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貴方は、ツギハギ令嬢の私の手を取った  作者: 悠木 源基


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第63章 初めての旅行  

 

「父が母と結婚する時、協力してくれないのならホランド王太子殿下の側近にはならない、そう殿下を脅したという話はしたよね?

 そのとき、祖父もかなり父に協力したんだよ。息子が愛する女性と幸せになれるようにって。祖父は王家のせいでそれができなかったから。

 祖父は元婚約者のことも、政略結婚が前提だったとしてもちゃんと愛していたんだと思う。結婚当初は祖母ともぎこちなかったというから。

 

 そんな祖父が祖母を本気で愛するようになったのも、僕の両親の結婚がきっかけだったらしい。

 息子の婚約を大反対していた祖母が、息子が結婚した途端改心してね、本気で嫁を可愛がるようになった。その姿を見ていて、祖父は初めて祖母を愛しいと思えるようになったんだって。遅いよね?

 

 僕達兄弟は子供の頃は祖父母、まあ正確にいえば祖母によく面倒を見てもらっていた。両親が忙しかったからね。

 祖父母は孫の前でも平気でキスをしたり抱き合ったりしていたから、見ている僕達の方が恥ずかしくなるくらい仲が良かったんだよ。

 父のように愛しているなんて人前では口にしなかったけれどね。

 引退する以前の祖父は今の父なんて比でないくらい忙しくしていたんだ。だけど、父より祖父の方が妻と過ごした時間は多かったと思うよ。

 それに逢えない時でも、祖母へはまめに手紙や贈り物をしていたしね。

 

 それに比べて父は、熱烈に求婚したはずなのにいざ結婚したら、妻や家庭より殿下や仕事を優先していた。祖父はそれが今でも許せないんだろう。

 祖母の葬式の時だって、そろそろ式が終わるってころにようやくやってきたと思ったら、さっさと一人で帰って行ったからな。

 憔悴した祖父の側に寄り添ったのは、母と叔父と叔母、そして大叔父達だったよ。

 

 カイトン一族は淡々とした性格の人間が多いと言われているが、本当は情が深いんだ。それなのに、一番熱い心を持っているはずの父が、他の誰よりもクールだったね。

 母は結婚当初からたった一人でまめに領地へ行っていたが、祖母が亡くなった後はなおさら、こまめに通っている。祖父を心配して、祖母の月命日に合わせるようにして。やっぱりたった一人(・・・・・)でね」

 

 

 ルーカス様の話を聞きながら、私は、お母様の告白を聞いたその翌日、王城の宰相執務室でお義父様と会ったときのことを思い出した。

 顔を合わせた瞬間に、ああ、夕べ廊下で見た後ろ姿はやはりお義父様だったのだと確信した。

 目の周りにクマができていて、かなりやつれていた。一睡もしていないのが丸わかりだった。

 でもここまでショックを受けているということは、言い換えれば、お母様の辛い気持ちに全く気付いていなかったということかしら? 最悪だわ。

 

 お義父様は泣きそうな顔をして私に縋るようにこう言った。

 

「私は誰よりも妻を愛しているんだ。妻が一番大切だ。それは決して嘘じゃない。無神経なことばかりしてきて、信用してもらえないかもしれないが。

 私は妻と別れたくない。これからも妻の側にいたいのだ。でもどうしたらいいのかさっぱりわからないんだ。どうか、教えて欲しい。助けてくれ、綿毛の英雄!」

 

 ずるいです。そこで庶民の平和を守るヒーローの名を呼ぶなんて。

 大体なぜ息子の婚約者にそんな情けないお願い事をするんですか!

 これまで、凛としていて威厳のある伯爵様しか見たことがなかったので、どう対応していいのかわからなかった。

 

 しかし、家族の中で一番関係性が薄い自分だからこそ、頼めるのかもしれないと思い立った。知られたくないよね、こんな情けない姿を家族に。

 でも、本気でお義母様とやり直したいと思っているのなら、見栄を張ったり気取ったままじゃだめだと思う。事態は深刻で、お義母様はすでにお義父様を見限っているし。

 かといって、二人が別れた方がいいとは思っていないので、最低限のアドバイスだけはしておこうと決意してこう言ってみた。

 

「お義父様、たしかに言葉は大事です。しかし言葉だけだと却ってマイナスです。やはり行動が伴っていないと。

 妻を愛しているというのならば、まず行動で示されたらいかがでしょうか?

 一番大切だというのならなおさらです。やり方が解らない? それならご自分の三人の息子さんや、義理の息子さんの行動を参考になされればよろしいのではないですか?

 彼らは私達パートナーを愛し、いつも私達の願いのために行動してくれています。

 

 私達の願いがわかりますか? それは一分一秒でも長く愛する人と一緒にいたいということです。ですから彼らはその望みのために本気で対策を練ってくれたのです。

 お父様はこれまでたしかにお忙しかったことでしょう。でも、今まで本気で妻との時間を取ろうと試みたことはありましたか?

 今後の二人の在り方について考えたことがありましたか?」

 

 私の言葉に、お父様は驚愕していた。

 それ以上具体的なアドバイスはしなかった。自分で考えないと意味がないから。

 でも、お父様はちゃんと自分で何やら方法を考えたみたいだ。

 だって、ハルディンお義兄様とナタリアお義姉様の結婚式の後、私の耳元でこう囁いたのだから。

 

「この前はアドバイスをありがとう。参考になったよ。

 三日後父が領地に戻るときにケイトも一緒に行くらしいんだ。母の月命日があるからね。

 それに、私も付いて行こうと思っているんだ。そうすれば戻るときは二人になれるだろう?

 今さらだと思われても、みっともなくても精一杯足掻いてみるよ。

 いつ戻るかはケイト次第だから、留守の間、よろしくね」

 

 つまり、お義父様が出発直前のお義祖父様の馬車に乗り込むまでは、みんなには黙っていろということですね? そして後始末というか、その後のフォローを頼むと。

 うーん。

 お父様が居なくなったらさぞかし王城は大変なことになるだろう。ただでさえハルディンお義兄様もいないのだから。

 でも、それをバラしたら一生お義父様に恨まれそうだから大人しくしていよう。

 ただし、一応ルーカス様にだけは伝えておこうと私は思った。大切な人に秘密は良く無いから。

 そこで赤ワインを飲んでいる婚約者にお義父様の追っかけの話をしてみた。

 すると一瞬瞠目した後で彼はクスクスと笑い出した。

 

「ずいぶんと遅い新婚旅行だね。しかも父親付きだなんて笑える。

 きっとお祖父様に嫌味を言われ続ける旅になるだろうね。自分の妻に愛の言葉を囁く暇もないくらいに。いい気味だ。

 だけどまあ、初めての二人の旅行だ。ゆっくりしてくればいいさ。城のことは僕達がなんとかする。

 邪魔が入らないように、僕も出発するまでみんなには内緒にしておくよ。

 

 そういえば、僕達のハネムーンのことだけど、君はどこへ行きたいんだい?」

 

 旅行繋がりで一年半後のハネムーンは何処に行きたいのか、とルーカス様から訊ねられて私は困ってしまった。

 前世では修学旅行くらしいしか、遠出をしたことかなかった。そして、生まれ変わってからも、王都からまだ一歩も出たことがない。だから、王都から出られただけで感動してしまう気がする。

 つい正直にそう言ってしまったら、ルーカス様がとても悲しい顔をして、私をギュッと抱きしめて、耳元でこう囁いた。

 

「ごめん。次の休みにはとりあえず、隣の州都にある公園へボートに乗りに行こう」

 

 と。別に嫌味や文句を言いたかったわけじゃなかった。だって私はこうしてルーカス様の側にいられるだけで幸せなのだから。

 でも、連れて行ってくれるというのなら、余計なことは言わずにいようと思った。

 

 でも、ルーカス様からワインの香りのする熱いキスをされながら、数か月前に聞いた話を思い出した。ルーカス様が例の出張で行ったという、南方の海辺の町の話。

 私は海へ行ったことがない。前世では海なし県に住んでいたのだ。テレビで海に沈む夕陽を見る度に、綺麗だな、一度見てみたいなと思っていた。

 あれをルーカス様と見られたら素敵だろうな。手作りのペアルックでも着て。

 

 ルーカス様の膝の上に乗って彼に身を預けながら、キスの余韻にボーッとしつつ、私は無意識にこう呟いていた。

 

「海の見える町で暮らしてみたいな。ルーカス様と二人きりで。

 おそろいの服を着て、手を繋いで毎日海辺をお散歩するの。そして、お陽さまが海にキスをするところを見ながら、私達もキスするの。うふふっ……」

 

 するとそれを聞いたルーカス様が、私の綿毛に顔を埋めて言った。

 

「それ、いいね。結婚間近になったら南方の部隊に異動願いを出すよ。あそこなら騒がれることなく、ティナとゆっくり過ごせる」

 

「本当? いいの?」

 

「ああ。実はね、南方にある港町の領主がね、将来領地を、国に返納したいと申し出ているんだ。元々子供がいない上に、親類縁者にも養子になるのを断られて跡取りがいないらしい。

 だけど、実のところ直轄領にするだけの価値もないから、国としては近隣の領主に併合してもらおうと考えているみたいなんだ。

 だから、その領地を僕が引き受けると言ったら、諸手を上げて賛成してくれると思うんだ」

 

 そう。ルーカス様もハルディンお義兄様同様に、近々男爵位と領地を授かることになっているのだ。

 ルーカス様は朗らかにそう言ったけれど、絶対に賛成されないでしょ。

 英雄ルーカス=カイトンを、そんな僻地の小さな港町の領主にしたがる人がいるわけがないわ。

 たとえ本人がそれを望んだとしても認めてくれるはずがないわ、と思いはしたが、

 

「年が明けたら、一度下見に出かけよう」

 

 と言われたので、私は嬉しくなって思わずルーカス様に抱きついてしまった。

 すると、彼も私の背中に両手を回し、ぎゅっと抱きしめ返してくれたのだった。

読んでくださってありがとうございました。

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