10.お宅拝見
「ばあや、ばあや」
アドラスは図書室の南側の窓際近くにある一人用の安楽椅子に腰を下ろして、恋愛小説を読んでいるばあやの膝をゆすった。
「は、はい。アドラス様ご本はもうよいですか?」
「うん。ばあやききたいことがあるんだけど」
「なんですかアドラス様?」ばあやは本を閉じた。
「このやしきにあるまどうぐはになにがあるの?たとえばだいどころのまどうこんろとか?」
「オープンもそうですね、冷蔵庫もそうです。各部屋に取り付けられた照明も魔道具ですね。後スタンドもそうですし、・火付け具もそうですね。」
「ほかには?」
「うーん、ほかにはお風呂ですね・・・・・・・・後は柱時計はねじまきしきで違いますね。懐中時計も違います、あ、トイレはスライムがきれ
いにしてくれますし、これは平民のトイレにも同じですね、あとは・・・・・・これといってないですね。高価な魔道具は
使う人を選びますので一般向けではありません。
貴族は普通魔力持ちですが、庶民には魔力のないものが多いですからね。
その性で魔道具は高価ですし、自然貴族家が多く使用することになります。」
「そうなるとばあや、しょみんはひをつけるとしたらひうちいし?」
「ええ、そうですね、よくご存じですね。」
「ふーん、それじゃしょうめいはあぶらをつかったらんぷかろうそく?」
「はい」
「じゃ、れいぞうこは?」
「ありません」
「え、ないの!?」
「はい、ありません」
ばあやの言葉にアドラスは前世の記憶を探った。
<昔の日本では、扉付きの箱の下に大きな氷の塊を入れて冷蔵庫としたはず。日本の電気冷蔵庫のない時代はそうだった、
確か氷やさんが夏場大繁盛してたはずだが、でもこの世界では営業用の氷の保存の問題はどうなる?
それこそ魔道具が必要だ。
そんな大きな冷凍室となると魔石がすごく大きなものが必要になるかもしれない。
現実的でない。
むしろアフリカか中東で使用されてる大きな陶器のツボに、さらに少し小さめなツボを入れ隙間に濡れた砂を入れ
て、ツボの上を布をかけ砂の水分が気化することで小さなツボに入った野菜を冷やす方法がてきしてないか。
ああそうそう小さな壺には木のフタをしてその上に布をかけるんだ。
でないと壺がゴキブリの巣になったり、ネズミに野菜が食べられてしまうんだ。
それなら電気を発明する必要もないし魔石も必要ない。
でもそれを2歳児の俺がいったらさすがに目立ちすぎかもしれない。
他には素焼きのツボで自然と水分が蒸発するツボってないかしら?
確かそんなツボを使用して冷蔵庫、いや壺の中の水をひやす道具だったか、聞いたことがあるようなないような????>
「どうされましたか、アドラス様?」
結局そのあとアドラスは図書室を出て邸内をばあやとともに歩き、魔道具を実際に触れてまじかでジロジロ観察し、
その中で魔道コンロが前世日本のガスレンジにそっくりだと気付いたのだった。
そして台所の隅に転がっていた不用品の火打石を見つけて床によろけたふりしてさっとゲットした。
それが今日1日のアドラスの戦利品だった。
<さて、明日はこの火打石で実際に火が付くかどうか確かめよう。なんだかワクワクするな>
夜寝るときベッドにはいってそう思ったアドラスだった。
<なんか前世学校のクラブで行ったキャンプを思い出すなあ、おれ異世界に転生してしまったよ、みんなどうしてる
かなぁ>
そんなことをうつらうつら考えてるうちにアドラスはいつの間にか眠ってしまった。
アドラスの部屋の窓の外にはいちょうの大きな木があり、枝にフクロウが止まりホーホーとないていた。
その鳴き声を毎夜子守唄変わりしているアドラスだった。