第15話 ダンジョン内装工事
「まさかソウくんにまで天蓋付きのベッドを求められるとは」
「いやぁ……睡眠にいいって話聞いたことがあって気になってたんだよ。ダンジョンの1階層ごとの天井も高めだし、ちょうどいいかなって」
現在はダンジョンに設置した各部屋の内装変更が完了し、リビングで落ち着いたところである。
真奈美の部屋はロココ調の内装がいいと言われており、予定通りの部屋を用意していた。
まずはそれぞれの部屋の内装の参考にと、真奈美の部屋を見たアリスや一華も、さっそくスマホで置きたいインテリアなどを探し始め拘りが大変なことになってしまった。
そして真奈美、アリス、一華の3人揃って求めてきたのが天蓋付きベッドだったのだが、その話を聞いてソウくんも同様のベッドを求めてきたのだ。
ソウくんはベッドの良さがどうこうというよりも、まずは寝る直前まで光る画面を見る習慣をやめればいいと思う次第である。
保護者組はそれぞれに合わせたカスタマイズだけしてそのままだ。
夫婦部屋だからか、年齢のせいなのかはわからないがあまり拘りはないらしい。
あ、相馬家だけはベッドじゃなくて布団がいいってことで和室仕様の部屋をさらに追加してそこに入居してもらうことに。
余った部屋は何かのときに使えるだろうからとそのまま余らせておくことになった。
ちなみに私の部屋はベッドとサイドチェストがある程度の、屋根裏部屋のようなこじんまりした作りだ。
寝室横にはウォークインクローゼットを設置した形になっている。
仕方ないことかもだが、ダンジョンでの生活は基本海外のように土足文化になってしまったので、部屋も海外風っぽい感じにしてみたのだ。
「共同生活の前提って感じで作っちゃったけど、もしかしてダンジョン内にさらに家建てたほうが良かったかな……?」
「そんな作りにしたら連絡だの連携だのがだりぃじゃねぇか」
「おぅ……まさしくタケくんって感じの意見だ」
今のは独り言のつもりだったのだが、上の家から食材などを運んできていた面々がちょうどやってきていたところだったようだ。
「食材とかはもう1回往復すれば運び出せるぜ」
「そうしたらあとは自分たちの荷物を必要な分運べばいいけど……」
そもそも私の服は女物がほとんどなため、昨日も風呂に入る前に兄の服を借りたんだった。
「早めに服は調達しにいかないと…」
何度かモンスターから攻撃を受けたりして私も兄も昨日着ていた服を駄目にしている。
「ダンジョンでフクはつくれなかったから、かうしかないんだよね」
「できないんだ~。洋服作れたら好きな洋服が着放題だったのにね~!」
服の調達という話になると真奈美とアリスも反応してくる。
それができたらファッション誌とか見て作れって言ってくるつもりだったんだろ。
「便利な力だけど万能じゃないってことなんだろうね」
「僕はちょっと危惧してたけど、産業革命よろしく失業が急増することはなさそうで一安心かも?」
「そもそもの問題として普段の生活がままならねぇがな」
そう、今は働くとか働かない以前の問題なのだ。
リビングに設置したテレビからはニュースが流れ続けているが、街中にはいつもの活気はない。
日が明けてからはニュースの内容はモンスターやダンジョンに関する話や、救助活動などが中心になっている。
「しっかし外を歩いただけで服一式がパァとか服代がバカにならねぇな」
「そのうち防具みたいな物とか見つかるんじゃないかな?」
「防具ねぇ……あ!」
「うぉ! おい、圭! いきなりデケェ声だすなよ」
私が大きい声を出したらキッチンのほうで荷物をしまい込んでる兄からの抗議が飛んでくる。
肝っ玉が小さいことで。
さて、1つ思い当たることがあり、早速実践をしてみる。
己の中でイメージを固め、魔力を練り上げていく。
「お。やっぱりできた」
「ええ~! なにそれ~!!」
「あ! あれか。武器作ったのと同じ要領かよ」
そうなのだ。
すっかりダンジョンであれこれすることに囚われて、自分自身で物体を作り出せることを失念していた。
「んー……このまま食材……はできないか。でも服とかは耐久性多少ありそうだ」
「え~つまり洋服が着放題!?」
「いや、勘弁して。これデザインとか強度とかこだわるほど魔力消費するっぽい」
ひとまず作ってみた自分用のシャツにズボン、それと防具用にと思い革でできたベストのようなものを手元で弄り回す。
革ベストだけでなく、服のほうも手触りは普通の生地だが、耐久性が市販品のものよりも高そうに感じる。
「あー……嫌なこと思い出した。アリスこれ持ってみて」
「うん? ぅわ! 何これぱぁんって弾かれるんだけど!!」
「あぁ~やっぱりそうなんだ。私が作った武器も兄貴以外持てなかったんだよ」
くぅ、私と兄用はいけるが、皆の分が賄えないのはきつい。
てかもしかして服着てる状態で触られても弾かれるなんてことは……。
いや、武器は普通に敵に当たったりしてるんだし大丈夫だろうきっと。
「へぇ。ソウ、おめぇもこういうのできねぇのか」
「………………」
ソウくんが無言で首を横に振っている。
「僕のスキルや魔法の一覧にそういった類のものは無いよ」
「魔法一覧……なにそれ?」
「えっ?!」
「ええ? ステータスの別タブに魔法一覧ってあるっしょ?」
まーじーかー。
いやまさか魔王ともあろうものが魔法一覧無いとかそんな馬鹿な。
きっと見落としてるんだな。
さーどこに隠れているんだい私の魔法一覧くん。
………………。
「……………………無い」
「めっちゃステータスタップしてるっしょその動き。ウケる―!」
「なんで! なんでないんだ魔法一覧!!」
「これ隼也くんもないんだろうな。道理でステータス申告のテンプレに魔法一覧がなかったわけだよ」
つまり私は格好よく魔法バーンってできないわけか!?
「そんなっ……ちょっとソウくん。魔法ってどうやって使ったのか教えて」
「え? えっと魔法ごとに技名と詠唱が設定できて、それを口にすれば使えたけど。詳しくは――」
とりまソウくんに魔法のことを教えてもらう間、タケくん、ソウくん、私をここに残して他の皆は食材とか自分の荷物を運び出すことになった。
なんだか働いてない気がするけど、ダンジョンそのものを作ったのでセーフということにしよう。
さて、ここからは新鮮な魔法に関しての情報だ。
まず魔法は属性があって、その中で下級、中級、上級と分類されている。
分類には使える魔法の範囲が設定されていると。
ソウくんであれば風魔法と闇魔法が中級まで、水魔法が下級まで使用が可能。
風魔法は下級なら普通に風関係。
中級だと雷の魔法が追加で使えるようになるらしい。
ただここから先は個々人の能力の範囲によって変動する部分。
まずソウくんは中級で音魔法が使えると表記されているらしい。
でもネットにあがってる有志の情報を見ると風魔法中級に音魔法という表記が見当たらない。
おそらくソウくんが吸血鬼だからこそ使用可能な魔法なのではとのこと。
さらに魔法の分類は単純に範囲が決まってるだけ。
それをどう扱うかは個人次第。
魔法の技名と詠唱、そして設定したときのイメージによって発動内容がガラっと変わってしまうらしい。
そういえば少し話は変わるが、この2人の見た目が面白いことになっている。
タケくんは種族が鬼で、元々の浅黒い肌、額には2本の角、オレンジの髪、赤い瞳だ。
もう見た目からして強そうだし髪も立ててるせいで余計ヤンキーっぽい。
今の見た目は強そうだって本人がいたく気に入っている。
ソウくんは朝に見たときには今までと変わらない人間の見た目だったのに、擬人化というスキルを解くと尖った耳にコウモリの羽が生え、紺色の髪に赤い瞳になった。
ソウくんは普段生活する分には擬人化してるほうが過ごしやすいらしく、今は人の姿だ。
何もしなければ変化しっぱなしだが、他のスキルを使うときには変化が解けてしまうらしい。
「うーん……魔法って自由といえば自由だけど、不便といえば不便な感じだね」
「アドリブが駄目とかありえねぇ。実践で役に立つのなんて雑魚相手ぐらいだろ」
そうなのだ。
決められた通り、設定した通りにしか発動しない魔法というのは応用が利かない。
あらゆる場面に対応するための魔法をいくつも設定しなければならないわけだが、それを全部覚えろというのは難しい。
そうなると弱い相手はまだしも、強い相手に当たったときに困ることは間違いないだろう。
「アドリブ!? できたとしてもそんな器用なこと無理だと思う!」
「ふぅむ。例えばさ。水魔法の技名を"水魔法"にして、詠唱を"水鬼よ力を。"だけにする。そしてその時イメージするのは水を自由自在に操る鬼。で、実際の詠唱は"水鬼よ力を。コップに飲み水を満たしたまえ"って感じにするのは?」
「な、なるほど? まず水を発現するための設定とイメージを固めて、その後アドリブで足す言葉で応用するのか」
「へぇ~なるほどなぁ」
「……え? もしかしてこれ今ここでやれって言われてる!?」
ええそう言ってますよ。
私は空のコップをソウくんの前に置いて首を縦に振るのである。