第28章 ツギハギドレスの評価
前国王って周りの人達の言う通りに本当にクズだったのね。そんな倫理観のない人間が国王だったのだから、王家に人気がないのも当たり前だと思う。
王妃は元筆頭侯爵家の令嬢で、かなりプライドの高い方らしいから、国王である夫がカイトン伯爵家に頭が上がらない状態を不満に思っているのかも。
でも、前国王のしたことを知らないのかしら?
いいえ、もしかしたら現カイトン伯爵を好きだったからカイトン伯爵家を嫌っているのかも。
(単なる勝手な私の妄想だけれど)
なるほど、だからあの夜会でデビュタントである私を睨んだのね。ルーカス様にエスコートされていたから。
まさか、夜会が始まる直前に婚約破棄された哀れなデビュタントを、優しい彼がたまたまそのエスコートの役を買って出ただけ、だなんてわからないものね。
恋人だと勘違いされたのだろう。
あのきつい目は、ツギハギドレスだけが理由ではなかったんだ。
シェリル殿下はともかく、カイトン伯爵家を疎ましく思っている王家とは絶対に関わりたくないなあ。この瞳のこともあるし。
そうなると、王家御用達を狙っているらしいカラッティー商会とも距離を取った方がいいわね。
ナタリアさんとは個人的に仲良くしてもらいたいと思っていたけれど。
やっぱり私は、このまま王城のお針子として一生過ごすわ。そしてこっそりとルーカス様を見ていられたらそれで幸せだ。
でも私は決してストーカーなんかじゃないわ。だから追っかけをするつもりもない。
ただ、できれば陰から何かお役に立てるような推し活はしたいと思うけれど。
「私は御用達になることを別に急いではいませんわ。ですが、王太子妃殿下が王妃殿下になられるのも間近とお聞きしていますわ。
そうなれば、もう、ご自由に御用達の商会も決められるのではないですか?
現在の伝統だけを頑なに踏襲しているデザインのドレスに、ファッションの最先端である隣国から嫁がれてきた殿下は、うんざりなさっていらっしゃるのではないですか?
正直他国から笑い者になっていますものね、我が国の王族は」
うわぁ~。カラッティー商会の会長ってずいぶんとはっきり物を言うのですね。普通なら不敬罪で逮捕されるのでは?
まあ、おそらくここは無礼講みたいだけれど。
案の定妃殿下は困ったような顔をしただけで、腹を立てる様子はなかった。
「そもそも私としては、カラッティー商会を御用達にする気はないの。
ただクリスティナ嬢とナタリアさんのコンビに一着でいいからドレスを仕立ててもらいたいとは思っているけれど」
「どうしてもうちの商会はだめですか?」
「ええ。依怙贔屓はいけないもの。
それに真面目に仕事をしてきた者達を、好みが合わないからとばっさり切り捨てる真似はできないし。
どこで恨みを買うかわからないもの。
ただし、私が王妃になったら、ドレスを決まった洋裁店だけで作るようなことはしないつもりよ。衣装は適材適所で着分けるべきだから。
貴女の言う通り、社交用の王族のドレスってサイテーだもの。
博物館の展示品みたいな時代錯誤の服を着ていて、恥ずかしくないのかしらと私も思うわ。
この国の王族ってみんな美的センスがないのかしら?
世界の笑い者だっていうのに。
息子にはあんなダサい服は絶対に着させないわ。
今お腹にいる子が娘ならなおさらにね」
「まったく、おっしゃるとおりでございます」
わあ~。
あんなに愛らしくて花の妖精のように可憐な方なのに、シェリル殿下って毒舌キャラだったのか! ギャップ萌えしそう!
カラッティー商会長は見かけ通りのやりてババア(下品だけど)って感じで期待を裏切っていないけど。
「あっ、話が横道にそれてしまったわ。
ねぇ、私専属のお針子になってもらえないかしら」
妃殿下から愛らしい笑顔でこう懇願されたが、私は丁寧に断りを入れた。
今の職場が天職だから、定年まであそこで勤めたいと思っていると。
普段滅多に表情を変えないホールズ室長がなぜかドヤ顔をしていて、妃殿下や商会長、辺境伯夫人が悔しそうな顔をしていた。
そして最初のうち悔しそうにしていたシェリル殿下だっが、やがて諦めたようにこう言った。
「貴女みたいな天才を独り占めにはできないわよね。わかったわ。
でも、せめて一着でいいからナタリアさんと共同でドレスを作ってくれないかしら。
先月の夜会のときの貴女のデビュタント用のドレスみたいな、最先端のシンメトリーのドレスを。斬新でとっても素敵だったわ」
「私は生憎拝見できなかったのですが、それはもうキリッとシャープで素晴らしいドレスだったそうですね。
娘のナタリアが絶賛していました。
そしていつか一緒に仕事をさせてもらいたいと申しておりました。
今度、どうか私にもそのドレスを拝見させてくださいませ」
素敵? あのツギハギドレスが?
必死に繕ったら、たまたまシンメトリーのあの形になっただけなんですけど。
あの夜会でみんなに注目されていたのは、みっともないツギハギだらけのドレスを着ているからだと思っていた。
けれど、あの視線は軽蔑や嘲りではなかったということなの?
まあ、男性の方々は斬新過ぎたのか、どう見ても引いていたけれど。
あっ、そうか。
縫い目が人にわからなかったのか。ドレス生地と縫い糸が全く同じ色だったから。
あのルーカス様の儀礼用の上着を繕ったときみたいに。
そう、白と言っても光沢や質感で微妙に違うのだ。
私は洋裁や手芸が得意だ。でもデザインする才能はあまりない。
だから、最新式のドレスをつくるには、やっぱりお洒落でセンスのいいナタリアさんと共同でないと無理よね。
それにしても、王城の化粧室でナタリアさんが言っていたことが本当になった。
まさか王太子妃殿下とお知り合いになるなんて夢にも思わなかったわ。
しかもあのツギハギドレスが気に入られていただなんて。
「王太子妃殿下、カラッティー商会長、もし上司から副業の許可が下り、ナタリアさんからも同意が得られましたら、是非殿下のドレスを作らせていただきたいと存じます」
私がこう応じると、二人は期待を込めた眼差しでホールズ室長を見つめた。
すると、彼女は仕方ないわねとため息を漏らしながら、しぶしぶとそれを認めてくれたのだった。
読んでくださってありがとうございました。
誤字脱字報告、いつもありがとうございます。




