家出のきっかけ
「佐藤くんのお父さんとお母さんは本当のお父さんとお母さんじゃないんでしょ。」
ある日、休み時間に狩野さんが話しかけてきた。彼女はクラスメイトだが一度も話したことがない。どちらかというとおとなしく、いつも一人でいるタイプだ。
「なんだよいきなり。狩野さんには関係ないだろ。」
「かわいそうだなーと思って。」
「は?意味わかんねーあっち行けよ。」
「言われなくても。」
なんだよ。やなやつだな。気分が悪くなった。ちょっとかわいいと思っていたのに。
僕は小学4年生。僕の両親は僕が4歳の時に施設から僕を引き取った。長い間子供が出来ず不妊治療を諦めて養子をとることにしたのだ。
お父さんもお母さんもとても僕に良くしてくれるし、特に何の不満もない。僕は2人とも大好きだし、2人もそう思ってくれていると思っている。
それなのに狩野さんは何でそんなことを言ってきたのだろう。
そんなことを考えているうちにチャイムが鳴って次の授業が始まった。
次の日の帰り道、友達とさよならして一人で歩いていると狩野さんに会った。
そしてまた僕に話しかけてきた。
「あなたの両親はあなたのことなんか好きじゃないわよ。だって血が繋がってないんだもの。」
「は?またその話?何なのいったい。」
「私の両親は本当の親だしすごく大切にしてくれるわ。だからあなたに同情してるだけよ。」
「お前に同情される覚えはないよ。2人とも良くしてくれるし僕は十分幸せだよ。」
「あなたの両親もあなたに同情して優しくしてるだけよ。」
「ほんとにむかつくやつだな。2度と僕に話しかけるなよ。」
「ねえ、ちょっと提案があるんだけど、これからちょっと2人で家出してみない?そうすればあなたの両親があなたのことを本当に心配してくれるかわかるわよ。」
「そんなことしなくても心配してくれるよ、心から。」
「あー自信ないから家出できないんでしょ。探してくれなかったらショックだもんね。」
「そんなことないよ、じゃあ家出してやるよ。」
僕はむきになって家出を承諾してしまった。
正直にいうと僕は両親が僕のことを本当に心配してくれるのか不安だった。とてもうまくいっているようで僕も両親もどこか遠慮している節がある。それは自覚していた。みんなは両親に言いたいことを言って喧嘩も頻繁にしている。僕は喧嘩もしたこともなければわがままを言ったこともない。両親だって僕を叱ったこともほとんどないし、テストで悪い点数を取っても何も言わない。家出をして僕は両親の僕に対する気持ちを確かめることができるだろうか。