第49章 襲撃 2・・・第三者視点・・・
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「ウォルター、馬車を出せ!」
乗り合い馬車の中にいる男が叫んだ。
馬車の補助席にいた男は、後方にいる者達の助けに向かおうとしていたが、その声にハッとして思い留まり、御者とともに馬車を走らせようとした。
しかしそうはさせないと、荷馬車の御者が、飛びかかってきた。しかし、あっという間に補助席の男に切り捨てられた。
「ちきしょー、何をしやがる!」
乗り合い馬車を襲っていた連中が、今度は一斉に馬車の二人に矛先を向けた。
そして、その中の二人が馬車が走り出さないように、車輪を蹴り上げて壊した上に、手綱を切った。それから馬車の扉をこじ開けようとした。
そして残りの二人が馬車から降りてきた御者達とやりあった。
そこへ乗り合い馬車に乗っていた男四人が、上半身から血を吹き出しながらもようやく這い出してきて、仲間に加勢しようと剣を構えた。
しかし額からも血が溢れ出ていてよく目が見えないらしく、思うように戦えなかった。
そこへ馬の嘶きと共に一人の騎士が飛び込んできて、あっという間に破落戸四人の太ももを斬りつけて、彼らを戦闘不能にした。
その時、こじ開けられそうになっていた扉から、怯えた顔をした若い男が顔を見せた。
「ルーカス!」
「殿下!? なぜこのような場所に。というより、ご無事ですか?」
「私は、私は無事だ。母上も気を失っているだけだから問題はない。
だが、なぜもっと早くに助けてくれなかったのだ? 側に付いてくれていたのだろう? 近衛騎士が大分やられてしまった」
「そう言われましても、第二騎士団は王妃殿下並びに王太子殿下が外出されるお話など伺ってはおりませんでしたが? 私がここに来られたのは偶然です」
「はあ〜?」
ホランド王太子は驚愕し、信じられないという顔をしていた。
その後身分を隠したままの王妃と王太子は、慰問する目的だった養老ホームで第二騎士団が来てくれるのを待った。
襲撃者の生き残りの四人については、ルーカスが一応止血をした後に猿轡をして、体中縛り上げ、身動きできないようにしてから、狭い路地に転がしておいた。
その手際の良さに回りを囲んでいた野次馬達は目を見張った。
そして、
「すまないが、こいつらの仲間が助け出しに来るとまずいので、第二騎士団が来るまでみんなで見張っていてはくれないか?」
と、ルーカスに声をかけられて、彼らはようやくじっくりとその騎士の顔を見た。
そして、これまで目にしたことのない美丈夫に驚愕した後、みんな思わずこくこくと頷いたのだった。
十人の近衛騎士と二人の侍女が大怪我を負ったものの、ルーカスの応急処置のおかげで全員が一命を取りとめた。
胸にナイフを受けた御者役の騎士は、鎖帷子を着用していたので、気を失いはしたが、胸部の骨折だけで命には別状がなかった。
ホランド王太子以下近衛騎士達は、あの場にルーカスが来てくれなかったら、一体どうなっていたのかと想像して青褪めた。
まさか破落戸相手に追い詰められるなんて、彼らは誰一人思いもしなかった。油断していたのだ。剣も持っていない奴らなど相手にもならないと。
しかし、相手の方が荒事に慣れていた上に、彼らは決まった型のない自由気ままな戦い方をしたので、正統な剣術を学んできた者達にはその動きが読めず、振り回されっぱなしだった。
つまり敵の動きが予想不可能だったために、騎士達は防御するのに精一杯で、最後まで攻撃に転じることができなかったのだ。
しかしそうなることは端からわかっていたことだった。だからこそ王族が城から出る際には、市井のことをよく知る第二騎士団が護衛に加わっていたのだ。
近衛騎士達だって他の騎士団の騎士達とも交流があったので、そのことを頭では理解していたつもりだった。
しかし、実践経験がなかったせいで、突然の襲撃に上手く対処することができなかったのだ。
このホランド王太子殿下襲撃事件は、当然王城で大問題になった。市井で起きた事件なので今さら箝口令を敷くわけにもいかず、無かったことにはできなかったからだ。
かといって、大っぴらに王妃や近衛騎士団長を断罪すれば、ようやく持ち直してきたウエリン王国が、まだ不安定なのだと国内外に知らしめてしまう。
そこで宰相は、この醜聞から世間の関心を別のところへ向けさせることで、事件の終息を図ろうとした。
そう。息子である騎士ルーカスを、王太子と王妃を救った美貌の英雄として称え上げることで。
事実、ルーカスの八面六臂の活躍を目の当たりにしていた侍女や、養老ホームの従業員、そして野次馬達から、あっという間に噂が広がっていった。
その上さらに意図的に吹聴する輩がいたので、最初のころよりも色々と尾ひれがついて、国の思惑通りに、「女神に愛される超美形の英雄騎士」の伝説が出来上がっていったのだ。
あの事件の後、ルーカスが第二騎士団から近衛騎士団へ異動になったのは、事件解決の報奨、異例の出世による栄転だと世間からは思われていたが、実際は違う。
数え切れないほど彼の姿絵が出回ったせいで、顔が世間に知れ渡り、市井での仕事がやり辛くなったせいだった。
まあ、近衛騎士団の改革や訓練の指導を期待された、ということもたしかにあっただろう。
しかし、ルーカス自身は異動など望んではいなかったので甚だ迷惑な話だった。
案の定ルーカスが登城するようになると、城門辺りで大勢のご令嬢達から待ち伏せされるし、ようやく門をくぐれば女官や下働きの女性にまで囲まれるようになった。
そして以前にも増して、ご令嬢だけでなく、ご夫人や未亡人からまで手紙を送られ、パーティーにも招待された。
そのせいでルーカスの女性嫌いがますます加速していった。
しかも多くの人間から尊敬や憧れの対象になった反面、一部の男性からはやっかまれ、嫉妬されて恨みを買った。
そして最終的には、仲間のはずの騎士から城内で命まで狙われたのだった。
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