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第32話 安心安全な日常目指して

「このパン、美味しいな……」

「ああ、パンはここに残ってる学生が中心に作ってくれてるんだ。学校に行けてない分、自習とかしてても暇になりがちで」


 暇だったこともあるのだろうが、自分たちでも手伝えることはないかと申し出てくれたのだ。

 体力が有り余ってるようだったので、パンづくりをお願いしてみた。

 そうしたら美味しいパンが焼けて食べれるし、楽しかったらしい。


 それからは手間暇かける時間があることもあってか、毎日数種類の美味しいパンが常備されるようになった。

 ちなみに私がダンジョン機能で作った石窯で焼かれてたりするので尚更美味いんだと思う。

 石窯作ったときにピザを作ってもらったけど、あれも最高だった。


「ここは本当に素晴らしい。最高です」

「口に合うようで良かった」


 溝内さんは肉と穀物パンを交互に口に含んで美味しそうに食事をしている。

 駅前ダンジョンの中で見た時はキリッとした大人な感じの人だったが、ここにきてからはなんだか小動物みたいで可愛らしい雰囲気になった。

 今は随分とリラックスできているのだろうな。


「それで、古太刀さん。さっき言ってたプライベートな質問っていうのは一体?」

「あぁ、君に関してなんだが。本当に至極プライベートなことで、ここで質問しても構わないものかどうかすら判断がつかない」

「私に関して? 別にここで構わないかな? 今いるメンツは全員昔から知ってる連中だし」


 今一緒に食卓を囲んでるのは今日一緒にダンジョンに潜った3人と、兄と真奈美。

 コミュニティや自警団での中心メンバーというやつだ。


「では。まず私たちが君たちに関して事前に調べさせてもらったことは知っての通りなんだがね」

「はい」

「圭くんは、如月圭子、17歳、女性……で戸籍上は間違ってないのだろうか?」

「ん? ……あ! あっはっは! なるほど!」

「ぶはっ! こ、戸籍上! やばいツボる!!」


 ものすごく言いづらそうな顔で切り出されたので何事かと思えば、そういうことか。

 兄がめちゃくちゃ笑っていてムカつくが、食事中なのでぶっ叩くのは控えておく。


「それで間違ってないよ。私、世界大侵攻のときに亜人変化で、種族が魔人になっただけじゃなくて女から男に性別も変わったんだ」

「えっ! 性別が?! 圭さんは本来女性だったのですか……」

「溝内さんは知らなかったんだ」

「はい……。情勢的に仕方なく情報は引き抜いてますが、個人情報は極力伏せられるようになってますから」

「なるほど」


 対策チームの人はなんでも情報見放題というわけではないらしい。


「そう……だったのか。なぜ名前を圭子から圭と名乗っているのかも不明だったのだが……まさか性別が変わっていたとは」


 私がダンジョンの中で名乗ったとき、女だと思ってた人物が男で古太刀さんの脳内は大変混乱したらしい。

 全然気づかなかった。

 この人ポーカーフェイスすごいな。


 その後は食事をしながらお互いのプロフィールを交換しあったりした。

 古太刀さんは警察からの出向で、実家が剣術道場を営んでいるんだとか、溝内さんは自衛隊からの出向で、隊員たちには鬼教官と呼ばれているのだとか教えてもらった。


「ご馳走様でした。ここは食事も素晴らしかったですが、雰囲気もとても良いですね」

「そうかな? ギスギスしたりしてなのは確かだけど」

「溝内くんの言うことは私にも分かるよ。対策チームでは食事中でも空気がピリピリしている。もう少し君たちを見習って肩の力を抜かねば。あれではどれだけ栄養のある食事を摂ったとしても疲れが取れないな」


 古太刀さんが苦笑いしながらそう言うと、溝内さんがすごい勢いで首を縦に振っている。


「でも世界大侵攻なんて、これから先、当分付き合っていく必要があるのだからそれでは長続きしないのでは?」

「そうなんだ。だからこそ対策チームに対して君たちの情報を正式に出せるとね」

「あ、はい」


 現在私たちのコミュニティから得られる情報は国の上層部、さらにその中からごく一部の人たちしか知らないんだって。

 国を動かすだけならごく一部の人だけ知ってればいいということらしい。


「それじゃあ、食器も片したし、情報交換といきますか」


 私たちはコミュニティに乗せてる情報も、そうでない情報も片っ端から説明をしていく。

 ダンジョンの詳細とか、魔法の使い方とか、他にも色々驚くことが多かったようだ。


 逆に古太刀さんたちが持っていた情報は私たちが知りたかったことばかりであった。


 異世界からの侵略行為だと各国が判断した理由、異世界人の存在。

 他にも他国との連携や、国として亜人変化者や覚醒者をどう対応するつもりなのかという話しまで聞かせてもらえた。


「1週間以上前から兆候があったなんてなぁ……」


 まず異世界からの侵略行為だが、これ実は1週間前に世界大侵攻が始まる前から各国で兆候が確認されていたらしい。

 何も生えていなかった砂漠や荒野に見たこともない植物が出現したり、海洋調査で今まで無かったはずの建造物が見つかったり。


 特に植物などは科学的調査で説明のつかない物質が検出されたりしたものだから、主要国の共同調査チームというのが立ち上がってたんだとか。


 そして世界大侵攻のとき、異変が見つかった周辺に異世界人の街が出現。

 見たことのない服装に聞いたことない言葉。

 そして武器に魔法と、これはファンタジーですって言わんばかりの要素満載だったらしい。


 言葉は通じないがボディランゲージなどでなんとか意思疎通がはかれており、今のところは比較的友好な関係だとか。

 ただ下手をすれば一触即発なんてことにもなりかねないので、報道規制をがっつりかけられてるのが現状だそうだ。

 ちなみに日本国内には異世界人や異世界の街などは今の所未確認とのこと。


 で、そこからこれは侵攻行為だという極めつけ。

 どうやら私が創造主の独り言で聞いたのと同じような内容を出した人たちの記述なんだって。


 最初は勝手な妄想話だと思われたけど、作り話にしては具体性が高い。

 また世界各地に居る人たちでほぼ同じ内容が語られていて間違いないのではということになったそうだ。


 ただ恐ろしいことにその内容を出した人たちは現在全員、気が触れてしまっているのだとか。

 深淵、覗いちゃったんだなぁ……。


「私は正気なうえに自警団代表してるとか、そりゃ目立つよなぁ」

「君に関しては色々とチームの中で憶測が流れたよ」


 それ絶対どの憶測もろくでもない内容なんでしょ、古太刀さんも溝内さんもすごい苦笑いしてる。


「ちなみに私が一番推していた説は、元々能力者だったのでは、でした!」

「ぁ~なるほど。え、実際のところ能力者って本当に居たり?」

「いや、自称超能力者はそれなりの数居たがね」


 やっぱりそうなんだ。

 超能力とか霊能力とか、そういう話は嫌いじゃなかっただけにちょっと残念だ。


「いまや魔法が使える世界だもんなぁ」

「魔法もだが人体のつくりからして変わってしまう事態だ」


 超能力とかいう存在は魔法や亜人変化の前では霞んでしまうな。


「その魔法だがね。本当に真面目な話、転移などの移動手段を確保できればと思うよ」

「外国どころか国内の移動にもそこまで支障をきたしてるとはなぁ……」


 海外にアリスのご両親が居るため他国との連携とかどうなってるのか聞けば、外国どころか北海道すら行き来に危険が伴う状態だとか。

 まず陸を繋ぐ橋とかトンネルの類は壊滅してるらしい。

 そしてさらなる問題は巨大なモンスターの出現である。


「空高く飛ぶとドラゴン、海だとクラーケンとか。自衛隊の武器じゃあ刃が立たないやつらとか相手にできないよなぁ」


 双方とも自衛隊がもつ攻撃手段は効かなかったとのこと。

 魔法攻撃などは効きそうだということだが、倒す場合の被害想定がでかすぎるので空も海も断念してるそうだ。


 最初その話を聞いたとき、低空飛行とかじゃ駄目なのかなと思ったのだがそれも駄目らしい。

 鳥タイプのモンスターを中心に、ワイバーンとかグリフォンのような中型モンスターが寄ってきてしまうんだとか。


 逆に海のほうだけど、漁をするぐらいの船ならクラーケンは襲ってこない。

 そのかわり今度は人魚や半魚人、魚類のモンスターがわんさかなんだって。


 漁業ポイントはそうでもないけど、陸から陸へ渡るようなルートは危険が高いそうだ。

 理屈はわからないらしい。


「君たちならいずれ奴らを下してくれると期待しているんだがな。他にも亜人変化者や覚醒者たちに協力を仰ぎたいが、現状本当に問題が多すぎる」


 亜人狩りを始めとした人間至上主義者。

 人間以外は排除すべき、あるいは異世界の力など一切の使用禁止を謳う人たちが、私たちが思っている以上に多いそうだ。


 そのような中で国が大々的に力を借りようとすれば十中八九、一般市民からの暴動が起きると。


「まあ国としては亜人変化者も覚醒者も、今までと変わらず国民として対応する方針とか、戦力として強制徴収するつもりがないとわかって私たちは安心したかな。さりげない程度なら世論操作とかで協力できることはするよ」

「君たちの発言力は大きいだろう、助かるよ」

「ま、私たち自身のためでもあるからさ」


 人間至上主義なんて考えが広まったら私たち自身危険に晒されるだろうし。

 あと私たち以外に戦える人たちが増えれば増えるだけ地球勢力が優勢になるわけだからな。


「さて、もう良い時間だ。他に相談することもあるだろうけど、今日のところは風呂に入って、寝よう」


 もう21時すぎだ。

 ここから風呂に入ったりすればあっという間に寝る時間になる。


「なんて健全な生活……」

「健康な生活はたっぷりの睡眠と、たっぷりの美味しい食事だよ。明日の朝食には焼き鮭と甘い卵焼きが用意される予定に――」

「寝坊するわけには行きませんね!」


 溝内さんめちゃくちゃ食い気味に言葉被せてきたけど、気持ちわかるわ。

 あとは2人に部屋の案内とか服の提供をするだけだ。

 

 今日だけで色々なことありすぎって感じの一日だったけど、今日も全員無事に過ごせて良かった。


 世界大侵攻から1週間。

 大きく変わった世界で過ごす生活は不安もあるが、日々生きているという充実感は高い。


 しかし、安心安全な日常生活にはまだまだ程遠い。

 皆と協力して日々頑張っていくとしましょうか。

ここで第一部完となります! ここまで読んでいただきありがとうございます!

評価やブクマ、イイネなども嬉しいです。誤字脱字報告も本当にありがとうございます助かります。

第二部はまだ執筆中となりますので、公開までしばしお待ちいただければと思います。

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