72弟との出会い(改)
アドラスは1階の玄関ロビーにつながる階段を降り、小応接室に続く廊下を足音忍ばせて近づき、誰もいないのを確かめるとそっと小応接室のドアを少しだけ開けて中をのぞいた。ソファに父と母が座り、その体面に見知らぬ小さな子供と老婆、そして神父が腰を下ろしていた。
中の雰囲気ははっきり言って剣呑なものだった。一番剣呑な雰囲気を見るからに発しているのは、母上だった。
「お願いでございます、子爵様に子爵夫人、どうかこの子ルシアンを引き取ってお手元で育ててあげてくださいませんか。ルシアンのたった一人の身内であるアレーヌはもう60を過ぎました。寄る年波にはもう勝てないのです。
このままいってもあと数年の命でしょう。
そうなったらルシアンは孤児院に入るか浮浪児になるかのどちらかです
どうか子爵様、あなたの血を引くこの子をあわれと思い、お手元に引き取って育ててくださいませんか?
伏して心よりお願いいたします。」
神父の言葉にアドラスは心の中でう~んとうなった。
<いかにも人のよさそうな若い神父だな、貴族家における私生児の扱いは厳しいことを知らないのか?確かに私生児が爵位を引き継ぐことをこの国の法では禁じてはいるが、嫡子が死に他に男子がいない場合は、私生児でも爵位を継げるってこと知らないのか?そんなお家騒動はこの国はおろか他の国でもめずらしくないってのに、この子を引き取ることは危険を呼び込むようなものだな。でもだからと言って孤児院や浮浪児になってしまえとは思わない、僕は甘いのかな、父上母上はどうする?>
父は腕組みして考え込んでいた。
母はそんな夫をじっと見つめていた。
いきずまる緊張感。
「あの、」ルシアンがそっとつぶやくように言った。
「なんだね?」以外にも父の声は普段と変わりない物だった。
「あの、冠はかぶってないんですか?」
「は?冠って王冠のことかな?」
「はい・・・・僕普段お父様は冠をかぶっているものだと思っていました」
「持ってはいるが王冠は国王陛下のみがかぶれるものだからね、私が持っているのはサークレットだ。大粒のルビーがついてはいるがね。」
「わぁ~」
そのワクワクした顔は、サークレットを見てみたいという表情を、わかりやすくしていた。
子供らしいその表情は、貴族の子らしくないといえばそうだった。
あくまでも平民の子の表情だった。この子の育った環境を考えればそれは不思議ではなかった。
「君は何が好きだね、」とヘンリーが尋ねると
「虫取りやお日様が沈む夕焼けを見るのが好き、あ、それからね、赤く熟れた柿《千三百年前に日本から植樹された》を食べるのも好きだよ、特に熟した柿はとろけるように甘くって僕大好き」
ルシアンのその言葉は、アドラスに前世を思い起こさせた。弟や妹たちに柿をとってやり「おいしいね」と言って「うまいうまい」と一緒に食べた記憶を思い起こさせたのだ。
<無邪気な子だな、5歳といえばそんなもんか。そういえば今世、僕兄弟が一人もいなかったんだ。
例のエルマも今もって妊娠したといううわさ聞かないし・・・・・・・・母上は僕もう8歳になるのに僕以外に弟も妹も生んでないし・・・・・・・此れって貴族家的にはいささかまずいんじゃない?僕に何かあったら遠縁から養子を迎えるレベルじゃないか?>
「そうか、柿は私も好きだ、私は熟す前の柿が好きだが…うちの屋敷の庭にも樹齢250年の柿の大木があるぞ、2本生えてるんだ。みたいか?」
「ワー僕みたい・・です」
「では後で見せよう。」
「あなた」
父の言葉に老婆と神父の顔が目に見えてほっと安堵し、喜びの表情に変わった。
<父上はこの子を引き取ることを決めた!?>
「アドラス入ってきなさい、いつまでドアにへばりついているのだ?」
<ワーばれてた!!>
アドラスはきまずげにドアを開けて室内に入った。
<最初から透視にしとけばよかったな、われながらうっかりしてたよ>
窓から差し込む光でキラキラ光り輝く見事な青銀の髪に、宝石のようなバイオレットの瞳、これ以上ないほど王家の血筋を表している美しいアドラスに、驚き息をのむルシアンに彼の祖母に神父。
<噂には聞いていたがこれほどとは・・・・・・・・・・・・・・・・。それに神童でおられるときいている。そのうえ日曜は光魔法を使って人々を癒しておられるとか(上級光魔法使いならアドラスがやるようなことはできる)、素晴らしいお子様だ>
内心神父はそう思い感嘆した。がアドラスはそれほどのことはしていないと思っていた、何より上級光魔法ではなくあくまでも修繕魔法の応用だったからだ。
神父は帰らせ、ルシアンの祖母だけはきょうルシアンと客間に泊まらせることにした。2~3日いさせてそれから帰りはおくらせるつもりだ。
ヘンリーとエリザベスそしてあどらすにセバスチャンは執務室にうつった。
「エリザベス、あの子を引き取るかどうか2週間様子を見る。アドラスから次期後継者の座を奪う野心があるなら引き取りはしない。その間あの子の適性や今は猫をかぶっている本当の性格を側において見るつもりだ。もしだめならあの子はかわいそうだがいずれ孤児院に行ってもらう、それでいいな?」
「ええ構いませんわ、でも一番いけないのは私ね、あなたにアドラス以外子を産んであげられなかった。むろんあきらめているわけではありませんわ、子供は天からの授かりものと言っても、平民ならいざ知らず貴族家ではそうは参りません。私はアドラスに弟や妹を生んであげたいわ」
「わかってるよ君の気持は」
「母上・・・・・・・・」
すると母上はふと思いだしたように
「あ、そうですわ、あの子に剣を習わせないで、」
「・・・・・・・・・・わかった。」
「なら結構ですわ」
いつの間にか夕方になっていた。
執務室の窓から差し込む光が、日が沈む夕焼けの赤い色の光に染まっていた。




