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第24章 祖母と母の確執


 カイトン伯爵夫人から祖父チャールズの話を聞かされた私は驚愕した。

 しかし落ち着いて考えみたら、母はともかく姉や私くらいになると、王家の血筋とはいえ、それはもはや傍流の傍流。大して尊い血でもないと気付いた。

 そんな人間は他にもたくさんいるだろうと。

 しかも公にできない婚外子の血筋では、知られたら寧ろ周りから疎まれるだけだ。

 それなのになぜ私をダイキント子爵が引き入れようとしたのかといえば、「スミレ色の瞳の伝説」のせいだったのか。

 

 カントン伯爵夫人は言った。

 

「これでわかったでしょう? なぜ子爵があなたを狙っていたのかを。

 ただ単純に王家の血筋だからあなたを家に取り込もうとしているわけではないの。

 その証拠にあなたのお姉様とは縁を結びたがってはいないわ」

 

「そう言われればそうですね。

 でも、それは姉に問題があるからではないですか? 

 淑女教育は終了していないし、引きこもっていて社交ができないですし」

 

「もちろんそれもあるでしょう。

 でも、もし彼女に問題がなかったとしても、なんのメリットもない彼女をわざわざそこまでして子爵家は望まなかったと思うわ。

 彼女はあなたと違って伝説のスミレ色の瞳を持っていないのだから。

 おそらく彼はあなたを使って王家に取り入りたかったのでしょう。

 王家にはかつてほどの威光はありません。

 ですから伝説の瞳を持つ者を身近に置けば、必ずやその栄光を取り戻せますよ、とでもアピールするつもりだのかもしれないわ」

 

 王太子妃殿下のシェリル様が確信しているように言った。

 いくら身内とはいえ王家に威光がないだなんて、そんな不敬なことをはっきり口にして大丈夫なのかしら? 

 あっ、大丈夫そうだ。皆様頷いたから。

 

 

 それにしても、私のスミレ色の瞳にそんな曰くがあったとは………

 

 

 

 青や緑や茶色の瞳が一般的なこの国で、私のスミレ色の瞳が珍しいことは何となくわかっていた。

 亡くなった祖母や護身術の師匠である元騎士のアダムス様からは、綺麗な瞳だねとよく褒められていた。

 祖父はなぜか切なそうな顔をして、いつも私の顔を見つめながら無言で優しく頭をなでてくれた。

 

 けれど、両親からは変な色、誰に似たんだと疎まれて、前髪で人に見られないように隠せと言われてきた。

 両親はともに青い瞳で姉も同じだった。

 それなのに、私だけが違う色だったから、自分が不貞したと思われそうで嫌だと母は言っていた。

 両家の親族の中にも私と同じ瞳の色をした人間などいなかったからだ。

 

クリス(クリスティナ)が貴方達の娘だと、自分達が一番良く分かっているのに、なぜそんな馬鹿なことを言っているの? 

 これは先祖返りといって、昔のご先祖様の血が稀に現われた現象なの。クリスには何の責任もないのよ」

 

 祖母はそう諭してくれたが、両親が素直にそれを聞き入れるわけがなかった。

 

「すぐそうやって知識があることを振りかざすのだから嫌になっちゃうわ。

 世の中お母様みたいに教養がある人間ばかりじゃないのだから、この子を人前に出したら、誰の子種だと疑われて悪い噂を立てられるのは目に見えているわ。

 だからこの子には社交をさせないし、もちろん学園にも入れないわ。

 まあ、どうせ入学試験に合格するわけがないけど」

 

「クリスに教育を与えないつもりなの? 

 それは貴族としての義務を放棄することなのよ?」

 

「今まで通りにお母様が教えたらいいじゃない。

 お母様は学園時代、三年間次席だったくらい優秀だったのだから。

 いいえ、実質はずっと首席だったのでしょう? 同級生に王女殿下がいたから譲らされたのでしょう?

 お母様の実家のバークマン伯爵家って王家の忠犬だものね。落ち目の王家のいいなりになるなんて、本当に馬鹿よね。

 王太子殿下だけでなく、王女殿下まであまり賢くないとわかったら格好がつかないからって、いかさまするなんて。 

 えっ?自分は不正などしていないですって!

 わかってるわよ。いくら命令されたからと言って、堅物のお母様がわざと不正解を書き込むなんて思えないもの。

 そもそもレポート提出と試験のときだけしか学園に来なかったし、来ても特別室にいたのでしょう? 

 先生達も分かって協力していたのでしょう。王家もいっそ最初から入学させなければよかったのに。

 裏口だったのが見え見えよ。

 不敬? 今さら何言ってるのよ。

 誰もが家の中ではそう言ってるわよ。愚王兄妹だって。 

 大丈夫よ。外では王家の話なんて間違ってもしないから心配しなくてもいいわ。

 えっ、お母様のことを何で知っているのかですって?

 学園時代に教師や同級生達から散々言われたわ。

 あなたのお母様は首席で卒業したのに、どうしてあなたはそんなにできないの?って。

 頭の悪い私のような母親より、優秀な祖母が世話をした方がいいんじゃないの?」

 

「あなたは頭が悪いわけじゃないわ。むしろ地頭は良かったのよ。

 事実あなたは学園に入学できたし、成績が悪くても落第もせずにちゃんと卒業できたでしょ。怠けて勉強もしなかったのに。

 あなたの時代はすでに私の時代と違って不正は認められなかったわ。

 だから、普通は簡単には入学試験に合格できないし、たとえ入学してからも簡単に進級や卒業はできないのよ。

 でも、あなたとは違うのだから、キャロンにはちゃんと勉強させないと合格できないわ」

 

「私達の子だから大丈夫よ。

 それに、もし駄目でも問題ないわ。ご覧の通り今の私に学問なんかいらなかったのだから。

 いくら私が後継者といっても、宮廷貴族なんだから、実際に働くのは夫でしょ?

 つまり嫡女のキャロルにも余計な勉強なんて必要ないわ。働きに出るのは婿なんだから。

 でも、いずれ嫁に行くクリスのことが心配だというのなら、お母様が勝手に教育をすればいいだけじゃないの」




 思い出した。

 私の瞳の色のことがきっかけで祖母と母は言い争いになって、母は姉の躾はしなくていいと祖母に宣言したんだわ。

 そして元々嫌がっていた姉も大喜びして、祖母の元に近づかなくなった。

 でもその結果、マナーも教養も身に付かなかった姉は、デビュタントで大失敗して引きこもりになったのよね。

 当然進められていた婚約話は解消されて、その後どんなに両親が駆けずり回っても見合い話は一切来なかった。

 そして祖母の死後、私は平日は城で働き、四十分かけて歩いて帰宅した後も、食事の支度や片付けや掃除をさせられ、休日は父の手伝いや母の代わりに家政を担わせられていたのだ。

 

 それに比べて姉には家の中のことを何もさせていなかったのだから、せめて躾けだけはし直して欲しかった。

 貴族としての最低限のマナーが身に付いていない上に、社交が一切できない跡取り令嬢のところなんかに婿入りする者がいるわけはない。

 それなのに将来になんの展望もないまま、両親は姉が可哀想だとただ甘やかしてきた。目先のことしか考えずに。

 そしてダイキント子爵家に嫁ぐまで私に屋敷の中の仕事を手伝わせ、給料を取り上げ、飼い殺しにするつもりだったのだ。


 読んでくださってありがとうございました。

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