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4・ギルドとドラゴン、どちらが強いのか?(1)

 セシルは普段まったく使うことのない砦の中の自分の部屋で旅支度をしていた。

 父親がマメな性格であるらしく、セシルの背格好にちょうど合う衣類や可愛い柄の文房具、果ては身だしなみ用品まで揃えられている。

 部屋の主がいないのに埃を被ったところのないきちんとした部屋である。


 セシルは森の中の自分の部屋を思い浮かべる。

 薬草の干したやつ、食べかけの木の実、料理する途中の計量器に乗ったドライフルーツ、頼まれていた薬を詰めるはずの瓶たち、そんなものがチグハグに置いてある。


 この部屋とはえらい違いだ。

 セシルは落ち着かない様子で部屋を見まわした。


 砦には女子の兵士もいる。彼女らの私室は可愛らしく飾られており、まあ、中にはセシルのように簡素な部屋の感性の持ち主もいるが、大体が花柄やピンク色という柔らかいイメージのものが多い。

 セシルに足りないのはそういうモノなのかも、と本気で悩み始めた彼女の部屋の扉をノックする者がいた。


「はい、どうぞ」

 気配で誰なのかは分かっている。

「セシル様、お久しぶりです」

 背格好はセシルと同じくらいの少年だが、年齢は結構上のカナンだ。砦で一番小さい兵士だが、情報収集の能力はずば抜けており、そのあどけない見た目で潜入調査もこなしているベテラン兵士である。


「カナンがお供してくれるんだね」

「はい。既に星屑のカヌレと竜宮城のマドレーヌは用意しましたよ」

 彼の言葉にセシルが微妙な顔をしている。

「どうしたんですか」

「星の雫のカヌレじゃないの?」


「え?」

「星屑のカヌレはスパイスが効きすぎなんだよ。星の雫のカヌレはフルーツ感たっぷりなんだけど」

 カナンの頭が高速回転する。

「どちらも、用意してますよ。このカナン、セシル様のお好みは熟知していますからね」

「だよね。カナンに任せていれば安心だもの」


 純真無垢な笑顔で言われて、カナンもにっこり微笑み返す。その彼の頭は旅程とカヌレの入手経路をすり合わせている途中だった。

 算段はついた。途中で寄る魔法省ギルドと傭兵ギルドに丸投げしよう。そうしよう。

 カナンはただセシルのご機嫌を取ってれば良いのである。


 砦の魔女は鼻も目も利く恐い魔女だという噂だが、身内の中では笑顔を見せる、超人見知りの歳よりも若干幼い少女だった。その彼女をあらゆる理不尽から守り、傷つくことなく、砦に戻すことが彼の役割である。


 世間知らずの砦の魔女は上機嫌である。その小さな手を伸ばし、お気に入りの飴が入った可愛いガラス細工のポットからいくつかカラフルな飴を取り出してローブのポケットに突っ込んだ。

「それじゃあ、出発だね」


 ほとんど衣類も魔法道具も入っていないお菓子だらけの斜め掛け鞄を肩にかけ、セシルは一大決心をしたかのように拳を固めて気合を入れている。

 旅の一番の難関は、この砦の外へ出発する勇気を持つことであった。








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