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」


 次に来たのは、お祖父様とロベールおじ様の奥様、イヴォンヌおば様だ。母方のお祖母様は、ローズ様を出産後すぐに亡くなっている。形通りの挨拶の後、小さな声で

「お祖父様、ローズ様はどうして?」

と尋ねると、お祖父様は

「訳あっての事だからエルちゃんは知らん顔していなさい。両王子殿下が分かっておられるから大丈夫だよ」

とウインクする。


 次は、フォンテーヌ侯爵御一家で、当主のウリエル様ご夫妻とご子息のフィリップ様ご夫妻だ。ウリエル様は、ラファエル様の実弟で、その子息のフィリップ様の奥様セラフィエル様は、お父様の実妹だ。


 この国の制度上、親戚と呼んでいいのは、ここまでらしい。


 ここから、王太后であるスザンヌお祖母様のご実家、テルミノスオーチェア侯爵ご一家に始まり、侯爵家から伯爵家、子爵家、男爵家へと挨拶が続いていく。

 ほとんどの貴族家が好意的な中、子どもだと思って舐めているのか、露骨な嫌味や当てこすりを言ってくる貴族家もある。


 例えば、国の南東の辺境領主デクストラレクス侯爵なんかニヤニヤしながら

「ディーヴァプレ王子、シルヴァプレ王子、アデリエル姫にバスチアン・ル・マキ・デクストラレクスがご挨拶を申し上げる。アデリエル姫には、全属性のご加護を得られたとか。いやー、王のお子様が三人とも全属性とは誠にめでたい。これで三人とも次代王となれる可能性があるわけですなぁ。いや、誠にめでたい」

と言ったのだ。


 ハイ、いろんな意味でアウトです。

 まず、公の場で砕け過ぎた口調は、お下品ですね。

 特にニヤニヤ笑いが、品位のカケラもないですね。

 加えて、臣下のくせに、陛下、殿下の尊称をつけないのはダメですね。

 極め付けは、王位争いをけしかけているでしょう。

 わからないと思ったのかねぇ。

 こいつ馬鹿なのか? 

 こんなのが領主だなんて、領地は大丈夫なのか?


 それに対して、私はというと

「まぁ、ありがとう存じます。侯爵にめでたいと言って(上から目線で)いただけるなんて(物言ってんじゃねえ)…。

ねぇ、ディーヴァプレ()()()殿()()

「そうだね、アデリエル()()()()

というやり取りをこれ見よがしにしたのだけど、侯爵には全く通じていなかった。ため息。

 それを見ていたシル兄様は、笑いを堪え過ぎて変な顔になっていた。


 他にも二・三、変てこりんな挨拶をする貴族家があったけど、私が前世で培ったスルースキルと笑顔で、何を言っても無駄ですよ感を出すと、お兄様方が、どこで仕入れた情報なのか、腹黒パンチでメンタルをめった撃ちしていた。


 おおお、私達三人揃うと最強じゃね?


 全ての挨拶が終わる頃には、微笑み過ぎてほっぺたが痛くなった。貴族の挨拶の列が無くなると、私とお兄様方は席を立ち、大広間を出る。控え室に行く時もそのままローズ様が護衛として付いて来た。


 控え室に入るとすぐに、ディー兄様が、壁の中央に埋め込んであるエメラルドのような小さな宝石に手を当て魔力を流し込む。すると、壁に隣室に通じる扉が現れたのだ。

 ディー兄様が、現れた扉を開けて

「さ、アデル、側近を連れて、隣の部屋に移って。僕達もすぐ行くから」

と小さな声で言う。


 私は、またしても頭の中を「?」で一杯にしながら側近達を隣室に移動させる。

「ああ、アデルの護衛騎士は、こちらに戻って」

「君達は、僕達と一緒に正規の扉から出ないとダメだよ」


 ディー兄様とシル兄様が、側近達と一緒に正規の扉を開いて出ると、いつもより大きめの声で話す。

「アデル、着替えが終わったら知らせてね。一緒に食事をしよう」

「僕達は一つ向こうの控え室にいるからね」

 何か訳あっての芝居かな? と思ったので

「分かりました。また後でご連絡しますね」

と、声を張って言った。


 正規の扉が閉まると、ローズ様が

「私はこの部屋に残らねばなりませんので、姫殿下はどうぞ隣室へ」

と小さな声で言う。

 隣室の正規の扉から入って来たお兄様方は

「さ、アデル、こちらへおいで」

と私を隣室に引っ張り入れて、ローズ様に

「ローズ嬢、後は手はずどおりに頼むね」

と小さな声で言い

「かしこまりました」

というローズ様の返事を聞いて扉を閉める。


 再び、隣室側の小さな宝石に魔力を流し込むと、扉は何も無かったように消えてしまった。


「アデルの護衛騎士は、隣室に君がいる(てい)で隣室の扉の前を護衛している。君の護衛は、僕らの護衛騎士がするから心配しなくて良いからね」

と、ディー兄様が言うと、シル兄様が

「アデル、お腹空いたでしょ? 食事にしようか」

と言って、側仕えに準備を命じる。


「お兄様方、私には何が何だかサッパリ分からないのですけど!」

とプンスカして言うと、シル兄様が

「アデルは怒っていても可愛いよね」

とニヤニヤして言う。


 あー? 誤魔化してないでちゃんと説明しろよ!


 私の心の声が聞こえたらしいディー兄様が

「前に、父上とイザークおじ上が罠を仕掛けると言っていただろ? それだよ! アデルはちゃんと出来るって言ったじゃないか」

と呆れたように言う。

「あ、そうでした!」


「さ、準備できたみたいだよ。食事にしよう」

とシル兄様が言うので、私は席に着く時に、メアリに小さな声で

「何か聞いてた?」

と聞くと

「いいえ、姫様に同行したお茶会で知った内容以上の事は存じませんでしたが、何となくこれがそうではないかとは考えておりました」

と、答えた。


 ありゃ、忘れてた私が悪いのか! 

 あー、アホな自分にガッカリだよ!

アデルの知らないところで、お父様達の罠が発動しているようですが、アデルには詳細が知らされていません。

お兄様達も知らせるつもりは無いようです。

結果くらいは教えてもらえるのでしょうか。

次回は、罠に掛かったものです。

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