第9話 コミュニティ発足
「それでけーちゃん。何から書けばいーと思う?」
「そこからか」
「圭、お母さんたちのためにも1回まとめ直してみない?」
「お父さんも漠然とした把握はできたとは思うんだが、他人に説明できるかと言われると怪しいかもなぁ」
確かにそれもそうか。
しかしいちいち口頭で話を伝え、それぞれで書き起こしたりするのは手間に感じる。
「そうしたら私のほうでいったんスマホに書き出して、一斉送信する?」
「だったらよ、どっかのツールでコミュニティみたいなの作っちまうか? 陣営がどうとかあるし」
なるほど、そのコミュニティに情報を乗せておけと。
そうしたら身内をそこに誘導すれば何度も送ったりする必要はないし、情報の更新も簡単なのかもしれない。
それと陣営がどうというのは能力アップとダウンの項目にあるもののことだ。
私と兄の能力アップ項目には陣営への影響力が、ダウンには陣営外への影響力というものが存在している。
しかし私はそういったツールやコミュニティの運営は未経験だ。
どうしようかと思えば兄から思いもよらぬ提案を受ける。
「コミュニティに関しては俺に任せろ。多分、魔王のためにって名目で管理人やれば、俺の称号が効果発揮すると思うんだよな」
「あぁ、なんかあったね。部下として振舞えばとかいうやつ」
「臣下な。まあどうせお前こういう運営とかやったことねぇだろ。俺はソウがコミュ管理してるのを見てきたりはしてるしよ」
魔王の兄という称号の効果か。
カリスマ、影響力の効果を増大させるってやつね。
これ、文章にも影響出るのかが定かではないのだが、コミュニティの統率が取れやすくなるというのならいいことなのかもしれない。
コミュニティに関してはへたに手探りで右往左往するよりも兄に任せたほうが確実に楽そうなので頼むことに。
その代わり載せる文章とかは私に一任されてしまった。
こういうの私は得意じゃないんだけどなぁ……。
教えられたアプリをスマホにダウンロードしつつ、思い出したことを兄に尋ねる。
「そういえばソウくんとタケくんはまだ起きてない?」
「まだだな。2人にもコミュへの招待は送っとくわ」
ソウくんがこういうの得意だから起きてたら任せたかったな……。
その招待とかいうものが私にも送られてくるが、コミュニティの名前に不貞腐れそうになる。
『魔王ケイの陣営コミュニティ』って……安直にもほどがある。
あと魔王っていうのを全面に押しすぎな気がするのだが。
なんだか厨二っぽくない?
「これからはけーちゃんのこと魔王様~ってうやまえばいいのかな~。あ、パパとママもここに招待してもらえばいい?」
「うちのおかあさんケイユで、おとうさんにもオクってホシイなー」
「あら、そうしたら圭。お爺ちゃんたちにも教えましょうか?」
「お母さんの実家はスマホの扱いに慣れていそうだったけど、お父さんとこはどうかなぁ」
「お親戚の若い子にお願いしてご両親に教えてもらったらどうかしら?」
「それができればいいけど……隼也、圭、親戚とかまで巻き込んで良いものかな?」
父方の親戚とか祖父母に父の兄夫婦にその子供3人と盛りだくさんじゃないか。
この流れはなんだかんだと人数が構膨れ上がるやつだが、管理するのは私ではないのである。
「兄貴に聞いて」
「いいんじゃね? 載せた情報へのアクセス権限を個人か役職付与で変えればいいだろうし。コミュへの所属条件は魔王ケイの意見を支援、あるいは尊重できる人って感じか?」
「なるほど。ただまったくの他人はなんか嫌かも」
「そりゃな。信用できねぇし面倒見切れねぇだろ。招待を送れるメンバーも限定するか。おい圭、今のうちにメモアプリにでも情報書き出しとけよ」
確かに兄の手元を見つめてても仕方がない。
いや、手慣れてる様子で次々と設定をしていくのを見てるのはそれはそれで楽しいのだが。
まとめなくてはならない情報は……まずニュースなどに出ている事実。
それに次いで現在起こっている事象の説明と、あとは私が独自に得ている情報かな?
それぞれ羅列していく形でまとめていく。
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■全世界同時刻にて全人類が意識を失う現象が起きる。
これは異世界からの侵攻を受けたことで起きた世界規模の事件である。
この侵攻は各大国によって「世界大侵攻」と名付けられる。
異世界からの侵攻であるとの判断材料、情報源は不明。
事件の際に身体的変化が起きた者たちは「亜人変化者」、人の姿のまま力に目覚めた者たちは「覚醒者」と名付けられる。
■現在わかっている異世界からの侵攻行為は以下である。
各地に人を襲う動植物が出現、ニュースなどでは未確認生命体と呼ばれていたが、これらはひとまずモンスターと仮称。
モンスターの生命活動が停止すると肉体は消滅する。
消滅後、その場には魔石という名の石が残される。
ネットで食材や素材のような物が出るとの情報があり、ドロップという現象のようだ。
今のところ確認されているモンスターの出現方法は2通り。
1つ目は何もない空間から突如出現する方法。
2つ目は後掲するダンジョンから溢れ出てくる方法。
モンスターと同様に人の脅威になりうるのが、異次元空間に繋がっていると思われる建物の出現。
これに関してまだ情報が少ないが、ひとまずダンジョンと仮称。
総じて外観と内観の規模などがあっていないようだが内部に関する情報は不明。
■世界大侵攻以降、亜人変化者、または覚醒者に限り以下のことが可能と思われる。
己や他人の状態を確認したいと意識することでステータスと呼ばれる情報の確認。
魔法やスキルといった非科学的現象の行使。
魔法やスキルは使用できるものに個人差がある模様。
■以下は魔王ケイのスキルによって捕捉した異世界の創造主らしき存在の独り言からの憶測事項。
異世界の創造主が滅びかけた己の世界を救うため、地球を土台にすることを決定。
それにより世界大侵攻が勃発。
モンスターやダンジョンだけでなく、言語を持つ知的生命体も地球上に出現しているはず。
知的生命体、これを異世界人と仮称するが、地球の言語は基本通じない。
2つの世界のパワーバランス次第で世界の法則が変わるらしい。
パワーバランスはそれぞれの生命体や建造物などによって決定される。
モンスター、ダンジョンともに、目的はこの世界の人類減少と自勢力の増加。
異世界の創造主にとって地球人が亜人変化者や覚醒者となり力を得たのは不慮の事態。
現在は土台となっている地球が有利なため、科学的な法則などに変化のない状態が続いている。
■以上が現在判明している状況である。
これは異世界との生存競争であるが、魔王ケイは異世界の力を享受しつつも、地球に与することを表明する。
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「こんな感じかな」
「おお~最後それっぽい~」
「いいんじゃねぇか? 特に最後のはコミュニティに所属する条件の1つにもしておくか」
ネットを見ているとすでにそういう争いがぼちぼち目につくので入れてみた一文だ。
異世界の力を使うのか使わないのか、受け入れるのか拒否するのか。
こういうことは明確にしておかないと内部争いみたいな状態になる可能性があると思ったのだ。
そもそも今ここに居るメンツ半分以上が亜人変化してるので、条件はさもありなんである。
「そしたらあとは参加条件の書き出しもしとくべき?」
「おう、招待するときの決まり文句みたいなのも決めとけば、それ張り付けるだけで楽だろ」
うーん、色々やること多いな。
スマホぽちぽちしてると肩が凝ってきてしまう。
「ケイ。カタもんであげるからセナカこっち」
「お? おおお~」
真奈美が乗っている机に背を向けて座りなおすと、ちょうどよい力加減で肩揉みされる。
どうやら私の首から肩にかけて半ば乗るような形で揉んでくれているらしい。
どうなってるのか気になってアリスに動画を取ってもらう。
揉むたびにぷよんぷよんとスライイムが揺れており、なんだか和む光景であった。
次の更新は月曜日です。