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斜陽を背に  作者: 遠山千佳
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ページ 6

「アリアを連れてきたのはリオと一番よく遊んでくれているお礼ね。良い息抜きや刺激になるんじゃないかと思って……って、何言ってるかわかんないか」


 わからない側でいたかった。そうであればどれだけ楽だったかは何度考えたかわからない。あるがまま、理解できるものだけを享受して刹那的に生きられたらと。

 白昼からこんなことを考えさせられる辺り、刺激になっているのは間違いない。


「?」


 さっぱりわからないという顔をしてみせるとミノアは首を振った。


「いいの。さ、アリアはリオと好きに回ってきて」

「リオ……イッショ?」

「そう。お願いね。用事が済んだら首輪から呼ぶわ」


 好きにしていいやらリオを任されているやら。どっちの意味も含んでいそうだけど、リオを見守る役目の方が大きいだろう。護衛として鳥人がついていれば人さらいの標的になることはまずないから。


「ワカッタ」

「お母さんは?」

「母さんは偉い人とお話ししてくるの。長くなると思うから、そのあいだアリアと一緒にいてくれる?」


 屈んでリオと目線を合わせつつ、ミノアは鞄から取り出した質素な小銭入れをリオに握らせた。


「これでお買い物もしていいけど、よく考えて使うのよ」

「うん。だいじに使うよ」


 凛とした返事にミノアも安心したような笑みを浮かべる。


「歩き疲れたら一番上に図書館があるから。そこで休んで待っててくれる?」

「わかった!」

「よし。もし困ったことがあったらアリアに言って連絡してちょうだい」


 それじゃあ行ってくるねと、私たちに手を振りミノアはフロアの人混みへと消えていく。大樹の下には背丈が一回りも違う二人がぽつんと取り残された。


 ともすれば迷子に間違われそうだけれど、私がいることで不容易に声をかけてくる人はいない。強いて言うなら鳥人への差別意識が強い人が怪訝な顔を見せるぐらいか。

 共存を銘打ったこの施設に来る人でも少なからずそういう人はいるらしい。近くを通り過ぎていく人たちの目をやんわり観察していればすぐにわかった。

 見慣れた目。いまさら不快に思うことはなく、むしろ一般的な鳥人と同じ扱いを受けていることに安堵した。


「行こ」


 小さな右手が、木漏れ日のような温かさでそっと左手に触れる。まるで日陰に沈もうとする私を拾い上げるように。

 嬉しいような、だけどリオまで怪訝な目を向けられると思うと不安なような。

 リオの無邪気さが絶妙に刺さる。とは言え私にできることも思いつかず、手を引かれるままついて行くしかなかった。


 エッセはどこもかしこも大勢の人で賑わっている。一階の食品売り場をざっと回った限りでは鳥人の姿を見ていないけれど、裏方で力仕事でもしているのだろうか。共存のうたい文句に内心でケチをつけていたものの、実情がどうなのかは気になるところだ。


「アリアはのど乾いてない?」


 ペットボトルがずらりと並ぶ陳列棚を見ていたリオが振り返る。


「イラナイ」

「そっか」


 素っ気ない返事しかできないのがなんとも歯痒い。首を振るとリオはオレンジジュースのボトルを一つだけ掴み、大事そうに抱えてレジへと歩き出した。重たいものを持っているみたいで思わず手助けしたくなる。そんな気持ちも抑えてリオの後を追ったものの、結局レジを通過しても鳥人の姿は見かけなかった。

 それからリオは二階に上がり、円形の通路をぐるりと一周して三階へ。そこでも通路沿いに並ぶ店の中までは見ず、四階のフードコートも素通りして早々に最上階となる五階へと足を運ぶ。

 生活用品や雑貨に興味がないのはわかるけれど、おもちゃ屋にも立ち寄らなかったのは予想外だった。最近お気に入りだというパズルでも見に行くものかと思っていたのに。

 鳥人の働きぶりを観察するのもままならないまま訪れた五階。階段を上がりきってすぐ、思いもしない景色が広がった。


「わぁ……!」


 リオが声を漏らすのも頷ける。

 正面の受け付けよりもずっと奥、大樹の枝を縫って反対側の壁に目をやれば、見上げる限り一面が本棚になっている。

 五階とは言いいつつも、天井がこれまで上がってきたのと同じ分の高さがあるだろうか。フロアの造りを見るに、それがぐるりと一周続いているのは想像に難くない。

 壮観だ。

 飛んできた時に受けた印象は間違っていなかった。やたら高さがあったのはこのためだったなんて。ミノアの話から思い浮かべていた建設者像が、また少し形を変えた気がした。

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