53第1次バリアス王国VSサンザー帝国の戦争
バリアス王国歴256年7月31日、辺境の町トマスの郊外の平野でバリアス王国とサンザ―帝国の戦が開戦となった。バリアス王国は総勢2万4千人、その内訳は辺境軍8千に辺境各領の領地軍合わせて8千に、辺境に普段から派遣されている王国軍8千がくわわって、丘の上に布陣しサンザ―帝国軍2万人と戦った。
数では優勢に見えたバリアス王国だったが、兵の練度の違いか、アミテッド将軍の采配の良さもあり、勝利したのである。もし首狩り伯爵のマーカス・キンバリー伯爵の息子が敵将の首を上げなければ戦はさらにどうなっていたろうか。こんなに鮮やかに勝てなかったかもしれない。
だがこの戦争で勝ったはものの戦死者や重傷者が出た。その重傷者の中にアドラスの父ヘンリー・ミュラ子爵もいた。戦死者はその土地に簡単に埋葬されたが、重傷者は輜重隊の食料を下ろして、いく時とは違い軽くなった幌馬車に乗せられ其々の領に戻った。
アドラスとアドラスの母エリザベスに祖父母、そして屋敷の者たちは幌馬車に乗せられて戻ってきたヘンリーの姿に息をのんだ。
「父上!!」
「あなた!!」
妻と子そして両親はヘンリーに駆け寄った。
ヘンリーの右腕はひじから下がなかった。これではもう剣が振るえない!!なんてことだと
アドラスは言葉にせず唇をかみしめた。
体をふき清潔なパジャマに着替えベッドに横たわった父を見て、
<父上の大切な右腕を切り落としたサンザ―帝国の兵を絶対に許さないぞ>
アドラスは心の中で決意した。
幸いにも父上はほかに重傷らしい傷は体にはなかったので、そのことにアドラスはほっとした。
<よし、僕の修繕魔法を父上にかけてみよう、人に対して修繕魔法はかけたことはないが、光魔法では切り落とされた腕や足の再生は無理だからな、できるとしたら伝説の聖女くらい。父上には悪いが絶好の機会だ、それに僕自身できるものなら父上に元の姿に戻って笑ってもらいたい!父上が大好きだから・・・・・・・・・・・・・・>
今度の戦にも父に付随してついていった、ヘンリーの主治医のサミアス・ヒューイットは父のベッドの横に椅子に腰かけ父の包帯を取り換えて消毒し薬草を塗ろうとした。
そこへアドラスが、
「父上、僕に父上の腕の傷をみせてもらえませんか?」
「ああ、アドラス様は医療ギルドに勤めておられましたね、どうぞ、子爵様よろしいですか?」
「ああ、私は別にかまわん、勉強熱心だな、お前は」
アドラスは医師の隣に椅子を持ってきて腰を下ろした。
医師は手際よく血にまみれた包帯を解いていく、そしてあらわになった父の傷のひどさに、アドラスは覚悟を決めてたとはいえショックを受けたが、顔には一切出さない。これも医療ギルドで助手として勤めていたおかげであった。手当てする医療ギルド員が、いちいちショックを受けた顔をしてたら、話にならないからである。週2回とはいえ医療ギルドに努めていてよかったなと、このときアドラスは心から思った。
医師は父の肘に向かってアルコールを示したワタを押し当てて消毒していく。今のところは化膿している様子はない。だがそこでアルザスが、
「すみません、ちょっといいですか?」
アドラスは父の右腕に手を添えて傷口をよく見てる風を装って、すっと目を閉じ次の瞬間
「修繕魔法発動」
人に対して使ったことはない、これが本邦初となる。
アドラスはこれ以上ないほど頭の中に父の腕が再生していくイメージを浮かべる。するとキラキラとした光が父の腕の周りに浮かび、腕が少しずつ再生し始めたのだ。
この様にヘンリーと医師サミアスは驚きあまりボーゼンとし声も出ない。
キラキラキラキラキラーーーーーーーーーーーーーーーーー
光が収まった時ヘンリーの腕は完全に再生されていたのである。
アドラスはそっと目を開けた。
「わしの腕がなおった!!」
「奇跡だ!!完全に子爵様の腕が治っている!!修繕魔法!?修繕魔法で人体の再生ができるなんて初めて見ました!!いや、聞いたこともない・・・・・こんな」
「フー、僕は前々から修繕魔法を人体に使えないかと考えてたんです。皿や花瓶、鍋が修繕できるなら人体もと、でもできてよかった。失敗したらどうしようと思いました。」
「お前、なんという子だ!!ハハハハハハハハ、すごいぞアルザス、よくやった!!おまえは魔法の新しい可能性を発見したのだ!!、はははは、これでまた思う存分剣が振るえるぞ!!サンザー帝国め、目にもの見せてくれん!!」
アルザスはこの時こう思った。父上今度こそ戦死しないといいんだけど・・・・・・
「それにしても素晴らしい、手や足を亡くした場合今は伝説扱いされている聖女のみしか再生できないと聞いていたのに、修繕魔法の応用、応用ですね、」
「そうです、これはあくまでも修繕魔法の応用です。でもこの時大切なのは人体の構造に対してどれだけはっきりとした知識を持ちイメージを持つかです。おそらくこれができなければうまくいかないんじゃないでしょうか、」
<それだけじゃないけどね、僕は人体透視ができるから、ほかの人とは違うんだ。>
「ああ、なるほど、アドラス様は医療ギルドに努めておられるから人体の構造は分かってるし、イメージをはっきり持つことができたんですね、なるほど、」
「父上、今回の戦でこのミュラー領でも多くの重症者が出たと聞きます。僕のこの力を使ってその者たちを修繕できたらと思うんですが、だって働き手が手や足を亡くして働けなくなったらその家族の死活問題ですから、このままほっておけば子捨てや奴隷に身を売るものが出てくるのではないですか、僕は領民に不幸になってほしくないんです。」
「なるほど、そうだな、お前は優しい子だなアドラス、わかった、そのことについて考えてみよう」
「ありがとうございます父上」