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第7話 大木の正体

「アリス、自分の能力ちゃんと把握できてないの困らない?」

「えー? 自分のこととかわかんなくない? なんかおっかない動物にはゲームみたいなゲージ? バー? みたいなの見えてるけどさ~」

「え、まじ? HPゲージみたいなの見えてるの?」

「命の残量みたいなやつ見えてるよ~」


 まじかー。

 その情報は初めて聞く。

 どのような能力がその情報を見せているのだろうか。


「ねぇアリス。自分のステータスが見たい! って強く思ってみ?」

「ステータスって?」

「あー成績表? あ、健康診断書みたいな? 自分の状態を見ることができるんだよ」


 これは私の両親はできなかったが、真奈美とおばさんはできたことだ。

 体に変化が起きているアリスもできると思うんだ。


「自分の状態を……わっ! なんか出た~!」

「なんかパネルっぽいやつ出たでしょ? それ、見たいとこタップすると詳細見えたりするから軽く確認してみて」

「なにこれおもろ~」


 口調こそ軽いノリだが、宙を見つめる目は真剣だ。

 何か気になる情報が見えているのかもしれない。


 アリスが自分のステータスを確認している隙に、改めて辺りを見渡してみる。


「やっぱり駅前、事故とかあったんだね。そして大きくなった木か……」


 改札横には「構内を避難所並びに救護所にしています」と手書きの看板が立つ。


 道路上では車同士が衝突事故を起こしているだけでなく、建物などにも車が突っ込んでいる。

 あちらこちらで火が上がり煙が立ち上る。


 駅前に救急車が1台だけ止まっているが、どう見ても人手は足りてないだろう。


 そして駅前の半分を占領している大きな木。

 改めて思うが、やはりこの木自体に攻撃を仕掛けたりするのはまずそうだと認識する。


「駅前の木、めっちゃでっかくなっちゃったよね~」

「本当だね。あのさ、アリスが来たときにはすでにモンスターが溢れてたりした?」

「んー? んーん。来たときには居なかったよ」

「いったいどのタイミングだったのかわかる?」

「タイミングはけーちゃんにメール送ったすぐ後ぐらいだったけど、原因はわかんない~」


 誰かが木に直接手を出した……にしては被害があまりでかくないように見える。

 そもそも普通の人間が殴ったり斬りつけたりしてもびくともしないぐらいに丈夫そうだ。


 実はなんとなく思い当たる節がないわけではないのだが、今はその事に関して考慮するのは後回しにしたい。


「圭、とりあえず広場のモンスターは倒したけどよ、この後どうする。あの穴ほっといたらまたモンスター溢れてきちまうかな……」

「どうかな。とりあえず近づいてみる?」

「そうだなぁ。こっから見てても全然わかんねぇし」

「え~あの穴に近づくの? アリスも一緒に行く~」

「またモンスター出てくるかもしれないから危ないかもよ?」


 アリスは平然と私たちに付いてくるという。

 だが穴に近づけばそれだけモンスターにも近くなるということ。


 先ほども応援だけして後方に居たことを考えれば、直接戦う手段があるわけではなさそうだ。

 近くまで一緒に行くのはまずいのではなかろうか。


「ふふ~ん。見てて~。キューピットアロー!」

「おお~!」


 アリスの手元が光った後、その手には緩いM字型の弓にハートの矢じりをした、まさしくキューピットがもつ弓をイメージしたものが握られていた。


 それは私たちが持つ物理的な武器と違い、エネルギー体といった見た目だ。

 全体が青白い色一色で出来上がっており、輪郭がときおり揺らめいている。


 私が作り出している武器はただの魔力の塊だが、おそらくアリスのものはスキルなのだろう。

 アリスのステータス詳細も気になるが、私から見たところで詳細は分からないのだ。

 家に帰ったらあとでゆっくり詳細含めて教えてもらおう。


「あんま遠くには届かないっぽいけど、これ自動で敵に当たるって~」

「ホーミング機能付きってことか? すげぇ便利だな」

「なるほど。ならアリスも一緒で大丈夫そうかな。でも危なくなったらすぐ逃げるんだよ?」

「りょ~」


 遠巻きにこちらをうかがってきてる人たちを横目に、私たちは木の穴へと近づいていく。


 そういえば兄たちのように姿が変わってしまった人たちは他に見当たらない。

 ネットで見た情報では、姿に変化がなくても力を使えてる人がいるはずだ。


 しかし魔法やスキルを使っていた様子もないことを考えると、ここに居るのは本当に何の変化もなかった人たちなのだろう。


 そうこう考えているうちに木の穴の目の前に到着するが、モンスターが飛び出してきたりはしないようだ。


「ねぇねぇ。なんか木の中、木っぽくなくない?」

「……だなぁ。俺の目には木の中が人工物っぽく見えるんだが?」

「それだけじゃなくて、これ異次元っていうのかな。明らかに外観以上に広い」


 穴のすぐ前に立ってみてわかったのだが、木の中はどうやら作りが全く違うことになっているらしい。

 

 中に灯りなどはなく、床は外の駅前広場と同じような石畳だ。

 ここから見える壁はレンガだし、奥には木や鉄で出来た扉が見える。

 そして入ってすぐのロビーっぽい場所だけでも明らかに外観以上の空間が広がっている。


「なんで入ってすぐのとこにでっかい噴水があるんだろう……」

「この駅、噴水なんてなかったのにね~」

「見える範囲には特にモンスターは居なさそうだな?」


 兄がスマホのライトで中を照らしているが、モンスターらしき影は見当たらない。

 暫定でロビーと考えることにするこの空間は、噴水と、どこかに続く扉のみの空間になっているようだ。


「……なんか……うん。なるほどなぁ……」

「どうした圭?」

「これ、ダンジョンってやつだ。多分だけど」

「え~ダンジョンって漫画とかで見るようなやつ? 大冒険始まっちゃう?」

「始まらない。というか、入らないよ。とりあえずモンスター居ないし」

「ええ~? 入んないの~!?」


 不満そうなアリスを私は半ば引きずるように木から離れる。

 兄はおとなしく付いてくるのを見るに不満はないようだ。


「あのね。私たちは一般人。で、国から正式に各自、家や避難所に避難するようにってニュースとかでさんざん言われてるわけ。ここまでオーケー?」

「あーん、けーちゃん本当にお堅いー。あーあ、これ使ってみたかったなぁ……」


 アリスはめちゃくちゃ残念そうにしながら手に握っている弓を見ている。

 なるほど、それでかなり不満そうなのか。


「この状況が続けばすぐにそれ使う機会ぐらいあるんじゃないか?」

「そっかな?」

「そもそも家に行くまでの間でも使うかもだしな。俺たちは駅に来るまでの間に3回も戦ったぜ?」

「ほんと~? じゃーモンスターが居たらアリスにやらせて~」

「危なくない範囲でね。痛いのは嫌でしょ?」

「うん~」


 さて、そうしたらここにはもう用はない。

 ここで正義感が強い人なら救護の手伝いに名乗りでたりするのだろうが、私はそんなに出来た人間ではない。

 まずは自分たちの安全確保が一番の重要案件なのだ。


「アリスはさ、ご両親海外だよね? いったんアリスの家に寄って、荷物もってウチに来なよ」

「けーちゃん家にお泊り~?」

「うんうん。アリスちゃん一1人じゃ色々危ないかもだし、皆で固まってたほうが安心できるだろ? 親父やお袋もアリスちゃん歓迎するって」

「確かによくわかんないことになってるもんね~。それじゃあけーちゃん家にお泊りしに行くよ~!」


 ちなみに駅前のスーパーは……開いてるじゃん。

 さすが日本と思う気持ちと頭おかしいと思う気持ちがせめぎあうが、開いているなら利用するまでだ。


 財布はないけど、とりあえずスマホがあれば電子決済があるから買い物ができる。

 あとで両親に使ったお金は請求しよう。


「スーパー開いてるっぽいから寄ってこ」

「あ、うちにあるごはんも着替えとかと一緒に持ってけばいい?」

「そうだなぁ。どのぐらいの期間うちに滞在するかわかんねぇし、日付短いものから持てるだけ運ぶか?」


 どうせ食材といってもアリスは料理ができないから、家にある物もたかが知れてる。

 ただ食材はなくても食品はあるかもだし、一応2人の提案に頷いておく。


 アリスが荷造りしている間に物色することになった食材は出るわ出るわ廃棄の山。

 なんで消費期限が2か月も前の牛乳が冷蔵庫に入りっぱなしなんだ。


 モンスターと戦う以上の疲労をこさえながらも、なんとかアリスと共に我が家へと帰還を果たす。

 ちなみに帰りは一度も戦闘にならず若干アリスが不貞腐れたのであった。

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