家出の決行
僕と狩野さんは家から少し歩いたところにある林に向かった。狩野さんは行き慣れている様子で速足で僕の前を歩いた。そして小さい小屋に入って行った。
「勝手に入っていいの?」
「大丈夫、誰も来ないわ。」
恐る恐る中に入ると狩野さんの私物であろう物がいくつか置かれていた。絨毯が敷かれていてくつろぐスペースもあった。
「狩野さんはここに良く来るの?」
「たまにね。隠れ家みたいでいいでしょ。」
「まあちょっと」
そして僕たちは絨毯の上でいつの間にか眠ってしまった。
ふっと目を覚ますと辺りはすっかり暗くなっていて僕は慌てた。僕は狩野さんを起こして言った。
「早く帰らないと。もうすっかり暗くなってるよ。」
「何言ってるの、私たちは家出してるのよ。」
「でも...」
僕は少し怖くなってきた。そして扉を開けると雨が降り出していた。雨はどんどん強くなり雷もなっている。
「帰っちゃだめ!」
狩野さんに強く引き止められて僕は渋々残ることにした。
狩野さんは懐中電灯をどこからか持ってきて小屋の中を照らした。
暫く他愛もない話をしていたが突然狩野さんが僕に質問した。
「ねえキスしたことある?」
僕は恥ずかしくて何も答えることができない。
「キスしてみる?」
僕はどうすることもできず、ただ黙っているしかなかった。狩野さんの顔が近づいてきた。狩野さんの目は大きく、鼻はすっきりとして高く、口は小さかった。なんて綺麗な顔なんだ。きっと僕の顔は真っ赤になっているが、暗闇で狩野さんにはばれていないだろう。
「なーんてね、うそー」
「なんだよ。誰がお前となんかするかよ。」
心臓が口から飛び出そうになっているのをなんとか抑えて言葉を絞り出した。
それからどのくらいの時間が経っただろう。
僕は今まで感じたことのないくらいの不安に襲われていた。
このまま僕たちが見つからなかったら両親は別の子を養子に迎えて僕のことを忘れてしまうんじゃないか。今も僕が帰ってこなくても何とも思ってないんじゃないか。
マイナスの思考がぐるぐると僕の頭の中を回っていた。こんな時は血が繋がった本当の親子ならこんな事を考えたりしないのだろうか。