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39アドラスの考察

「ではアドラス様、お休みなさいませ」


「お休み、マリア」

マリアが部屋から退出すると、アドラスはベッドからむくりと半身を起こし、ベッドから降り窓辺に置かれた椅子に腰を下ろして透視を開始した。


「エルマ、お前の正体を暴いてやる。伯爵の誕生パーティに、父上とともに生きたいといったのはお前だろう」

エルマの店舗兼住宅はすでにどこにあるかアドラスは確かめていた。

そこはこの町の商業区にあり近くにはこの町の教会もあった。

アドラスは母に連れられて、教会に併設されている孤児院に母とともに何度も慰問に訪れ、孤児院の子供たちと仲良く遊んでいた。バザーが協会で開かれるときは、母手造りのアップルパイやパンプキンパイを作るのを手伝い、孤児院の子供たちと一緒になって、かわいい売り子として市民にパイを売るのである。

領主の坊ちゃまが売り子となるのは、市民には人気があった。

アドラスのとても聡明そうな雰囲気も、また魔力がけた違いにあることも、まだ8歳だが時期領主として頼もしく感じるのだ。

聞くところによると、8歳にもかかわらずもう水魔法で強固なバリア張れるというのだ、5歳の時から冒険者登録をし、薬剤採取の傍らホーンラビットは無論のこと、ワイルドボアまで仕留めるというのだ、市民からすれば実に頼もしき跡取り様だった。

むろんジミーにはとっくの昔に領主の息子だとばれていた。

でもジミーは何も言わない、アドラスは勉強を見てくれて、魔法も教えてくれる、時には読書の本も貸してくれるし、毎月王都で発行される少年雑誌も自分が読んだ後貨してくれる、知識が驚くほど豊富で、ジミーの知らないことをいっぱい知っているアドラスは、単なる冒険者パーティのメンバーではなく大切な一番の親友だった。

アドラスからすれば最初ジミーに近づいたのは下心があったが、今は単純にジミーが好きだった、友人だと思っている。領主の跡取り息子と母子家庭の子という身分さはあったが、前世身分差別のない日本人だったアドラスには、貴族だからという理由で自分は偉いという思いはあまり強くはなかった。

偉いか偉くないかはその人なりの人生の生き方だと思っている。


<俺にこれを教えてくれたのは前世のじいちゃんだったな、今は顔も覚えてないのにこのことははっきり覚えているんだ、俺だけこの世界に1300年後転生して、家族の誰かがこの世界に転生してないかな、無理だな、借りに転生してても前世の記憶があるかわからないし、顔も体もきっと全然別人だろうからな……話がそれた!エルマの店!エルマの店!>



三日月の月明かりの中に2階建てのエルマの店が浮かび上がっていた。店内は客が一人もなくすでに店を閉めたのがわかる。2階の居間兼食堂らしき部屋で赤い髪の茶色い瞳の若い女が男と酒を飲み交わしていた。


「アー上手くいかないねえ、せっかくあの人の正妻を出し抜いて伯爵の誕生パーティに出席しようとおもったのに、正妻に知られてだめになるなんて!!せっかくねだって買わせたドレスも宝石も着ていけないなんて、」


「まあ、いきなり伯爵の寄子パーティで正妻を出し抜いて出席するなんて、そりゃ無理ってものさ」

「それはそうかもしれないけど」


「それに正妻の生んだ息子は神童だって噂じゃないか、8歳でワイルドボア殺すなんてすごいじゃないか、ワイルドボアと言ったらc級魔物じゃねえか、そりゃ俺はお前、エルマの恋人してるが、ここは辺境に近く昔から魔物の出没が多い、強い魔物だって出る、そりゃ俺はお前、エルマの恋人してるが、ここは辺境に近く昔から魔物の出没が多い、強い魔物だって出るランクAの魔物だって出るんだ、領民のひとりである俺としては頭が悪くて弱い跡取りじゃ困るんだ。俺には両親も妹夫婦もいるしな、妹夫婦はついこの間子供が生まれたばかりだ。俺は俺自身も家族も魔物に殺されるのはまっぴらごめんだぜ、スタンピートなんて冗談じゃねえ!!」


「行ってくれるね、ずいぶんとあたしをなめ腐って、そんなの冒険者を雇うか領地軍にやらせておけばいいんだ。」


「お前ワールド領の話を聞いてないのか」


「ワールド領?」


「ここより西にあるワールド領を収める領主が愛人を正妻にすると言って、正妻と聡明で優秀な跡取りを追い出し、愛人を正妻の座に据え愛人の生んだ子を後継者にしたそうだ、だがな、色ボケした領主は領地運営をないがしろにし、跡取りも追い出した正妻の息子ほど出来が良くなかったそうだ、その結果何が起こったかといえばスタンピードだ。この町と同じで高い城壁にぐるっと囲まれてたが、城壁は魔物に壊され乗り込まれ領民は全員魔物に皆殺しにされ、町はすさまじく破壊され町の後には残骸しか残らなかったという。これは事実だ、エルマ、お前は確かに美しいしいい女だ、だがそれはあくまでも愛人としてだ、欲深で強欲なお前が正妻になったらおそらくこの領は終わるぜ、俺はそう思っている。だから悪いことは言わん、愛人でいいにしとけ」


「な・・・・・な・・・・」


「エルマ、お前には正妻の座は務まらん、王家の血を引く名門キンバリー伯爵家の出の奥様の代わりは無理ってもんだ。」


「何だよ、言いたいこと言ってくれて~~~~~~~~~~~~~~~~~」


「お前じゃこのミュラー領領主夫人は務まらん、これが宮廷領主ならまだしも、中央に近い魔物被害にもあまり困らない領ならまだしも、ここは敵国に近い辺境近くでその上下手したらいつスタンピードが起こるかもわからないこの領の領主夫人は無理なんだ、夢を見るのは勝手だが己を過信するな、領主夫人というのはこの領全ての領民の命を預かるんだ、お前には到底その覚悟も自覚もないだろ、」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

男はふらりと立ち上がり


「覚悟のないものが領主夫人になるのは間違ってるぜ」

そう言って上着を肩にかけ男はエルマを残し家を出て行った。

エルマはそんな恋人に二階の窓をガラリと開け


「おとといきやがれ!!!」

と怒鳴りつける声だけが、真っ黒がりの夜更けに響いたのだった。






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