第30章 初めての女子会
私は立ち上がって深々とサリーナ様に頭を下げた。
そしてお互いに自己紹介をした後で、私は彼女にゴードンから守ってもらった礼を述べてから、パッチワークキルトで作ったクッションを手渡した。
「まあ~キレイ。一面にお花が咲いているみたい。それに触るとふわふわしているわ。お友達に見せてもらったものとは違うわね」
サリーナ様は瞳をきらきらさせて言った。喜んでもらえて何よりだ。
「これはパッチワークキルトというものです。パッチワークされた表生地と裏地の間には綿が挟まれているのです」
「綿? そんな高価なものを?」
サリーナ様が驚かれるのも当然だ。
私からすれば綿なんて簡単に手に入るものだという認識だったが、この世界ではまだ貴重で滅多に手に入らない。
なにせ隣国でようやく紡績工場が造られたばかりだったから。
それをどうやって私が手に入れられたのかというと、ちょうどゴードンが例の事件を起こしていたころ、寮に届いた荷の中に入っていたのだ。
送り主は南方のとある国で紡績工場を営んでいる伯爵家のご令嬢。
私が社交界デビューする一月ほど前、仕事帰りに、ご令嬢が裏路地に引きずり込まれるところを偶然目にして、例の吹き矢を使って助けたのだ。
彼女は営業のために我が国を訪れていた父親に同行してやって来た。ところが、観光をしている時に父親や侍従とはぐれてしまい、一人でいたところを破落戸に狙われたのだった。
私は名乗るつもりなどなかったのだが、彼女の手を引いて警邏隊の詰め所を訪れると、その日の当番の騎士が顔見知りだったので、すぐに立ち去ることができなかった。
その後父親である伯爵とご令嬢にとにかく感謝され、何か礼がしたいと強く求められてしまったのだ。
そのときに私は、伯爵が紡績工場を営んでいることを思い出してキルト芯が欲しいと思ってしまった。
そしてパッワークキルトが趣味だと話して、できればそれに使う特殊な生地を欲していることを伝えた。
表生地と裏生地の間に薄い綿を挟んで、粗い目で大雑把でいいから縫い合わせた生地が欲しいと。
それが無理なら生地状の綿がほしいと。
すると伯爵は驚いた顔をしてしばらく考え込んでいたが、やがて、
「面白そうだ。帰国したらすぐに商品開発をして、完成したらお贈りしますよ」
と言ってくれたのだった。
引っ越しはまだ済んではいなかったが、もちろん届け先の住所は王城宛にしておいた。
私自身はそんなことなどすっかり忘れていたのだが、あちらはとても義理堅い方だったらしく、今週の頭にそれをわざわざ送ってきてくれたというわけだ。
いわゆるキルティング生地とキルト芯の両方を。
「呆れた。ルーカスお兄様が言っていた通りの方なのね。貴女って人助けが趣味なの?」
ナタリアさんまで同意見だというように頷いている。
「趣味ってわけではありません。
ただ女性が危険な目に遭っていたら見過ごせないだけです。同じ女性として」
「でも貴女の場合、女性や子供とか関係なく人助けしているでしょ。
なにせ英雄だと評されているお兄様まで助けようとして、加害者に刃物を持って立ち向かったというのだから。
もちろん妹としては感謝しているけれど、お兄様は助けてもらった安堵感より、これから貴女が逆恨みされてしまうのではないかって、それはもう心配していたのですよ。
相手も結構爵位の高い家の人間だったから。
それにこれからも色々な揉め事に首を突っ込んで、危険な目に遭ったらどうしようかって、毎日貴女のことが心配で落ち着かなかったのよ」
「「えーっ!」」
私は自分のせいでルーカス様に要らぬ心配をかけていたと知って驚いたのだが、ナタリアさんは違っていた。
「きゃあ〜。
愛する人のために我が身の危険を顧みずに凶悪犯に立ち向かうなんて なんて健気なヒロインなんでしょう!
そして怪我を負いながらも自分よりも恋人を心配する英雄騎士様!
身分違いなんてなんのそのですわ。このお二人は運命の相手同士ですわ。絶対に結ばれなければならないわ。
サリーナお嬢様! どうか私と一緒に協力して応援してください!」
「もちろんよ、ナタリア!」
何を言っているんですか! その女子会のような盛り上がり方はやめてください。伯爵夫人に聞かれたら大変なことになりますよ。
しかしそのうち話題は恋愛話から離れたので、私もようやく話に加わることができて、三人で楽しく会話を楽しんだ。
亡き祖母が言っていた淑女の鑑のようなサリーナ様が、こんなにざっくばらんな方だとは思わなかった。
美しくて賢くて優しくて、その上身分の上下関係なく接してくださるなんて、なんて素敵な方なのだろう。
もし学園に通っていたら、彼女の同級生として友人になれた可能性もあったのかしら。
そう考えると、少し残念な気持ちになった。
その時、ナタリアさんから私と友人となった話を聞いたサリーナ様が、ぷくっと頬を膨らませた。
「ずるいわ、ナタリア。抜けがけをするなんて。私が一番に友人になりたかったなのに。
クリスティーナ様、ぜひとも私とも友人になってくださいませ。できれば親友に」
「もちろんでございます。大変光栄です」
「ずるいです、サリーナお嬢様。私も親友にしてください」
再び二人がハイテンションになったその瞬間、ノックとともに夫人のキリッとした声が響いたのだった。
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