第11話 1日の終わり
そんなこんなでそれぞれ食事を堪能していると、テレビから緊急速報の知らせが響く。
現在はどの局も通常の番組など流している場合ではないため、ニュースになっている。
その中でも緊急速報で流すというのは重要な情報なのかもしれない。
「緊急速報だって。父さん、テレビの音量上げておいて」
「ああ……テロップ流れ始めたね。……魔王が世界征服を表明?」
父がテロップに流れる文字を読み上げた途端、全員の視線が私に向く。
なんでだ。
「私じゃないから。魔王って、魔人で魔力量が多ければなれるっぽいし、他の魔王だね」
「言葉通じてるってことは地球製の魔王ってことか?」
「地球製ってウケるんだけど。メイドイン地球~」
そこはメイドインアースだろうと思うのだが、多分地球の単語がわからなかったんだな。
「まぁ居てもおかしくないけど、もしかしたら異世界人の魔王かもよ? 何かしらの方法で言葉通じてるのかも」
「あ、エイゾウがでるって」
「ショッキングな内容を含みます、だって~。グロなやつ?」
テレビに流れる映像は太平洋に出現したと報道されていた古城をヘリから撮影している様子から始まった。
古城の上空を周回するように撮影がされるが、古城を半分ほど回ったところで急にヘリが大きく揺れる。
『何が起きた』
『原因不明です。機体に異常はな……うああ!?』
『どうした!? ひっ!? 人間が張り付いてる!!』
古城に向いていたカメラがヘリの正面に向けられると、そこには確かに人間らしきものが窓の外に張り付いていた。
「私は魔王の忠実なるしもべなり。我ら魔人の主は人を滅ぼし、世界を手に入れる。汝らが助かる道は我ら主に仕えることのみ」
――ブツリと画面が反転し黒くなると同時に、ガラスが割れたと思われる音と、何かがぐしゃりと潰れたような音が聞こえる。
「汝らに我らが魔王、ギアス様の慈悲を」
『魔王のしもべと名乗った人物の音声は、聞いた人によって一番得意とする言語に聞こえているのだとか』
『後半の映像は一部映像を無しでお送りをさせていただいております。この時、ヘリを操縦していた方以外、全員亡くなられて――』
『緊急を要する内容であると判断され、各機関で報道をしておりますが――』
「……あれは無理だな」
「あれって?」
「しもべって名乗ってたやつ。見た目は人間っぽかったけど、中身が全然違うみたいだった。あれに太刀打ちできる気がしない」
見た目は確かに普通の人間、アメリカ人系の見た目だった。
しかし、しもべに対して太刀打ちできないと思うってことは、その主である魔王なんてもっと無理だということだ。
「見た感じ、けーちゃんとしゅーちゃんと同じ、魔人って感じ?」
「みため、フツウのヒトだったよ? アリスちゃんはマジンだっておもうんだ?」
「うん。なんとなくだけどね~」
「まぁなんとなく分かるな。日本人を見て日本人だって思う感覚っつーか」
「へぇ~。わたし、スライムでぜんぜんシュゾクちがうからわからないのかな?」
「そうかも? まぁあれは間違いなく異世界人だね。あの古城はただの城なのか、ダンジョンなのかはわからないけど」
正直同じ魔王でも実力差が歴然としすぎている。
どの言語にでも聞こえるという言葉の謎も気になるが……。
これは世論が荒れるな。
「今後、あの魔王に付くべきだ、って言う人たちも増えるんだろうね。太平洋側って場所も日本人的に無視できないし」
「魔人狩りみたいなことが起きなければいいけど」
今テレビで古城の位置が解説されているが、ちょうど日本とハワイを結ぶ直線上にあたる位置のようだ。
「でも問答無用で人殺しするような相手に付くとか無理でしょ~?」
「フツウにコワいよね」
「人間を完全に皆殺しにしないのはどんな理由だろう」
「なんだろうな。パッと思いつくのは奴隷みたいな労働力が欲しいとか、実は征服するほどの戦力はないとか、脅すことで立ち位置の確立を目指してるとか?」
どれもあり得そうな話だ。
「しかしこれで異世界人が居るって確証にはなったのか。異世界人全員が侵略に乗り気かどうかまではまだわからないけど」
「ま、とりあえずなるようにしかならんだろうよ」
「たしかに。まずは自分たちの生活がどうなるかって話からだな」
「世界征服だーって言われても、ピンとこないし~」
「ケイとかシュンにいは、カンカされたりはないんだよね? ならまずはジブンたちのことでいいとおもうな」
さっきの言葉に感化……なるほどそのパターンもあり得るのか。
「魔人の主とか言ってたもんね。でもそれに関しては何とも思わなかったな」
「まったくなんともか? むしろ俺はなんかイラっとしたぞ」
「イラっと? 兄貴が私という魔王の肉親だからかな?」
「俺のいも……弟? 面倒だなお前。俺の兄妹のほうが魔王だぞって思ったってか?」
面倒って言われてもな!
「妹でも弟でもどっちでも通じるから好きに言えばいいじゃん」
「今は見た目が男そのものなのに、今までの妹だったときと態度とか話し方とか声とかほぼ変わんねぇから混乱すんだよ、兄の気苦労をわかれよ」
「まごうことなく妹だったのに弟と変わらん存在だったと言われた私の乙女心をいたわってくれ」
「お前生まれてくるときに乙女心落としてきたレベルでそういうの無縁だっただろうが」
まぁ、わかる。
昔から魔法少女より戦隊ものだったし、中学ぐらいまでは昼休みとか男子に混ざって遊ぶような人種だった。
「……お。あいつらから連絡来てるわ。コミュにも来てるな。俺のほうで承認しとくぞ」
「おーよろしく。今どうしてるって?」
「タケの部屋にソウが邪魔してるってよ」
2人一緒にいるなら心強いだろう。
ソウくんは見た目メガネのインテリ系で、戦うのとかすごく苦手そうなイメージがある。
逆にタケくんはゴリゴリのヤンキー風な見た目してるし、兄貴肌な性格だからガッツリ肉弾戦とかできそう。
総じて私の独断と偏見だが。
「あいつらのステータスがソウからまとめて送られてきてんな。タケはそういうの苦手だし、あいつらが一緒で安心するわ」
「コミュに貼る?」
「貼る。貼った。あと全員のステも貼り済みだから確認しとけよ。小坂のおじさんからも届いてたし」
どれどれ。
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称号:愛妻家
名前:小坂 熊吾
種族:獣人(熊)
職業:空手家/会社員
レベル:3
スキル:空手
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称号:夜の住人
名前:葉加瀬 宗一郎
種族:吸血鬼
職業:クランリーダー/大学3年生
レベル:1
スキル:魅了、擬人化、肉体再生
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称号:ヤンキー
名前:相馬 武
種族:鬼
職業:一般人/大学3年生
レベル:1
スキル:恫喝、身体増強
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見事に全員亜人変化してるんですが。
ていうかおじさん何気にレベルが3あるんだけど?
いったい何と戦ったのだろうか。
「隼也、お爺ちゃんたちとか、お父さんの親戚とかからの連絡は?」
「親父たちのとこに連絡きてないなら無しだな」
「連絡がとれないのは心配ねぇ……」
「北海道のほうの親戚はどうしようもないけど、母さんの実家なら隣の県じゃん? どうしても連絡ないようなら様子見に行くしかないよね」
「そうは言うけど、車で2時間ぐらいはかかるじゃない。交通事故の復旧とかもどのぐらいかかるか」
確かに道路状況、さらにはモンスターやダンジョンの出現で2時間の移動がどれだけ大変になっているかは計り知れないものがある。
「心配しすぎてもしょうがないな。ほら、圭、真奈美ちゃん。食事の後は仮眠するんだろう? お父さんはそれまで起きておくから、寝ておいで」
「確かに今どうしようもないことに時間割いてもしゃーないな。親父たち先に風呂入って。俺風呂入ったらまじで寝ちまう」
「しゅーちゃんってば、おねむなんだね~。アリスもけーちゃんたちが起きてくるまでは頑張る!」
「そうだね。真奈美、私たちは目覚ましセットして寝てこよう」
昼過ぎから色々とありすぎた1日だった。
だがこれから先のことを思えば、今は仮眠して疲れを癒すのが優先すべきことなのである。




