第23話 いざダンジョンへ
我が家の最寄り駅である駅は、相変わらず駅前広場がダンジョンの大木に半分ほどを占領されている状態が続いている。
改札前では警備員さんがダンジョンからモンスターが出てこないか見張りに立つ。
人の往来は今が昼前ぐらいの時間なせいか、ほぼないようだ。
電車自体は運行しているが、モンスターが飛び出してきたりする危険があるので徐行運転だ。
新幹線などは運行停止。
ついでに言うと空も海も危険なので飛行機やフェリーも運行停止になっている。
そんな中漁船を出してくれる漁師たちが居て、いまだにスーパーには魚介類が並んでる。
命は大事にしてほしいし、値上がりもすごいしてるみたいではあるが、ありがたく購入させて頂いてる。
いかんせんドロップだけでは量も種類も足りないのだから、生産者や流通関係者には頭が上がらない。
国のほうは救助活動は落ち着いて、現在はライフライン拠点の防衛で手一杯のようだ。
国として国内の状況を把握したくても手が足りてないのが現状なのだろう。
そのためちょっと話題になった私たち自警団へダンジョン探索の依頼が舞い降りてくることに。
日本には警備業はあっても傭兵団体はないから、私たちは戦うことのできる集団として適当だったのだろうな。
「さて、ダンジョンは出入りが自由ということもわかっているし、行こうか」
「"シャインちゃん、明かりよろ~!"」
アリスが光魔法を使って明かりを灯す。
以前確認した通り、大木の根本に開いている穴から入ってすぐは広いロビーになっており、中央には大きな噴水が鎮座している。
「"我に観測をもたらせ"……圭くんたちから聞いてた通り、このロビーには特に隠れてる敵とかは居なさそうだね」
「床は石畳で壁はレンガか。叩きつけられたら痛てぇなこりゃ」
タケくんの感想がまさにタケくん。
元からケンカっぱやいのは知ってたけど、今もう脳内戦闘一色なんじゃなかろうか。
「鑑定っと。ほー」
「え~? なになに~!」
公園と同じように噴水は魔障泉になっているのかと思えば、これはまた面白い鑑定結果が出た。
「空間に関してはノーネーム。噴水は癒やしの噴水だって。泉の水を飲むと体力が回復するらしい」
「へぇ。ゲームによくある奴だな」
「それはそうだけど……」
ソウくんが苦い顔をする気持ちは私もよく分かる。
「人間殺したいのに回復手段を用意する意味は? というところだよね。なんだかこの噴水、ディテールもやたらと凝ってるし」
「なんかめっちゃ豪華だよね~お城の庭とかにありそう!」
「これがなんであろうが、ここに帰ってくりゃ体力回復するって事実だけわかりゃ十分だろ」
こんな入口で時間を掛けすぎてもしょうがないのは確かである。
「体力回復っていうのがどのぐらいまでの傷とか体力消耗に効くかは分かったかい?」
「いや、ただ体力が回復するとしか書かれてないな」
「じゃーアリスの解析いってみよ~!」
アリスはそう言うなり噴水の水に手を触れる。
「コップ1杯程度の水で複雑な傷と簡単な病気が治るっぽい~」
「へぇ、病気もか。複雑な傷ってこたぁ、欠損は駄目なんだよな確か」
「そうだね……アリスの光魔法でギリギリ同じことができるぐらいの性能になるのかな」
回復魔法は表記的に簡単、複雑、完全の順で回復可能範囲が変わるそうだ。
完全回復が生きてれば欠損まで回復が可能な効果。
アリスの応急手当スキルは魔力消費と詠唱なしで簡単な傷が回復可能。
光魔法を唱えれば複雑な傷まで回復が可能だそうだ。
ちなみに私が使う回復魔法は今の所、簡単な傷までしか不可能だった。
蘇生魔法の情報は未だになし。
蘇生魔法は存在してない可能性も十分にある。
「この水は持ってきた水筒に入れて僕が管理しておこうか。ひとまずわかった情報もコミュに上げ終わったから、先へ進もう」
噴水から採取した後どの程度効果が持続するのかも気になるし、それが良さそうだ。
いざとなればダンジョン内で使えるし。
「ソウくんに荷物ほとんど預ける形になってるけど、キツくなったらちゃんと言って。身体強化使えばリュック背負いながら戦うこともできるんだから」
「うん、流石に大丈夫だとは思うけどね。それに魔力があるうちはアリスさんに持ってもらったほうが荷物の安全的には良さそう。飛行スキル使えば移動速度が落ちることはないし」
そうなんだよな。
2人がもつ飛行速度は自重に関わらず自身が全速力で走るのと変わらないぐらいの速度で飛べるようなのだ。
ちなみに今はソウくんも擬人化は解いて吸血鬼の姿だ。
「道程で一番ネックなのは俺か」
「そうだねぇ……私も滞空のパッシブがあるから。タケくんは落とし罠とかに要注意かな」
とはいえタケくんも私の身体強化と同じような身体増強というスキルをもっている。
それを使えば何かと切り抜けることはできそうだ。
スキルは魔法と違って詠唱などが必要ないので咄嗟に使用するには最適だろう。
「それじゃあ先に進むとして、ロビーにあるのは木の扉と鉄の扉が1つずつか」
一応このダンジョンは外見が大木だし、階層があって上層に繋がってると思いたいのだが、階段の類はロビーにはないようだ。
「鉄扉のほうはわからないけど、木のほうは部屋になってて、モンスターっぽいのが居ると思う。そっちから覗くといいんじゃないかな」
「ソウくんの探知だと音がある程度通るなら壁や扉の向こう側までわかるのか。すごい」
魔力探知の場合、そこまでの精度はないんだよな。
「じゃあこっちから開けりゃいいんだな。いくぞ」
「よろしく」
モンスターが居るっぽいということで、刀を構えて集中する。
自己流ではあるが、最近では刀の扱いにも段々と慣れてきている。
よく見る雑魚モンスターぐらいなら身体強化なしでも一刀両断できるようになったのだ。
「いくぞっ!」
木の扉が大きな音を立て勢いよく開かれる。
扉の向こうにはやはり部屋があり、広さはだいたい教室2つ分ぐらいだろうか。
狭いというほどではないが、広いというほどでもない。
部屋の中にはざっと見渡しても10体前後のモンスターが居座っている。
「"ダークエレメントよ我が声に応えよ。敵たちの視界を暗闇に塗り替えよ"」
「オラァ!!」
扉が開かれると同時に詠唱されるソウくんの闇魔法はモンスターたちの視界を奪い、タケくんがそこに突っ込んで殴るわ蹴るわの大暴れが始まった。
「んんん。アリス、右斜め前の壁側のやつが魔法かかってないわ」
「オッケー。とう! なんか後はもうお任せでよさげ~?」
そうだねぇ……私もやることなくて扉から少し入ったところで突っ立っているだけである。
あとソウくんも魔法放った後はただ突っ立ってる。
予め敵が居ることがわかってたこともあって奇襲が綺麗に決まっている。
視界奪取は雑魚には非常に有効である。
「ハッハー! ソラッ!!」
んー、一人大立ち回りで楽しそうである。
「ま、まぁダンジョンの序盤も序盤だしね? 僕たちは体力と魔力の温存ということで」
そんなこんなで5分も経たないうちにこの部屋のモンスターはタケくんに狩り尽くされたのであった。
「手に入ったのは魔石とー、キノコとー、これは皮?」
「獣皮ってやつだね。キノコはキノコっぽいやつからだけど、皮は化け猫からだった」
10体前後のモンスターを倒してドロップは2つで、食材と素材か。
割りとドロップはするほうなのだろうか。
どこかでガチャより優しいとかいう意見も見た気がする。
「ふう、準備運動には丁度良かったぜ。おら、とっとと次行こうぜ」
「元気だなぁ。とりあえずそれは両方ともあまりかさばらないだろうし、持っていこうか。魔石は私に貸して」
「はい! どーぞ」
「いやぁ、何度見ても不思議だよ」
アリスから受け取った魔石は私の手のひらの上でふわりと浮き上がり、光の粒子に分解されて私の中へと吸い込まれていく。
「魔石同士の結合。結局これも私しか出来なかったけどね」
最初それができることを知ったのはネット情報からだった。
雑魚モンスターの魔石同士を結合させるとちょっとだけ性能が上がるっぽい、という動画を見て試してみたのだ。
私の心臓は体内にあるので、ただ魔石をくっつけて魔力を注げば、とは行かない。
結論として、魔石を1度魔力へと分解、魔力を取り込む過程で心臓の魔石へと結合というプロセスを辿ることに。
そしてこの魔石を魔力に分解したり、魔力にした魔石を結合したりといったことが出来たのは私だけであった。
「拾える範囲のものは私の魔石に結合させる。ある程度は魔石の状態で残したほうが良いかなとは思うけど、それも魔石同士で結合させちゃおう。かさばるし」
もし誰かに倒した数と魔石の数が合わないと指摘されれば、魔石同士を結合させたから、で無問題である。
魔石同士の結合は魔力が扱えれば誰でも出来ることだ。
「けーちゃんってば、すっかり魔王さま」
「え、どういう評価。いや、それは評価なのか? それともまさかの罵詈雑言?」
「え? 褒め言葉っしょ」
「そう……」
アリスから形容しがたい褒め言葉をいただいてしまった。
個人的にはあまり嬉しくない褒め言葉であった。