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66梅雨

季節はバリアス王国特有の梅雨の季節に入っていた。

ルーシー達がヘンドリック領の反乱から、ミュラー領に逃げてきてからすでに3カ月たっていた。

元貧乏貴族出身のルーシーは侍女の仕事に慣れるのも早かった。今では奥様の覚えもめでたく、時折一緒に奥様と庭のガゼボでお茶をするときがあった。今は梅雨の季節なのでアドラス坊ちゃまに頼まれて、侍女の仕事のかたわら刺繍をお教えしている。初めて坊ちゃまが刺繍を教えてといったときは正直驚いた。それは奥様も同じでどうして刺繍を習いたいのかと一人息子に聞かれた


「男だからって刺繍をするのはおかしいというのは偏見です。

男ならばこそ色々ストレスにさらされることがあると思うのです。外が晴れてるときは乗馬を楽しむとか狩りを楽しむとかあるでしょうが、何時も外が晴れてるとは限らないし、時間的余裕がそんなことをするほどの時間がないという時もあると思うんです。そんな時室内で美しい刺繍を一針一針ぬって完成する喜びに浸るのもいいじゃないでしょうか?だから僕に刺繍を教えてほしいのです。後それとサバイバルとして、例えミュラー家がお取りつぶしになっても刺繍を縫ってお金を稼ぐという方法もあるでしょ、」


「アドラス、あなた前半色々といったけど、要は家が没落しても子供のあなたでは雇ってもらえるのは難しいから、美しい刺繍を縫って生きるための生活費を稼ぎたいということでしょうが、」


「そのとおりです母上、僕をよくわかってらっしゃる」


「当たり前です。私が何年あなたの母をやっていると思うの」

そういって母は鼻をふんすと鳴らした。


「そうなんですか奥様!?」

ルーシーは驚いてエリザベスを見た。


「そうなのよこの子小さい時からそんなところがあるのよ、あれはアドラスがまだ2歳の時、どっかから火打石を見つけて庭で集めた葉っぱや小枝に火を付けたことがあるのよ」


「ええ、2歳でですか!?」


「そう2歳で、そりゃ近くにばあやがいて火打石の使い方を教えたんだけど、それにしたってねえ、あとでアドラスに何でそんなことをしたのか私と主人が聞いたら、

『僕が魔力持ちとは限らないでしょ、その時に火のおこしかたぐらい知ってなきゃ生きていけないと思って、だって一寸先は闇というでしょ』あれ聞いて驚いたわー、一体誰にそんな一寸先は闇なんて言葉教わったのかと思って、聞いたらばあやもマリアも教えてないというのよ、それに 普通2歳の子共が生きていけないなんてかんがえる?考えないでしょ!?なのにこの子」


「そうですね、普通はとても考えません」


「それにこの子天才肌なのよね、学問も剣も魔法もそうだけど6歳の時から週に2日医療ギルドで見習いから初めて働いているの。」


「6歳で医療ギルドに?それはすごいですわ!!」


「一日午後4時間ほどだけどね、最近では日曜日教会でミサが終わったあと、普通のヒールでは治らない病も癒してるの、主に近眼とか遠視とか難聴だけど、時には指の欠損とか火傷とか生まれつきのあざとかも直しているわね、」


「まーすごいですわ!」

その事についてはここに働き始めてからまもなく他のメイド達からきいている。

確かにすごい話だった。普通のヒールでは生まれつきの痣は直せないし火傷の治療は医師の治療の範囲だが、それだってひどい火傷の跡なんて直せない、それをアドラス坊ちゃまはきれいな肌に直してしまわれるの、すごいでしょと他のメイドが自慢するのを聞いたのだ。

その時話半分で聞いてたルーシーだが、日曜日教会のミサに出席してその事実を確かめていたので、奥様がご子息を自慢なさる気持ちも分かった。

でもそんなすごいことができるのに刺繍で金を稼ぐ?サバイバル?なんかちょっとわからず首を少しひねるルーシーだった。


でもそれ以来坊ちゃまに刺繍をお教えしていた。

元々ルーシーは貧乏男爵家出身なので、家の家計の足しに少しでもなるようにと美しい刺繍のハンカチーフとか縫って、町の店に卸してお金を稼いでいたのだ。

つまりはプロである。そのルーシーの目から見て、アドラスは刺繍に素晴らしい才能があった。

ルーシーがそういってほめると


「えへ、本当?うれしいな」

アドラスは嬉しそうにはにかんでほほ笑んだ。

その姿はとてもかわいい。

ましてアドラスは母方の祖父の血が色濃く出て、バリアス王族の見事な青銀の髪に紫水晶のような見事なバイオレットの瞳をしてるのだ。

そんなアドラスを見ていると、アドラスに仕えてルーシーは心から嬉しかった。


「本当です、とても習いたての8歳の子供の縫った刺繍には見えません、坊ちゃま才能ありますよ、それにセンスいいですね」


<そりゃ僕は前世ハイセンスなものに囲まれた、日本生まれの日本育ちの日本人だったからね、当然といえば当然かな?>


「刺繍がハンカチに縫えるようになったら、お守り代わりに父上にプレゼントするんでしょ」


「はい、普通女子はそうですね、でも坊ちゃまが刺繍のハンカチをプレゼントしたら、旦那様も喜ばれますよ、」


「そうかな、父上喜んでくれるかな、でもそれならもっと家紋入りの刺繍がうまく上手に縫えなくちゃ」


「そうですね、」

アドラスは父親の喜ぶ姿を想像して一針一針心を込めて布を縫うのだった。





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