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斜陽を背に  作者: 遠山千佳
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 翼の生えた人間を鳥人と呼ぶ。「人」の字を与えられながら、人間と鳥人には種として大きな隔たりがあった。


 一つ。鳥人には翼が生えている。


 一つ。鳥人は人間よりも身体能力が高い代わりに、人間ほど知能が発達しない。


 身体の特徴はひと目でわかる。力の強さや足の速さもわかりやすい。問題は測るのが難しい、知能の方にあった。

 人間が生物的なヒエラルキーの頂点に立つ社会において、人間と他の生物との差を決定づける知能が重要視されるのは言うまでもない。事実、特筆すべき身体能力のない人間が今日まで発展してこられたのも、知能を寄る辺に生きてきたからに他ならない。それゆえか、人は知能へ対して異常なほどの執着を見せることがある。


 その最たる例に、今日もまた出くわしていた。


「おいお前! 鳥人の癖して俺のこと笑いやがっただろ!」


 解体工事の仕事を済ませ、八百屋に寄って帰途に着こうとした瞬間に浴びせられた罵声だった。

 声の主は八百屋の向かいの通りで、シャッターに背中を預けて地べたに腰を降ろしている。丸まった背中に薄汚れた衣服という、典型的な浮浪者の風貌をした歳若い男性だった。

 鳥人の知能は人間よりはるかに劣っている。それは偏見ではなく紛れもない事実だ。成熟した鳥人が読み書き・発話できるレベルは三歳頃の人間と同等だとも言われている。簡易な言葉での意思の疎通はできるものの、高度な思考はできないというのが常識として昔から浸透していた。


「ゴメンナサイ」


 鳥人が人間から怒りを向けられた時にはこう応えるのが正しい。

 彼がなぜ怒っているのか、どうして自分が怒られているのか、どうしたら宥められるかなんて、鳥人には想像もつかない。ましてや相手の風貌や言動から背景を読み取るなんてもってのほか。

 だからいまの「ごめんなさい」が皮肉になるだなんて、わかるはずもなく。


「てめぇふざけんな!」


 顔を赤くした男性が道端の石ころを投げつけてくる。私はそれをするりとかわして飛び立った。


「――!」


 遠巻きに聞こえる男性の怒声はしばらく続いた。熱のこもった声は私を追って、やがて虚しく消えていくというのに。

 鳥人なら気にも留めないそれを、人はどう感じるんだろう。爽快感を味わうんだろうか。それとも私のように、後ろめたく感じるんだろうか。

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