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第1章  エスコート


「スミスン子爵令嬢、宜しければ私にエスコートをさせて頂けませんか?」

 

 王城の舞踏会の開かれるホールの前で、突然私は男性に声をかけられた。

 その人は見上げるほど背が高く、均整のとれた立派な体躯をしていた。

 そしてその上に、恐ろしく整った顔があった。

 

「カイトン卿?」

 

 思いもかけない人物の姿を目にして私は喫驚した。

 そして今言われた言葉の意味が瞬時には理解できずに、私はただ呆然とその男性を見つめた。

 

 

 なぜ我が国の英雄が、こんな自分をエスコートしたいだなんて言い出したのか、それがわからなかった。

 私はしがない貧乏子爵家の次女で名前はクリスティナ=スミスン。

 ほとんどの貴族令嬢が王立学園へ通っている中、城でお針子として働いている身だ。

 しかも、今日の私は物凄く妙ちきりんな格好をしているというのに。

 

 そもそも近衛の騎士様が王族の皆様の側にいないで、どうしてタキシード姿でこんな場所にいるのかもわからなかったし。

 

 そして、一番の大きな疑問は、今の私はこのホールで一番注目を浴びている(悪い意味で)人間だというのに、なぜ我が国の英雄様が、声を掛けてきたのかということだ。

 悪目立ちしてしまうではないか。

 何せ数分前に私は、ここで婚約者から婚約破棄をされたところだったからだ。

 少し離れた場所では、私の元婚約者であるダイキント子爵令息も、呆気に取れた顔をしているのが見えた。

 

 

 

 ルーカス=カイトン卿は弱冠二十二歳で、先月英雄として国王陛下に褒賞を頂いて、王都の見回り騎士から近衛騎士に大抜擢された人物だ。

 つまりこの国で今一番注目されている人物なのだ。

 そんな彼が、間もなく社交界並びに王城の笑い者になる未来が確定されている、そんな私などに声をかけては、その尊い身に疵がついてしまう。

 

 どう対応したらいいのかわからず、私は狼狽えてしまった。

 ついさっき婚約破棄されたときには、予想がついていたこともあり、動揺なんて全くしなかったというのに。

 すると、そんな戸惑っている私をお構いなしに、カイトン卿はこう言葉を続けた。

 

「デビュタントが、パートナーなしで舞踏会に参加するわけにはいかないでしょう?

 信じられないよ。

 土壇場でデビュタントのパートナーを降りようとする男が存在するなんて。騎士の風上にも置けないな。

 あっ、さっきの恥知らずは騎士ではないから仕方ないか」

 

 それを聞いて私は目を丸くした。

 私の元婚約者のゴードン=ダイキント子爵令息は、王立学園の騎士科の二年生だった。それを彼は知っていてわざとそう言ったのだろう。

 カイトン卿の向こうで、ゴードン様が真っ青になって震えているのが見えた。

 

 まあ、英雄である近衛騎士のカイトン卿に、騎士にあるまじき行為をしたと認定されたのだから、そりゃあ動揺し焦りもするだろう。

 もし騎士に採用されても、始めから英雄様に目を付けられてしまっているのだから、その未来は暗い。


 私からすると、自分のこの格好を見れば、ゴードン様が私をエスコートしたがらないことは百も承知だった。

 私はなんと、ツギハギだらけのみっともないドレスを着ていたからだ。

 こんなドレスを贈った男だと思われたら、彼からすればさぞかし不名誉なことだろう。

 だから彼を恨む気なんて全くなかったし、むしろ申し訳ないとさえ思っていた。

 

 しかし、婚約破棄は私にだけこっそり告げれば済むことだった。

 それなのに、なぜ周りの人々にも聞こえるような大きな声で宣言したのか、その理由がわからなかった。

 そのことには内心腹立たしく思っていた。

 普段から彼は、私に対しては大声で言いたい放題だったから、その延長線だったのだろうか。

 それとも人前でわざと私を貶めたかったのだろうか? 悪趣味ね。

 

 どちらにせよ、ゴードン様が英雄の騎士様に目を付けられたことは彼の自業自得。同情はしないし庇う気もないわ。

 そこで、私はハッとした。

 そうか、カイトン卿は私に同情し、ゴードン様の方に非があると思わせるために、わざとこんなことをしているんだ、と納得した。

 騎士としてか弱い?令嬢を守ろうとしてくださっているのだと。

 

 とはいえ、このままカイトン卿にエスコートしてもらって会場入りしたら、全女性に注目され、明日から職場でかなりの嫌がらせを受けるだろうことは明白だ。

 

「あんなツギハギドレスを着て、カイトン卿に近づくだなんて、なんて図々しいの?

 婚約破棄されたからと泣きついて、カイトン卿の同情を買おうとするなんて、なんて姑息で下品なの?」

 

「英雄様の優しさにつけ込むなんて本当にずる賢いわね。

 学園にも通えないような貧乏子爵家の次女の身で、伯爵家の令息であるカイトン卿にすり寄るなんて、なんて常識がないのかしら。やはり学がないせいかしら?」

 

 なんて罵られたり、笑われたりするんだろうな。

 まあ、何を言われても私は平気だし、仕事の邪魔さえしなければ別にかまわないんだけど。

 まさか圧力をかけられてクビになるなんてことはないわよね?

 私一人で三人分の働きをするから人件費が抑えられる、そう上司には喜ばれているし。

 

 

 憧れの方からの夢のような申し出だというのに、喜びよりも戸惑いの方が上回り、慌てふためく私だった……

 


 


 読んでくださってありがとうございました。

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