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覚え鹿  作者: 輝野 和己
序章
8/34

休息

 激闘の余韻に浸りたいところだが、そうも言っていられない。

 辺りには血の匂いが漂っている。

 匂いに誘われて肉食の獣がやってくる可能性がある。


 早くこの場を離れよう。

 念のため、川に頭を突っ込んで角を洗う。

 相手の腹を突き刺した時に付いた血を落とすためだ。


 いつの間にか日は落ちている。

 ふと見上げると夜空には星が見える。

 地球のように月のようなものも夜空に浮かんでいる。

 不思議な術を使う生物はいるものの、それ以外に関しては案外似たような世界なのかもしれない。


 気を取り直して、川沿いを下流に進む。

 人間だった時と違い、月明かりでも十分に辺りを視認できるのはありがたい。

 

 三十分ほど歩いただろうか、かなりの樹齢を重ねたであろう大木を発見した。

 おあつらえ向きに、木の根元は洞になっており、鹿の体を横たえることができそうだ。


 度重なる戦闘に慣れない術の行使、肉体的にも精神的にもくたくたである。

 洞の中に入って体を横たえると、すぐに目を閉じて眠りについた。


(ん?)

 どのくらい寝ていただろうか?

 気配を感じて目を覚ます。

 耳をすますと洞の外から複数の気配が感じられる。


(まずい! 逃げ場がない!)

 複数の気配は、洞の入り口を塞ぐような形でこちらの様子を窺っている。

 この場から飛び出したら、取り囲まれてやられるだけだ。


 迂闊だった。こんなに接近するまで気づかなかったなんて。

 俺が絶対絶命のピンチに歯噛みしていると、気配の一つが洞の中に飛び込んできた。


 慌てて態勢を起こして身構える。

 どんな狂暴な生物が襲ってきたのかと確認すると、そこにいるのは見覚えがある角兎だった。


 匂いを嗅いでみると、どうもあの時助けた個体のようだ。

 角兎は、鼻先を俺の体に押し付けてクンクンと匂いを嗅いだ後、ブーブーと小さな声で鳴く。


 すると、洞の外から別の角兎が三匹、中に入ってきた。

 どうやら安全なやつだと認識してくれたらしい。

 俺は脱力して、少々窮屈になった洞の中で再び横になった。


 角兎達は、しばらくクンクンとこちらの匂いを嗅いでいたが、やがて満足したのか俺の体に寄り添うように這いつくばって目を閉じる。

 どうやら彼らもお休みの時間らしい。


 自分も休息は十分取れていない。

 すぐに目をつぶり眠ることにした。

 角兎達の戦闘能力は高くないだろうが、一匹だった時と違い、危険を察知する確率は上がるだろう。


 俺はもふもふとした感触に触れながら眠りに着くのだった。

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