リクエスト:えっちで優しい話1/3
深夜の海辺は静かで涼しくて、
お気に入りの場所だった
いつもと同じ波の音、
いつもと同じタバコの香りが心地よく
目を閉じた男の元に、
いつもとは違う香りが潮風に乗って届いた
この場に似つかわしくないひどく甘い香りに、
男は小さくため息をついた
くゆる煙の向こうにはためく薄い衣
いたずらに乱された長い髪
今にも消えてしまいそうな少女を
放っておくことはできず、
気づけば上着を差し出していた
驚いた表情から一転、
人懐こい笑顔を見せた少女は
捨て猫が縋るように自分の後ろをついてきた
ボロアパートの玄関について初めて気付く
少女の足は傷だらけで、
裸足のまま距離を歩いてきたことに
部屋に明るさを求めてさ迷わせた手には
細い指が絡められ、
唇に柔らかいものが触れた
抵抗するために触れた肩はあまりに細く、
そのまま背中をつたい腰を抱き寄せていた
そう広くない部屋の中
あと数歩で届くベッドにも間に合わず
もつれた体から
眉をしかめるほどの甘い香りを感じた
閉め忘れたカーテンから
射し込む光に目を覚ますと、
腕の中で少女は安心しきったように寝ていた
暗い中では気づかなかったことが朝日に暴かれる
体が冷えるほど薄く、
レースに縁取られたそれは
およそ服と呼べるものでは無かったこと
透けた肌に見える無数の痣
華奢で小さな少女と思っていたが、
もしかしたら自分よりも年上かもしれないこと
それでも守るべき少女である
と感じる心にまで光が届きそうになって、
慌てて目を逸らした
缶ビールしか入っていない冷蔵庫に気づき
朝食になりそうなものを買って帰ってきた頃には
少女の姿はなかった
シーツに残る甘い香りに何かが軋む気がして
タバコに火をつけた