表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/68

第56章 今後の予定  


 礼拝堂に向かって歩きながらルーカス様が、私と手を握っていない方の手に持っていた風呂敷包みを少し持ち上げてこう言った。

 

「一週間でもうこんなにたくさん作ったのかい? 

 パーティー用のドレスを作っていた時も、忙しい中でバザー用の小物を作っていて、目に隈を作っていたよね。

 今だってシェリル妃殿下から注文されたドレス作りで忙しいのだろう? 今回も相当無理をしたんじゃないの?」

 

「あの時は無理をし過ぎたと深く反省しています。もう、あんな無茶はしません。本業にまで差し支えを出してしまうなんて。

 それに、ルーカス様と一緒に過ごす時間がなくなるのは嫌ですから」

 

 私がこう言うと、ルーカス様は嬉しそうな顔をした。やっぱりナタリア様に言われた通りだったとわかった。

 

「何の時間が一番自分にとって大切なのか、ちゃんと考えないと、幸せが逃げちゃいますよ」

 

 って。

 あ〜あ。大げさかもしれないけれど、バーナード侯爵家のリックス様の二の舞を演じるところだったわ。

 元凶は同じ(ホランド王太子殿下)だし。

 

「それに今回は作業を分担したので、それほど大変ではないのです。

 デザインはナタリアさんで、素材準備はカラッティー商会長、そして商会の洋裁店でパターン作りと切断、そしてしつけまでしてくださいました。

 ですからそれを私が、二か月かけて完成させればいいのです。気分的にとても楽です。

 毎日少しずつゆっくり縫っているのですが、すでに半分は仕上がっているのですよ。

 ルーカス様とのお出かけにも、何の差し障りもありません」

 

「そうか。それなら良かった」

 

 ルーカス様はホッとしたように微笑んでくれた。私のことを本気で心配してくれていたことがよくわかった。

 

「妃殿下のドレスができ上がったら、もう依頼は受けないつもりなんです。これからは家族のためのドレスを作っていくつもりなので。

 キリア様やお義母のドレス、そして、いつもお世話になっている一族の皆様のために、ドレスは無理でも身に着けられる何か小物を作っていけたら、と考えているんです。

 そして、二年後の挙式が近付いてきたら、サリーナ様のウェディングドレスを作る予定です。

 もしかしたら、その前にウェンリーお義兄様とキリアお義姉様のために、ベビードレスを縫うことになるかもしれませんけれど」 

 

 ウェンリーお義兄様とキリアお義姉様は先々月無事に結婚式を挙げて、夫婦になった。

 そしてそれまで使われていなかった、屋敷内にある別棟で新婚生活を送っている。

 二週間の新婚旅行から帰ってきてから、その後二週間も別棟から姿を現さなかった時はかなり心配をした。

 なんとお義兄様は結婚の際に、一月の休暇をもぎ取ったのだ。認められないのなら職を辞すると宣言して。

 なにせキリア様との結婚を一日千秋の想いで待っていたのだから。

 これまでほとんど休暇も取れなかったのだから当然の権利だ。

 それに脅しでもなんでもなく、カイトン伯爵家は領地経営だけで十分やっていけるのだ。

 

 二人が本当に生きているのか心配になったりもしたが、食料品は毎日玄関先に届けているから大丈夫だよ、とルーカス様はにこやかに言った。

 お二人は野外泊にもなれているから、侍従やメイドがいなくてもなんでも自分達でできるから問題ない、と説明を受けて納得した。

 

 そう言われてみれば、洗濯物は毎日干されてあったし、食事時になると煙突からはよい匂いが煙と共に漂ってきていた。それに気付いてからは、ああ、ちゃんと生活しているのだとホッとした。

 う〜ん。

 カイトン伯爵家の三兄弟の妻達は、揃いも揃って一般ご令嬢とはかけ離れているわね。私も含めて使用人がいなくても、普通に生活ができるし逞しいもの。

 夫がリストラ、いえいえ自主的に仕事を辞めても、何の問題もないわね。

 

 

「ホランド王太子殿下が本気で心配して、何度も僕に訊いてきたよ。ウェンリーはちゃんとまた登城するよね? 戴冠式は仕切ってもらえるんだよね?って。

 だから、いざとなれば父もリックス(サリーナの婚約者)もいるから問題ないですよ、って答えたら真っ青になっていたよ」

 

 殿下に色々と恨みを持っているので、ルーカス様は容赦がない。

 なにせこれまでカイトン伯爵家とその一族、及びその関係者達を散々こき使ってきたのだから。

 私も少しいい気味だと思ってしまった。そしてこれに懲りたら殿下が国王となった暁には、過重労働についてもっと真剣に考えてもらいたいと思った。

 

「やっぱり、街中はいいなあ。汚い建物や通りを見てると現実社会にようやく戻ってきた気がして、生きてるって実感する。

 ん? 串焼きの匂いがする。帰りに食べないか?」

 

「う〜ん、本当にいい匂い。いいですね。楽しみです」

 

 私はすぐ様それに同意したのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ