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第31章 美少女ヒーロー

第31章 美少女ヒーロー

 

「貴女達は何を大声ではしゃいでいるの、お客様の前ではしたないでしょ!」

 

 カイトン伯爵夫人は眉をキリッと吊り上げて低い声で叱ると、二人は「またね!」と早口で言いながらそそくさと部屋から出て行った。

 すると夫人は「まったく困った子達ね」と言いながら、私に笑顔を見せた。

 アルカイックスマイルなどではない、自然で慈愛のこもった笑みだった。

 

「あの二人、普段お客様の前では完璧な淑女なのよ。でも、昨日貴女を招待していると話したら、ずっとあんな感じでハイテンションなの。

 憧れている舞台のトップスターにようやく会えることになった……みたいな状態なのだと思うの」

 

「はい?」

 

 意味がよくわからないのですが。

 

「実はね、貴女の話は以前から我が家の話題によく上がっていたのよ。特に身内の騎士をしている子供達が集まったときなどにね。

 だって、貴女の武勇伝は次々更新されていくんですもの。

 だからサリーナだけじゃなく、ナタリアを筆頭に使用人達も貴女に憧れていたのよ。弱きを助け強きを挫く美少女。かっこいいって。

 それに貴女が修道院のバザー用に作っている小物が学園で大流行りしているらしくて、貴女を崇拝しているご令嬢もたくさんいるそうよ。

 でも貴女は学園には通っていないし、学生では王城への入城は簡単には許可されないわ。

 それならと礼拝堂へ行っても、貴女はほとんど人前に出ないみたいだから、会う機会はそうそうないでしょ?

 だから余計に娘も使用人達も、みんなずっと貴女に会いたがっていたのよ。

 それが前回のデビュータントの夜会で、ナタリアが一足先に貴女に会って話をしたでしょう?

 とっても素敵な方だったとため息混じりにつぶやいたので、話のできなかったサリーナがそれに嫉妬してそりゃあ大変だったのよ」


 夫人の説明に喫驚してしまった。

 私はひたすら地味に過ごしてきたと思っていたのに、城以外でもそんなに目立っていたとは。

 ルーカス様が私をあんなにも心配してくれていた理由をようやく理解した。加害者から見たら私は憎むべき敵ですものね。

 

 私は王城以外の場所で犯罪者に遭遇したとき、男女関係なく顔の頬部分に吹き矢で傷を付けた。

 できれば小刀で格好良くバツ印でも付けてやりたかったが、近距離攻撃は危険なのでそれはやらなかった。

 接近したのは、ルーカス様がコルギー侯爵家の次男に背中から襲われたときだけ。

 

 なぜ傷を付けたのかといえば、その傷(後々まで残るような傷ではない)が犯人の目印になって逮捕のきっかけになればいいと考えたからだ。


 以前ルーカス様が私を破落戸(ごろつき)達から助け出してくれた時、一人では全員の逮捕はできないとまず一人だけ気絶させて確保し、逃げようとした残りのやつらの足の太腿だけを狙って切りつけたのだ。

 それは後で仲間達とともに犯人を追う際の目印にするためだった。もちろんその傷跡のおかげで残りの破落戸は逮捕された。

 

 私が傷をつけた犯人達は未だ牢獄か地方で労働刑に服しているはずだ。

 けれど、もしその仲間にでも目撃されていたら、逆恨みされる恐れもあったのだと、今ごろそんなことに気付いた世間知らずな私だった。

 

 それにしても、私は無意識に前世の戦隊ヒーローもののような真似をしていたわけですね。恥ずかしい限りです。


「それにしてもアダムス様にも困ったものよね。何事にもほどほどというものがあるでしょうに」

 

 突然カイトン伯爵夫人がボソッとこう呟くのが聞こえてきた。

 アダムス様って、私に護身術を教えてくれたあのアダムス様のことだろうか? 

 

「ケイト様、それは祖母の知人の元騎士様のことでしょうか? 我が家のご近所に住んでいる?」

 

 私がそう尋ねると、夫人は一瞬キョトンとした。ちなみに「ライラックの会」での別れ際にお名前呼びを許されていた。

 

「ご近所? ああ、そういう設定になっていたのね」

 

「設定?」

 

「アダムス様のご自宅は王城の側にあるのよ。騎士団長をなさっていたから。そこからわざわざ貴女に逢うために出かけていたのよ。貴女を守るために」

 

「アダムス様は騎士団長だったのですか?」

 

「ええ、以前はね。もう引退されているけれど。

 貴女は、アダムス様から護身術を教えてもらえるようになったのは、ヘレナ先生繋がりだと思っているかもしれないけれど、依頼したのは前子爵様のチャールズ様の方なのよ。

 アダムス様は若いころ、チャールズ様の護衛をしていたから」

 

「祖父には護衛が付いていたのですか?」

 

「もちろんよ。だって本来は王家の血を引く王子で、しかも伝説の『すみれ色の瞳』の持ち主だったのだから。

 それに、チャールズ様はとにかく何をやらせても簡単にこなしてしまうほど優秀な方だったせいで、他人から嫉妬されてしまうしね。

 この前の会合でローランド伯爵夫人が、前子爵のことを無能呼ばわりしていたけれど、それは事実じゃないの。とにかく見目麗しい上に有能な方だったのよ」

 

「若いころの祖父はルーカス様みたいに素敵だったのですか?」

 

 思わずそう言ってしまって、慌てて両手で口を塞いだ。ケイト様は意表を突かれたような顔をしたが、うふふっと笑った。

 

「貴女にとってルーカスはそう見えるのね。それを知ったらあの子も飛び上がって喜ぶと思うわ」

 

 と。しかし、その後すぐ真顔になってこう言った。

 

「話をチャールズ様に戻すけれど、夫としての評価は私の口からは何とも言えないけれど、あの方が優秀だったことには間違ないの」

 

 そしてこう話を続けた。

 

「でもそれが仇になって、王太子の強い妬みを買ってしまったのよ。 

 陛下は、官僚となった子爵を宰相付きとして登用して、王太子より信頼していたから。

 もちろんだからといって、殿下が命令をしたのかどうかは結局わからなかったわ。本当に周りの者が勝手に忖度したのかもしれないし。

 まあどちらにせよ、さすがに子爵が王城で狙われるだなんて陛下も思っていなかったでしょう」

 

(まさかお祖父様が車椅子に乗る生活になったのは……)

 

 背中に冷や汗が流れた。


 読んでくださってありがとうございました。

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