60 サセックス領の暴動(改)
「ハァー」
居間の椅子に腰を下ろしたアドラスはため息ついた。
「どうしたのだアドラス?ため息などついて」
「新聞のインタビュー記事です、われながら偉そうなこと言っちゃたかなあと思って、」
「清濁併せ持つか?まあ8歳の子供らしくはないとは思うが、お前は領主の息子なのだから心構えとしては間違ってない。これからもサンザー帝国との戦はあるだろうし、サンザー帝国のスパイもこのミュラー領にも入り込んでいるだろう、お前はまだ子供だが、戦場に立てば汚い手を使ってでも生き残り、勝利することこそが勝ちだ。そこには到底きれいごとではすまない。そんなに気にするな」
「はい父上」
サセックス領は、代々サセックス子爵家が領主として治める農地がどこまでも広がる平和な領地だった。
領の北側に王都にまで続くハーレー川が流れ、川からは魚の追い込み漁がおこなわれ、とれた魚は領民の食卓にあがり食卓を彩っていた。
またハーレー川を船を使い新鮮な野菜や果物や魚、あるいは領地で取れるブドウを使った葡萄酒などが王都に出荷されていた。
そして王都からの帰りの船には、王都で売っている品々が船に積み込まれていた。
その中には綿の布や衣服、あるいは工芸品などもあった。
領としては決して貧しい領地ではなかった。
だが先代の領主が病に倒れ床につき起き上がれなくなると、王都のタウンハウスにいた長男が戻ってきて、子供のころに婚約した婚約者と式を挙げ領主を正式に継いだのだが、ものの1週間もしないうちに長男は王都から元娼婦の愛人を呼び寄せ、領主屋敷で堂々と一緒に暮らしだしたのだ。
むろん妻とは白い結婚だった。そしていきなり領の税を30パーセントから50パーセントに上げると言い出したのだ。むろん妻と家令は無茶だと大反対した。
前領主はあんな子ではなかったのに、これも息子をたぶらかした娼婦上がりの愛人のせいだと、病におかされた己のふがいなさに怒りにふるえ、呪った。そんな前領主を愛人は
「くたばりぞこないが、さっさと死にやがれ」
と暴言を浴びせたのだ。
むろん正妻と家令および使用人たちは、何ということをいうのだと怒りに震えた。
だが領主となった長男は、愛人の言いなりで一切聞こうとしなかったのだ。
そうして二年後にはサンザー帝国との戦が、それに前後するように前領主は亡くなったのだ。
最近では税を払えず新領主の息子の命によって、奴隷に落とされるものが次々と現れ始めた。そうなると当然領地を捨てて逃げ出す棄民も出始める。
若き正妻ルーシーは、この領の将来を本気で心配するのだった。
「このままではいつか暴動がおこるわ、そうなったらサセックス家はおしまいだわ、
王は厳格な方よ、またいつサンザ―帝国と戦争になるかわからないのに、領地をまともに納められず、己の私欲のために暴動をおこさせた領主と家には領地没収、爵位剥奪、財産没収されてもおかしくないのに、そうなったらサセックス家はおしまいだというのに、ヘンダース様はそれがお分かりにならないの!?」
「すべてはあの女のせいでございます、」
「カミラ」
「それよりも奥様あの女の妊娠にお気をつけ下さいませ。」
「妊娠ですってー!?」
「いえ、今はまだあの女妊娠をしてないようですが、もしかしたらあの女、奥様を邪魔ものとして殺そうとするかもしれません」
「ころ!?・・・・・そんなカミラ、」
「この1年で使用人もだいぶ変わりました。わたくしも奥様付きのメイドとして十分気を付けますが、今のこの家では何が起こっても不思議ではございません、もしあの女が妊娠したようなら、この家を出て近隣領主に助けを求めるべきです」
「カミラ・・・・・」
「わたくしとしては、ミュラー領主のヘンリー・ミュラー子爵様がよろしいかと思います。
サセックス領のすぐ近くの隣領では、かかわりたくないとか、今までの付き合いがあるとかで、あの女と旦那様のもとに送り返される恐れがございますから、」
「でもね、子爵様とは私の結婚式にご出席いただいた以外、おつきあいはないのよ。
いきなり助けてくださいと言っても断られるだけじゃないかしら?それよりは王都のお父様のもとに逃げた方がいいのではないかしら?」
「奥様、ご実家はご結婚のみぎり、サセックス家から多額のご援助をいただいたはず、そこへ奥様が夫の愛人に殺されるから逃げてきたと言って助けを求めても、ヘンダース様のことです、知らぬ存ぜぬを通し言いがかりだと言って援助金を返せと言い出しかねません。
かといって奥様は貴族としてお育ちですので庶民の様に掃除洗濯料理がお出来になるわけではなく」
「あら、できるわよ、うち貧乏貴族だったでしょ、数少ない使用人だけでは回らなかったの。
といってもできるのは炊事と掃除だけだけど」
「まあ、では後は洗濯をお教えすればよいのですね。」
「となると家を出て市井にまぎれた方がいいのね、少なくともあの女に殺されるよりはましだわ、せっかく子爵家の奥方になったけど、嫁ぎ先はいつ暴動が起きるかわからなくてお家お取りつぶしになるかわからないし、」
「だったら貴族家のメイドも悪くありませんわ、少なくとも寝るところに服貸与、食事つきですので」
「そうねえ、でも一番はヘンダース様が私を離縁してくださるのが一番いいのよねえ、でもそうなる前にいろいろと準備した方がいいわね、カミラ手伝ってくれる?」
「もちろんでございます、奥様」
天井裏でルーシーとカミラの話をのぞき穴越しに聞いた密偵は、そっと屋敷を抜け出すと領主様の想像以上の事態だと、己の主に向かって伝書鳩を空に向かって放ったのだった。
作者の原稿が遅れて申し訳ありません。きずいたら時がたっていました。
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