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第35章 一途な三兄弟

 

 私が俯いていると、ケイト様が侍女の方に、

 

「ウェンリーを呼んでちょうだい」

 

 と言った。

 

 そして間もなくカイトン伯爵家の嫡男のウェンリー様が応接室にやって来た。

 その人物は、ケイト様やルーカス様と同じダークブラウンの短髪に薄茶色の瞳をしていていた。

 彼もまたかなり整った顔立ちをしていたが、ルーカス様とはあまり似ていなかった。

 ただウェンリー様はケイト様に瓜二つなので、おそらくルーカス様は伯爵様に似ているのだろうと思った。先代伯爵にもよく似ているらしいし。

 妹のサリーナ様は金髪碧眼で顔はルーカス様に似ていたから、つまり彼女は父親に瓜二つなんだろうな。

 ではご次男はどの組み合わせなのかしら?

 

 涙ぐみながらもそんなことを考えていたら、ウェンリー様は母親であるケイト様に向かってこう言った。

 

「お客様を泣かせてどうするんですか! 

 いくら母上がクリスティナ嬢を娘のように思っているからって、それは勝手な思い込みですからね!

 きつい言い方をしたら駄目でしょう」

 

「泣かせてなんていないわ。ただアダムス様の指導方法に文句を言っていただけよ。

 そしてこれ以上危ない真似はしないでと伝えただけだわ」

 

「本当ですか、クリスティナ嬢?」

 

 

 ウェンリー様の問に私は声を出さないでコクリと頷いた。だって言葉を発してしまったら、本当に泣きそうだったから。

 たしかに厳しい物言いだったけれど、それは実の母親の厳しさとは違う、本当に私を心配している愛情のこもったものだった。

 そう、ずっと気付けなかった亡き祖母や、ホールズ室長と同じ温かみのある苦言だった。

 私は要らない人間なんかじゃなかったのだとようやく納得できた。だから泣いていた理由は嬉し涙が半分、そしてルーカス様が天の巡り合わせなんかではなくて、カイトン伯爵家の指示だったからだと知った悲しみの涙が半分だった。

 

 

「それにね、どうもルーカスのことを誤解しているみたいなのよ。

 貴方から説明してあげてくれないかしら。あの子は別に私達の命令でクリスティナ嬢を助けていたわけじゃないってことを」

 

「えっ? そうなの?」


「こういうことって、母親の口から説明するのはむず痒いものだから、兄の貴方から話してちょうだい。

 三人の中で一番口が達者だし、年下の女の子を誑かすのは得意でしょ」

 

「人に誤解されるような言い方は止めてください。彼女とは確かに六歳離れていますが、彼女の精神年齢は高いから、私達は実質大して差はないのですよ」

 

「そりゃあ、あの子ももう十八ですからね。でも、貴方が彼女に婚約を申し込んだときは、まだ十二歳だったのよ。

 幼女趣味よね。怖いわ」

 

「十二歳は幼女ではありません」

 

「でも二桁になる前から好きだったのだからやっぱり幼女趣味でしょ。いくら幼なじみで『お兄様、大好き』なんて抱きつかれていたとしてもよ」

 

 えっ? 

 

 ウェンリー様には婚約者がいるのですか?

 たしかカイトン伯爵家の三兄弟は女性に興味がないのでは?

 私は驚いたというより意外そうな顔をしたようで、二人は私の疑問に気付き、少し困ったように微笑んだ。

 

「巷では我が家の息子達が女嫌いだと噂されているみたいだけれど、それは違うのよ。

 単に三人とも一途な性格で、一人の好きな女性以外には興味がないだけなの。

 長男には大分前から婚約者がいて、お相手が半年後に学院を卒業したら結婚することになっているのよ。諸事情で公にはしていないけれど。

 次男にも好きな人がいるのだけれど、お相手に事情があってまだ婚約できないの。

 そして三番目はたしかに基本女嫌いだけれど、好きな女の子はいるのよ。 

 ヘタレで告白できずにいるけど、ずっとその子のことばかり考えているのよ」

 

 ケイト様の説明を聞いて、またもや涙が自然と溢れてきてしまった。

 ルーカス様には一途に思う方がいる。

 そうよ。いて当たり前だ。だって彼はもう立派な大人だ。そしてあんなに素敵なのだから、結婚していない方が不思議なくらいだ。

 なぜさっさと告白しないの?

 ルーカス様に告白されて断る人なんていないわ。

 身分違い? そうでなければ、もしかしてお相手には婚約者がいて許されない恋のパターン?

 私なんてただのファンみたいなものだから、押しが幸せになるなら応援をしなくちゃいけない……とは思う。

 でも、生憎転生前は推し活なんてしていなかったから、心構えができていないわ。

 どうせ報われないと分かっていながら勝手に好きになったのに、やっぱりショックを受けて泣いている駄目な私。

 

「やっぱり母上が泣かせているんじゃないですか!

 彼女に誤解させているのは貴女ですよ。

 このままだと母上はルーカスだけじゃなく、ハルディンからも恨まれますよ。

 クリスティナ嬢が幸せにならないうちは自分も幸せになれないと、ナタリアからプロポーズをさせてもらえないのですからね」

 

 えっ?

 

 ハルディン様というのは、こちらの次男の方ですよね。城で文官をなさっているという。

 ナタリアさんの恋人なのですか? 

 いわゆる貴族のご子息様とメイドの禁じられた恋っていうやつですか?

 でもそこにどうして私が関係しているのですか?

 

 情報過多で二人の話がよく理解できない。

 

「ほらやっぱり私には無理でしょ。

 貴方に任せるから上手く説明しておいてね。ルーカスが夕方帰宅するまでに。そうすれば夕食はみんな楽しく摂れるから」

 

 ケイト様はどうやらウェンリー様に全て丸投げするつもりらしく、ニコッと私に笑って優雅に部屋から出て行ってしまった。

 私が呆気に取られていると、ウェンリー様は深くため息を吐きながら苦笑いをした。

 

「意外でしょ?

 母はしっかり者で弁が立つし、大概のことでは相手を言い負かすのに、恋愛事だけはからっきし苦手なのですよ。

 だから父も母を落とすのに相当苦労したのですよ」

 

「そのお話はルーカス様からお聞きしました」

 

「でもそのルーカスも母と同じで恋愛事にはかなり鈍感で、しかも不器用なんだ。そしてすぐ下の弟のハルディンも、やはりあの母に似てしまってね、もう何年も恋煩いをしていて、周りの人間をヤキモキさせているのだよ」

 

「それはケイト様から先ほどお聞きしました。ルーカス様とウェンリー様は一途だと」


 私がそう言うと、

 

「一途といったら私が一番だと思うよ。ただし、私が幼女趣味というのは違うからね」

 

 と、ウェンリー様は眉間にしわをよせて真剣な顔で言ったのだった。

 


読んでくださってありがとうございました。

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