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第23章 ・・・第三視点による過去回想5・・・  


 このニーディング王国は大陸の国々の中でも最も古い建国である。


 争いが絶えなかったこの辺りの地域を一つにまとめたのは、絶大なカリスマ的な人気と神がかりな力を持っていたニーディング夫妻だった。

 そして当然彼らは国王と王妃と呼ばれるようになり、この国の始祖となった。

 国王は輝くような明るい金髪に青い瞳をしていた。

 そして王妃は焦げ茶色の髪に珍しいスミレ色の瞳をした、それはそれは美しい人だったらしい。

 しかしその儚げな見かけに反して、大剣を振り回して敵をなぎ倒すような女性だったという。

 

 この夫婦には五人の子供がいた。

 彼らは両親によく似て皆優秀で体力にも惠まれていた。ただ髪や瞳の色の組み合わせはそれぞれ異なっていた。

 やがてその中でも一番優秀だった長男が後継者になったのだが、彼の優れた手腕によって、王国はさらに発展していった。

 その二代目の国王は()()()()()()()()()をしてた。

 

 そしてその後、様々な髪や瞳の国王が誕生したが、大きく発展した時代の国王は決まってスミレ色の瞳をした王子、あるいは王女だったという。

 なぜか不思議なことに、スミレ色の瞳を持つ者に優れた人物が多かったようだ。

 こうしてスミレ色の瞳の伝説が生まれ、王家はスミレ色の子供の誕生を待望するようになったのだった。

 

 しかし時代が経つと滅多にスミレ色の瞳を持つ赤子は生まれてこなくなった。

 だからこそたとえ王族でなくても稀にスミレ色の瞳の人間が現れると、王家はその者を取り込むことに躍起になった。

 男なら王族の婿に、女なら妃にと。

 

 

 ✽✽✽


 

 そして今から約六十年ほど前、ニーディング王国の王家が長らく待ち望んでいた、()()()()()()を持つ赤ん坊が誕生した。 

 しかも二代目の国王と同じ金髪の男子。

 ところが、その事実を知ったのが遅過ぎた。

 もっと早く、そう、王太子妃が男子を産む前に分かっていたら、まだどうにかする手立てがあったかもしれない。

 しかし、今さら隣国の王女が産んだ王子を後継にしないわけにはいかなかった。

 せっかく結ばれた友好条約を反古することになってしまうからだ。

 かと言って伝説の赤子を見捨ててしまえば、この国にどんな災いが起きるかわからない。

 

 国王と王太子は、生まれた子を王家とは縁の深い高位貴族の家の養子として受け入れてもらえるように手配しよう、と言った。

 スミスン子爵が離縁する意向ならば、夫人は乳母として子供の側に居られるように配慮すると。

 そう提案された子爵はそれに従うと応じたが、夫人はそれを拒否した。

 自分は母親であり、乳母などにはならないと。

 

「殿下の愛人にでもなれると思っているのか? 

 子供と一緒でなければそれも可能かもしれないが、後継争いの元になる子供と一緒に暮らすのは無理だ。

 もし、子供と暮らしたいのならば、高位貴族の家に養子に出し、そこでお前も雇ってもらうしか方法はないだろう」

 

 子爵が妻に子供の将来を考えろと諭すと、妻は赤ン坊を抱いたまま彼の前で跪き、頭を垂れて懇請した。

 このまま形だけの家族でいいから子爵家に置いて欲しいと。

 

「最低限の暮らしと、息子に人並みの教育を受けさせてもらえるのなら、実質はメイドでもかまわないし、愛する女性ができたら一緒に暮らしてもらっても構いません。

 そしてその方との間に生まれたお子をどうか後継にしてください。

 ただ息子は子爵家の子として他家へ婿養子に出して欲しいのです。

 息子が無事結婚できたら、すぐに旦那様には離縁してもらって屋敷から出て行きますから」

 

 子爵夫人は息子を絶対に手放さないと訴えた。

 そしてその途中で彼女は、お腹を空かして泣き出した子供に、陛下の御前だというのに母乳を与え始めた。

 それを見た男性三人は呆気にとられた。

 そして女性が授乳している姿を初めて目にして、畏敬の念を持った。

 

 結局国王親子は彼女の願いを叶えることにした。

 とはいえ、国王の孫を実質メイドの子供のような暮らしをさせるわけにはいかない。

 衣食住及び教育費は王太子の私費から支払わせて欲しい、とスミスン子爵に申し出た。

 もちろん、子爵家の乗っ取りなどは言語道断であるため、第二夫人を娶ってもらい、その女性との子を正統な後継者として欲しいと頭を下げた。

 そこまで言われれば、子爵もそれを受諾するしかなかった。

 彼もまた、王家に対する忠誠心の強いバークマン伯爵家に連なる一族だったからだ。

 

 

 しかし、その後スミスン子爵が第二夫人を娶ることはなかった。

 最初に宣言した通り、妻は一切着飾らず、贅沢をせず、身を粉にして夫や子爵家に尽くした。その姿に絆されてしまったからだ。

 その後二人の間には娘が二人誕生した。それでも夫は不義の息子を実の娘と変わらずに接した。

 そして、その息子が十五歳になったとき、子爵は息子に跡を継がせると宣言した。

 それを聞いた妻と真実を知らされていた息子は仰天し、跡を取るのは妹にして欲しいと二人で訴えた。

 しかし娘達にはすでに似合いの婚約者を決定していて、嫁に出すことになっているから駄目だと言われてしまった。

 

 子爵夫人は息子を愛していたが、それと同じくらい夫を大切に思うようになっていた。

 夫の血を引いていない息子をスミスン子爵家の後継ぎにするなんて考えられなかった。

 貴族の家にとって血の繋がりは最も大切にするものだったからだ。

 困った彼女は十五年振りに、現在は国王になっている元恋人に手紙を送った。

 すると、それから半月後に王家から子爵家の息子に縁談の話が舞い込んだ。

 

 そしてその相手というのが、スミスン子爵家の本家筋に当たるバークマン伯爵家の令嬢で、まだ十二歳のヘレナだったのだ。

 彼女はスミスン子爵に繋がる血筋の娘だったからだ。

 しかも、才気煥発でしっかりしたご令嬢だと評判だったので、彼女ならやはり天才と言われながらも、真面目過ぎて気が弱い嫡男の妻を支えて上手くやってくれるだろう、という王家の判断だった。

 

 王家はスミスン子爵家をどうしても守りたかった。そしてその嫡男チャールズに陰で王太子()を支えてもらわなければならなかった。

 王太子の出来があまり良くなかったからだ。

 王家の不甲斐なさのせいで、国政など全く無縁であるはずのご令嬢が重荷を背負わされることになったのだ。

 せめて王家の秘密とやらを早めに教えてもらえていたら、才媛と呼ばれたヘレナのことだから、もっと上手く立ち回われただろう。

 姑とや夫や子供との関係も。そして、夫を守ることも……

 せいぜい彼女ができたのは、下の孫娘を守るための下準備くらいだった。

 まあ、せいぜいといいながら、それはかなり強大な防御?いや防衛とまで呼べるような体制にまでなっていたが。

 読んでくださってありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 伝説と不倫と遠慮と執着みたいなものが複雑に絡み合って淀んだものがヘレナとクリスティナに襲い掛かってますね。 まあでもこの流れならどう考えても本家の血筋のヘレナを大事にすべきだよなあって思って…
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