第2話 地球ファンタジーと化す
本日更新2回目
「圭子、大丈夫か? 気分悪かったり、体痛かったりとかしないか?」
「父さん、それ何回目。心配なのはわかったけどちょっとしつこい」
服を着替えてリビングに戻った後は、ひとまず放置していた食器を片したりして過ごす。
その間お互いの状況を確認したりすれば、なんだかんだと30分ほどが経過していた。
どうやら私が意識を失ったタイミングで家族も全員同じように倒れたらしい。
私が目覚めたのは他の家族3人が目覚めた5分後ぐらいだったようだ。
幸いなことに体の変化以外に目立った被害はない。
父が倒れた際、机に頭が当たったらしく、たんこぶができていたぐらいだった。
「とりあえず隼也と圭子も大変なことになってるけど、体調が問題ないのは良かったわねぇ」
「まぁね。ただなんで私と兄貴だけ変わって、父さんと母さんはそのままなんだろ」
「なんかネット見ても良く分かんねぇな。混乱しすぎで意味不明な情報ばっかりだ」
「隼也、ネットを見るぐらいならまずはテレビでもつければいいだろうに。リモコン、リモコンっと……」
テレビもネットも情報収集ツールという点ではあまり変わらない気もするが、そこは年代の違いだろうか。
父がテレビを付ければ、都内のライブカメラ映像が映し出され、ニュースキャスターの声が流れてくる。
『13時10分前後の時刻にて人々が同時に意識を失う事態が発生。それにより公共交通機関や各地の道路にて事故が相次いでいます――』
『人々が意識不明に陥った後、姿が変わってしまったという人が続出しており、街中ではパニック状態が続いて――』
『街には突如見慣れぬ生き物が出没しています。人を襲うという情報もあり、パトカーや救急車の出動要請が多発しています。全国的に外は大変危険な状態となっており、近くの建物の中に避難を――』
「ぁー……これ、現実?」
「まるで漫画や映画みたいな……? あら、じゃあ2人ともヒーローになって戦うことになるのかしら?」
「お母さんなんてこというんだい!? 男の子の隼也はまだしも圭子は女の子なんだぞ!?」
「いや、私いま間違いなく男の子だけどな」
「圭子っ!?」
着替えた時に見たけど結構立派なもんついてるっぽかったしな。
てか今父に名前を連呼されて思ったが、このイケメンの見た目で圭子はダメなのでは?
「とりあえず男の体の場合、圭って呼んで欲しいかな。戻るのか知らんけど」
「なるほど、たしかに。なら俺のことは兄貴と呼ぶことを許そう」
「変わんねぇじゃん」
「間違ってもお兄ちゃんとか呼んでくれるなよ」
「お兄ちゃん♡」
「ぐあああ!」
おもいっきり低い声で呼んでやったともよ。
期待には応えんとな、ざまぁ。
ニュースを見つつ、飲み物を淹れ直して、席へと戻る。
流れてくる内容を総合すると、今の状況は以下だ。
・世界規模で同時刻に人々全員が意識を失う
・意識を失った後、姿が変わった人と変わらなかった人がいる
・全員一斉に意識を失ったためあらゆる方面で事故が多発している
・未確認生命体が全国、世界各地に出没し人を襲っている
SNSを確認すると魔法が使える、モンスターが現れたといった写真や動画が溢れかえっている。
ピックアップで流れてくる動画を見ると手のひらから炎が出ていたり、目玉がたくさんついたカラスのような生き物が映っていたりする。
「映画みたいな、ってところはそうかも。地球がいきなりファンタジー化したって感じなのは確かかな」
「映画なぁ。どうせならゲームみたいによ、HPゲージとかが見えたら楽なのにな」
バカなこといってんなと思いつつも、私もそういったコンテンツに覚えがあるなと思い当たる。
「最近流行りの小説とかでも見るね。ステータスオープン、とかって……え?」
「あ?」
兄の顔を見ながら口にしてみれば、兄の体の横に半透明なパネルのようなものが現れた。
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称号:魔王の兄
名前:如月 隼也
種族:魔人
職業:一般人/大学3年生
レベル:1
スキル:なし
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「やっば、見えるわ」
「え! マジ!? ステータスオープン! うおお! 見え、見え……はぁ!?」
なんなんだ、可愛い女の子のパンツが見えそうで見えないときみたいな反応だぞ。
「おま、自分のステータス見たのか? まだだろ! って俺のステータスにまでお前の影響出てんじゃねぇかふざけんな!!」
「ちょっとうるさいわね隼也。ねえ圭子、じゃなかった圭。なんなの一体」
「ステータスオープン……おいおい、2人して騙してるのか? 父さんには何も見えないぞ」
「え、父さんには見えないのか。自分のステータスねぇ……」
ステータスを見たいという意識を自分に向けると、自分の正面にも半透明なパネルが表示される。
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称号:救済の魔王
名前:如月 圭子
種族:魔人
職業:魔王/高校2年生
レベル:1
スキル:人知超越・身体強化・鑑定
アイテム:魔王の心臓
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「えぇ、やば……意味わからん。職業が魔王、称号が救済の魔王ってなに。てかアイテム魔王の心臓ってなんなん。私の心臓がアイテム?」
他にもスキルとかレベルとかあるけど、特に気になったのはその3点だろう。
「待て待て、圭子が魔王? おねだり上手の小悪魔だというなら大いに同意するのだが!」
「親父はいつもこいつが欲しいもの口にするだけで買ってるだけだろ」
「娘に甘々なダメ親父の典型よねぇ」
そう。何かを欲しいなと父の前で口にしてしまうと、すかさず買い与えようとしてくるのだ。
ありがたいことではあるが、年頃の娘的にはそれはそれでうざい。
これが思わず可愛がってしまうような可愛い娘というような存在であるならまだしもな。
私なんて母からの扱いなんぞ兄と変わらんのだぞ。
「というか圭、魔王の心臓ってのはなんだ? 俺が見えてるのって称号と名前ぐらいだぞ」
「んん? 少なくね? 私から見た兄貴のステータスはもっと見えてるけど」
「は? なんでだよムカつく」
ムカつかれてもな?
兄のことを軽く無視しつつパネルに触れてみるとなんとなく触っている感覚がある。
兄のパネルを触ってみてようとしても、するっと指が通り抜けてしまった。
触れるのは自分のものだけらしい。
兄も私と同じような動きをしているので、どうやら同じような行動をとっているようだ。
「このステータスの表示、意識するかしないかだけで表示切替できるんだな」
「へえ。てか一部は触ると詳細が表示されるね」
「おぉ……どれ。称号、魔王の兄。魔王の実兄である。対外において魔王の臣下として振舞えば、対象となる魔王のカリスマ、影響力の効果を増大させる……」
兄が自分の称号を読み上げ険しい表情を作っている。
どうやら私の称号とは名称や内容も変わるようだ。
これは1つずつ自分で触れて内容を確認しないといけないわけだ。
「……後で見よ」
「それ説明書みねぇやつの常套句。後でとか絶対見ないだろお前」
取説読まない派だって困ったことがあれば読むことぐらいはあると抗議したい。
「隼也、圭。これは君たちがいつも遊ぶようなゲームじゃない、現実の話だよ。何かが見えてるというのなら、お父さんたちにもわかるようにそれぞれのことを紙に書きだしなさい」
「はー面倒だけどしょうがない。そうしようか」
「だなぁ。説明書見てないから失敗しました、とか現実じゃ洒落にならねぇ」
父の助言に従いそれぞれ表示されている自分のステータスを書き出していくことにした。