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第10話 求む名付けセンス

 さて、無事に掲載する情報も書き出し、コミュニティの条件なども出揃った。

 コミュニティに関して名前は「魔王ケイの陣営コミュニティ」でそのままということになってしまった。


 いかんせん誰からも他の案が出なかったのだ。

 誰か名付けセンスのある人が出てきて欲しい。

 陣営とコミュニティって同じ意味ちゃうのか。


 コミュニティへの参加方法は招待からの承認制である。

 招待権限は今ここに居る全員に付与されているが、承認権限をもっているのは私と兄の2人だけということになった。

 最初は真奈美やアリスもと思ったのだが、真奈美はまず自分でスマホが扱えず、アリスは責任がもてないと辞退したのだ。


 で、参加前の同意条件は3つ。


 魔王という存在がコミュニティのリーダーであることを認めること。

 異世界の力を享受しつつ、地球に与する陣営であることを認めること。

 魔王ケイの意見を支援、あるいは尊重すること、である。


 なお、魔王というのが私であるというのも知らせての条件だ。

 いきなり見知らぬ魔王と名乗っている人を信用しろとか土台無理な話だろうからね。


 しかし改めて書き出した内容を確認しても、まだ憶測とか未確定の話が多い。

 一個人としては仕入れられてる情報は多めかなとも思うが、もう少し確実な情報が欲しいのが正直なところである。


「最後は真奈美のを承認っと。これで今ここに居るメンツは全員コミュに入れたよね」


 真奈美のスマホはおばさんが操作することでなんとかコミュニティに参加である。


「これで情報共有は楽になるよな。いちいち予定やら連絡やら口頭であっちこっちとやりとりしなくて済むし」


 真奈美の父なども参加してきており、さっそく連絡スペースに明日の朝帰宅予定と記載してくれている。

 兄の友人2人も起きてメールを見たら参加してくれるだろうし、これで何度も確認したりする手間が省けるのは良いことだ。


「とりあえずコミュの中に必要な場所は情報共有、連絡、雑談……そんなとこか?」

「父さんの実家、北海道じゃん? 向こうでしか得られない情報とかもありそう。情報共有の場所は2か所に分けたらどうだろう」

「それにみんなのステータスは?」

「そうしたら俺たちしか書き込めない情報共有と、他の人が書き込める情報提供に分けて……。ステータスが全員に見えるのはどうなんだろう。グループ分けしてそれぞれの身内だけ見れるようにするか」


 そのうち地域別の情報掲示とか、組織図みたいなのとかできたら面白そうだ。

 こういう用意とかするのは地味に楽しい。


「ねぇねぇ、しゅーちゃん。女子部屋もつくって~」

「じゃあ男女別の場所つくるか。……圭はどっちに入れりゃいいんだよ」

「けーちゃんは女子部屋でしょ~?」

「え? でもイマはオトコノコだよ」


 私個人の意識としては一応まだ心は女子のつもりなのだが、今後男の体で生きることを考えると男子のみの話題にも触れておきたい気がする。


「……一応このコミュのリーダーとして雑談でも全体の把握はしたいし、両方で」


 それらしい理由をつけて両方への参加を希望しておく。


「まぁ、元女で現男なんだから、いいか……」


 そうそう、いいのだそれで。


「パパやママが起きてくるのは夜か~。けーちゃんが魔王だとか、アリスが天使だとかしったら、どんな反応するのかな~楽しみ~」

「魔王陣営に居る天使って不思議な感じがするな」


 だいたい天使といったら悪魔とか魔王の敵ってイメージだ。


 さて、コミュニティのことに関してやれることはだいたいやったと。


「この後だけど、今日はもう外に出ずに家に籠城するとしてだよ。夜番はどうする?」

「夜番か……俺、風呂とか入ったら普通に寝ちまいそうなんだが」

「夜更かしはお肌の大敵なんだよ~」

「元より2人には期待してないわ」


 2人とも布団に入ったら秒速で寝るうえに何があっても起きないタイプじゃないか。


「ん-わたし、いったんカミンさせてくれたら、ヨルバンしてもいいよ」

「なら晩飯の後に0時ぐらいまで仮眠して私と一緒に夜番しようか。家に居ることがどの程度安全なのかわからない以上、警戒はしておきたいんだよね」


 そもそもどの程度のモンスターが周辺に出没するのか定かではない。

 すでにアメリカで一軒家以上にでかいサイズのやつとか目撃されてるっぽいし。


「そうよねぇ。災害の時みたいに夜でもすぐ動けるようにしておかなきゃね」

「枕元に靴とか、災害リュックを置いておくとかだな」

「そう考えるとライフラインもいつまでもつかわからないのか」


 ここまでそういったことを気にしなかったが、よく考えれば災害時と同じ動きはしておくべきだろう。

 改めて話をしてみれば私たちが外出している間にどうやら水とかの確保はある程度してくれているらしく、一安心だ。


 夜に煌々と灯りを付けていられるかもわからないため、食事やら風呂やらを早めに済まそうということに。

 まずは夜番をする予定の私と真奈美が風呂に入り、その間に母が食事の準備を。


 ちなみに真奈美の風呂はアリスが一緒につきそって入ることになった。


 私が自分の男の体を見られるのは構わなかったのだが、逆セクハラになりかねない。

 それと、真奈美が相手だと、なんとなく身の危険も感じた。


 楽しそうな声が聞こえてきたと思えばアリスと真奈美が風呂から出てきたところだ。


「アリス、羽がべっしょりだからそこでストップ。あと真奈美の体って風呂って必要だった?」


 アリスの羽は仕舞ったりすることはできないのだろうか。


 それと単純な疑問を真奈美に投げかける。

 なんといってもスライムである。

 戸棚や床に居たりした体だが、見た感じ汚れはいなかった。


「えーまだ濡れてた? まじごめん~。なんかねーちょっとの間、羽無くすことできるんだけど、埃っぽい気がして洗いたかったの」

「それ風呂入る前に言ってくれれば濡らした布で拭くとかもできたと思うんだけど」

「あ~なる~。羽にシャワー当たる感覚好きじゃなかったし、次からそうすんね~」

「ケイ、どんなジョウタイでも、おフロはヒツヨウなんだからね!」


 なるほど、スライムの体は風呂が必要ないが、年頃の女子としては必須なんだな。

 あいにく私は風呂が必要ないなら便利そうな体だなという感想しかでてこなかった。


 あとホカホカと湯気が出ている赤いスライムは、準備中である食事の美味しそうな匂いも相まって、なんだかちょっと美味しそうに見えた。


「はい。しかし羽はちょっとの間しか仕舞えない感じ? もしかして仰向けでベッドに寝れない?」

「んーん。普通に寝れると思う。背中つけて座るのも平気だったし~」

「そうなんだ……なんか痛そうな気がするけど、そうでもないんだ」


 生活に問題がないのならば良かった。

 そういえば今まで無かった羽があるのに、しっかりと羽の分距離感がはかれているようである。


 そういえば私と真奈美は体重が変わらなかったが、アリスは羽が増えた分どうなっているのだろうか。

 聞いてみたいような、聞きたくないような……。


「さあさあ、もうご飯もできるから席に座って頂戴な」

「はーい! けーちゃんママのご飯久しぶりかも~」

「おにぎりだー。それにナマハルマキにカラアゲ! ホカにもイロイロある!」

「あなたたちが今、何が食べられるかわからかったから。色々用意してみたのよ」

「翠さんは水以外の飲食が無理そうだというしね。皆食べられそうなものを食べなさい」


 皆それぞれ違う体になってしまったせいで食生活まで変わってしまうとは。


「やばい、俺パクチーだめかも」

「えっ! 兄貴パクチー大好きだったじゃん。……んん……私も嫌いじゃなかったのになんかダメそうかも」

「アリスは唐揚げがあんまり食べれないかもっ! 野菜と一緒にちょこっとぐらいなら食べれそうだけど。うぅ~めちゃくちゃ良い匂いしてるのにぃ~!」


 魔人という種族だからなのだろうか、パクチーを体が受け付けない。

 逆に天使だからなのかアリスは肉類がダメそうだ。

 中学の時、私の弁当から唐揚げを奪取された記憶があるのだが、今後はそのようなことは起こらなさそうである。


「ええ~? みんなタイヘンそう。わたしどれもおいしい」

「スライムだからか。ただちょっと、こう。真奈美の場合はビジュアルがすごい」


 赤いスライムボディの中に食べ物が浮いていて、じわっと溶けていくのが見える。

 スライムの食事は咀嚼ではなく融解で行うようだ。

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