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第13章・・・第三視点による過去回想3・・・  


 王太子アルマンドは、真実の相手と婚姻ができると手放しの喜びようだった。

 国王夫妻もセレンディー公爵家との縁が切れるのは痛かったが、子ができてしたまったのだから致し方ないと諦めた。

 まあ、伯爵令嬢ならば一応高位貴族に入るので容認できる最低ラインの範囲以内だ。

 そして公爵令嬢ほどの才媛ではないが、あのカイトン伯爵家が嫁に迎えようとしていた令嬢ならば、問題はないだろうと諦めたのだ。

 

 相手の伯爵家も王家と姻戚関係になる上に、娘の産んだ子は王族、しかも男子なら王太子になる可能性が高いのだから、内心まんざらでもなかったのだろう。

 娘の気持ちはまだ婚約者にあろうとも、他人の子を身籠ってしまった以上、元の鞘には戻れないのだ。

 彼らは泣き叫ぶ娘を必死に説得した。


 そもそも、彼らは自分達の娘が王太子に関心を持たれていると気付きながら、なんの対策も取っていなかったのだ。

 伯爵家はその後、その事実を知ったカイトン一族からは、その後関係を断たれることになった。

 その上、娘が愚王によって精神を病むことも、自分達の孫が国王になって、その地盤が不安定さのために、長らく苦しむ未来も、その時の彼ら知るよしもなかった。

 

 では被害者であるセレンディー公爵家は、王家との関係が切れたことをどう思っていたのか。

 実は、痛くも痒くも思っていなかった。そもそもどうしても王家と関係を結びたいと思っていたわけではなかったのだ。

 なぜなら、アルマンド王太子があまり賢い人間ではなかったからだ。いや、正直に言えば出来が悪かった。

 それは単に頭の良し悪しではなく人間性に問題があった。

 それは今回の件ではっきり証明された。婚約者がいながら人の婚約者に懸想して、しかも無理やりに乱暴したのだから。

 他にも王子がいたら、いくら長男だったとしても王太子にはなれなかっただろう。

 

 息子が愚者だとわかっていたからこそ、才女だと名高いしっかり者のセレンディ公爵令嬢に支えて欲しい。

 そう国王夫妻に頭を下げられて、公爵家は仕方なくそれを受けたのだ。 

 泣いて嫌がる娘に心の中で謝りながら。

 しかしその際、娘を蔑ろにしたら、即婚約破棄をして、王太子の後ろ盾になるのを辞めるという念書を取っておいた。

 王太子を信用していなかったのだ。

 そしてそれは正解だった。

 

 新たな婚約者がカイトン伯爵家なら、寧ろそちらの方がいいと公爵は思った。

 いつ誰かの傀儡になるかわからないような王家よりも、真の実権を握る実力者と関係を持った方がいいに決まっている。

 内政だけでなく外政、そして騎士団まで、カイトン伯爵一族がその主要なポストを占めていたのだから。

 まあ質実剛健で融通がきかない連中だが、だからこそこれまで何度政変が起きても、生き残ってきたのだろう。

 

 そしてセレンディ公爵令嬢本人も元々コナール=カイトン伯爵令息に強い恋心を抱いていたので、王家からの提案は渡りに船だった。

 王太子は金髪碧眼でこれこそが王子様だという風貌をしている。

 しかし、コナールと比べるとどうしても容姿だけではなく、頭の良さや性格でも見劣りをした。

 なにせ会話は弾まないし、ダンスは自分勝手で思い遣りがないし。

 

 それに比べてコナールは、彫刻のような整った顔に、鍛え上げられた体躯をしていて、その上博識だった。

 たしかに愛想は良くないが、礼儀正しくてきちんと気遣いのできる男性だった。

 それ故に、アルマンド王太子とは違って異性からだけではなく、同性からも人気があったのだ。

 それに非常に優秀で、父親である宰相の補佐をしていて、いずれはそのまま後を引き継ぐのではないかと言われるほどの切れ者だった。

 

 公爵令嬢は無理矢理に王太子と婚約させられた後も、心の奥底ではずっと彼を思い続けていた。

 学園で彼を見つけると、それだけで心が弾んだ。

 そして彼が二年前に卒業してからも、その気持ちは変わらなかったのだ。

 

 

 しかし、その気持ちをもう隠す必要はないのだ。

 彼はまだ元婚約者を思っているかもしれないけれど、いつか絶対に振り向かせてみせるわ、と彼女は思った。

 

 ところがカイトン伯爵から、そのお話は聞かなかったことして欲しいと言われて、セレンディ公爵は驚いてしまった。

 まさか断られるとは思ってもみなかったからだ。

 

「うちの娘のどこか気に入らないだ! たかが伯爵家の分際で」

 

 と、問い詰めると、

 

「ええ。たかが伯爵の分際で、公爵家のご令嬢をお迎えするわけにはいきませんので、このお話は受けられないのです。

 その旨を王家に伝えて、別の方を紹介してもらってください」

 

 と返されては公爵はグゥの音も出なかった。

 カイトン伯爵家は侯爵家以上の家格の家とは縁を結べない。

 しかもその不文律を公にするわけにもいかないので、伯爵はそう言ったのだ。

 彼は別に公爵家に悪意など持っていなかったし、ご令嬢のことも気の毒に思っていた。

 彼女は、才色兼備で非の打ち所のないという評判の女性であり、落ち度など何も無かったのだから。

 今回の件は、あの色ボケした愚かな王太子が一方的に悪いだけだと。

 

 内政面で強い力を持つ公爵家と、内政だけでなく外政面でも幅を利かせているカイトン伯爵家を敵に回しては、王家といえどその権威を維持できない。

 さすがの王家も窮地に追い込まれ、なあなあで誤魔化すことはできなかった。

 国王と王太子はカイトン伯爵家に頭を下げ、例の不文律を撤回し、公爵家との婚約を受け入れるように依頼した。

 そしてカイトン伯爵令息を次期宰相にすると確約したのだった。

 

 そこまでするかと彼らの方が驚いた。

 我が家の力を恐れ、あんな不文律を作ってまで長年威嚇してきたのに、それに逆行するじゃないかと。

 そこまで王家は腑抜けになったのかと。

 

 正直なところ、カイトン一族はこの不文律にそれほど不満を持ってはいなかった。

 血が濃くなると、稀に天才が生まれることもあるが、その逆の弊害も多い。

 下位貴族や平民の血が混じった方が頭脳明晰で体力的にも恵まれた子供が生まれるものだ。

 カイトン伯爵一族が優秀なのは、カイトンメソッドという独特な教育方法を実践しているからだと言われているが、それに加えて身分に拘らずに優秀な女性を妻として娶っているからだろう。

 

 そして現カイトン伯爵家当主であるコナールや嫡男のアルソアも、ご先祖同様にそれほど権力に執着していなかった。

 それ故に高位貴族との婚姻など望んでいなかったのだ。

 しかし、今回の件では思うところもあった。こんな愚かな王族に国政を任せて大丈夫なのだろうかと。

 いくら騎士団が優秀であっても、命令を下す国王が愚か者だったら無駄な血を流すことになりかねない。

 やはり、王家を見張るというか、上手に導く必要性があるのではないかと。

 

 そこでカイトン伯爵は王家の提示した条件で婚約を受諾することにした。

 公爵令嬢を妻として迎えることに特段異議があったわけではなかったからだ。

 ただし息子を次期宰相にという話は保留にした。

 息子の婚約者を寝取った男の側近を続けさせる気には到底なれなかったからだ。

 そして実際に彼が宰相になったのは、ずいぶん後になってからだった。

 そう。愚王の悪政に黙っていられなくなってからだった。

 

 そして公爵家に対しては、我が伯爵家を軽んじる真似は絶対にしないと誓約することを要求したのだった。

 

 

 そう。元公爵令嬢だったカイトン伯爵夫人リリアナは、伯爵家を軽んじる真似は絶対にしないと誓約をしたのだ。

 それにもかかわらず、子爵家の娘は身分違いだとして、息子の結婚話を邪魔をし、ご先祖を貶したのだ。

 

 カイトン伯爵は自分の結婚の経緯を語った。そして最後にこう言った。

 

「おわかりになりましたか?

 貴方の父上のせいで私は本来結ばれるはずのない相手と結婚した。そのせいで息子は、彼に相応しい素晴らしいご令嬢との結婚を妨害されたのですよ。

 これは息子だけではなく、我がカイトン伯爵家一族の損失です。たったそれくらいですまされることではないのですよ。

 息子が家を出て彼女と一緒になりたいというのなら、父親として反対するつもりはありません

 彼は平民になっても生きていけるだけの知力と能力があるので心配はしていません。

 ただ、今後我が家から王族の側近として仕える者はいなくなることだけは知っておいて頂きたい」

 

 彼の言葉は淡々としていたが、王太子はまるで鋭い刃物を首元に突き付けられているような気分になり、背中が冷や汗でびっしょり濡れていた。

 

 彼は、カイトン伯爵と令息にこう言った。夫人は王家が説得し、子爵令嬢との婚約を認めさせると。

 しかし、実際のところ、王家にそんなことができる能力があるとは思えなかった。

 そこで伯爵は、方法はこちらで考えるので、王家にも手を貸して欲しいと言ったのだった。 

 それが例の「ご令嬢の爵位当て」と銘打ったマナーレッスンの成果発表会だったのだ。


読んでくださってありがとうございました。


改めて、この後で、お昼に投稿した分を再び投稿します。よろしくお願いします。

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