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第22章・・・第三視点による過去回想4・・・


 クリスティナの母方の祖父、つまりのスミスン前子爵の母親メリッサは男爵令嬢だった。

 とにかく人目を引く美しい令嬢だった。 

 そして学園に在学中に、同級生だった王太子と密かに想い合う仲になった。

 しかし身分に格差がありすぎたために結ばれない恋であった。

 しかも二人はともに婚約者持ちだった。

 男爵令嬢には子爵令息の婚約者がいたし、王太子の相手はなんと隣国の王女で、間違っても婚約破棄などできない相手だった。


 二人とも恋に溺れてはいたが、本来どちらも真面目な性格であったので、恋心を理性で抑えつけて大っぴらに付き合うことはしなかった。

 しかし、障害が大きければ大きいほど盛り上がるもので、卒業式の夜、互いに結婚式が近づいていたこともあり、もう二度逢うこともないという切ない感情が一気に膨れ上がり、とうとう二人は一線を越えてしまった。

 

 そしてその後、お互いに婚約者と結婚をし、すぐに夫人達は身籠り、両夫婦共に無事に男子が生まれた。

 王家は早々に嫡男が誕生して大喜びだった。それに反して子爵家は嫡男の誕生に戸惑った。

 なぜなら生まれてきた赤ん坊が父親に全く似ていなかったからだ。

 たしかに父親と同じ金髪ではあったが、それ以外は全く似たところがなかった。

 もちろん生まれたばかりの赤子の顔なんて変化するものだろう。そのうちどこかしら似てくるかもしれない。

 しかし、瞳の色は変わりようがない。赤子の瞳は見たことのないスミレ色をしていた。

 両親どころか両方の親類にだってそんな瞳の色の人間はいなかったのに。

 当然妻の不貞が疑われ、相手は誰だと詰め寄られたが、彼女は不貞などはしていないと言い張った。

 実際結婚後に浮気などはしていなかった。まあ、婚約期間にはしていたが。

 彼女は夫との初夜のとき、動物の血を使って処女を偽装していたため、夫は結婚後浮気をしたのだと思っていたのだ。

 

 妊娠がわかったとき、もしかしたら王太子の子供かもと思わないでもなかったが、彼女には判断がつかなかった。

 それに二人とも金髪碧眼だったので、どちらの子でも問題ないだろうと高をくくっていた。

 それなのに、まさかこんな見たこともない色の瞳の子が生まれてくるとは。想定外だった。

 

 不義の疑いがある子など跡継ぎにはできない。

 離縁に応じて子供と共に出て行かなければ、不貞と託卵しようとしたと裁判を起こす、子爵夫人は夫の子爵からそう言い渡されてしまった。

 裁判に負けて慰謝料を請求されても、実家が払ってくれるとは思えなかった。それほど裕福ではなかったからだ。

 そして家の恥だとあっさり縁を切られて見放されてしまうだろう。

 そうなれば子供は養育園、自分は修道院へでも入らなくてはならないだろう。子供を預けて働くのはそう容易いことではない。


 しかし自ら身を引けば慰謝料は請求されないというのだから、実家で最低限の面倒は見てもらえるかもしれない。

 とはいえ子供を真っ当に育てられるとは思えない。

 彼女は子供の父親がどちらであろうと、生まれてきた我が子に対して深い愛情を抱いていた。


 切羽詰まった彼女は思い切って、もう一人の父親の可能性のある王太子に助けを求めることにした。

 もちろん、もしかしたら子供共々抹殺されるされる可能性があると覚悟しながらも。

 彼女は自分と王太子の関係を唯一知っている、王太子の側近にどうにか接触して手紙を手渡した。

 

 するとすぐさま、スミスン子爵夫妻に王家から登城の要請があった。しかもそこには赤ん坊を同伴させるようと記されてあった。

 なぜ子供までと訝しがりながらも、子爵は近頃は顔を合わせることもなかった妻子を連れて、王宮の謁見の間に向かった。

 そしてそこで彼は、赤ん坊の実の父親が誰なのかを理解した。

 目の前にいる若い男の顔の作りが息子チャールズとよく似ていたからだ。

 

 これまで、子爵は王太子を間近で見たことがなかった。爵位が低いので、これまで王族に関わることがなかったし、三歳年上だったので学園でも一緒にならなかったからだ。

 それにしても、男爵令嬢だった妻がまさか王太子と関係を持っていたとは! それは衝撃だった。そして疑問を抱いた。

 生まれてきた子供の父親が王太子だなんて、そんなことは普通誰も思わないし、想像もしない。

 それなのになぜわざわざ呼び出してまで子供に会おうとするのかと。

 

 赤ん坊を見た王太子と国王は狂喜した。そう。正しく狂喜! いや狂気めいてひどく興奮していた。

 その様子にスミスン子爵だけでなく彼の妻も喫驚していた。

 

 ところが、一通り興奮がおさまったあと、今度は二人揃ってため息をつき始めたので、子爵夫妻は何か悪い予感がして身構えた。

 そしてそこで、代々王家だけに伝承されている「スミレ色の瞳の伝説」を聞かされたのだった。

 

 

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