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斜陽を背に  作者: 遠山千佳
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ページ 2

 人間が知能を生かして技術を発展させる傍ら、鳥人は相応の対価を得て肉体労働を肩代わりしてきた。適材適所と言えば聞こえはいいものの、そうして発展してきた文化は受け皿を用意しないまま今日に至っている。

 本来なら知能が不十分な人間にあてられるような仕事は鳥人や機械が担っていて、職に就けない人々が一定数いるのが現実だ。さっきの男性も、そうして社会からこぼれ落ちてしまったうちの一人だ。


 きっと、彼は何も悪いことをしていない。


 けれども成長するにつれて周りとの違いに気付かされ、時に指を差され蔑まれて涙を飲むようになった。どうにか苦い思いをしないでいいように、周囲に溶け込もうと必死に"同じ"であろうとした。

 そうしてもがいた末に食い扶持を持てなかった末路があの姿……というのは、どれも憶測でしかない。努力が実らずああなってしまったのか、努力を怠ったがゆえにああなったのかは尋ねてみなければわからない、ただ、たどった人生がどうであれ彼が社会の枠組みから外れてしまったことには変わりない。


 恐ろしいことに、人間という種族はそんな同族を切り捨てることに躊躇いがなかった。


 そうした背景を念頭に置けば鳥人が憎らしく思えるのも当然のことだ。本来ならあてがわれるはずの仕事を、ことごとく鳥人たちに奪われているのだから。そんな社会の構造を生み出したのが誰なのかは及びもつかないのだろうけど、わかったところで彼らが無力なのには変わりない。

 胸が痛くなる。ああいう人に出会うと自分の境遇を重ねずにはいられない。


 人間と鳥人の間に生まれた私も、彼らと同じだから。


「カエリマシタ」


 八百屋を発ってからどっぷりと感慨に耽る間もなく牧場に帰り着いた。自室のあるツリーハウスへ帰る前に、同じ敷地内にある牧場長の家へと立ち寄る。

 勝手口の戸を叩くと程なくして牧場長の奥様――ミノアがエプロンをゆらして顔を出した。ちょうど晩ご飯の支度を始めた頃合いだろうか。


「うん……うん、頼んだ通りね」


 食材の詰まった袋を覗き込んで中身をひと通り確認すると、ミノアは満足げな笑みを浮かべた。


「ごめんね、今日もお願いしちゃって。報酬は上乗せしておくから」

「アリガトウゴザイマス」


 ついでで頼まれていたお遣いも終わり、これで今日の仕事はひと段落になる。


 鳥人の仕事は基本的に依頼形式で牧場へ舞い込み、内容に応じて牧場長がどの鳥人に任せるか采配を決める。これまで渡り歩いた牧場では機械的に仕事が割り当てられていたけど、ここでは牧場長のエリオスが私たちの適性やあらゆる状況を加味して判断を下す。

 普通ならつぶさに鳥人の管理なんてしない。家族経営ならではというのか、エリオスの稀有な人徳がなせる技でもあった。


 ミノアから託されていたお遣いは当然その管理外で、報酬の出どころも依頼主ではなくミノアの懐だ。エリオスの管理を逃れて余分な報酬を得られるわけだけれど、他の鳥人たちよりよく食べる私にとっては小遣い程度でもありがたい。

 私たちが仕事に従事する時間は人間と比べるとそう長くない。それゆえ給料は人間の基準だとかなり少ないものの、生きていくには十分だった。

 なにせ鳥人が人間よろしく娯楽に興じることはない。住環境に加えてある程度の安全も確保されているから、お金の使いどころは必然的に食費へと向く。けれども、人間ほど食事の質には拘らないし必要以上に食べることもないから、結果的にはお金が余るのだ。基本的には人間と鳥人のどちらにもメリットがある社会構造の一つと言える。


 あくまで、基本的には。

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