第19話 公園に居たものとは
「さて、公園に着いたわけなんだけど」
「うわぁ、なつかしい。ショウガッコウのころよくあそんでたなー」
確かに、懐かしい。
この近所で育った子供はだいたいこの公園で遊んだことがあるのではないだろうか。
大きな遊具が多く、芝生もあるのでピクニックが出来るスペースのある公園だ。
たしかここは指定避難所の1つでもあった気がするけど……。
「けーちゃん、どお?」
「そうだね……ダンジョンではない。でもやっぱり不穏な気配を感じる」
「ダンジョンじゃないけどやばそうな場所ってなんだろうな。強い奴の根城?」
「わきスポットというセンもあるかも?」
んー根城に湧きスポットか。
なんだかそうやって言われると、どっちもあり得る気がしてきた。
「わからないけど、ひとまず目に見えてるやつ倒そう。全部エネミーだ」
公園入口から見えているのはゴブリン2体と口が裂けている化け猫3体だ。
まだこちらへ気づかない程度に距離は離れている。
だが目視ができている以上気づかれるのは時間の問題だ。
3人をさっと見渡せばそれぞれ真面目な顔になりうなずいてくれる。
いや、真奈美に関しては目がついてなくてわかりにくいが、ふよんと縦に揺れたから多分うなずいてくれている。
「数は向こうが多いけど、こっちは一斉に遠距離攻撃で数を減らそう。真奈美の焦熱液はこの距離届かないけど、アリスのアローはどう?」
「んー、ギリって感じだけどいけそう」
魔法に関しては目視さえできてれば距離感は問題ないだろう。
さてここは戦闘のお試しもあるのだから、一通りの戦い方をしてみたいところだ。
「アリスの弓と兄貴の魔法はまずゴブリンに。化け猫3体は向かってくるところを私の魔法で足止め。そしたら3人が焦熱液と魔法で対処。間合いに入ったらあとは物理で」
「オッケー。アリスは右のやつに狙いよーし。あとはしょーちゃんに合わせるよー」
「おう……なんかその弓、力込めて弦を引っ張る必要ないんだな……」
そういえばさっきからアリスは弓矢を引いた状態で待機しているが、見るからに力は入っておらず、それっぽいポーズで構えているだけだ。
そういうところはスキルの良さといった感じだな。
「じゃあいくぞ。"大地よ我が敵を穿て!"」
『ギャギャッ!?』
「続いていっくよー!」
『ッ!!』
地面が突起となり下から上と突き上がり、左のゴブリンは串刺しになる。
ゴブリン1体がやられたことで敵はこちらに気づき、残りのゴブリンが大きく動く。
しかしアリスが放った矢はホーミング機能付きだ。
動き出したゴブリンへ吸い込まれるように脳天に矢が突き刺さり、体が消滅していく。
さて化け猫3体も想定通りにこちらへ向かってくるので自分の役割をこなそう。
「"魑魅魍魎よ力を。奴らの影を縫い付け足止めせよ"」
『ギュア゛ー!』
モンスターたちの影から無数の蠢く手が現れ、化け猫たちをその場へと縫い付ける。
身動きが取れなくなった化け猫たちはすごい声でこちらを威嚇してくるが、遠距離攻撃手段のない敵が動けない状態はただの的である。
「てやー!」
「"大気よ渦巻き我が敵を両断せよ!"」
「"シャインちゃん、あいつやっつけちゃってー"」
3人ともそれぞれの方法で攻撃を仕掛けていく。
真奈美の焦熱液はしっかりと敵へと当たり、敵を溶かす。
敵が死ぬまでの間、見た目がグロくなるのは諦めるしかなさそうだ。
兄の詠唱は随分とシンプルだ。
さらに短くしたかったらしいが、制御ができなくなりそうとのこと。
それと私とは別に特定の土台は決めずにその場のノリで使い分けるらしい。
私と同様、魔法の登録が必要なく、すべての属性が使用可能だそうだ。
アリスの攻撃は光属性の魔法で、それっぽい光線が放たれて敵を貫いてた。
なんともゆるく感じる詠唱だがアリスはこれで問題ないようだ。
「懸念してた焦熱液の威力も、こいつら相手なら問題なさそうだね?」
「えっへん。イチゲキでたおせた!」
スキルも魔法も、どの程度の敵まで通用するかは今後試していくしかない。
テレビで見た魔王のしもべとか、ああいうのが居る以上、この近所で対峙した以上の存在が居るのは確かだ。
あとは魔法威力の上げ方も試行錯誤しないといけないか。
魔法一覧では分類の指定しかなく、その分類内での威力や範囲の上限がどの程度なのかがわからないのだ。
「兄貴は次魔法使うとき、もうちょっと威力とか範囲あげられそうか試してみて」
「おう。今使った感覚からすりゃ両方とも上げられそうだ」
「私はー?」
「アリスは魔力の残りってどんな感じ?」
「んんっ。難しい。そんなにゴリって減った感じはしないけど。残り体力なら解析でわかるんだけどな~。まなっち、今の攻撃で体力ちょい減ってるのわかるし。でもこれ私の回復は効かなそー」
アリスのパッシブスキルの解析は見た相手の体力がわかる。
最初会ったときモンスターにゲージが見えると言っていたのだが、認識すると人間にも見えるようになったそうだ。
そして体力が減っているが回復しない、というのは怪我ではないからか。
体力の回復上限自体が減っている、みたいな感じかな。
「私と兄貴は魔人って種族柄、魔力は高めなはずなんだけど、天使がどんなもんかわからないんだよな。アリスの場合、回復を使うために温存気味にしたい」
「そしたら基本は弓攻撃かなー。これ矢を射るだけならそんなにって感じするし~」
「ソラとぶのにもマリョクつかうんだっけ?」
「ちょこっとだけね~」
魔力回復は3人とも自然回復しかいまのところ手段がないので使いまくるのは危険だと思う。
スライムは魔力生成するらしいけど、魔法は使えなかった。
生命維持に多少魔力を消費するとしても、それ以外に使い道あるのだろうか?
それだけってのもなんだか変な気がするんだよなぁ。
「まぁそんな感じで進んでみようか。真奈美も体力使いすぎは気をつけて。自分で減らした体力分はアリスの回復効かないみたいだし」
「うん。ゼンタイのサンワリいじょうはつかわないっておとうさんとヤクソクしてきたよ。かんかくてきにしかわからないけど」
「わかった。2割ぐらい減ったと認識したら教えて。魔力に関しても全体の半分超えるようなら、その時は帰還も考えよう」
「おうよ。まー魔力半分使えって俺らの場合逆に大変な気がするから、魔力に関してはアリスちゃん次第だな」
「は~い」
公園入ってすぐの敵は倒したが、ここから先はどうなっているだろう。
こんなやつらがうろついてるぐらいだ、この公園が避難場所としては使われてないことはわかる。
この公園、めちゃくちゃ広いわけではないのだが、住宅街の中に入り組む形で作られているため、一方方向から全容が確認できない形になっている。
現状見える範囲では敵は見当たらないが、遊具や木の影に注意して進んでいく。
「だいたいこの辺が公園の中央かな?」
「特に何もないね~?」
「いや、アリスちゃん、警戒しとこう。なんか、なんだろうな。この辺、おかしな気がするんだが、何がおかしいのかわかんねぇ」
「みるかぎりフツウだけど。あ、オクのほうにモンスターいるぐらいかな?」
確かに公園の逆側の出口あたりにモンスターが数体居るようだ。
しかし私達が入ってきたほうにもまとまって居たのを考えると、これは出入り口に対する見張りの可能性があるな。
しかし違和感か。
私もなんとなく感じているのだが、兄同様、違和感の正体がわからない。
「探知かけてみるのは有りかもなぁ」
「探知って……ソウが言ってたような音波のやつか? 俺らはそういうの使えねぇだろ」
「音じゃなくて単純に魔力でやるんだよ」
「ぁー武器とか作るみたいにただの魔力でってやつか。だとしたら圭がやるしかねぇな」
そう、武器を作るときもそうだったのだが、兄は魔力だけの操作はやはりできないらしい。
ソウくんやアリスにも試してもらったが、2人も同様にできそうにないとのこと。
アリスなんかは種族に魔力を扱うことに長けているって記載されていたので、出来てもおかしくないと思ったのだが。
「まぁ、魔力量的にも一番多い私がやるべきではあるかな。魔力を広範囲に拡散させる必要があるし」
この魔力というのは一度自分の体から出してしまうと戻すことができないもののようだ。
なるべく薄くなるように魔力を拡散させ、違和感を探り始める。
「――噴水の中!」
『オ゛オオオオオ!!!』
「ひぃ!? きもちわるい!!」
魔力で違和感を拾ったのは私たちが通り過ぎたところにあった噴水の中からだ。
感知したことを悟られたからなのか、ほぼ同時に噴水の中から飛び出てくる影があった。
それは海藻のように波打つ髪をした人魚のような存在。
上半身は女の体で、下半身は魚だ。
しかしその姿は異様としか言いようがない状態。
上半身の体は痩せこけて骨が浮き出ており老婆のようだ。
そして魚の下半身だが、おそらく魚なのだろうとしかいいようがない。
なにせ下半身の部分は魚だったと思われる形の骨しかないのである。
移動はどうやら両腕と、尾を蛇のようにして動かすことで這い回るようだ。
それとこれは蛇足かもしれないが、今悲鳴を上げたのは他の誰でもない、我が兄であった。