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第4章 切り裂かれたドレス


「このネックレスは新品ではございませんから、お気になさらなずお着け下さい。

 ドレスが華やかなのに首元にアクセサリーがないと、バランスが悪いですから。

 それに、腰にベルトをキツめに締めると、メリハリがついてもっと素敵になると思いますよ」

 

 ナタリアさんは手提げ鞄の中から今度は少し太めの白いベルトを取り出すと、私の腰にそのベルトを装着した。

 ドレスにベルトを着けるなんて、これまで見たことも聞いたこともなかった。

 いくらなんでも奇抜過ぎるのではと一瞬思ったのだが、実際に鏡で見てみると、確かにメリハリがつき、スッキリと引き締まったシルエットに見えた。

 

「凄い。まともなドレスに見える……」

 

 私が思わずこう呟くと、ナタリアさんは笑った。

 

「まともどころか、とっても素敵なドレスですよ。隣国では今アンシンメトリーのデザインが流行り出していますから、まさに、流行の最先端って感じですね。

 王太子妃殿下に嫉妬されてしまうのではないですか?」

 

「えっ?」

 

「妃殿下は隣国ブーリアン帝国のご出身でしょう? 

 あのお国には絶えず流行の最先端を求める新しい物好きの人間が多いそうで、妃殿下もその例に漏れないという噂ですよ。

 ただしこの国ニーディング王国はまだまだ閉鎖的で、伝統を重んじるので、これまでは妃殿下も逆らわずにいらっしゃったみたいですよ。

 でも半年後に王妃になられたら、もっと自由な服装をなさるのではないですかね」

 

 王太子妃殿下はとても清楚で愛らしい方だ。そう、吹けば飛んでしまいそうな華奢で儚げな風貌だ。

 確か私より五つも年上の二十一歳で、お子様もお産みになっているはずなのに、私と同じくらいの年齢に見える。

 そしてその風貌によく似合う、淡い色合いのシンプルなデザインのドレスをいつも身に着けていらっしゃる。けれどもあれは、ご本人の趣味ではなかったんだ。意外だわ。

 

「まあ、そうだったのですか。私は王城勤めをしていますが、下っ端ですから、全く知りませんでした」

 

 私が驚いたようにこう言うと、

 

「お嬢様もすぐに王妃殿下の本性がわかりますよ」

 

 ナタリアさんが何かぼやくように呟いていたが、私にはよく聞き取れなかった。


「あの、私のことはクリスティナとお呼びください」


 私がそうお願いすると、彼女は嬉しそうな顔をした。

 

「それにしても、カイトン卿の妹君もデビュタントだったのですね。

 もしかしたら、妹君のエスコートをするためにこちらにいらっしゃったのですか?」

 

「ええ。ルーカス様はサリーナ様をエスコートするために王城までいらっしゃったのですが、到着した途端にご用済みになってしまったのです」

 

 ご用済み? なぜ? これからが本番でしょうに。

 

「実はサリーナ様のエスコートは元々婚約者の方がなさる予定だったのですが、急に出張の予定が入ったので、ルーカス様がその代理を務めることになったのです。

 本来ルーカス様は王家の護衛をする予定だったので、休暇を取るなんて不可能な話だったのですが、そもそも婚約者様に無理な出張を入れたのが王家だったので、すんなり休暇を認めて下さったそうなんです」

 

「なるほどそうだったんですね。驚きました。カイトン卿が騎士服ではなくてタキシード姿だったので」

 

「ええ。ルーカス様のタキシード姿が見られるなんて僥倖ですわ。

 騎士服の凛々しさもいいですが、タキシード姿も色気があってたまりませんわ」

 

 ナタリアさんはお淑やかな風貌でありながら、性格はかなり明るい人のようだ。たまりませんわ、だなんて、まるで前世のオタク気質の私に似ているかも。

 実は、私はこの世界とは異なる別の世界からの転生者だ。

 その世界にはオタクと呼ばれている人々がいた。その意味は、ある特定の対象に対して並々ならぬ情熱を傾ける人のことだ。

 ちなみに私は節約とリメイクと手作りに嵌っていたのだが、せっかく別の世界に転生したというのに、やはり同じことが好きだなんて嘘みたいだ。

 貧しい一般家庭じゃなくて、今度はせっかく貴族令嬢に転生したというのに。


 それにしても、私としてはタキシード姿もいいけれど、一押しは白のシャツ姿だわ。特にナイフで切り裂かれた背中にはゾゾッときたわ。

 

 いけない、いけない。

 

 これでは完全に危ない人間だわ。まるでサドか痴女みたいじゃないの。

 あれは漫画やアニメのワンシーンじゃないのよ。一歩間違っていたら、大変なことになってたかもしれないないのに。

 

 でもあの時、ヒーローを守って死ねるのなら、私にも生まれてきた意味があるんじゃないかしらって、恐怖よりも恍惚としていた。

 あれって前世の記憶によるものではなく、小さな頃から両親や姉に虐待されてきて、感覚が麻痺していたのだと思う。

 そう。疲れていたのだわ。精神的なものに加えて、肉体的にもかなり……

 

 まあ、あの後、カイトン卿の切り裂かれた儀礼用の上着を繕うのに必死で、死への淡い誘惑はいつの間にか消え去っていたけれど。 

 

 そして私が前世の記憶を思い出したのは、あの事件から少し経ったころだった。

 そう。ほんの五日前、姉に私のデビュタント用のドレスを引き裂かれたその瞬間だった。


 読んでくださってありがとうございました。

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