80旅は買い物(大幅改稿)
この町最高の旅館で、帝国商人風家族はこの町に来てもう5日目だった。
今日はアドラスの最後の治療を終え、完全に視力が戻ったマーカスは、まるで地上の仕事を終え天国に舞い戻った天使の如き喜びで体が満ち溢れて、旅館の中の2階への階段を一気に駆け上った。そして宿泊部屋に飛び込むとベッドの上に大ジャンプし、わーいと大きな歓声を上げゴロゴロ体を勢いよく転がりだしたのだ。護衛と侍従とメイドはびっくりしてみ、主親子は実にうれしげに楽し気に笑う。
「坊ちゃまの治療が完全に成功したのですか!?」
留守部屋を警護していた護衛の言葉に美しき女主人は
「ええそうよ、治療は完前に終わったわ、その上この子はもともとあった近視まで治ってしまったの!すごいでしょ!!」
「それはすごいです!!おめでとうございます!!」と護衛が言った。
「ありがとう、ここまでわざわざ来たかいがあったというものよ!!みんなにも苦労を掛けたわ、お礼に今月の給料は期待してちょうだい」
「まあ、奥様ありがとうございます」メイドが感謝を述べると他の侍従や護衛まで次々感謝を述べ、やった!と一同喜びに沸き返っていた。
そんな中、マーカスはベッドわきのサイドテーブルに置かれていた新聞を手に取り読み
「母上、母上、なんでも見えます!失明する前以上にすごくよく見えます!視力を失う前僕生まれつき近視だったのに、今はそれが視力検査の結果右目1.5で左目も1.5ですよ!もう本を読むのにメガネがいりません!なんてすばらしいんでしょう!まるでこの世の天下をとった気分です。」
「本当にねえ、これはすごいわ、失明する前以上に見えるように治療するなんて・・・・・
アドラス様がおっしゃっていたけど、前と同じぐらい目を直すのなら5日はかからなかった。メガネなしで本が読める視力にするために5日かかったと、まさかそこまで直していただけるとは思わなかったわ。わざわざ王国まで来て本当に良かったわねぇ」
「マキシミアム、本当に良かったなぁ、王国まで来たかいがあったですねぇ、母上。お爺様とお婆様、父上兄上がきっとお喜びになりますよ、」
「えぇ、えぇ、本当に」
うれしさとほっと緊張が解けたことで母親の目に涙が浮かぶ、ハンカチでそっと目を抑える彼女。
そんな母親と弟の姿に、弟が失明以来のつらい思い出が想起して、兄もまた涙が目に滲み出しそうだったが、気丈に涙を振り払う。
「母上、この度の思い出に、この町で何か記念品を買ってはどうでしょうか。」
「そうね、家族のお土産品を買うのもいいわね、でもこの田舎町で帝国の侯爵家のお土産になるようなものあるかしら、それがかえって心配だわ。まあでも純朴な田舎かのお土産も時には悪くはないでしょ、何しろマキシミアムの快気祝いの記念品なのだから」
「そうとなればまだ日も高いですし、町に買い物に行きませんか?」
兄の言葉にマキシアムはベッドの上でさっと起き上がりしゃがんだ。
「僕サンセー!!、失明して以来ずっと部屋の中にこもっていたのだもの!」
「そうね、あなたはずっとそうだった。本当につらかったわね、マキシミアム。よくたえたわ」
「ですが母上、ここは王国の辺境に近い場所、用心を忘れてはいけません。僕たちはアドラス様に治療してもらいに来た帝国の商人一家です」
「ええ、そうね、アレクサンドル」
護衛の冒険者に姿を変えた騎士達を連れて彼女達は旅館を出た。
旅館の女将にきいたこの町の気の利いた店をのぞいて歩く帝国侯爵一家、すると偶然にも今回治療してくれたアドラスが弟らしい幼子と護衛とメイドを連れて、一軒の書店に入っていくのを通りで見かけたのだ。
アドラスがどんな本を読むのか気になったアレクサンドルは、書店を指さした。
書店の中は少し薄暗く本の匂いに包まれていた。この店は貸本屋もやっているらしく本を借りて店をでていく客もいたが、アドラスが視線を向けて立ち止まったエリアの本のラベルをのぞき読むと、それは冒険小説らしかった。
「兄上、其れ面白い?」
「多分面白いと思うぞ」
やっぱり幼子は弟だったのだ。
「お前は何か読みたい本は見つけたのか」
「うーん、これどう思う兄上?」
「月世界探検、SFか」
「SF・・て何、兄上?」
「アーそれは空想科学小説という意味だ。」
「空想科学小説?」
「王国ではあまりこの手の本は出ないし少ないが、今から千年前に存在した日本国では空想科学小説は盛んに出版されていたそうだ。うちにも日本の空想科学小説は何冊も置いてあるぞ、あとでよんでやるか?」
「ほんと?読んで読んで兄上」
この話を聞いた侯爵夫人はとんでもないと思った。
<そもそも日本の本なんて帝国一の魔法の研究機関魔塔と皇室所蔵図書室にしかないといわれている。それを個人で所蔵してるというの!?・・・いやまさか…きっと今も残っている翻訳本に違いない、早とちりしちゃったわ、父上に大人になっても お前はそそっかしいと怒られるのよねぇ、だめね、私>
クラリス・フォン・グッテンマイヤー侯爵夫人はそう反省したその時だった。
子供たちはめぼしい本をそれぞれ見つけてこれを買うと母親に告げた。
「これお会計して頂戴」
「ありがとうございます,しめて・・・・になります」
会計に数冊の本を差し出し、代金を支払う。アドラスたちは本をまだ選んでいて決まっていないようだった。アドラスが読んでいるのは魔導書のようだった。そばで彼らのメイドが何冊か本を持っていた。
ミュラー領はグッテンマイヤー領から見てそこそこ開発されたちょうかんなのんびりした領だった。
こういう所で所では犯罪もあまり起きないだろうと思えて、なんだか少しうらやましくなった。
馬車越しにあたりを覗いたが作物の実りもよく農地には用水路も引かれていた。これは代々のミュラー子爵が善政を敷いていたという証拠だった。そんなことを考えていたら突然外から男の叫び声が聞こえてきたのだ。
ごえいがさっとクラリス親子を守る、見るとアドラス兄弟も護衛がさっと主人の子たちを守った。
次の瞬間・・・・男の大音声は続く
「王都で第三王子ジョフリー王子が貴族派を率いて反乱を起こしたぞー!!、それに対し第二王子カルロス王子が宰相とともに王族派を率いて迎え撃ってる状態で、王都は戦場となり大変な大混乱が起きているそうだ!詳しくは号外のこの新聞を買っとくれー!!」
「なんだって!?それはほんとうか!?」
道行く人々が新聞の号外売りにバッと群がった。
あっちこっちから手が伸び俺にくれあたしに頂戴と声がかかる
「よし、俺にも一部売ってくれ」
「「私にも(僕にも売ってくれ!!)売って頂戴!!」」
アドラスとクラリスは思わず互いを見やったが、すぐにそれぞれ新聞にバッと食い入るように読みだしたのだった。
この戦が国を二分する大戦あることはだれの目にも明らかだった。
アドラスは父に急報を告げるべく、馬車に弟とメイドのマリアを乗をのせ、護衛を従えてほぼ全力で屋敷へとかけさせたのだった。




