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第4話 隣の家には

次の投稿は月曜日予定です

「よし。兄貴、おばさんと真奈美のこと呼びながらついてきて」

「え、俺が? お前が先に入るならお前が声出せばいいじゃねぇか」

「……私の声、どう思う」

「………………お前の声がどうした?」


 あれ? みたいな顔してこちらを見ないでもらいたい。

 私これでも女から男へ変わってるんですよ!


 しかし声があまり変わらないというのならば私が声をかけても問題ないのかもしれない。

 抜き身の刀を手に玄関を開け、家の中を覗く。


 これが平時なら完全に不審者な危険人物である。


「おばさーん……真奈美ー……いるー?」


 元々の声に寄せようと思い、少し高めの声で中に声をかけるも、反応はない。

 自分の感覚的に声はこれで平気なはずなんだが。


 しかし家に誰もいなかったのなら鍵は閉まっていただろう。


「非常事態だし、靴は履いたまま上がらせてもらうか……」


 何かから逃げなくてはならないときに玄関でもたつくのは生死を分ける際には絶望的だろう。


 家の中からはお昼の残り香なのか、美味しそうな匂いがする。

 これは……ラーメンだな。


「おばさーん、真奈美ー。圭子だよー」


 靴のまま家へと上がり、リビングにつながる扉に手をかける。

 後ろについてきている兄を無言のまま見れば、渡したメイスを握りしめてうなずいてくれる。


 扉の取っ手をゆっくりと押し下げ、扉をそっと押しあける。

 体は扉から出さずに、まずは顔だけのぞかせて中の様子を確認する。


「……おばさーん? 真奈美ー?」


 特に変哲のないリビングが広がっており、物音などはしない。

 よくよく中を確認すれば、テーブルの上にはコップが2つと、スマホが1つ置かれている。

 スマホは可愛いケースとストラップがついており、あれは真奈美のものだ。


「おい、中には誰も居ない感じか?」

「……どうかな。怖い感じはしないし、このままリビングにはいってみようか」

「入った後扉どうする」


 扉を開けておけば逃げるときはスムーズだが、逆にリビングに誰かが居た場合に逃げられやすいということでもある。


「閉めよう」


 少なくともこの部屋の中は外で見た駅方面の木よりも危険性が低いように思う。


 部屋の中に入り、兄が後ろ手で扉をそっと閉める。

 改めて部屋に入り見渡すも、人がいた形跡はあるが人気はない。


「ひとまずリビングを検分って感じだな」

「そうは言っても、あとはここからは見えないキッチン側見るぐらいかな」


 正直靴のまま家に上がっているため、申し訳なさもあってうろうろはしたくない。

 あとで掃除するときは絶対手伝おう。


「長物もってるし俺が行くか。……さっきの物音、どうやら鍋が落ちた音っぽいな」

「鍋が落ちてるの?」

「そ。ん-……空の鍋が落ちてる以外、キッチンも特になんもないな」


 私達がチャイムを鳴らした時に鍋が落ちた、ということはつい先ほどまでここに誰かが居たのだろうが……。


「誰かが居て、慌てて鍋を落としたとしてさ。リビングから出たと思う?」

「でもよ、誰もいねぇんだって」

「兄貴さ、ちょっとリビングに居てくれる? 私は他の部屋とか、2階見てこようと思うんだけど」


 どのみち兄のメイスでは他の部屋では使い勝手があまり良くないだろう。


「え、いや、他の部屋を1人で見て回るなら俺がいくぞ」

「……兄貴が? 嘘だろ」


 先ほどから私の後ろをついてくるしかしなかったビビりの兄が1人で行動をしようとするとは。

 これは絶対何かがある。


「何を企んでる?」

「べっ、別に……」


 なるほどこれは絶対やましいやつだ。


「真奈美の部屋に入ってナニするつもりさ」

「ち、ちがっ――」


 このうろたえ方絶対そうだと思った瞬間、兄がいるキッチンのほうでバン!! という大きな物音が響いた。


「ぎゃ!!」

「兄貴っ!?」


 急ぎキッチンへと向かうと、兄は倒れて尻もちをついている状態で何かを見つめている。

 兄の視線の先を追うと、そこには赤い色をした丸い物体がプルプルと体を震わせていた。


「スライムってやつ? どこから……」


 見ればキッチン上の扉が大きく開け放たれている。


「っぁ……圭子、気を付けろ、攻撃された……」

「ちょっ! 兄貴、顔がっ!」


 私の名前の呼び方が元に戻ってしまっているが今はそれどころではない。


 兄の顔の一部が酷く焼けただれているのだ。

 刀の刃先を向け、スライムを威嚇しながら兄を助け起こす。


「そこの戸棚から飛び出てきたみたいなんだが、そいつが体当たりしてきてよ。その瞬間当たったとこがめちゃくちゃ熱くなった」

「高熱での火傷か、それとも強酸のようなものか……どっちにしても当たっただけでそれはやばいな」


 スライムはいまだプルプルと震えながらこちらの様子をうかがっている。

 赤くて丸い、つるっとしたスライム。

 目玉といったものはついていないようで、どこを見ているのか判断ができない。


『……ぁ……ぁぁ……』

「うぉ、声っぽいの出してるんだけど」

「ぁー圭。お前さ鑑定してみたらどうだ」


 兄はメイスの尖った先端をスライムに向けながら私に鑑定を促してくる。

 言われて鑑定というスキルの存在を思い出した私はスライムに意識を向け、ステータスを覗き見ることに。


 ======================

 称号:軟体生物

 名前:小坂こさか 真奈美まなみ

 種族:スライム

 職業:一般人/中学3年生

 レベル:1

 スキル:焦熱液・硬化

 ======================


「は?」

「圭、何かわかったか?」

「わかったけどわからん」

「どっちだ」

「兄貴も鑑定、してみてくれる? 名前とかぐらいは見えるんだよね」

「ああ………………え? 真奈美ちゃん?」


 プルンとスライムが揺れる。

 しかしその後はいまだにプルプルと震えている。

 スライムは震えている状態がデフォルトなのだろうか。


「えっと……真奈美。であってる? 言葉通じてる? おばさんは?」


 真奈美と思われるスライムは上下にプルンと大きく揺れた後、ポヨンと跳ねながらキッチンの奥へと向かう。

 キッチン奥にある縦長の収納棚の前へ進み、止まる。


「……もしかしておばさんがそこに居たりする?」


 いやまさかな。


 念のためノックをし、ゆっくりと棚を開けてみる。

 すると棚の中にちょっと人では絶対無理な体勢で収まっていた何かが外へと出てきた。


 それは人っぽい形をした植物で、洋服を身にまとっている。

 こちらもスライム同様に鑑定を行えば……。


 ======================

 称号:束縛者

 名前:小坂こさか みどり

 種族:妖樹

 職業:一般人/主婦

 レベル:1

 スキル:光合成

 ======================


 名前は間違いなくおばさんのものだ。


 称号はなんとなくわかる。

 というのも小坂さん夫婦は互いに結構束縛するタイプらしいのだ。

 互いが納得してるのなら構わないと思うのだが、まさかの称号反映である。


 おばさんって元々ひょろっと細長い感じの人だったな。

 種族や称号というものは、元々の性質などが大きく関わっているのだろうか……。


「おばさんは結構顔っぽいとことか面影がある気がするな……」

「えっと、言葉は……」


 フルフルと手っぽいような触手っぽいような植物部分が横に揺れる。


『ぁぅ……ぁー……』


 スライムの形をした真奈美も喋ろうとしているのだろう。

 声が出ているような、出てないようなといった具合である。


「はぁ。とにかく2人とも無事で良かった。いや、無事か? まあ無事か……」

「そうだなぁ。なぁ、圭。今俺の顔ってどうなってんよ」

「顔? おお? 傷が治りかけてる」

「やっぱ? なんかさ、だんだん痛みが減ってきたんだ」


 兄は自然回復力(大)というパッシブをもっていたので、それの影響だろうか。

 私も同じパッシブを持っているが、傷の治りが早いのは良いことだろう。


「とりあえず……2人とも私達の家に連れてこっか」

「そうだな。言葉が話せないうえに見た目モンスターだしな……」


 言葉自体が通じてるのは不幸中の幸いといったところか。

 ひとまず2人の身柄、スマホ、そしてこの家の鍵を預かり、隣の我が家へと戻ることにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] エグい(°д°))))) 知り合いがスライムと植物になってたら発狂する自信ある
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